GIRLS, CHA CHA!

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高校の茶道部で指導されている方のブログからインスパイアされました(笑)!!茶道版「スウィングガールズ」!?
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その日の部活では、真希の夏休み特訓の成果をみんなに披露することになっていた。
広い和室の中央に、二つ並べられた風炉。その横には左右対称に水指が置いてある。
真希は、細川君と二人並んで座り、一緒にゆっくりとお辞儀をした。
真希の右手には棗、左手には茶巾、茶筅、茶杓が仕組んである茶碗。
細川君の左手には棗、右手には茶巾、茶筅、茶杓が仕組んである茶碗。
二人は同時にすっと立ち上がり、すっ、すっと静かな音を立てながら風炉の前へ進んだ。
和室の中の空気がピンと張りつめる。
奥の席に座っている開発先生も、身動きせずに二人の動作を見つめていた。

「まだまだ甘いところはありますが、今の時期としてはまあよろしいでしょう。」
二人が同時に茶道口でのお辞儀を終えたあと、開発先生はゆっくりと言った。
・・ほぉ〜・・・・。
和室の中の部員達の長いため息が、一気にはき出された。
ぱち、ぱち、ぱち・・・
自然に何人かの手から拍手がこぼれた。
拍手はあっという間に優しく二人を包み込んだ。
「すごいね!こんなに短期間の間に、すごく上達してる!武田さん、頑張ったね。」
浅井部長は椅子に腰掛けながら、本当に嬉しそうに拍手している。
千恵もぶんぶんと頷きながらニコニコしている。
「あ・・ありがとうございます・・!」
真希はやっと肩の力を抜いて、みんなに笑顔を見せた。
頑張ってよかった、と素直に思った。ここまで来れたのも、指導してくださった開発先生や一緒に稽古してくれた細川君のお陰だ・・・。
真希は横にいる細川君を見た。
と、細川君の瞳がすごく優しい事に一瞬ドキッとした。
あ、あら?
細川君って、こんなに優しく笑う人だっけ・・・?
「さあ、茶席でのお点前はいくら稽古してもいいくらいよ。本番で出せる力は普段の八割もあればいいとこ。どうしたって緊張するんだから、後は場数を踏んで慣れることね!みんなも負けないように、お稽古、お稽古!」
浅井部長の張りのある声に、部員達がさわさわと動き出した。
あ、私も稽古しよ・・・
真希が立ち上がろうとした瞬間。
どたっ!!
大きな音と共に、畳に振動が響いた。
音の方を見ると。
ひっくり返っているヤマタクの姿。
足を押さえているところを見ると、しびれが直らないうちに立ち上がろうとしたらしい。
「無理に立ち上がらない方がいいわよ!下手すりゃ骨折するんだから。」
誰かが笑いながら言う。
それよりも真希が目を見張ったことには、あっという間にヤマタクのそばに駆け寄り、甲斐甲斐しくその大きな体を持ち上げようとしている、千恵の姿だった。
あら。千恵ったら・・いつの間に。
真希が思わず細川君の顔をそっと見ると、細川君はニコニコと二人の姿を見守っていた。
もしかして・・この人、千恵の本当の気持ちに気づいていたんじゃ・・
そう考えると、細川君があっさりと千恵を振ったのも何となく納得と思ってしまう真希だった。

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「それで結局、何にも言わずにさよならしちゃったの〜!?もったいなーい!」
千恵が茶巾を洗いながら言った。
夏休みが終わって久しぶりの部活。水屋には真希と千恵の二人が早めに来てお点前の準備をしていた。
「う・・・言わないでよお。自分でも間抜けだなあって思っているんだから・・」
若様の車の助手席に乗って、二人きりの時間なんて滅多にないチャンスだったのに。
気の利いた話も出来ず、ましてや進展などのぞむべくもなく。
家の前で降ろしてもらって、ありがとうございました、とだけ言うのが精一杯だった。若様の車は、あっという間に走り去っていってしまった・・・。
「だけど、がんばったよね、真希。夏休み中も開発先生ンちで特別稽古休まないで行ったんでしょ?細川君と一緒って言うのがうらやましいけど・・」
「千恵・・」
真希は思わず、茶巾を洗っている千恵の背中を見た。
なんて言ったらいいのか・・
その時、カラリと和室の戸が開いて誰かが入ってきた。
「こんにちは。」
真希と千恵が振り返って見たのは、細川君当人が水屋に入ってくる姿だった。
「こんにちは。細川君。先に準備、始めてるよ。」
明るい声で答えたのは、千恵。
細川君は、うん、とだけ言って和室の方へ向かっていった。
千恵・・・えらいね。
振られた相手に向かって普通に話出来るのは、真希だったらどれくらい時間がかかっているかわからない。多分千恵の中でもいっぱいいっぱいなんだろうけど、同じ部員同士、気まずい空気にならないように頑張っているんだろうな。
細川君が水屋に戻ってきた。
押入の中を覗いて、お軸の箱を取り出している。
しばらく水屋の中に沈黙が流れる。
真希は、何となく話題になるものはないかな、と壁を見渡した。
「『茶の湯とは・・』」
「なに?真希」
水屋の壁に貼ってあるカレンダーに、短歌のようなものが書いてある。
「『茶の湯とは ただ湯を沸かし 茶を点てて のむばかりなる こととしるべし』・・・だって。そうだよねえ。確かに、茶の湯って突き詰めればただお湯を沸かしてお茶を点てて飲むって事だもんねえ。
なんであんな、面倒くさいお点前をしなきゃならないのかなあ・・。」
「昔は、抹茶も奥で点てたものをお客様に出すだけだった、って聞いたことがあるけど・・」
もともと日本の歴史が好きな千恵は、茶道部に入ってから茶の湯と日本史との関係に興味をもって調べているらしい。
「『もとよりも なきいにしへの法なれど 今ぞ極る本来の法』」
後ろで細川君がぼそりとつぶやいた。
「なんて?細川君」
「これも利休道歌だよ。昔、開発先生に教えてもらった一首。『もとよりも なきいにしへの法なれど 今ぞ極る本来の法』。千利休より前に行われていた喫茶の方法は、闘茶っていう形だったからね。修行とか点前とかの世界とは違っていたんじゃないかな。利休以前の『喫茶』と、以降の『茶道』とは、別物だという意味なんじゃない?」
さすが、というか細川君は作業の手を休めずに、するすると解説してそのまま軸を持って和室へむかっていった。
修行、ねえ。
真希は細川君の言った言葉を思い出していた。
残暑の厳しいむうっとした暑さの中で、たらたらと汗を流しながら点前作法を稽古するこの部活は、確かに修行という言葉がぴったりかもしれない、と思った。

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「確かに、かなりきれいなお点前になっていますよ。よくがんばっていますね。」
真希は一瞬我が耳を疑った。
開発先生が、あの開発先生がほめてくれた!?
真希が目をまん丸にして見つめているのに気づき、開発先生はこほんと小さく咳をした。
「私はお世辞は言いませんからね。この暑い中一度も休まずに稽古に来ただけのことはあるということですよ。」
普段が厳しい先生だけに、褒められるとかなり嬉しい!!
「あ、ありがとうございます!!」
自然と頭が下がった。
「今度吉川師匠にも見てもらえばいいんじゃない?」
若様の言葉に、ほんの一瞬ちょっと頬をこわばらせた開発先生の顔を、真希は見てしまった。

その日の帰りは、ラッキーなことに若様の車で家の近くまで送ってもらった。
細川君を先に降ろした後、真希の家までは狭い空間の中で二人きり・・・男の人とそんな風にいるなんて慣れない真希は緊張してしまう。
「・・さっきの話だけどさ、吉川師匠に見てもらうってこと、考えてみてよ。いろんな人に見られるって言う経験は、本番までになるべくしといた方がいいぞ。」
隆史は目の前の赤信号を見ながら言った。
「そうですね・・・確かに。大学茶道部からは、誰か出られるんですか?」
言ってから真希は、あっと思った。
バンビさんかな、とチラッと思ったのだ。
「ん?うち?うちはなあ・・今回は若いヤツらが頑張ってるよ。何事も経験、経験!ってね。何人かも手伝いには行くけどな。」
そうなんですか、と答えて、少しの間沈黙が流れた。
聞きたいな・・その後、どうなんだろ・・若様はバンビさんのこと、もう吹っ切れたんだろうか・・。それとも、もう新しい彼女が出来てたりして・・?
真希はちらと隣の横顔を盗み見た。端正な隆史の横顔は涼しい顔をして、こちらの想いなど何処吹く風だ。
真希がもう少し恋愛事に慣れている女の子なら、車の中にある小物などを鋭くみまわして現在彼女持ちなのかそうでないのか、秘かにチェックしていただろう。
しかし、彼氏いない歴17年の真希がこのとき出した言葉は、自分が思っていることとは全然関係のない、色気とはほど遠い話だった。
「開発先生・・・まだ吉川師匠のこと怒ってらっしゃるンですかねえ・・」
「え?ばあちゃん?」
隆史も、いきなり話が飛んだからちょっとびっくりしたような顔をした。
「あ、ごめんなさい。ちょっと気になったモンだから・・。あのお二人って、昔の事にまだわだかまりを持っているのかなあって。」
「ああ・・うーん、・・・。いや、単にうちのばあちゃんが意固地になっているだけだと思うよ。ほら、ばあちゃん、ガンコですからね・・・」
隆史が開発先生の口まねをしながら言ったので、真希は思わず吹き出してしまった。
あのガイコツ先生ならそうかも知れないな。
でも・・昔は何があったにせよ、せっかく一度は好き合った二人が時を経て再会したのに、しかも同じ道を歩んでいるのに、ずうっと素っ気ないままでって、さみしすぎる。
もしかしたら、開発先生は今でも吉川師匠を慕っているから、余計に意固地になってしまうのかな。
せっかくの恋が、そんな風になってしまうのは悲しいなあ・・・
エアコンから来る心地良い風に思わずうとうとしながらそんなことを考えていると、あっという間に真希の家の前に着いてしまった。
(あ〜あ。せっかくのチャンスなのに!なにやってたんだろ、私。)

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夏休み。
学校は休み、と言うことは部活も休み。
だけど、真希達には夏休み中にも特訓が待ち受けている。
真希と細川君は、開発先生のお宅の茶室で週に一回稽古をつけてもらうことにした。
先生の家にある茶室は、夏真っ盛りでもクーラーなどは入らない。
扇風機も、ない。
あるのは窓から入ってくる生ぬるい風だけ。
目の前には熱い炭が熾ってお湯が沸いている釜と風炉、茶杓を持つ手にもすぐにじっとりと汗がにじんでくる。
それなのに開発先生ときたら、いつもビシッと着物を着て、涼しい顔をして座っている。
細川君も、多少汗はかいているものの、それほど暑がっている様子もみせない。
(この人達、マジで人間離れしてる〜!!)
真希だけが額や鼻の頭に汗をしたたらせてハンカチ片手に悪戦苦闘していた。
しかも、開発先生の指導!!
先生の個別指導というだけでも、真希は勘弁して!と逃げ出したかった。
先生は無理なことは、言わない。けれどその要求は、かなり難しいのだ。
「茶杓を持つ指は、親指以外全部そろえる!親指には力を入れない!関節で山を作らない!」
・・・無理です!
何度言おうと思ったことか。けれど横を見ると、先生の言われた通りの動きをしている細川君の姿がある。
(くくう〜っ!)
要するに、意識の持ち方と、練習なんだ。くやしいけど、今の真希には一にも稽古、二にも稽古の二文字しかない。
茶室の中での2時間は、真希にとって10時間にも感じられた。
ただ、特別稽古にはうれしいおまけもついている。
毎回稽古が終わる頃、若様が冷たいお菓子を持って茶室に遊びに来てくれるのだ。
このときばかりは、真希の頬に爽やかな風が当たって全身に清涼感が満ちるような気がした。
その日のお菓子は、空色をしたふるふるのゼリーの中に、小豆が一粒入っている「青楓」だった。
「しばらく見ないうちに、随分きれいになったね。」
若様が真希を見て言った。
き・・・きれい!?
思わずぽぽっと顔が熱くなった。
「点前が。」
がくっ。
「点前、ですかぁ・・・」
「なーに期待したんだよ。まあでも、ちょっと前から見せてもらってたんだけど、ほんと、始めの頃と比べて段違いにきれいなお点前になってきたなあ。」
笑いながら若様は細川君の点てたお茶を一口飲んだ。

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不思議なもので、何回も繰り返し同じ人と練習していると、その人の点前姿にそっくり似てくるような気がする。
真希は、部活の度にひたすら細川君の真似をした。
細川君は逆勝手のお点前だから、普通の点前とは右と左がまるきり逆になる。二人が向かい合うと、まるで鏡のように見える。
手順はなんとか覚えた後だったから、身体もおぼろげながら覚えている。
細川君のゆったりとしたお点前を真似していると、真希の動作までゆったりとなってきた。
・・・考えてみたら変わった人だなあ。
茶道をしている男の子は、この茶道部にもけっこう人数はいるけど、その中でこの細川君のお点前は、ダントツだ。逆勝手のややこしいお点前にしても、するするとやってのけてしまうんだからねえ。千恵が思わず一目惚れしてしまったというのも、なんとなくわかる。
同じクラスだというものの教室でしゃべることは殆どといっていいほどなく、休み時間にも窓際の席で静かに本を読んでいる姿しか覚えていない。かといって、孤立しているわけでもなさそうだし、普通に友達もいるみたい・・・。冷たい人かと思ったら、意外と優しいところもあるし・・。
真希は、そっと細川君のメガネの奥にある長いまつげを見た。
伏し目がちに帛紗捌きをしている姿からは、昨日の態度はつかめない。
昨日、千恵が細川君に告白した、らしい。
千恵からは、ふられちゃった、とだけ聞かされた。
千恵の大きな目にはうっすらと涙がにじんでいたけど、懸命にこらえているようだった。
真希も、それ以上は何も聞かず、ただ二人で黙って駅まで歩いて、お互いの帰途についた。
今日の部活、千恵は歯医者に行くから休むと言う。真希は、じゃあ部長に言っといてあげる、と言って1人で部室に来たのだった。
「・・・何か考えてる?」
はっと気が付くと、細川君が帛紗を持つ手を止めてこっちを見ていた。
「あっ。・・ごめんなさい。ぼうっとしてた。」
「いや。いいけど。ちょっと休憩する?」
「うん・・・」

集中してなかった!失敗、失敗。気をつけなきゃ。
真希はトイレの鏡に向かって、自分の目を睨み付けた。
トイレから出て和室の方へ向かっていくと、細川君が廊下の窓からグラウンドを見ていた。
サッカー部や野球部のかけ声が遠くから聞こえてくる。
細川君が、歩いてくる真希に気が付いた。
「何?さっきから。俺の顔になんか付いてる?」
「ん・・いや、ごめん。・・うーん・・・」
真希は少しためらったが、言ってしまった。
「千恵を振るなんて、もったいないことするなあ、と思ってさ。」
ああ、と細川君は短くため息をついて、また窓の外を見た。
「もう知ってるんだ。女のネットワークは、こわいよなあ。」
真希は、ちょっとむっとした。
「ご心配なく。千恵はそこら辺のおばちゃんとは違って、軽々しくうわさ話なんかしませんから。・・いい娘なのよ。本当に。私なんかと違って、魅力的だし。」
「あのさあ。」
細川君は急に真希の方を振り向いた。
「前から思っていたんだけど、『私なんか』とか、その卑屈な考え方、やめない?上杉は上杉で確かに魅力的だし、可愛いけど、武田は武田のいいところあるだろ?人と比べなくても、君は君でいいんだよ。」
あら?なんか、細川君怒ってる?
真希は思わず口を閉じた。
でも・・君は君でいいんだよ、って言われて、少し嬉しかった。
「どっちかというと、俺なんかは君みたいにキップのいいのが好みだけどな。ま、上杉ももったいなかったけど。」
は?
細川氏、さっきなんて言った??
あんぐり口を開けて目を丸くしている真希に、細川君はにやっと笑って肩をポン、と叩き、
「さ、休憩終わり!気合い入れていくぞ、相棒!」
さっさと和室の中へ入ってしまった。
1人残された真希。
何?今の〜!?もしかして私、またからかわれたの!?

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