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(どうぞお任せ下さい……)
「奴は悪魔に取り入って
とうとう恐ろしい力を手にしちまったんだ。それからというもの
その力を存分に利用して
剣から銃、それから大砲と様々な武器を人間達に造らせ
ますます身を太らせる事になる。
(あの国、なんとか手に入れたいものだ…)
(そうです、我が国、我が王こそ世界を支配すべきなのです!)
なんて人間達の
身勝手な権力欲もあいつにとっちゃ全く都合が良かったさ。
何しろ元々人間ってのは…えらく欲張りに出来てるからな」
男は口を歪めて少し笑ってみせた。
木漏れ陽にその硝子の目がキラリと光った。
まだ幼い少女には少しばかり難しい話もあったが
彼女は懸命に耳をすましていた。幼いながらも
両親を奪い去って行った者の正体を知りたかったのだ。
ほんのちょっと手を貸すだけで事は足りた。
果てしない欲に目の眩んだ人間を
思いのままに操るのはすこぶる簡単な事だったのである。
そんなわけで
モンスターの心臓が炎から火薬へと進化した頃から
武器も爆発的にその種類と数を増やし続けた。
自らの力に自身を深める一方の人間達の支配欲は
とめどなく大きくなり…
しかし皮肉にもその裏で
強大なライバルに襲われ支配されるのでは、という不安が
疑心暗鬼となってつきまとう。その結果
世界のどこかで戦いの無い日は見当たらない位だった。
長い歴史に磨かれた美しい村や街がいとも簡単に破壊され
無数の人々がその下に埋もれた。
そして
無数の涙も又廃墟に深く滲み込んで行った。
「やられればやり返す。
やり返された方も又仕返しする…。
いつまでたってもその繰り返しなもんだから
奴の大好物の“憎しみ”って代物はまあ
永遠に生まれ続けるって事だな。
そしてある日。
人間達はとうとう造り出しちまったんだ……。
世にも恐ろしい禁断の武器、
核爆弾をな。
つまりモンスターは狙い通り悪魔の心臓を手に入れたわけさ。
奴が人類を完全支配して
この世界を破滅に導く日は近いって事だ」
「…もうどうすることもできないの?」
小さな少女の声は悲しみに震える。
「ああすっかり怖がらせちまった様だ、悪かったな……。
大丈夫、希望はあるんだ」
男は引き締まった頬をゆるませて柔らかく微笑みながら
少女の痩せた肩に大きな手をそっと置いた。
それから力強く言った。
「実は奴にはな、ひどく苦手なものがある。
それは……
子供等のみずみずしい心とそれから…明るい笑い声だ」
「わらいごえ?」
「そうだ、笑い声だよ」
そう言って男はもう一度微笑んだ。
凍てつく路上をさまよってひとかけらの食べ物を探す子供や
見渡す限りの地雷の海に小さな足を奪われた子供や
酷い暑さに耐えながらゴミ山から商いの種を探す子供や
獣の様に売り買いされる子供や。
モンスター・WORに心を奪われた大人達の影で彼等は必死に
生き抜いている。
「例えどんなに過酷な世界にいようと……子供等は
小さな笑顔を忘れちゃいない。
そして
知ってるんだ。
戦争で幸せになる者など誰一人いないって事を」
二人は黙ったまま
生い茂る葉の間からのぞく青空を見上げた。
流れる雲が眩い白を散らす。
「……世界のあちこちで
モンスター・ウォーに貢がれる莫大な金はな。
実のところ
井戸や緑や学校や病院や船や橋や…それから沢山の家を生み出す
真の力を秘めてるんだ。
そしてその力で
メチャメチャに破壊し尽くされたすべての戦場が元の
美しい姿を取り戻して
人々がまともに暮らせる様になったなら…
もう戦う理由なんかどこにも無くなるのさ」
少女は子供らしい笑顔を見せて大きくうなずいた。
「やっと笑ってくれたな…」
濃い眉を上げ嬉しそうに微笑むと男は
幼い少女の頭を優しく撫で、その華奢な手を自分の温かい両手で
しっかりと包み込んだ。
その時
森の奥から吹いて来た緑色に光る風が
瓦礫だらけの村を静かに巡り
少女と男をまるでいたわる様にそうっとくるみ込んでから
遥かな空へと去って行った。
すると不思議なことに……
男の姿は朝霧の様に消えていた。
驚く少女に傾いた家の陰から語りかけたのは一人の老婆だ。
「あの男はな。
森に残された地雷を踏んでひと月前に死んだのじゃ。
きっとお前を哀れんで
大事なことを伝えに来たのじゃろう。
悲しまんでええ。
この先もずうっとお前を見守ってくれるよ」
老婆は穏やかに微笑んだ。
人々が憎しみを大河に投げ捨て
子供たちが笑顔を爆発させるとき
モンスター・ウォーはバラバラに飛び散り、人々を操るパワーを
すっかり失うだろう。
けれど。
残念ながらその心臓を消滅させることはできない。
ひとたび生み出された核爆弾という存在は遠い未来まで
人類を脅かす。
それはこの大宇宙のタブーだったのだ。
心を失った大人達が残したその悪魔の心臓のゆくえは
子供たちにゆだねるしかない。
そして人類の未来も又彼等に託される。
たとえ遅過ぎたとしても。
一刻も早く
モンスター・ウォーに操られる愚かさに気づかねばならない。
いちばん大切なもの。
子供たちの笑顔。
遥かな先へと翔て行く者。
そして未来を紡ぎ出す者。
彼らに悲しみの涙
苦しみの涙を強いてその透明な心の奥底に
憎しみの種を植えつけるなら
人類の未来は塵となって消え去るだろう。
そしてその時
「宇宙の奇跡」は静かに幕を閉じる。
(完)
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