GIRLS, CHA CHA!

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高校の茶道部で指導されている方のブログからインスパイアされました(笑)!!茶道版「スウィングガールズ」!?
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見てたはず、だよねえ・・・。
真希は隣の細川君の横顔をそっと盗み見た。
眼鏡の奥にある眼はまっすぐ前にある棗を見つめていて、一体何を考えているのか全然つかめない。
どこから見ていたんだろ。
話してた言葉、聞かれたちゃったかな。
何か、言い訳した方がいいのかな。
どうして何も言わないんだろう・・何考えているんだろう・・。
真希の手は機械的にお点前の準備を進めているが、頭の中ではきいんと耳鳴りが鳴っているように思考が停止した状態だった。
その時、後ろの方でざわっと空気が動いた。
吉川奈緒が少し困ったような、誇らしいような顔をして真希のそばへ歩いてくる。
「さっきお家元がお濃茶席終えられたようよ。このまま行くとうちの席に入られるみたい。」
ちょっとうわずった声で奈緒は真希にささやいた。
隣県や全国から大勢の茶人たちが一斉に集うこの大会、参加者は千人とも二千人とも言われる。
勿論それだけの大人数を一度にもてなすことは出来ないので、百人ほど(それでもかなりの人数だ)の客数で区切った席を、二日間にわけて何回か催す。
お家元、つまり流派の頂点にいる人も全ての席に出られるわけではない。濃茶席、薄茶席、そして学生茶道席。それぞれどの時間帯の席に出られるかはその時になってみないとわからない。
その、お家元が、今・・つまり真希達の点前する席に向かっている、というのだ。
奈緒は頬を紅潮させている。
細川君の顔を見ると、ぎゅっと唇を結んで心なしか緊張しているようだ。
だけど・・・真希には何となくその意味するところが実感できない。
お家元、と言っても世界が違いすぎて、雲の上の存在の人という感じだ。
それよりもさっきの細川君の顔…若様の胸の中にいる真希を一瞬見つめて、ふいと横を向いた時のあの顔が、まだ真希の頭の中にちらついている。
ほどなく、席の準備が整ったようだった。
細川君は真希の肘を小突き、扇子を前に置いて、
「みなさん、よろしくお願いします。」
と、静かな、だけどよく通る声で水屋の学生に頭を下げた。
真希も慌てて細川君と同じように頭を下げた。
水屋から、茶席に続く大きな襖。
真希は細川君と並んで、その襖の前に正座する。
すう、と真希は自分の気持ちを落ち着けようと大きく深呼吸した。

62

「おう。真希ちゃん。どう?調子・・・」
若様は真希に向かって軽く手を挙げかけたが、真希の顔を見たとたん急に真顔になった。
「どうした?なにかあったか?」
急ぎ足で真希に駆け寄る。
若様だ・・お点前が・・ど新人が・・
真希の頭の中にはさっき聞いた言葉やたくさんの言いたいことがぐちゃぐちゃとまわって、自分でもわけがわからない。
「わ、私・・」
「うん」
「私、本当は・・・」
「うん」
隆史はゆっくりと静かに相づちを打ってくれた。
頭に心地良く響く隆史の低い声を聞いていると、自分の中のもやもやとした気持ちが、一気にあふれ出した。
「私、本当は自信なんかひとっつも無いんです!今だって、すぐにでもここから、この場所から逃げ出したいと思ってる・・学校の代表で、こんな大きい席でお点前して、もし失敗したら開発先生や浅井部長や細川君や・・いろんな人に恥をかかせてしまう・・・!
みんなは、私のお点前をきれいなお点前になった、って褒めてくれるけど・・何年もお稽古した人にはかなわないに決まってる・・。
だけど、みんなには心配かけたくなくて・・・私が不安がっていたらみんなにも迷惑・・・っ!」

一瞬、何が起こったのかよくわからなかった。
目の前にある胸、背中に感じる腕の感触で、隆史に抱きしめられたと理解するのに3秒ほどかかった。
「あのね」
混乱している真希の心の中に気づいているのかどうか、隆史はその姿勢のまま、ゆっくりと真希に語りかけた。
「失敗したっていいんだよ。
ここはお点前の品評会なんかじゃないんだから。お客様のために、自分の出来る精一杯のおもてなしをする・・上手い下手じゃないんだよ。
・・今日のお軸、なんという言葉か、見た?」
「・・一期一会・・」
「そうそう。お茶を習いたての、今の真希ちゃんがお客様に点ててあげられるお茶は、今日しか差し上げられないんだよ。未熟でも、今のおもてなしの心を一碗に込めれば、きっと相手に伝わるよ。」
真希は小さく頷いた。
ゆっくりとした隆史の言葉を聞いていると、不思議なことに真希の中のもやもやがすうっと消えていくようだった。
隆史の腕の力が、少しゆるんだ。
「あんまり一人でなんでも抱え込むなよ。弱音を吐くのは悪いことじゃないんだよ。失敗したってへっちゃら、くらいの気持ちで、行ってこい。大丈夫、みんながついてる。」
「はい。ありがとうございます、隆史さん。」
力強い隆史の励ましに、真希は顔をあげた。
その時、隆史の肩越しにチラッと見えたのは、こっちを見ている細川君の姿だった・・・。

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呆然と立っている真希を尻目に、細川君はさっさと歩いて点前座の横に設えてある床の前に座った。
手をついて、一礼。
床にかけてある軸の字を、じっと見ている。
真希も、のろのろと細川君の隣に座った。
「いちごいちえ。」
声に出して軸の言葉を読み上げてみた。
「この言葉・・聞いたことある。たしか、一回一回の出会いを大切にしなさい、って意味だよね。」
禅語にはなじみの薄い真希にも、比較的親しみやすい言葉だ。
「うん・・そうだな。」
細川君は軸の字から目を離さずに答えた。
「‘一期’っていうのは、人の生まれてから死ぬまでの人生。‘一会’は唯一ただ一度の出会い。同じメンツで何度茶会をやっても、その時のその会はその会でしかないんだ。・・わかる?
悔いを残さないように自分の今出来る精一杯の力をだせばいいんだよ。」
細川君の目がまっすぐに真希の目をとらえた。
「う・・うん・・」
どうもこの目に見つめられると弱い。真希の胸の奥で、波が立つような落ち着かない気分になる。
真希は慌てて立ち上がった。
「今のうちにトイレに行ってくる!あっちだったよね。」
ちょっと高い声が出ちゃった、と思いながら、真希はくるりと回れ右をした。

ホテルのトイレは、さすがにホテルのトイレだ。学校やショッピングセンターなんかのトイレとは雰囲気が違う。高級感のあふれる個室の中で、真希は長い長いため息をついた。
(一期一会、か・・・。)
頭の中ではさっきの細川君の言葉、千恵や奈緒の顔がぐるぐると浮かんでは消えていく。
一息ついたあと、さあ、出ようかと立ち上がったとき、女の子が二人ほどしゃべりながらトイレに入ってくる声がした。
聞き覚えのない声に(他校の生徒か・・)と思いながらドアのノブに手をかけると
「ねえ、聞いた?S校の話。」
真希の高校の名前が突然出てきたので、ドキッとして固まってしまった。
「お点前する子、片方は5月に入ったばっかりのど新人なんだって!信じられないよねえ!こんな大きい大会に。うちだったら怖くてとてもじゃないけどそんな子出せないわよねえ。」
「まじ?そりゃよっぽど人がいなかったのか、それとも自信があるのか・・まあ、なんにせよ、私だったら考えられないわぁ。」
大きな声で話しているから個室の中まで会話は筒抜けだ。真希は、何とも言えない気持ちになって立ちつくしていた。
何分くらいその場にいたのだろうか。
(行かなきゃ・・・)
ドアを開けると、もう彼女たちはいなかった。
真希は洗面所の大きな鏡に映る自分を、ぐっと一睨みしてトイレを出た。
そこには。
「・・隆史さん・・!」
着物に袴を着た若様が、ちょうどこちらへ向かってくるところだった。

60

「学生茶道席はホテル側の2階だから、こっちよ。エスカレーターに乗っていきましょ」
吉川奈緒がきびきびと一行を促した。
奈緒の後ろにぞろぞろついて歩くのは、茶道部から志願した面々。
お点前を担当する真希と細川君の他に、水屋の手伝いやお運びの担当として奈緒、千恵、ヤマタク。
細川君と奈緒以外のメンバーは、地区大会のような大きな茶席に出るのが初めてということもあって、思わずきょろきょろ見回してしまう。
千恵は廊下を歩きながらさりげなく真希の隣に寄ってきた。
「真希、大丈夫?確かにこんなところでお点前するなんて緊張するけど・・・。でも、あれだけ練習してきれいなお点前になったんだから、自信持ってね!真希なら上手くやれるよ!」
小さく、でも力強く励ましてくれる友に、真希はにこっと微笑んだ。
「うん・・ありがとう。千恵。がんばるよ。」
奈緒も、ちょっと振り向いて真希の方を見、ほんの少し歩くスピードをゆるめた。
「頑張ってね、武田さん。私も、あなたのお点前なら大丈夫だと思うわ。」
「うん。」
笑顔で答えた真希の顔を見て、千恵も奈緒も安心したように前を向いた。
「さ、着いた。ここが私達の水屋になるってことね。」
たどり着いた部屋の入り口には「学生茶道席 水屋・控え室」と書いたはり紙が貼ってあった。
部屋の中では、もうすでに何校かの高校生や大学生らが忙しく動き回っている。
「じゃあ、私達も手伝おうか。荷物はそこの棚に置いて。お点前さんは点前座見てきたら?」
奈緒はてきぱきとエプロンを出して動き始めている。奈緒に習って手伝いに出る千恵たちを残して、真希と細川君は水屋の隣へ移動した。
水屋からは茶道口となる襖が設えてあり、襖を開くとステージが登場した。
と、思ったが、ステージに見えたのは真新しい畳。
ショーの花道のようにまっすぐに敷き詰められている畳をたどっていくと、一番先には風炉が仲良く二つ並んでいる。
ステージ畳の周りにはたくさんの数のベンチ(のような腰掛け)!
何十人、いや、百人くらいは入るだろうか。
(うわあ・・・)
真希の視界は、くらりとゆれた。
(こんなところで、私、お点前するの・・!?)

59

地区大会の日は、朝から小雨がしとしと降る、少し肌寒い天気になった。
真希は大会に参加する茶道部員と一緒にバスに乗って、会場のホテルへ降り立った。
市内でも有数の大きなこのホテルには本格的な茶室があって、しかも隣には市民ホールが建てられているため、たくさんの人数が集まる茶会や大会などにはしょっちゅう利用されている。
高校の茶道部員はみんな制服で参加だが、朝早くからホテルロビーや市民ホールを行き交う人々は、ほとんどが着物姿。かっぽう着のようなものを上から着ている人もいる。
こんなにたくさん着物姿の人が忙しく動いているのを見るのは初めてかもしれない、と真希は思った。
「わ〜着物のおばちゃんがいっぱいだぁ〜」
後ろにいたヤマタクがのんきにつぶやく。
真希と、隣にいた千恵が同時に振り向いてヤマタクに「し〜っ!!」と指を立てた。
「私も同じこと思ってたけど、おばちゃんはないでしょ、おばちゃんは・・少しは場の空気を読みなさいよ!小学生以下よっ!・・全くもう・・」
千恵の小言は遠慮無しだ。
ヤマタクはそんな小言さえも嬉しそうに聞いている。
ああ・・いいわよねえ、幸せな人達は・・
ふう、とため息をついて前に向き直ると、細川君と目が合ってしまった。
「武田さん、大丈夫?」
眼鏡の奥から見つめられると、心の中を見透かされたような気がして、落ち着かない。
「なにが?」
「いや、なんか・・・なんというか、変だよ?」
そんなことない、と言おうとしたら、
「トイレっすか?」
ヤマタクが後ろから口を出し、千恵に思いっきりはたかれた。

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