GIRLS, CHA CHA!

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高校の茶道部で指導されている方のブログからインスパイアされました(笑)!!茶道版「スウィングガールズ」!?
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お茶のお点前なんていうのは、要するに、お客様の前で道具を清めて見せ、茶碗を温めて、お茶を入れて点て、そして飲んでもらった茶碗を片づける・・・言ってみれば単にそれだけのことなんだけど。
「何でこんなに決まり事がいっぱいあるの!!??」
真希は何度心の中で叫んだか知れない。
考えてみれば無理はないかも知れない。普通の部員なら、割り稽古といって一つ一つの点前所作を習い、簡略な「盆略点前」を稽古し、しかる後にいわゆる普通の点前「薄茶平点前」へと段階を踏んでゆっくりと習得していくのに対して、真希はそれらをすっ飛ばして1週間でいきなり薄茶平点前の手順を覚えようと言うのだ。
地区大会の学茶席、お家元の前で点前を披露するのなら、それ相応のお点前を完成させなければならない。とにかく1週間で平点前を覚えるというのは、開発先生が真希に出した宿題だった。
お陰で真希はずうっと部室に通い詰め、浅井さんにみっちりと教え込まれた。
とにかく水屋から点前座へ着く足の動かし方からしてこんがらがる。
右、左、右、あれ?横にずれるんだっけ?
茶杓を持ったら、次は・・・ええと・・・!!
どうしてお茶を点てるだけなのに、こんなにいろいろなこと、やらなくちゃいけないのー!!
覚悟して自分からやりますと宣言したけれど、やっていくうちに自分の無謀さがイヤになってくるときもしばしばあった。
「とにかく頭で考えちゃだめよ、身体で覚えて、何も考えずに次の動作にいくぐらいにしみ込ませるのが一番よ!」
とは、浅井さんのアドバイス。
そうなるように、家でも何度も何度も繰り返した。授業中にも、頭の中でイメージトレーニングした。

はたして、1週間後。
開発先生は、じいっと座って、目の前の真希の平点前を見ていた。
部活中の、他の茶道部員達もそれとなく真希の点前を気にしている。
真希は、いろんな人に見られているのをビシバシと感じながら、緊張で頭は真っ白、指先もぷるぷる震えた。
全ての点前が終わって、茶道口で一礼。
一呼吸おいて、顔を上げた真希と、開発先生の視線がバッチリ合った。
「・・・。」
気難しい顔で、しばらく黙る開発先生。
部室の中がしいん、と静まりかえっている。
やがて、先生はようやく口を開いた。
「・・・お話になりませんね。全然なってない。」
真希の頭の中で、ガーン…と鐘の音が鳴った。
「帛紗捌きからなっていませんね。今日はあちらで、細川君と一緒に帛紗捌きのみお稽古しなさい。」
「あの、先生・・・」
「以上!」
開発先生に向こうを向かれ、とりつく島もない真希は、とぼとぼと和室の隅に帛紗を持って歩いていった。
「だめだった、のかなあ・・・私。」
帛紗を広げて待っていた細川君は、穏やかな声で真希に話しかけた。
「なんで。先生は、武田にGOサインを出されたんだよ。だから、俺と一緒に帛紗捌きの練習をしろって言われたんじゃないか。」
真希は細川君を見上げた。
「比翼点てっていうのは、二人の帛紗捌きからリズムがあってないとだめなんだよ。今日は、俺に合わせてとにかく身体に覚えさせていこう。」

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「3ヶ月!?」
「全治まで?」
「まじ!?」
期末試験が終わった後の部活は、松葉杖をついて椅子に腰掛けた浅井部長の事故報告から始まった。
「うん・・・まあ、大げさにギブスしてあるけど、骨が折れただけだから、安静にしていればいずれ治るよ。ただ、正座はね。さすがに出来ないって。」
浅井さんはサバサバとみんなに報告した。
どうして骨折したかは言わない。真希にも、固く口止めしてあった。
真希は、部員達の戸惑いの声を聞いて1人いたたまれない気持ちだった。
浅井さんがなんと言おうと、結局は私を助けようとして負った怪我だ。私の責任だ・・・。
浅井さんはお互いの不注意だったって言ってくれたけど・・・でも・・。
「3ヶ月ですか・・・」
細川君がもう一度繰り返した。
「・・びみょーですね・・・」
吉川奈緒も神妙につぶやく。
「うーん、・・・そうなんだよね。それで、みんなに集まってもらったんだけど・・」
浅井さんも、姿勢を正してぐるりと見回した。
「問題は、10月なのよ。地区大会の、学茶席。今回は比翼点てをするということで、各茶道部男女1組ずつペアをお点前さんとして出さなくちゃならないのね。今年は、私と細川君が出ると言うことになっていたんだけど・・・。」
地区大会?ガクチャ?ヒヨクダテ??
初めて聞く単語の羅列に、真希は隣の吉川奈緒の袖を引っ張った。
奈緒は、真希の表情でその意図を察したらしい。
小さな声で、端的に教えてくれた。
「お茶の流派の、結構大きな大会が今度この地区であるのよ。お家元もいらっしゃるような、かなり規模の大きい茶会よ。濃茶席や薄茶席、いろいろあるけど、その中に学生茶道席って言って、高校や大学の学生が受け持つ席があるのね。何校かの茶道部が合同で受け持つんだけど、比翼点てになるから、各校男女ペアでお点前しなくちゃならないの。」
「比翼点て、って?」
「平たく言えば、男女二人が同時に左右対称でお点前を披露する、ってこと。息もぴったり合ってないと難しいわね・・・」
そんな大会があるんだ。
お家元、なんて、なんだか全然ピンと来ないんだけど。
浅井さんは、静かに部員を見回して言った。
「・・誰か、私の代わりにお点前してくれない?」
しーん。
しばらく、誰1人身動きしなかった。
経験を積んでいる浅井さんや細川君ならともかく、お家元のご覧になるような席でお点前を披露するなんて・・・部員達が躊躇するのも無理はなかった。
「・・・。」
真希は、しばらく考えていた。
考えて、覚悟を決めた。
「浅井さん、私が浅井さんの代わりに出てもいいですか?」

46

七夕茶会が終わったら、もう期末試験のシーズンだった。
試験前は部活も停止期間になるので、放課後がなんとなく手持ちぶさたな気分になっている。
その日の真希はすぐに帰る気になれず、ぼうっと非常階段の上からがらんとしたグラウンドを眺めていた。
蒸し蒸しした風が、けだるい放課後をさらにけだるくしている。
やめようとは思っているけれど、ついつい長いため息をまた一つ。
「どしたの?悩める乙女。」
いつの間にか後ろに浅井部長が微笑んで立っていた。
「あ、浅井さん…こんにちは。」
「茶会が終わると一気に気が抜けちゃうよねぇ。こんな時に期末試験っていうのも、高校生はつらいよね。」
二人は一緒に笑った。
真希は、ちょっと考えるように黙ったけど、思い切って部長に切り出した。
「浅井さん・・・浅井さんって、つきあってる人いますか?」
宝塚のトップ男役のような、りりしい浅井部長の顔が、一瞬虚をつかれたように間抜けな顔になった。
が、すぐにふっと笑って
「いるよ。」
と真希を見た。
その顔は真希がはっとするほどきれいな‘女の子’の顔だった。
「いい恋してるんですね・・・うらやましいな。」
「ん?あはは、まぁ・・・いろいろあるけどね!なぁに?武田さんの恋は、前途多難?」
「前途多難・・・暗礁に乗り上げた、って感じです・・・」
結局、あの後若様には自分の想いを伝えることは出来なかった。
バンビさんほどの素敵な女性でさえ、若様に惚れさせることは出来なかったんだ。
「私自身、自分に自信がもてないのかも・・・前に進む勇気がなくなっちゃった・・」
ついつい言葉に出てしまう。
“武田さんって、もてないでしょ。”
いつかヤマタクに言われた言葉が、ずうっと胸の深いところにとぐろを巻いている。
浅井さんは、真希と一緒に黙ってグラウンドの方を見ていた。
「・・・自信ねぇ。私も自分に自信をもってる?って聞かれれば、躊躇するけどね。じゃあ、武田さんが魅力的だなって思う女性って、どんな女性なの?」
魅力的な女性・・・と言われて、思い浮かぶ女の人は、たくさんいる。
目の前にいるかっこいい浅井部長、女らしい千恵、爽やかなバンビさん・・・
そう言えば、以前に初めての茶会に出たとき、足がしびれた真希にさりげなく自分のスカーフをかけてくれた女の人も、素敵だったなあ。
「目標にしたいような、理想の女性はまわりにもたくさんいるけど・・・最近、服とか顔とか髪型とか、そういうのよりも仕草とか気遣いとか・・・心意気?みたいなものが魅力的な女の人になりたいなあ、って思いますねぇ・・・」
「なるほどねぇ・・・」
浅井さんはうんうんと頷きながら聞いていた。
「確かに、内面がきれいな人って、外面に表れるよねぇ。武田さんがそういう人に憧れてるんだったら、今は自分を磨きなさいっていうことなんじゃない?自分に自信をつける時期なんだよ、今は。」
そうか。そうかも。
かといって、どうすればいいか、ってとりあえずわからないけど。
「ありがとうございます。浅井さん。なんか、聞いてもらってちょっとすっきりしました。」
真希はにっこりと笑い、つられて浅井さんの顔も笑顔になった。
「どういたしまして。ホントに、聞いてあげることしかできなかったけどね。」
いえいえ、と言おうとして、真希はくるんと身体を折り曲げた。
と、バランスが崩れた。
あっ!落ちる!!
そう思った瞬間、ぐいっと腕をつかまれ、身体が上に投げ出されたような感覚になった。
次に真希が聞いたのは、どさどさどさっ・・・!という鈍い音。
はっと思ったときには、真希の身体は階段の踊り場に座り込んでいた。
「・・浅井さん?」
上にはいない。真希は急いで下をのぞき込んだ。
非常階段の下に倒れているのは。
あさいさん!!

45

「ところで、何か用事だったんじゃないの?」
背伸びを一つして、若様が思い出したように尋ねた。
用事・・・と言えば、用事(それも一大決心の)、だったのだけれど。
「あの、・・・茶碗が金継ぎ仕上がったって。隆史さんに早く見てもらいたくて。」
これも用事の一つと言えば、そうだ。
「マジ?意外と早かったなあ。見せて?」
隆史は階段に座り直した。真希は、丁寧に風呂敷から箱、そして例の茶碗を出して、渡した。
「うん・・・さすが、きれいに継いであるね・・・」
隆史の長くてきれいな指の中で、絵唐津の茶碗はゆっくりとまわった。
そうだ、初めて会ったときには、このきれいな指に見とれていたんだっけ・・・。
親指が、茶碗の胴に描かれている牛の絵をそっとたどる。
「・・・『十牛図』って、知ってる?」
牛の絵からは目を離さずに、隆史は不意につぶやいた。
「ジュウギュウズ?」
「うん。十の牛の図。禅宗の修行によく出てくるんだけどさ、こないだ大学で聞いたの思い出したよ。」
「牛・・・」
「まあ、ごくごく簡単に言えば、その中では牛は、人間が見失った本来の自分自身を表しているんだな。で、十の絵の中で、牛を探して、つかまえて、一つになって・・・悟りを開く・・んだそうだ。
この牛は・・もしかしたら自分自身のつもりで絵付けされたのかな。」
そうなのかな。
もしそうだとしたら、師匠が絵付けして開発先生に贈ったときには、どういう思いで贈ったんだろ。
ありのままの自分を見て欲しい・・とか、いつまでも君と一緒だよ、とか・・・。
だけど、そうやって結ばれていた二人も、結局は別々の道を歩くことになってしまった。
若様も、バンビさんと別れてしまった。
一緒に歩いていけるパートナーを見つけるのって、すごく難しいのかな。

44

下駄の歯が、砂利を踏んでやたら大きな音になって響いた。
若様が顔を上げてこっちを向いた。
「・・・おう。信玄。」
明るい声を出そうとしているけど、元気は、ない。
「・・・真希です、ってば。」
真希はそろそろと若様の近くへ歩いた。
どうしよう。
こんな時、なんて言えばいいんだろう。
若様は、複雑な表情の真希を見て、理解したようだった。
「・・聞かれちゃったか。」
「ごめんなさい。」
いいよ、というように、若様はちょっと笑ってから川の方を向いた。
「振られちったよ。」
それだけ言うと、しばらくの間黙って川の流れをじっと見ていた。
真希は、ちょっと迷って、若様から少し離れたところに座った。
「なかなか難しいね。・・・男と女は。」
ぽつり、若様がつぶやく。
「大事にしていたつもりだけど、向こうにはそう伝わらなかったみたい。一緒にいるだけじゃ、だめなのかな。」
「・・・・」
「貴和子が言うには、俺は優しすぎるんだって。いろんな人に・・・。自分に対する優しさも、彼氏としての‘特別’かどうか、不安になるんだって・・・」
そういうものだろうか。つきあっていくと、だんだん望みが贅沢になってしまうのだろうか。
「やきもち焼いちゃうようなものでしょうか」
「やきもちか・・・そうかもしれない。不安を感じさせるようなつきあい方をしていた俺が悪かったのかもしれないなぁ。」
「でも・・お互いに好きなら・・・不安はないんじゃ・・あ、でも、好きだからこそ不安になるのかな。」
「そうかもしれないなあ・・・だけど、今改めて考えてみると、俺の方も貴和子に対してそんな気持ちをもっていたか・・・大事にしていたっていうのは言い訳で、そこまで強くあいつのことを想ってやれなかったんじゃないかなぁ。そう考えると、あいつに悪いことした、と思うよ。柴田さんの方が、あいつを幸せにしてくれるんだろうな・・・」
「柴田さんって、部長さんですか?」
「ん?・・ああ、うん。うちの部長。少し前に、言われたんだって。あいつの中で、悩んだんだろうな・・・。」
真希と隆史は、しばらくそのまま黙って座っていた。
夕方の風が、川面からざあっと吹いた。
汗がひいた背中に襟元から入った風が、ヒヤッとする。思わず真希の肩がふるえた。
真希の仕草に気づいた隆史は、自分のパーカーを脱いで真希の肩にかけた。
目を見開いた真希の顔を見て、自分でも可笑しくなったらしい。ちょっと笑って、
「こんな事してるから、振られるんだよな。」
と、立ち上がった。
真希もつられて少し笑った。
笑ったけど、なんだか少し泣きそうになった。

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