GIRLS, CHA CHA!

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高校の茶道部で指導されている方のブログからインスパイアされました(笑)!!茶道版「スウィングガールズ」!?
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吉川宗厳師匠の葬儀は、市内の大きなセレモニーホールで行われた。
抜けるような秋晴れの、気持ちのいい青空が広がっていた。
まるで師匠のお人柄をそのままあらわしているような空だ、と真希は思った。
葬儀に参列する人達の顔ぶれはそれこそ老若男女、小学生や中高生を始め、年老いた着物姿のおじいさんおばあさんまでまさにぞくぞくと集まっていた。
それは、文化人として大きな功績を果たした吉川師匠の人徳によるものだろう。この人たちを見ると、いかに吉川師匠がみんなに慕われていたかよくわかる。
真希は茶道部のみんなとお焼香の列につきながら、ぽつりぽつりと師匠に教わったことを思い出していた。

「ふむ。今日はえらいべっぴんさんがお床においでじゃの。」
「左様。『南方録』にはこんな歌がありますがな。
 花入れに入れさる花は沈丁花 
   太山(みやま)しきみに鶏頭の花
 女郎花(おみなえし)ざくろ河骨(こうほね)金盞花(きんせんか)
   せんれい花をも嫌なりけり。
まあ一般的には香りの強い花、茶花として見所のない花、色彩のきつい花、名前を忌む花、季節のない花、針やとげのある花は茶席には適さないと言われておる。
しかしこれらの花も一概に用いてはならんということもない。要は花を入れる人の心、いかに席に適っているかどうかという亭主の心入れも大切な要素じゃろう。」

「君たちは、素晴らしい宝を持っているのじゃ。若さというのは、それだけで素晴らしい宝じゃ。今経験できること・・・失敗も成功も、・・・様々な出逢いも・・・別れも。一つ一つが君たちの実に結びつくと心得よ。今日はよい茶を飲ませてもらった。ありがとう。」

「なんでお点前なんかあるのかねえ・・・答えは、自分で見つけることじゃよ。自分で、腹の底から感じることじゃよ・・そうすれば、もっとお茶を愉しむことができろうて・・」
「『茶の湯をば心に染めて眼にかけず 耳をひそめてきくこともなし』
目的を間違えてはいかん。・・自分のために、お客様のために。精進しなされや!」

もうあの陽気なおじいちゃんに会うことは出来ないんだ・・・読経の声を聞いていると、じんわりと涙がにじんできた。隣の千恵も、そっとハンカチで目元を拭いていた。

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真希と細川君は、並んで茶道口に座り、顔をあげて客一同、そしてお家元の顔をしっかりと見た。
「どうも失礼致しました。」
二人、同時に頭を下げて真の礼をすると、会場の一同も揃って総礼をした。
しいんとした広い会場に、着物のすれる音だけが響く。
襖を閉め、一息おくと、向こう側の部屋でざわざわとさざめく音がしてきた。
真希は、ほおぉ〜っ・・・と、長いため息をついた。
「おつかれ。」
となりから、小さな声が聞こえた。細川君の目が真希の目に微笑んでいる。
真希はこくん、と頷いた。
まだ頭がぼおっとしている。
くるり、と後ろを降り向くと、水屋の人達が点前の終わった二人を見守っていた。
茶道部のみんな、若様、開発先生、他校の人達もいる。
「がんばったな。」
若様が、ニコニコした笑顔で小さく拍手をした。
拍手の輪は瞬く間にまわりに広がった。
温かい拍手に包まれて、真希はドギマギしながらも、
「あ、ありがとうございます!」
と、ぺこりと頭を下げた。
「まき!!」
千恵がくしゃくしゃの顔をして、駆け寄ってくる。
「ちえ!」
真希は千恵にがしっと抱きついた。
「よかった、よかったよお・・!どうなることかと思ったけど、お運びしながら見てたけど、真希すっごく落ち着いてて・・・他の人達もすごくきれいなお点前だって・・・」
感激屋の千恵の方が、震える手で真希を抱きしめている。
「うん。千恵。・・・ありがとう。私ね、なんかすっごく、嬉しかった。こんな経験出来て、お家元にお茶を点てることが出来て。お点前してる最中は、お茶のことしか考えられなかった。・・こんな経験、初めてだよ!!なんか、お客様よりも、私が楽しんじゃったみたい!・・・なんだか、お茶にはまっちゃいそう!」
浅井部長も、満面の笑みを浮かべてやってきた。
「ありがとう、武田さん!やっぱりあなたにやってもらって良かった!客席から見てても、全然初心者には見えないくらい落ち着いていたよ!細川君との息もピッタリだったしね!!」
真希は思わず細川君を見た。が、当の細川君はもうすでに水屋仕事に取りかかっていた。
「ありがとうございます・・考えたら、ここまで来れたのはいろんな人達にお世話になったお陰なんだなあって。吉川さんも、フォローありがとうね。」
奈緒は少しバツが悪そうに微笑んだ。
「こっちこそ・・ごめんね。私も勉強になったわ。武田さん、見直した。」
奈緒のこと、とっつきにくいって敬遠していたのはいつだっただろう・・・吉川奈緒との間には、いつの間にか妙な隔たりは無くなっていた。
「すみません、S校の吉川奈緒さんはいらっしゃいますか?」
突然、入り口の方から緊張した声がした。
「はい、私ですけど?」
奈緒が手を挙げると、その女の人はつかつかと近づいて来て、早口で言った。
「吉川さん、すぐにお家へ帰るようにとご連絡がありました。おじいさまが亡くなられたそうです。」
真希は、思わず開発先生の方を見た。
開発先生は、きゅっと唇の端を固く結んだ。

66

真希は細川君と歩みをそろえて、点前座へ進んだ。
改めて、正客であるお家元に「失礼しました」と頭を下げる。
お家元はゆっくりと頷いた。
その眼差しは点前をする若い二人をまるごと包み込んでくれているようだった。
建水の中から蓋置きを取りだし、風炉のそばへ置く。その手で柄杓をつ、と構え、同時に背筋もすうっと伸びた。
並んでいる二人の動作は、左右対称に、ピッタリと同じリズムで進んでいく。
棗を帛紗で清め、茶杓を清めていくうちに、だんだん真希の頭の中はお茶の事しか考えられなくなっていた。
お茶が美味しく点つように、お湯を茶碗に入れて温める。
茶筅がしっかり働いてくれますようにと、ゆっくり茶筅通しをしながら茶筅の先の繊細な竹を見つめる。
茶碗を拭き、抹茶を入れ、お湯を注ぐと、抹茶のかすかな香りがふわん、としてきた。
美味しくなあれ、
美味しくなあれ。
目の前の茶碗を見つめながら、真希は一心に茶筅を振った。
表面をそっとなでて、茶筅の先で「の」の字を描きながら抜き取ると、茶碗の中にはふんわりと細かく泡だった薄緑のお茶。
茶碗を手のひらに乗せ、一回、二回と回してお出しすると、真希の耳には初めて会場の音が届いた。
半東がお茶を運びにくる、足袋のすれる音。
百人はいようかというお客様たちの、衣擦れの音。
真希は静かに顔をあげて、お家元の方を見た。
半東に運ばれたお茶を受け取ると、お家元はゆっくりと茶碗を回し、口に運んだ。
一口、二口。
三口目に「ずっ」と大きな音を立てて、お家元は真希の点てたお茶を飲みきってくれた。
「・・・大変美味しかったですよ。」
にっこりと微笑んだその顔を見ただけで、涙が出そうになるなんて、真希の人生では初めてだった。

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会場は、しいんとなった。全員の目が、真希の落とした柄杓に注がれている。
落としちゃった!
柄杓を・・・
どうしたらいいの・・・
真希の頭の中は真っ白。
次の瞬間、すぐとなりで
「ことり」
と音がした。音の正体は、細川君が落とした柄杓の音だ。
慌てて横を見る真希に、細川君がそっと目配せをした。
「失礼致しました」
細川君は静かに言って一礼し、転げ落ちた柄杓を手に取った。
真希も、急いで
「失礼しました」
と小さな声を出し、細川君と同じ動作をし、二人同時に立ち上がった。
くるりと後ろを向いて水屋へ向かっていく二人の背中に向かって、お家元の声がした。
「さすがは比翼点てですね。落とすタイミングもピッタリでしたよ。」
とたんに、さわさわと笑い声があちこちから聞こえ、張りつめた会場の空気が一気にほっと和んだ。

真希と細川君が水屋にはいると、奈緒が真っ青な顔で柄杓を取りに来た。
「ごめん・・・!もっと十分に濡らしておけば良かった・・」
「ううん!私がもっと集中していれば・・・ごめん!細川君っ・・」
真希の心臓はまだドキドキしている。
細川君は
「いいよ。大丈夫」
とだけ、短く答えた。
「たいしたことじゃありませんよ。」
座っている真希の頭の上から、凛とした声が響いた。
開発先生が真希の前に来ていた。
「こんなことくらい、たいしたことじゃありません。それよりも、お家元に美味しいお茶を一服点てて差し上げることを、まず第一に考えなさい。」
開発先生の眼は、真希をまっすぐ見つめていた。
真希の目の奥がジンとなった。
「はい。先生・・!」
奈緒が清めた柄杓をしっかりと受け取ると、真希と細川君は水屋に一礼した。
「いくぞ。」
細川君が力強く囁いた。

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お茶碗を手に持って、真希は細川君と同時に立ち上がった。
二人、同じ歩幅でゆっくり一歩一歩、すっ、すっと点前座まで進んでいく。
しゅんしゅんと静かにお湯が沸いている釜の前に座り、道具を置き換えると、建水を取りに行くためにもう一度立ち上がる。
その時、真希にはちらっと正面に座っている人が見えた。
たばこ盆が前に置いてあるということは、この男性が正客だ。
と言うことはこの人が、「お家元」・・・。
すごいおじいさんを勝手にイメージしていたが、意外にも若い人だ。(といってもそれなりの年齢…多分真希のお父さんと同じくらいだろう)
紺の着物に薄手の羽織(十徳)をさらりと着こなし、優しげな顔をしている。
その人のまわりからは何とも言えない柔和なオーラが漂ってくるようだった。
真希は、くるりと後ろを向き、細川君と並んでゆっくりと水屋に入った。
水屋には、蓋置きが仕組まれ、上に柄杓が差し渡されているえふご型の建水が二つ置いてあった。
水屋担当の奈緒がすでに準備してくれたものだ。
真希と細川君は同時に建水に手を伸ばした。
「あ、武田。ちょっと。」
細川君が真希の手のすぐ横にある柄杓を、つと動かした。柄杓の柄が傾いていたらしい。
真希の鼻のすぐ先を、細川君の髪がかすかに触れた。
どきん。
その瞬間、さっきの廊下での顔がまた真希の頭にフラッシュバックした。
真希の胸が、また波打ち始めた。
だけど、時間は待ってはくれない。真希はなんとか集中しようと努めながら、建水を手に持って茶道口に立った。
二人が並んで、風炉に向かってまっすぐ進んでいく。
真希が右、左と足を進め、それと対称に細川君の足は左、右・・・と進む。二人の動作は鏡に映ったもの同士のように、同じリズムで動いていく。
目の前には定座に据えられた風炉、釜、水指、棗、茶碗・・・点前の用意は揃っている。
足をそろえて・・・と。
座ろうとした瞬間、
ことっ。
会場にやたらと大きな音を響かせて、建水から柄杓が転げ落ちた。

 
                                                                   

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