cAt rAdio…心遊びのラビリンス

*******時の花びら降る中で。。*******

★アリスの不思議な旅(一話完結)

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      「アリス…」

      「アリス!」

      イブを楽しんでグッスリ眠るアリスは呼び声に目覚めた。
      「ここだよアリス」
      カーテンがぼうっと淡い緑色に光っている。

      窓を覗くと浮かんでいるのはピータン・パンとティンカー・ブルだった。
      「迎えに来たよ」
      ムーンパウダーをかけられたアリスは魔法のランプを手に
      満月の空に飛び出した。


      水晶色の月光を浴び雲の上で待っていたのは何とトナカイの引くソリと…
      「サンタクロース!?」

      「アリスじゃな、噂は聞いておるよ。わしはノース族出身なんじゃ。
      プレゼントを配るついでにお前さん方を運んでくれとネバネバ族長ワイナに
      頼まれたのさ。何しろわしは空の境界もフリーパスじゃからな…
      さあ頼むぞ!お前達!!」
      つぶらな瞳で振り向いたリーダートナカイの鼻は真っ赤に光っていた。

      降り注ぐ満月の光を蹴ってトナカイ達は一気に駆け出した。
      ジングルベルが天の深みへと響き、降る星は宝石の煌めきを投げかける。
      うっとりと見上げるアリスの瞳にも無数の星が滲んでいた。
      やがてキラキラと海に砕ける月光の中から大きな島影が現れた。

      螺旋を描いて降りて行くと…鬱蒼とした森の切れ目に
      白く浮かび上がる美しい古城があった。
      「眠りの森の城よ。今は白すぎ雪姫と王子をやめたウイリアムが住んでるの!」
      ティンカーが言った。
      ソリは城の前に広がる庭園にゆっくりと滑り降りた。
      そこに待ち構えていたのは…

      「ダレトル!!」
      「おおアリス、待ちくたびれたぜ」
      「デントーラにウムガも!」
      彼等は飛びついてしっかりと抱き合った。

      その時いきなりランプから少年魔人ニンジンがムクムクと現れた。
      「クリスマスにはオレ達自由に出られるんだ…ちょっと行って来るね」
      そう言うより早くその姿は消えた。
      「わしは子供等にプレゼントを配って来ようて」
      サンタクロースは晴れ渡る星空へと飛び去って行った。
      
      大理石の正面階段に嬉しそうな声が響いた。
      「アリス、よく来たわね」
      「雪姫!」
      「あなたにプレゼントがあるの、お部屋に行きましょう」

      それは小さな真珠に彩られ淡いピンク色に煌めく素晴らしいドレスと靴だった。
      「それからこれもね」
      響いた声に振り向くと優しく微笑んでいるのは…
      「アイエルね!」
      「人魚だった私の為にとても怖い思いをさせてしまったわね。その時のお礼よ」
      その手にあるのは美しい輝きを放つ真珠の首飾りとイヤリングだ。

      鏡の前でドレスを纏ったアリスの髪を整えながら雪姫が言った。
      「私達今ではいい友達なの、王子達が従兄どうしだったのよ」

      「アリスさまもいっぱしの女性だったのですね」
      それはあの魔法の鏡の声だ。
      「見損なわないでよね…これでも乙女なんだから」

      「確かにいいね、オレ何だか萌えちまうィッシュ!」
      暖炉の精はパチパチとハイテンションな炎を上げる。
      「眠り姫もこんな風に舞踏会デビューしたもんじゃ…懐かしいわい」
      年老いた絨毯の精も足元で呟いた。

      部屋を出たアリスを見た途端デントーラとウムガが叫んだ。
      「ひょっとして…アリス!?すごいよ、すっかり見違えちゃった」
      「ホホウ…女は化けるって本当だな」
      タキシード姿のダレトルもニヤリとした。

      キャンドルの炎が揺らめく客間に
      金時計を覗きながら白ウサギが走り込んで来た。

      「相変わらずだな、セカセカウサギ君」
      「おお、お前はキザなダレトル!アリスを見なかったかい」
      「それならここにいるぜ、あんまり変身したんで見過ごしたな」
      「イヤそうじゃなくてアリスだよ!あの強引な」
      
      「…誰が強引ですって!?」
      フワリと現れたのはあの強引すぎる少女アリスだ。

      「アリス、旅のおかげで少しは成長できたみたいね」
      「そう言うあなたってなぜ少女のままなのよ、アリス」
      「…さあね、あたしだって知らないわよ!」


      大広間はたくさんの客で賑わっていた。
      美しい歌声と音色を神話の描かれた天井に響かせるのは歌うハープだ。
      その側でバイオリンを弾いている職人ピノと…
      「パナキオ!」
      アリスと握り合う木の指は温かい。
      「少しずつ人間に近付いてるんだよ」

      据えられた水槽で歌い始めた人魚姉妹に合わせピータンもフルートを吹く。
      そこに七人の小人のコーラスが加わる。
      壁に揺れるキャンドルの精や丸テーブルに並ぶ銀のスプーンの精も歌い出した。

      その時中庭に舞い降りて来たソリから
      大きな袋をかついだサンタクロースが降り立った。
      「お待ちかねのプレゼントじゃよ!」

      彼は一人一人にリボンで飾られた包みを手渡した。そして最後に
      部屋の隅に隠れる様にしている13番目の魔女に目を向けた。

      周りの皆に優しく背中を押されこだまの精エコーラに手を引かれて
      魔女はおずおずと進み出るとプレゼントを受け取った。
      「お前さんもようやく変わった様じゃからな」

      「ク……ク…」
      魔女の目からポロリと涙がこぼれた。

      「クリスマスプレゼントなんて300年ぶりだよ…」
      それから顔をクシャクシャにしておいおいと泣き出した。

      すると突然辺りに轟音が響き始めた。

      「イバラの森が…!!」
      窓際にいた6本足の岩が叫んだ。
      絡み合った巨大なイバラは光を発しながら次々と崩れ落ちてゆく。
      「魔女の嬉し涙で森の呪いが今度こそ解けたんだな」
      ダレトルが言った。

      崩れ落ちたイバラが煌めく霧となって消え去るとそこには瑞々しい森が現れた。
      そして一本の大きな樅の木からスウッと一人の男が姿を現し、次の瞬間
      その姿は沢山の妖精とともに広間にあった。

      「サパンね!!」
      エコーラが叫ぶ。

      「随分久しぶりだなエコーラ…
      私は森の精霊、ようやく解放されました。あの呪いのイバラのせいで
      樹や花の妖精達も身動き取れなくなっていたのです…」
      濃緑のマントのサパンは神秘的な緑色の瞳を空に向けた。

      すると満月を背にふわりと浮かび上がったのは雪の女王だ。
      その吐息は月光色の雪となって森も城も包み込んでゆく。

      その時だった。
      天の高みから無数の星屑がゆっくりと樹々の上に舞い降り始めた。
      雪を纏った樅の木はやがて煌めく星屑で彩られた。

      「…星屑のツリー…」
      テラスで見つめるアリスや皆の間から溜息が漏れた。


      「さあ踊りましょう」
      雪姫の言葉にピノ達はワルツを弾き始めた。
      ウイリアムは雪姫の、リエベ王子はアイエルの手を取った。
      オーロリアはウエインと、他の皆もそれぞれにペアを組んだ。
      「じゃあ残ってるのはオレかな」
      ダレトルがそう言ってアリスの手を取ろうとした時…
      「あれを見て!」
      又も叫んだのは6本足の岩だ。

      舞い散る雪の中に現れた空飛ぶ巨体のシルエットはヒラリと
      テラスに舞い降り、大広間に飛び込んで来た。
      それは少年魔人ニンジンだ。
      「久しぶりに家に帰って魔人仲間のパーティーを覗いたんだよね」

      「それからオレを肩に乗せて飛んで来たんだ」
      ニンジンの後ろから響いた凛々しい声は…

      「アラジュン王子!!」
      叫んだアリスはすっかり固まってしまった。
      左右に分かれた皆の間を白いタキシード姿の王子は進み、アリスの前に立った。

      「アリス」
      アラジュン王子は涼しい瞳で微笑む。

      「オレと踊ってもらえますか」

      倒れそうになったアリスを慌ててデントーラが支えた。
      「は…はい…喜んで」
      かろうじて答えたアリスの瞳にはハートマークが点滅している。

      改めて始まった音楽に合わせ
      アリスとアラジュン王子はゆっくりと踊り始めた。
      他のペアもそれに続く。
      ダレトルはデントーラと踊りながら呟いた。
      「何の因果でお前と踊るんだか」
      「まあ人生そんなもんで」

      「アラジュン王子、今年はすごい活躍だったわね」
      「本当は自由に世界を冒険したいんだけど」

      「でも…誰かに幸せな瞬間を届けるってとても素敵な事よ!!」

      「そうか、そうだね」

      アリスは素晴らしく幸せだった。
      これは夢なのか、それでもいい…



      城の外は雪の色にすっかり染め上げられた。

      舞う雪に透けて見える空にはオリオン座やシリウスの水晶色が煌めいている。

      そして微かにジングルベルを響かせながら
      煌々と光る満月を
      サンタクロースのソリがゆっくりと横切って行った。

      「Merry Xmas!!」

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    いきり立つ巨人達は一斉に空に向かって飛び立ち始めた。

    「どうすれば許してくれるの!」
    アリスが叫んだ。

    「奴らは血の気の多い過激な連中だ。こうなったら誰にも止める事はできんぞ」
    神木の番人へムルが眉をひそめながら言った。

    巨人達は激しい炎や氷の吐息を吐きながら次々と穴に飛び込んでゆく。
    「もうダメなの!?」
    アリスはその場に座り込んだ。

    「こんな時こそ…」

    そう叫んだのは他ならぬダレトルだ。
    その手にはあのワニのチクタク時計がしっかりと握られている。                 彼はガラス蓋を開けると金の針を数分前に戻し、すばやく巨人達に向けた。

    すると…
    巨人達は巻き戻し再生スロー画面となって元の場所に舞い降りて来たではないか。

    「あの穴から飛び込み人間界を破壊しようぞ!!」

    「そうだ!叩き潰せ!!」

    さっきと同じ言葉を巨人達は口々に叫ぶ。

    「どうせならもっと前に戻せばよかったのに!」
    アリス達が一斉に言った。
    「ちょっと焦ったもんでな」
    ダレトルは鍛冶屋イルマに預かった針と糸を手に巨人達の前に飛び出した。

    「いいかねキミ達、まずはこれで空の穴を塞ぐんだ。それから…」

    「うるさい!邪魔立てすると凍らせるぞ!!」

    氷の巨人はダレトルを払い、吹っ飛んだ彼は皆の前に砂煙を上げて落ちた。
    「また巻き戻してよダレトル!」
    「そ…そうだな、あと2回は使える筈だ」
    ダレトルは時計の針を思い切り戻した。

    「……」
    「…おかしいよダレトル、何も起きないじゃないか」
    デントーラが言った。

    「いかん、余りに長くワニの胃液に浸かったせいで機能低下を起こしたんだ!」
    「エエッそんな…」
    アリスが叫んだ時。

    「オレを出してよ!穴を縫うから」
    それは魔法のランプの少年魔人ニンジンの声だ。

    「でも三つの願いは使用済みじゃない?」
    アリスの言葉にすかさずニンジンは答えた。
    「ランプの持ち主を変えればいいのさ、ダレトルがアリスに譲るんだよ」
    「なるほど…じゃあこれはアリスに進呈だ!」

    アリスが急いでこすったランプから躍り出たニンジンは空の穴にひと飛びした。
    そして縁から縁へと行き交い天素の糸で縫い始めたが
    舞い上がって来る巨人達にたちまち取り囲まれてしまった。

    「気持ちはわかるけどさ、復讐すりゃいいってもんじゃないぜ!!」

    「ほざくな小僧!!」

    猛火を吐こうとする炎の巨人を氷の巨人が制した。
    「相手はガキだ、死なせる程の事もないだろう。俺に任せろ」
    彼が吐き出すダイヤモンドダストに一瞬で自由を奪われたニンジンは
    遥かな地上へとクルクル舞いながら落ちてしまった。

    「こうなったら最後の手段だ」

    ダレトルは神秘的な煌めきを秘める黒い石を取り出した。
    時の妖精ティムに貰った“時の化石”だ。
    彼は化石を天空に向け高く掲げて叫んだ。

    「ストーーーーップ!!」

    すると…
    石から溢れ出した煌めきの雫は光の渦となり、次の瞬間巨大な黒竜に変身した。

    巨人達は呆然と目を見張り息を呑む。

    黒竜は一声啼くと一瞬で地の果てから天空へと駆け巡り、世界は
    その口から吐き出される黒い煌めきで満たされて行った…。

    黒竜が彼方へ消え霧が晴れると巨人達は動きを止めたまま浮かんでいる。

    「す…凄かったわね!でもなぜ私達だけ動けるの?」
    「門の向こうの生き物だからな。時間を止めるのには限界があるんだ、急ごう」
    「まずは穴を縫わなきゃね」
    痛む体をさすりながらニンジンは再び穴に飛び懸命に縫い始めた。

    「では案内してもらえるかなチャルナ君」

    神木の根元の古い石碑に刻まれた文様をチャルナがなぞると
    巨大な根のひと所にポッカリと穴が空いた。

    穴に入ると薄蒼い空間の底、銀の台座に美しい象眼細工の箱が置かれている。
    銀の鍵を廻して開けた箱からは七彩に煌めくクリスタルが現れた。
    チャルナがクリスタルを石碑の文様にかざすと…

    うっすらと現れた光はたちまち天空へと伸び、輝く虹となった。

    「さあ登ろうぜ諸君!!」
    「虹を登る!?」
    「そうさ、この虹は特別なんだ」


    虹の頂上でダレトルは足を止めた。
    「いよいよだ…皆見てろよ」
    その手にあるのは泡になる人魚姫が流した涙、水の色をたたえる真珠だ。

    真珠をそっと虹の光に浸すと…無数の水色の光粒子が湧き出し
    柔らかな光雲となってあの不気味に渦巻く黒雲を包み込んで行った。
    すると黒雲の色は次第に薄くなってゆき、やがて純白となった。

    「愛を捧げし人魚の気高き涙、悪しきものをことごとく退けるであろう」
    ダレトルが呟いた時

    「雨…雨よ!」

    水色に光る無数の雫は優しく降り注ぎ、荒れ果てた大地に滲み込んで行った。


    その時突然巨人達の怒声が響いた。
    「やめろ小僧!」
    「大変!時間が動き出した!」
    アリスが叫ぶ。
    もう少しで塞がりそうな穴の前でニンジンは地上へと殴り飛ばされてしまった。

    「行くぞ!」
    穴に飛び込もうとする巨人達の前に素早く立ち塞がったのはチャルナだ。
 
    「待って!彼らはこの世界を救う為に来てくれたんだ!!」

    「チャルナか…邪魔するとお前と言えども容赦せんぞ!」

    「それに彼らは命がけで必要な物を集めてくれた!」

    「頼む、もう少し待ってくれ、飛び込むのはその後でもいいだろう」
    ダレトルも必死に叫ぶ。

    「そこまで言うなら見るだけ見てやろうではないか」
    氷の巨人が苛立つ巨人達を見回して言った。
    「まあ無駄骨だろうがな」


    ダレトルは数粒のジャックの豆を遥かな地上へとばら撒いた。
    雨上がりの砂漠に落ちた豆からは緑色に光る瑞々しい草が溢れ出し
    幾つかの草原が生まれた。

    「さあ次だ」

    虹を降りたダレトルはルビー色に妖しく光る毒リンゴのカケラを砂に埋めた。
    すると萌え出たひとつの芽はまっすぐに伸びて
    アッという間に大木となり、その枝に良い香りの白い花が開いた。
    花は何とみるみる真っ赤なリンゴとなって枝を埋め尽くした。

    それから彼はあの魅惑的な光を放つ青い薔薇を取り出した。
    静かに揺らすと花弁は一枚また一枚と枝を離れ
    地面に落ちて間もなくそれぞれが美しく咲く青い花の群れを作った。

    次にダレトルが手にしたのは深い水の色をたたえたクリスタルだ。

    あの飛行作家サンペリがイメージした水の化石である。
    彼がそっと砂漠に置いたクリスタルは
    青く柔らかな光に包まれながら砂の底へと沈んで行き…

    やがてそこから澄み切った泉が湧き出し小さな川となって流れ始めた。

    「リンゴの実を川岸に埋めてくれ、それから花も植えよう」
    ダレトルを先頭にアリス達は懸命に動き始めた。


    「僕達も手伝うよ」
    突然響いた声の主は何とピータン・パンだ。

    その後ろにはティンカーブルやフックラ船長、白すぎ雪姫と王子を囲む小人達、
    ジャックソンと息子に執事のバトラー、人魚だったアイエルとリエベ王子、
    砂漠の女王や家来達に魔人ジンニー夫婦、ヘーゼルとクレープル、山賊の娘の子孫
    バンディーに雪の女王やオーロリアとウエイン、サンペリに金髪の少年、
    こだまの精エコーラと風変わりな妖精達、職人ピノにパナキオと青い妖精、
    テルテルとミテルに時の妖精…何とあの沼女や13番目の魔女もいた。

    「まあ場合が場合だからね、来てやったのさ」
    ぶっきらぼうに言い放った魔女の後ろには
    ワニや大鷲やグリフォン、クマやキツネ、モグラまで揃っている。

    「遅くなってすまなかったな、皆を集めるのに手間取ってしまった」
    そう言ったのは族長ワイナだ。
    その側には鍛冶屋のイルマや沢山のネバネバ族、羽を持つ猫達とニヤニヤ猫もいた。


    皆一心にリンゴを埋め、花を植えた。
    砂漠は幾つかの草原とひと筋の川、一本のリンゴの木と青い花で彩られた。


    「待たせたな…まだ怒りは静まらないか」
    ダレトルの言葉に巨人達は沈黙した。

    「最後にもうひとつ残ってるんだが」
    その掌には純白の石が乗っている。
    「こいつを思い切り天に向かって放り上げてくれ」
    「あ…ああわかった」
    石を受け取った氷の巨人は天空の高みに昇って力一杯投げ上げた。
    すると…

    宙に浮かぶ石からチラチラと白い煌めきが舞い始めた。

    「あれは…」
    アリスが言った。

    「雪!!」

    雪は美しい光を纏いながらあとからあとから舞い降りて来る。
    見上げる皆の顔はどれも輝いている。
    巨人達さえもその美しさにうっとりと見とれた。

    「これが雪というものか……この地では初めての事だ」

    呟く炎の巨人にダレトルは言った。
    「これで大気の熱も冷やされる。もう復讐する意味はないぜ」
    「…そうだな」

    空の穴はようやく塞がれ皆は安堵した。


    「ダレトル、雪の化石をあちらの世界で使えば温室効果が和らぐんじゃない」
    「残念だがアリス、ここの世界の物はあちらでは力を失うんだ…
    それから旅が終わった以上お前はそろそろ帰らなきゃな」

    「もっと冒険したい!」

    「ダメだアリス、ママも待ってるぜ」

    「本当に名残惜しいけど…きっと又会えるよ」
    デントーラが言った。

    「元気でねアリス、いつか又会おう」
    ウムガや白ウサギにチャルナ、ワイナやその他大勢の顔ぶれが口々に別れを惜しんだ。

    「アリス、長い旅になったがお前がいて楽しかったぜ」

    「ダレトル…どうしても帰らなくちゃだめ?」

    「ああ、アリス…」



    「アリス…」

    「アリス…アリスったら!」

    「エッ…その声はアリス!?」

    「何寝ぼけてるの?そろそろ起きなさい!」

    「ママ…」
    「…じゃああれはみんな夢だったの?」

    呟きながら起き上がったアリスの目に何やら光る物体が映った。


    枕元で鈍く光る物は…

    「魔法のランプ!!」




                         (完)

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       「諸君、長い旅だったが…いよいよ最後の冒険になりそうだぜ」

       ダレトルはそう言ってフッと空を見上げた。

       「次はこのオイラも知らない世界だ。一緒につれてってくれよ!」

       ミニミニ白ウサギはアリスの地図から飛び出しポワンと大きくなった。


       「目的のものはすべて手に入った様だな」

       ネバネバ村の族長ワイナは白い眉を上げて言った。

       その肩には大きな耳を持ち羽の生えたミルクティー色の猫が乗っている。

       「ああ、後は行くのみだ」

       「ダレトル、成功を祈ってるよ」

       「大丈夫さ…何しろ頼りになる奴らが一緒なんだぜ」

       ダレトルの言葉にアリス達は一斉にうなずいた。


       ワイナに案内された村外れには大きな石の門があった。

       まだら模様の石の扉にダレトルは叫ぶ。

       「開けゴマちゃん!!」

       扉はフワリとアザラシに変身し…ニッと笑うとヒョコヒョコ去って行った。

       門を入るとそこにはネバネバの木の森が広がっていた。

       辺りからは一斉にクスクス笑いが響いて来る。

       「そう言えばネバネバの木って喋れるのね」

       アリスが言った。

       「ヘンな生き物ばかり…」

       「ああ、全くおかしな連中だ」

       木々の囁きは葉を揺らし波の様に広がってゆく。

       淡い虹色に光る道は幾つにも分かれていた。

       「なあネバネバ君達、どの道を行けば神木の門に着くのかな」

       ダレトルは目一杯愛想良く語りかけた。

       「それなら一番左だよ!」

       天使の様に無邪気な声が答える。

       しばらく歩くと木の上から声が降って来た。

       「おやおや…随分と久しぶりじゃないか」

       それは一匹の大きな猫だ。

       縞模様の太いシッポを振りながら猫はニヤリと笑った。

       「やあ、相変わらずでかい口だな。オイラ近頃道案内に忙しくてね…」

       ウサギはニヤニヤ笑いの猫に答える。

       「あなたはあの…!」

       アリスが叫ぶ。

       猫は枝の上でヒラリと逆立ちした。何と

       シッポは木の下にぶら下がったままユラユラ揺れている。

       「お前がアリスか、アリスにそっくりだな」

       「失礼ね、あんなに性格悪くないわよ!」

       「その気の強いとこなんか瓜二つだぜ」

       そう言った瞬間ニヤニヤ猫の顔はアリスの目の前に移動した。

       「あんまりびっくりさせない様にね」

       フワリと姿を現し羽ばたいているのはワイナの肩に乗っていた美しい猫だ。

       「奴はこの森を守る猫達のリーダー、チャルナさ」

       ニヤニヤ猫が言った。

       すると辺りの枝に数匹の羽を持つ猫達が姿を現した。

       白靴下をはいた様な白黒模様の猫、青みがかったグレーの猫、縞模様の猫…。

       「この辺りに人間が来るなんて…滅多にない事だよ」

       チャルナが水色のオパールの様な瞳を煌めかせながら言う。

       「そうね、何でも昔木工職人のお爺さんが木をもらいに来たらしいけど」

       クルリと回りながら言ったのは白黒模様の猫だ。

       「ぜんたい何の用なんだい」

       ニヤニヤ猫の顔はダレトルの前に移って言った。

       「神木の門に行く道と教えられて来たんだがね」

       「この道は違うぜ、ネバネバの木に騙されたな」

       「彼らは悪戯好きなんだ、僕達が案内しよう」

       チャルナが言った。

       「オレもつき合うぜ、何しろ可愛いアリスちゃんだからな」

       ニヤニヤ猫の体はフワリと元に戻った。

   
       猫達の案内で道を進むとカンカンと音が響き始め、一軒の丸太小屋が現れた。

       中では赤々と燃えさかる火の側で逞しい男が一心に鉄を打っている。

       「ハッハッハ…からかわれたか。ネバネバの木って奴は気まぐれだからな」

       鍛冶屋のイルマは豪快に笑った。

       「夢の森が荒らされた時、時空の裂け目を縫い合わせたって本当?」

       アリスの問いにイルマは言った。

       「ああ、本当だ。時の砂が積もり積もって何億年も経った物が時おり

       チムスという珍しい鉱物になるんだが、そいつを

       天狼シリウスに頼んで齧り取ってもらった天のカケラと一緒に

       丹念に打ち、そして針に仕上げる」

       「じゃあ糸は…」

       アリスは好奇心を抑え切れない。

       「それはだな。

       天の川に浸して柔らかくした天のカケラを

       月の女神が紡いだ天素の糸を使うんだよ、娘さん」

       「…ところで神木の門の事なんだが」

       ダレトルの言葉にイルマは言った。

       「その事ならワイナに聞いている。いよいよ事を運ぶんだな」

       「ああ、集めるのに時間がかかったが…ようやく揃った」

       「ではこれを」

       イルマは巨大な針と不思議な光を含んだ糸を差し出した。

       「こちらもチムス探しに手間取ってやっと出来上がったのだ。

       神木の番人に渡してくれ。それから…」

       小屋の前に置いてあるのはソリだった。

       「門の向こうは砂漠だ。神木まで乗って行くといい。

       引く者は門の側で待っている」

    
       “神木の門”は聳え立つ黒燿石の門だった。

       イルマが呪文を唱えると扉を縛る鉄鎖の封印が霧となって解けた。

       黒く煌めく扉をイルマは逞しい両手でゆっくりと開く。

       「じゃあ気をつけるんだぜアリス」

       枝の上でフワフワの耳だけになったニヤニヤ猫が言った。

       「それって違うでしょ!」

       「おっと…あんまり久しぶりなもんで間違っちまった」

       いきなり現れた大きな口は思い切りニヤリとした。

       「では私達はここで…お気をつけて」

       猫達は口々に言った。

       「僕は一緒に行くよ」

       そう言ったのはチャルナだ。

    
       門の向こうには白く光る砂漠が広がっていた。

       待ち受けていたのは羽を持つチーター達だ。

       「よく来たな、神木まで案内しよう」

       彼等はソリを引き素晴らしいスピードで走り出した。

       やがて近づいたネバネバの神木は…

       信じ難い巨大さで天空に枝々を広げ聳え立っていた。

       「あの神木は空を支えてるんだ…」

       チャルナが言った。

       「空を!?」

       皆いっせいに叫ぶ。

       「ここは神々がネバネバの世界を創った時の始まりの地。巨人達が

       神木の頂上にある天界への門を守っているんだよ」

       
       神木に着くとチーター達は空へと飛び去って行った。

       「おお待っていたぞ」

       神木の上から声が響きヒラリと飛び降りて来たのは髭もじゃの巨人だ。

       「わしは神木の番人ヘムルだ。

       どんなに遠くでも見たり聞いたりできるのが自慢なんだが…

       まずあの空を見てくれ」

       ヘムルの指差す方を見上げると青空の一角に不気味な黒雲が渦巻いている。

       「あれは空の穴から流れ込んで来る災いだ。つまり…

       あちらの世界、人間界で生まれた大気汚染物質という奴に人間達の

       憎悪や強欲までもが溶け込んだ邪悪な雲だ。

       そのまがまがしい毒気でふたつの世界の空の境界に穴があいてしまったのだ。

       そして流れ込んで来る雲のせいで

       ネバネバの世界まで一気におかしくなった…

       大気は熱くなり海の魚も減った、人間達の世界の様にな」

       ヘムルはそこで砂漠に目をやった。

       「この地は緑豊かな土地だったのだが、その雲の毒気を含んだ雨で

       木々も草も枯れ果て、こんな有様になってしまった…放っておけば

       ネバネバの世界すべてが砂漠になってしまう」

       彼がそう言った時。

       「そこにいるのは人間だな!!」

       恐ろしい声が響き渡ると木の上から羽を持つ二人の巨人が舞い降りて来た。

       一人はドロドロとした溶岩の体に燃えさかる炎の髪を逆立たせ

       もう一人は固く凍った半透明の体にツララの髪を揺らしている。

       「この美しいネバネバの世界が壊れかけておるのは

       お前ら人間のせいだ!もう我慢ならん!!」

       炎の巨人は金色の目を爛々と燃え立たせ、その口から

       轟音と共に紅蓮の火柱を空に向かって吐いた。

       「オレの手にかかればどんな物も一瞬で凍てつく…」

       氷の巨人はそう言うと煌めくダイヤモンドダストを吐き出した。

       銀色の瞳は冷たく皆を見下ろしている。

       その時だ。

       ただならぬ気配を察した巨人達がネバネバの神木から次々と舞い降りて来た。

       「あの穴から飛び込み人間界を破壊しようぞ!」

       勢いづいた炎の巨人が叫ぶ。

       「そうだ!叩き潰せ!!」

       巨人達は拳を振り上げ口々に叫んだ。

       「待ってくれ、空の穴を塞ぐ為にイルマから針と糸を預かって来たんだ!」

       ダレトルが叫んだが炎の巨人は怒鳴った。

       「穴が塞がったところで人間共を許すわけにはいかん!!」

       「そうだ!やるしかない!!」

       いきり立つ巨人達は一斉に空に向かって飛び立ち始めた…。

     




                              (第15話につづく)

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       「あの兄妹が住んでいた」

       「…湖だよな」

       金時計をポケットに押し込むとウサギは地図の上を走り出した。


       まるで碧水晶を溶かし込んだ様な湖の岸辺にその家はたたずんでいた。

       部屋には古びた鳥かごが吊るされ水色の小鳥がさえずっている。

       「ダレトルさんですね、あのアリスさんから聞いています。

       私がテルテル、そして妹のミテルです」

       兄妹はニッコリと微笑んだ。
       
       「実はあの青い鳥の羽をお借りできないかと思いまして」

       「それでしたらどうぞご自由にお使い下さい」

       彼が飾り戸棚から取り出したのは青い光を含んだ一枚の羽だった。


       その夜。

       冴え渡る月光は無数の煌めきとなって湖を彩っていた。

       ダレトルは手にした青い羽を水に浮かぶ光にそっと浸した。すると

       羽毛の間からユラユラと妖しく光る青いモヤが立ち昇り…

       姿を現したのは青い羽を羽ばたかせクリスタルの砂時計を抱えた小さな少年だった。

       「キミが時の妖精だな」

       ダレトルの言葉に少年は悪戯っぽい笑みを浮かべうやうやしく会釈して言った。

       「わたくしティムが今すぐ時の世界にお連れ致しましょう…」

       その言葉が終わらぬ内に煌めく水の中から輝く扉が立ち上がった。
 
       ゆっくりと開いた扉の中へと一行は導かれて行った。


       そこは様々な色の水晶の砂がちりちりと

       優しい音色を奏でながら舞い散る世界だった。そして

       どこまでも散り積もった虹色の砂山には幾つもの巨大な銀の扉が聳えていた。

       「ここは過去の砂漠。この扉の向こうには様々な世界が広がっているんだ。でも
     
       今日案内するのは反対側にあるもうひとつの世界、未来の砂漠だ」

       「反対側って?」

       アリスの問いに時の妖精ティムは言った。

       「つまり…時の世界っていうのは巨大な砂時計なんだよ。こんな風に散り積もる

       時の砂がこの“過去の砂漠”の中心にある穴に流れ込んで

       反対側の“未来の砂漠”へと落ちてゆく、ほら…」

       確かに砂漠の真ん中に向かって煌めく砂が美しい響きと共に流れ落ちて行く。

       「さあ飛び込んで!」


       キラキラ光る砂と一緒に一行はゆっくりと未来の砂漠に墜ちた。

       こちらの砂山には金の扉が聳え立っている。

       「実は時の砂を盗み取る奴が現れたんだ」

       「何だか近頃泥棒が多いのね」

       ティムの言葉にアリスが言った。

       「ティム君、つい先日も夢盗人のバクを捕まえたばかりさ、まあ任せて…」

       ダレトルの自信たっぷりな言葉は突然響き渡った轟音に掻き消されてしまった。

       それは時の砂が竜巻となって吸い込まれてゆく音だった。

       吸い込んでいるのは巨大なふたつの黒い穴であり、その穴の先には…

       「あれは…」

       ダレトルは絶句し、皆息を呑んで立ちすくむ。

       空中に浮かぶ白い姿は言語を絶する大きさの…

       「ゾウ!?」

       アリスが叫んだ.

       白象はその長い鼻で時の砂を吸い込んでは口に運んでゆく。

       「おいおい象君、そんなに喰っちゃ腹具合が悪くなっちまうぜ!」

       叫んだダレトルを象は赤く血走った巨大な目でジロリと睨みつけた。

       「つべこべ言うと踏み潰すぞ!!」

       その声は地震の様に辺りを揺らし、イライラとばたつかせた耳が巻き起こす風は

       皆を吹き飛ばしてしまった。

       興奮した象は吸い込む力をパワーアップし、ついに金の扉が傾き始めた。

       「まずいぞ、このままじゃ未来まるごと吸い込まれちまう…」

       「ダレトル、ほらピノキオのバイオリン!!」

       ウムガが叫んだ。

       「しかしあのでかさじゃまともに聞こえそうにもないな」

       「…耳の穴に飛び込めばいいよ、ニンジンに運ばせて」

       久々に閃いたデントーラが頭上に特大の電球を光らせながら言った。


       こちらも久々に呼び出され体力充分の魔人見習いニンジンは

       バイオリンを手にしたダレトルを小脇に白象の耳に勢いよく飛び込んだ。

       耳の大ホールで奏でられる美しい音色は分厚い鼓膜に優しく響いて行く。

       象の強烈な鼻息は段々と収まり、やがて

       ゆっくりと横になって安らかな寝息を立て始めた…。

       しばらくして起き上がった象の目は別人の様に穏やかな光をたたえていた。


       「私はガジャ。ある星を何千年も支えて来たのだがもう年老いたので…

       若い象と交代する事になったのだ。

       神様は言われた。これからは好きな事をして自由に生きるがよい、とな」

       白象は低く柔らかい声で語り始めた。

       「初めは自由が嬉しくてあちこちの星を巡り楽しく時を過ごした。だがある日

       ふと気づいた…そう長くは生きられんのだと。

       するともうその事ばかりで頭の中が一杯になり…そして思い付いたのだ。

       “未来”の砂を喰らえば命は長らえるだろうとな」

       「…それは違うよ」

       時の妖精ティムがキッパリと言った。

       「残念だけど命の流れは変えられない。時間と命は別のものなんだ」

       「……」

       黙り込んだ白象ガジャは急にむせび泣き始めた。

       「生きたい…私は生きたいんだ。

       ずっとずっと生きていたいんだよ〜〜〜ぉ!!」

       その悲痛な叫びは時の砂の舞い落ちる天に向かって消えて行った。

       しばらくしてティムが言った。

       「キミが小さかった頃に行ってみようよ」


       ガジャの背に乗って一行は流れ落ちる砂の中を昇り過去の砂漠に戻った。

       聳え立つ銀の扉のひとつを開くと…

       溢れ出す青い光の中に緑色の星の側で駈けまわる可愛い子象が見えた。

       星を支えている象の一頭が彼に話しかける。

       「そんなに飛び跳ねては星のカケラを蹴っ飛ばしてケガをするぞ」

       年老いたその象は優しい目をしている。

       「あれは故郷の星だ。あんな風に…いつも気遣ってくれたのだ」

       ガジャは感慨深げに言った。

       「…グーシャ爺さんの事は忘れない。とても懐かしいよ」

       その目は少し潤んでいる様だ。

       「それじゃあ未来の世界を覗いてみようか」

       ティムが言った。


       未来の砂漠でティムは鈍く光る金の扉をゆっくりと開いた。

       薔薇色の光に浮かび上がるのはガジャが支えていた青く美しい星だ。

       「僕は時の妖精ティム。象のガジャを覚えているかい」

       星はキラキラと瞬きながら優しい声を辺りに響かせた。

       「ええ、勿論よ。私を何千年も支えてくれた。それにとても素敵な歌を

       歌ってくれたの。故郷の星で習ったそうよ…」

       それからその歌をそっと口ずさんだ。すると

       星を支える象達もそして近くに浮かぶ幾つかの星も同じ様に歌い始めた。

       響きあう歌声は綺麗な光に変わって

       暗い宇宙にひとつの姿を描き出した。それは生き生きと歌う

       白象ガジャの姿だった。

       「あれはみんなの記憶だよ…やがては星座に変わってゆくんだ」

       ティムが言った。


       「私は…ここにいるのだな」

       ガジャは呟いた。


       「時間っていうのは…」

       ティムは降りしきる時の砂を掌に受けながら言った。

       「“今”の連続なんだ」

       「じゃあ過去とか未来は?」

       アリスが首をかしげる。

       「それは時間を数え始めた人間が名付けたんだよ、わかりやすい様にね。

       過去から未来へ絶えず流れ続けるのは命。

       生まれて死ぬ、又形を変えて生まれる。そうやって命は繋がってゆく。

       でも不思議な事に…

       消え去った後もずうっと生き続ける事ができるんだよ」

       ティムは悪戯っぽく微笑んだ。

       「記憶の中でね」


       「又星を巡って楽しむよ。それから故郷へ戻るとしよう」

       白象ガジャはそう言ってフワリと姿を消した。

 
       「つまり…“今”は昨日でもあり明日でもあるのよね」

       重々しく呟くアリスの頭上にダレトルの陽気な声が降って来た。

       「まあ要するに楽しめってことだな、ティム君」

       「そうだね。命の今は一瞬だ。

       お礼にこの時の化石をどうぞ。大きな力を秘めているんだよ」

       ティムの掌には神秘的な煌めきを秘める黒い石が乗っていた。



       「時の世界は砂時計…」

       青い羽を手にしたテルテルが驚嘆の面持ちで言った。

       「上下を逆にしたら過去が未来になるのかしら」

       「そうだなアリス…何と言っても今の連続だからな」

       「そうやって若返るっていうのもいいわね!」

       「そいつは無理じゃないのか、命は一方通行なんだぜ」

       「…ところでダレトルさん、これからどちらに?」

       にこやかに尋ねるミテルにダレトルは答えた。

       「異世界へ…」

       そして小指を立てて髭をひねりながらウインクした。

       「準備はいいかね諸君!」 



                    

                            (第14話につづく)

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       「次はあの木の人形の…」

       「生まれた街だな」

       ウサギはまっしぐらに駆け出した。


       古びた通りの一角にその家具屋はあった。

       ステンドグラスのはまった扉を押すと小さな鐘が綺麗な音色を響かせた。

       室内には木造りの椅子や戸棚が並んでいる。

       「いらっしゃい。ゆうべアリスを名乗る女の子が現れあなた方が来ると宣言して

       さっさと消えましたが…」

       奥から現れた中年の男がエプロンの木屑を払いながら当惑気味に言った。

       「はじめまして、私はその話のダレトルです。実はあなたのご先祖の事で…

       聞く所によるともうひとつ別の人形があったとか」

       「ああ、よくご存知で。ゼペット爺さんはサメの腹の中で暮らす間に

       曾祖父の弟を作ったのです。一人っ子では寂しかろうと…けれど脱出する時に

       人形はサメの鋭い奥歯に引っかかって再び呑み込まれてしまったそうです」

       「それってクジラじゃなかったっけ」

       「お嬢さん、あれは作り替えられたお話なのですよ」

       「その弟を救い出して欲しいというのがピノキオさんの最後の願いだったとか」

       「ああ、それで来て下さったのですね!」

       妙に高い鼻をした木工職人ピノの目は輝いた。


       遥かな水平線から吹き寄せるここち良い潮風。

       「ピノキオは130歳まで生きたのね」

       「人間の少年になってから爺さんに習って腕のいい木工職人になったそうだが」

       一行を乗せた帆船は急に大きく揺れ始めた。

       「そろそろ魔の海域だよ!」

       ウムガが叫んだ。

       「怪しい匂いがする…不気味な気配もね」

       デントーラも叫ぶ。
 
       晴れ上がった空は急に不気味な黒雲に覆われ生臭い風が激しく吹き付けて来る。

       海は泡立ちあちこちで大きな渦が逆巻き始めた。

       ダレトルは必死に舵を切ったがついにひとつの渦に巻き込まれてしまった。

       船はみるみる渦の中心へと運ばれてゆく。

       その時泡立つ海面が大きく盛り上がったかと思うとまっぷたつに割れた。
 
       滝となり流れ落ちる泡をまとって現れたのは小山の様に巨大なサメだった。

       その無表情な目は冷たく底光りしている。

       「フフ、久しぶりの餌だぜ」

       冷酷な声とともにサメは船を一息に呑み込んだ。

       
       サメの胃袋はまるで湖の様だった。

       「この胃液に落ちたらひとたまりもないぜ」

       ダレトルが憂鬱そうに言った。

       「私がパナキオの所まで運んで行きましょう」

       突然頭上に響いた声の主は何と船のマストだ。

       「私は元々ネバネバ村に生えていた喋るネバネバの木です。

       その木の一本でお爺さんはピノキオを作りました。そして

       手造りの船でサメに呑み込まれここで暮らす間、マストに使っていたネバネバの木で
       
       ピノキオの弟、パナキオを作り上げたのです…」

       「ネバネバ村の木だったのね」

       「はい。人間になったピノキオも船を造り何度もパナキオを救い出しに行ったのですが…

       渦に巻き込まれてバラバラになった船のマストにつかまり

       かろうじて助かる事の繰り返しで…ついに叶わなかったのです」

       「そうだったの…きっと口惜しかったでしょうね」

       「ええ、最後の船を造り上げた時ピノキオは私に頼んだのです。いつか

       誰かが弟を救い出してくれる時はきっと手助けする様にと」

       船はゆっくりと進み、陸地の様な脂肪の塊に着いた。

       そこには古い船の残骸が散らばり、古びたバイオリンと

       木で出来た人形がひっそりと横たわっていた。

       「寂しかったでしょうね…こんな所に100年もひとりぼっちだったなんて」

       「何だい、寂しいって」

       人形パナキオは虚ろな目で無表情に呟いた。

       「長居は無用だ、早いとこ脱出しよう」

       ダレトルの声に皆いっせいに言った。

       「どうやって?」

       「諸君、ユメマボロシ効果を忘れちゃいかんな」

       おもむろに取り出した大量のネバネバの実をダレトルは胃液に放り込んだ。

       しばらくするとサメは急にすすり泣き始めた。

       「何だこれは…やけに悲しいじゃないか…」

       そして今度はいきなりクスクス笑いを始めた。

       「フフ…何だか嬉しくなって来たぜウフ…ウフフ…フワ〜ハッハッ!!」

       笑い続けるサメの大きく開かれた口へと一気に船は進み…

       「やった!出た!!」

       皆が叫んだ時、何とサメは突然正気に戻ってしまった。

       「まずい、実が足りなかった様だ!」

       逃げる船にサメは思い切り噛みつき、もうダメかと全員が思った時

       船に刺さった筈の歯はボロリと崩れ落ちた。

       「オイ、又呑み込んだりしたら思い切り強烈な毒草を投げ込んでやるからな!」

       ダレトルの言葉にサメは急におとなしくなった。


       「近頃歯がすっかり弱くなって…固い者食ったらすぐ欠けちまうんだ」

       「そいつは骨粗鬆症だぜ」

       ダレトルが言った。

       「つまりカルシウムが足りないのさ」

       「そう言えばどういうわけか近頃エサの魚がすっかり減っちまったんだが」

       「ああきっとそのせいだろう…いわゆる生活習慣病って奴だな」



       職人ピノはじっとしたままのパナキオを前に言った。

       「彼が動くには命が必要なのですが、それは水の森の青い妖精に頼むしか…

       もし行って下さるなら入り口までご案内しましょう」

       街外れの川をさかのぼると森の奥に激しく流れ落ちる滝があった。

       「滝の裏側に青い妖精が認める者にだけ示される入り口があるそうです」

       パナキオを抱えたダレトルを先頭に滝の裏側に入ると…

       しぶきに濡れた岩肌にゆっくりとひとつの穴が開いて行った。


       そこには澄んだ水で形づくられた樹々が立ち並んでいた。

       地面を覆う苔からは仄かな光がこぼれ

       水の枝の間を煌めく水玉がユラユラと飛んで行く。

       「あなたがピノキオの弟なのね」

       涼やかな声が響いて姿を現したのは青く煌めく妖精だった。

       「お爺さんとピノキオの思いは何度もここまで伝わって来ました。あなたに

       いつか命を与えて欲しいという強い願いが」

       そう言って彼女はひと際強く輝く水玉を手に取ると

       横たわるパナキオの胸にそっとかざした。

       水玉は煌めく光の粒となってこぼれ落ち滲み込んで行った。

       するとパナキオの頬に赤みが差し、その瞳に光が宿り始めた。

       ゆっくりと起き上がった彼にダレトルが囁く。

       「キミを作ったお爺さんの事、覚えてるかい」

       「知らない」

       その顔は相変わらず無表情だ。

       不審げなアリスに青い妖精は言った。

       「彼にはまだ心がないの。それはたくさんの経験をしながら

       少しずつ育ててゆくしかないのよ」



       「お爺さんはひとりぼっちだったピノキオに可愛い弟を作ってくれた。

       それがお前なんだよ」

       職人ピノは優しく言った。

       「お爺さんなんか知らない」

       「…ではこれをかけてみてはどうかな」

       ダレトルはネバネバ村の族長ワイナにもらった首飾りを取り出した。

       「思い出す助けになる筈さ」

       首飾りをかけパナキオはしばらく考えていたがふと

       テーブルに置かれたバイオリンを見つめた。

       サメの腹の中にころがっていたものだ。

       「これ…」

       「ああ、そのバイオリンはきっとお爺さんが作ったんだな。弾いてみよう」

       ピノは柔らかく美しいメロディーを弾き始めた。
       
       しばらくしてパナキオが呟いた。

       「この曲…弾いてた……お爺さん」

       「やっと思い出したんだね、お爺さんの事を。

       これはピノキオがよく弾いてくれた曲で、昔お爺さんに教わったらしい」

       ピノが言った。

       「お爺さん…色んな話してくれて……ピノキオ…」

       「そう、ピノキオだ。彼はキミを助けようと何度も何度も魔の海に行ったんだよ」

       「ピノキオはボクの…」

       「もう年老いて魔の海に行けなくなったピノキオはあの船を造った。いつか

       誰かにキミを救い出してもらう為だ」

       「ピノキオはボクの兄さん…」

       「そうだよ。そして兄さんはキミを救い出せなかった事をずっと後悔してた。

       最後までパナキオって呼んでたんだ」

       「……」

       「……会いたかったって」

       パナキオの目からその時ひと雫の涙がこぼれ落ちた。


       「心が生まれたのね」

       アリスが静かに言った。

       「涙は人間に近づいた証…きっと本物の人間になれる日も遠くないだろう」

       そう言ったダレトルにパナキオはそっと首飾りを外して手渡した。

       「ボク自分の力できっと人間になる」

       「そうか、その方がいいな」



       「ありがとうございました。いつか人間になれたパナキオに

       会いに来てやって下さい。これはお礼の印…ピノキオが作った物です」

       ピノの手にはネバネバの木のバイオリンがあった。

       「聴く者に不思議なやすらぎをもたらす様です。これからどちらへ?」

       「ひどく謎めいた世界に行く事になりそうだな」

       ダレトルは微笑んだ。





                      (第13話につづく)

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