|
「アリス…」
「アリス!」
イブを楽しんでグッスリ眠るアリスは呼び声に目覚めた。
「ここだよアリス」
カーテンがぼうっと淡い緑色に光っている。
窓を覗くと浮かんでいるのはピータン・パンとティンカー・ブルだった。
「迎えに来たよ」
ムーンパウダーをかけられたアリスは魔法のランプを手に
満月の空に飛び出した。
水晶色の月光を浴び雲の上で待っていたのは何とトナカイの引くソリと…
「サンタクロース!?」
「アリスじゃな、噂は聞いておるよ。わしはノース族出身なんじゃ。
プレゼントを配るついでにお前さん方を運んでくれとネバネバ族長ワイナに
頼まれたのさ。何しろわしは空の境界もフリーパスじゃからな…
さあ頼むぞ!お前達!!」
つぶらな瞳で振り向いたリーダートナカイの鼻は真っ赤に光っていた。
降り注ぐ満月の光を蹴ってトナカイ達は一気に駆け出した。
ジングルベルが天の深みへと響き、降る星は宝石の煌めきを投げかける。
うっとりと見上げるアリスの瞳にも無数の星が滲んでいた。
やがてキラキラと海に砕ける月光の中から大きな島影が現れた。
螺旋を描いて降りて行くと…鬱蒼とした森の切れ目に
白く浮かび上がる美しい古城があった。
「眠りの森の城よ。今は白すぎ雪姫と王子をやめたウイリアムが住んでるの!」
ティンカーが言った。
ソリは城の前に広がる庭園にゆっくりと滑り降りた。
そこに待ち構えていたのは…
「ダレトル!!」
「おおアリス、待ちくたびれたぜ」
「デントーラにウムガも!」
彼等は飛びついてしっかりと抱き合った。
その時いきなりランプから少年魔人ニンジンがムクムクと現れた。
「クリスマスにはオレ達自由に出られるんだ…ちょっと行って来るね」
そう言うより早くその姿は消えた。
「わしは子供等にプレゼントを配って来ようて」
サンタクロースは晴れ渡る星空へと飛び去って行った。
大理石の正面階段に嬉しそうな声が響いた。
「アリス、よく来たわね」
「雪姫!」
「あなたにプレゼントがあるの、お部屋に行きましょう」
それは小さな真珠に彩られ淡いピンク色に煌めく素晴らしいドレスと靴だった。
「それからこれもね」
響いた声に振り向くと優しく微笑んでいるのは…
「アイエルね!」
「人魚だった私の為にとても怖い思いをさせてしまったわね。その時のお礼よ」
その手にあるのは美しい輝きを放つ真珠の首飾りとイヤリングだ。
鏡の前でドレスを纏ったアリスの髪を整えながら雪姫が言った。
「私達今ではいい友達なの、王子達が従兄どうしだったのよ」
「アリスさまもいっぱしの女性だったのですね」
それはあの魔法の鏡の声だ。
「見損なわないでよね…これでも乙女なんだから」
「確かにいいね、オレ何だか萌えちまうィッシュ!」
暖炉の精はパチパチとハイテンションな炎を上げる。
「眠り姫もこんな風に舞踏会デビューしたもんじゃ…懐かしいわい」
年老いた絨毯の精も足元で呟いた。
部屋を出たアリスを見た途端デントーラとウムガが叫んだ。
「ひょっとして…アリス!?すごいよ、すっかり見違えちゃった」
「ホホウ…女は化けるって本当だな」
タキシード姿のダレトルもニヤリとした。
キャンドルの炎が揺らめく客間に
金時計を覗きながら白ウサギが走り込んで来た。
「相変わらずだな、セカセカウサギ君」
「おお、お前はキザなダレトル!アリスを見なかったかい」
「それならここにいるぜ、あんまり変身したんで見過ごしたな」
「イヤそうじゃなくてアリスだよ!あの強引な」
「…誰が強引ですって!?」
フワリと現れたのはあの強引すぎる少女アリスだ。
「アリス、旅のおかげで少しは成長できたみたいね」
「そう言うあなたってなぜ少女のままなのよ、アリス」
「…さあね、あたしだって知らないわよ!」
大広間はたくさんの客で賑わっていた。
美しい歌声と音色を神話の描かれた天井に響かせるのは歌うハープだ。
その側でバイオリンを弾いている職人ピノと…
「パナキオ!」
アリスと握り合う木の指は温かい。
「少しずつ人間に近付いてるんだよ」
据えられた水槽で歌い始めた人魚姉妹に合わせピータンもフルートを吹く。
そこに七人の小人のコーラスが加わる。
壁に揺れるキャンドルの精や丸テーブルに並ぶ銀のスプーンの精も歌い出した。
その時中庭に舞い降りて来たソリから
大きな袋をかついだサンタクロースが降り立った。
「お待ちかねのプレゼントじゃよ!」
彼は一人一人にリボンで飾られた包みを手渡した。そして最後に
部屋の隅に隠れる様にしている13番目の魔女に目を向けた。
周りの皆に優しく背中を押されこだまの精エコーラに手を引かれて
魔女はおずおずと進み出るとプレゼントを受け取った。
「お前さんもようやく変わった様じゃからな」
「ク……ク…」
魔女の目からポロリと涙がこぼれた。
「クリスマスプレゼントなんて300年ぶりだよ…」
それから顔をクシャクシャにしておいおいと泣き出した。
すると突然辺りに轟音が響き始めた。
「イバラの森が…!!」
窓際にいた6本足の岩が叫んだ。
絡み合った巨大なイバラは光を発しながら次々と崩れ落ちてゆく。
「魔女の嬉し涙で森の呪いが今度こそ解けたんだな」
ダレトルが言った。
崩れ落ちたイバラが煌めく霧となって消え去るとそこには瑞々しい森が現れた。
そして一本の大きな樅の木からスウッと一人の男が姿を現し、次の瞬間
その姿は沢山の妖精とともに広間にあった。
「サパンね!!」
エコーラが叫ぶ。
「随分久しぶりだなエコーラ…
私は森の精霊、ようやく解放されました。あの呪いのイバラのせいで
樹や花の妖精達も身動き取れなくなっていたのです…」
濃緑のマントのサパンは神秘的な緑色の瞳を空に向けた。
すると満月を背にふわりと浮かび上がったのは雪の女王だ。
その吐息は月光色の雪となって森も城も包み込んでゆく。
その時だった。
天の高みから無数の星屑がゆっくりと樹々の上に舞い降り始めた。
雪を纏った樅の木はやがて煌めく星屑で彩られた。
「…星屑のツリー…」
テラスで見つめるアリスや皆の間から溜息が漏れた。
「さあ踊りましょう」
雪姫の言葉にピノ達はワルツを弾き始めた。
ウイリアムは雪姫の、リエベ王子はアイエルの手を取った。
オーロリアはウエインと、他の皆もそれぞれにペアを組んだ。
「じゃあ残ってるのはオレかな」
ダレトルがそう言ってアリスの手を取ろうとした時…
「あれを見て!」
又も叫んだのは6本足の岩だ。
舞い散る雪の中に現れた空飛ぶ巨体のシルエットはヒラリと
テラスに舞い降り、大広間に飛び込んで来た。
それは少年魔人ニンジンだ。
「久しぶりに家に帰って魔人仲間のパーティーを覗いたんだよね」
「それからオレを肩に乗せて飛んで来たんだ」
ニンジンの後ろから響いた凛々しい声は…
「アラジュン王子!!」
叫んだアリスはすっかり固まってしまった。
左右に分かれた皆の間を白いタキシード姿の王子は進み、アリスの前に立った。
「アリス」
アラジュン王子は涼しい瞳で微笑む。
「オレと踊ってもらえますか」
倒れそうになったアリスを慌ててデントーラが支えた。
「は…はい…喜んで」
かろうじて答えたアリスの瞳にはハートマークが点滅している。
改めて始まった音楽に合わせ
アリスとアラジュン王子はゆっくりと踊り始めた。
他のペアもそれに続く。
ダレトルはデントーラと踊りながら呟いた。
「何の因果でお前と踊るんだか」
「まあ人生そんなもんで」
「アラジュン王子、今年はすごい活躍だったわね」
「本当は自由に世界を冒険したいんだけど」
「でも…誰かに幸せな瞬間を届けるってとても素敵な事よ!!」
「そうか、そうだね」
アリスは素晴らしく幸せだった。
これは夢なのか、それでもいい…
城の外は雪の色にすっかり染め上げられた。
舞う雪に透けて見える空にはオリオン座やシリウスの水晶色が煌めいている。
そして微かにジングルベルを響かせながら
煌々と光る満月を
サンタクロースのソリがゆっくりと横切って行った。
「Merry Xmas!!」
|