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ホンチと彼女は今朝も サボテンの上で仲良く光を浴びる。 古顔のサボテンはモジャモジャの長い毛を生やし クッション付きのここち良い日焼けサロンだ。 * 「…なんだかあたし」 彼女が呟いた。 「変なの」 ホンチは驚く。 「ど…どこか悪いの?」 「ううん、そうじゃない…どこか静かな場所を知らない?」 あの青い世界。 「そうだ、あそこなら とても静かだし気分もきっと良くなるよ」 青い壷にホンチは案内した。 変わらず色とりどりの傘が静かにまどろんでいる。 「そうね、ここなら安全そう」 安堵の面持ちで彼女は告げた。 「あたし」 お母さんになるの。 「えっ…じゃあボクはお父さん?」 「そうよ」 やわらかな答が返る。 ほの蒼い壷の奥に降りると彼女は言った。 「もう帰って」 「ボクはここで守りたいんだ!」 だめ。 「母親になったら生まれた命を守ることしか考えなくなるの。すべてを忘れ 近づくものは決して容赦しない。 放浪しててそんな母親を何度も見た。それが私たち一族の決まりなの。 あなたのことさえわからなくなってきっと傷つける。…そんなことはいや」 だから帰って。 心を残しホンチは傘を登り始める。ふり向くと 「だいじょうぶ」 限りなくやさしい気配が彼を包んだ。 * ユキは気づいていた。 ここのところ彼女の姿が見えないことに。 「ホンチ、ふられちゃった?」 ひとりぼっちの割にその大きな目はいっそうキラキラ輝く。 落ち着きなくウロウロするかと思えば意味もなくピョンピョン跳ねまわる。 パソコンのポインター犬を追っかけてもすぐに見失いぼんやりする。 ヘンだよ、ホンチ。 * ホンチは毎日青い壷に通う。 傘のひだにまぎれ様子を確かめるのだ。 彼女はまっ白な糸で念入りに小さな部屋とふわふわのベッドをこしらえた。 そして部屋にこもりこの世に命をいざなった。それからは 何も口にせず実に細やかにベッドや部屋を手入れし 全身全霊で真珠のような命玉を守る。 ある朝ホンチは感じた。 いつもと違う。 急いで近づくと小部屋のそばにうずくまる弱々しい姿があった。 「どうしたの!」 「…あなたなのね」 いちばんの幸せをもらった……ほんとうにありがとう。 「もう子供たちはだいじょうぶ」 これも決まりなの……。 そしてもう二度と動かなかった。 ホンチの紡ぎ出すやさしい糸はその体を淡く淡く覆ってゆく。 舞う雪のように。 * 数日後。 青い壷から帰る足が妙に重い。 まるでオモリがぶら下がったみたいだ。 身の奥に流れる悠久の叡智が深くひそやかになにかを告げる。 * ユキはパソコンの前で沈黙していた。 ふと視界の端っこに何かを感じゆっくりと ヒダリナナメシタ45度 に下ろした視線の先に… ホンチがいた。 様子がおかしいとすぐに気づく。 てのひらに乗せた彼はふるえる前足をそっとかかげる。 「ユキ」 聞こえた気がした。 大きな目の輝きはひととき淡く燃え上がり 静寂の海へと沈んで行った。 * 翌日。 ふいに舞う季節外れの牡丹雪に お気に入りの傘を抜き出すとホロリ、と小さな何かが転がった。 虹をふくむ純白の繭。 微かに透ける。 ハッとユキは感じ取る。 * 降る青空を全身で受け止める。 草萌えの波にスミレゆれ 「こんなに広い世界…驚いた?ホンチ」 桜の古木。 無数の花びらはユキに散り流れ川面へと遊ぶ。 小さな布をひらきホンチのかたわらにそっと 白い繭を添わせる。 花びらがふたつの命を抱きしめる。 ユキはやさしく春の土をそそぐ。 * ちいさなちいさなクモがいた。 色とりどりの傘まどろむ青い壷の底。 ( 終 ) * * * * * 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。 ☆いつのまにか長いシリーズとなりました。 毎回ついつい長めになってしまいましたが ラストまで読んで下さりどうもありがとうございましたm__m ホンチも感謝です♪ ☆皆さまにも やわらかな春が微笑みますように^u^ 。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。。
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