映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

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35 ヴォイト・カンプフ装置

レイチェルの片眼がスクリーンいっぱいに映っている。虹彩が輝き、光が当たって瞳孔が収縮する。

デッカードの声
始めるよ。

レイチェル
どうぞ。

柔らかなグリーンに輝く文字盤の中、左右のゲージの針はじっと動かない。レイチェルの向かいに座るデッカードの背後に、タイレル博士がシルエットになって立っている。鉛筆ほどの太さの光がレイチェルの眼に向けられている。彼女の頬には円盤型の金網が取り付けられている。

デッカード
君は誕生日のプレゼントに、子牛皮の財布をもらう。

両方のゲージの針が緑から赤へ激しく振れて、また静まる。

レイチェル
私は受け取らないわ。それに、私にそれをくれた人を警察に通報するでしょうね。

デッカード
君には小さい男の子がいる。その子が君に、蝶のコレクションと殺虫瓶を見せる。

再びゲージが反応するが、それほどではない。

レイチェル
その子を医者に連れて行くわね。

デッカード
君はテレビを見ている。不意に、君の手首に蜂が這っていることに気づく。

レイチェル
殺すわ。

両方の針が赤へ動く。デッカードは記録を取り、コーヒーを一口飲んでテストを続ける。

デッカード
君がふと見つけた雑誌に、裸の女のグラビアが載っている。

レイチェル
これは私がアンドロイドか、それともレズビアンかを調べるテストなの?

デッカード
君は夫に写真を見せる。彼はそれを気に入って、壁にかける。熊の毛皮の上に女が寝そべっている。

レイチェル
私がさせないわ。

デッカード
どうしてさせないんだ?

レイチェル
私がいれば十分なはずよ。

デッカードは眉をひそめ、そして微笑む。彼の微笑みはしかめっ面か何か違うものに見えてしまう。

デッカード
君は妊娠するが、相手の男は君の親友と駆け落ちしてしまい、君は中絶すると決める。

レイチェル
中絶手術なんて絶対に受けないわ。

デッカード
どうして受けないんだ?

レイチェル
それは人殺しだからよ、デッカードさん。

デッカード
君の考えではね。

レイチェル
わたしの子供なのよ。

デッカード
君は過去の経験から話しているようだね。

彼は針の動きを記録する。片方は緑へ動くが、片方は動かないままだ。

デッカード
最後の質問だ。君は古い映画を見ている。宴会のシーンになり、客たちが生牡蠣を食べている。

レイチェル
気持ち悪い。

両方の針がさっと動く。

デッカード
メイン・ディッシュは、米を詰めて茹でた犬だ。

針は先ほどよりも小さく動く。

デッカード
生牡蠣の方が、茹でた犬の料理よりも抵抗があるんだね。

デッカードは粘着式の電極を彼女の頬から外し、光線のスイッチを切る。

デッカード
明かりをお願いします。

照明が灯る。

タイレル
それで?

デッカード
もし彼女がアンドロイドなら、この機械は役に立つということです。

タイレル
その機械は使えるね。彼女はアンドロイドだよ。

レイチェルは静かに座っている。だがその眼だけは…タイレルをじっと見て動かない。タイレルは話しながら見つめ返す。

タイレル
質問はいくつ必要だった?

デッカード
十三です。

レイチェルはじっと椅子に座っている。彼女の存在の根拠が崩れて消え、彼女の大きな、人魚のような眼はタイレルから離れない。タイレルの声は静かで力強く、魅惑的だ。彼女の立場は危うい。

デッカードは口の中に嫌な味を感じながら、彼女をじっと見ている。

デッカード
彼女は知らなかったんですか?

タイレル
記憶の移植だよ。彼女はプログラムされたんだ。だが彼女はその処理を超越していたようだね。彼女は疑い始めていたと思う。

彼女はしっかりとうなずく。自制を失わないよう注意しながら。

タイレル
デッカードさん、普通はいくつぐらい質問が必要なんだね?

デッカード
五つか、六つほどです。

ゆっくり、注意深く、タイレルはレイチェルから視線を外して、デッカードの方を向く。彼は装置を片付け始めている。

タイレル
我が友よ、気をつけなければいけないよ。

デッカードは彼をちらりと見る。

タイレル
これは混みいった問題でね、我々は君に何事も起きてほしくないんだよ。

デッカードに見られればどんな男でも縮み上がるかもしれない。だが、タイレルはそうではない。

タイレル
よかれと思って言うんだが、レイチェルを連れて行ってはどうかね。彼女の特異性を考えれば、彼女がなかなか役に立つことがわかると思うよ。

デッカードはタイレル流の権力の汚さにほとんど微笑みそうだ。彼は背を向けて、ヴォイド・カンプフ装置をしまいはじめる。

デッカード
いりませんよ。

デッカードは帰り支度を終える。

タイレル
それに、そんな広い範囲をどうやって一人でカバーするのかね?

デッカード
慎重にやります。

タイレル
関連情報はすべて、君の機関のコンピューター…エスパー231だったね、そこへ入力されているはずだ…合成画像の情報も一式準備されている。

デッカードはドアを開ける。

タイレル
デッカードさん、私の申し出についてもう一度考え直すのが賢明だと思うよ。

レイチェルは脚をのばし、ひどく青い顔をして表情もなく座っている。ひどく寂しげな様子だ。

怒りをにじませないようにしながら、デッカードはささやくように言う。

デッカード
仕事は一人でやります。

その最後の言葉に、レイチェルは視線を上げてちらりと彼を見る。デッカードは背を向ける。外側のドアがスライドして開き、彼は出て行く。


36 内景 トンネル 夜

運転手側の窓ガラスごしに、年代物のデューセンバーグが見えている。ヘッドライトが闇を切り裂き、山道の狭い路面を光らせている。道は下り坂だ。

標識が流れていく。「注意 前方カーブあり」。右には転落の危険、左には岩の壁があることを考えれば適切なアドヴァイスだ。

絶え間ないエンジンのブーンという音と、タイヤのヒューッという音はそのままに、場面は急に変わる。


37 内景 部屋 夜

柔らかな明かりと家庭的な魅力のある、居心地のいい場所。短いドレスを着た若い女性が絨毯に掃除機をかけている。カウチの下に掃除機を伸ばそうと彼女が前かがみになると、すばらしい尻が丸出しになる。反響する、わずかに疲れた男性の声で警告が聞こえてくる。

デッカード、道路から目を離さないようにな。

デッカードの声
すまない。

場面が突然戻って、


38 内景 トンネル 夜

木々の向こうに月が上り、車の屋根に月光が反射している。道はさらに険しくなり、カーブはさらに鋭くなる。薄い霧が後方へ流れていき、デューセンバーグがスピードを上げていく。わくわくするようなドライブになりつつあるが、運転手の心はどこかへ飛んでいる。


39 外景 森 昼間

頭上で柔らかな雲が流れていく。冷たい陽射しの中、視点の主はカエデとブナの林の中にある道を歩いて行く。すっかり葉の落ちた木々の枝が冷たい陽射しを遮り、足元ではパリパリ音を立てる青白い雪がところどころで溶けて、湿った豊かな茶色の大地がのぞいている。

さあ、機械に集中するんだ。


40 内景 トンネル 夜

デューセンバーグはさらにスピードを上げていて、ヘッドライトが道全体を照らしている。腹わたのよじれるような四輪ドリフトでコーナーに突っ込んでいく。ジェット・コースターが苦手な者にとっては楽しい感覚ではない。

デューセンバーグは車体を滑らせながらカーブを抜け、目の前には次のカーブまで200ヤードほどの直線が開けている。

ひと息つくにはいい所だが、運転者は気を抜かず、ハイ・ギアに入れる。


41 外景 湖 昼間

冷たい灰色の風景。流れは速く波が高い。カヤックの舳先がうねりを切り裂いて進み、視点の主は浜辺へと漕ぎ寄せていく。

ここは寒く人里離れていて、人の手の入っていない土地だ。空は聖母マリアのマントよりも蒼い。カヤックは浜辺に着き、視点の主はカヤックを降りて、砂浜を歩いて小さなキャンプへと向かう。

デッカード、他に気を取られていると、最初からまたすべてやり直しだぞ。集中するんだ。

デッカードの声
俺が集中していないって、どうしてわかるんだ?

君は刺激に対して反応していない。計器に出ないからわかるんだ。

デッカードの声
俺はもうくたびれたよ。

もう少しで終わりだ。


42 内景 トンネル 夜

デューセンバーグの車内、運転車が同乗者の方を向く。彼の幽靈じみた顔は物陰になっているが、歯がきらりと光って、彼は笑ったに違いない。そして同乗者はさっと前方を見る。

突然、近づいてくるカーブを一組のヘッドライトが曲がってくる。バスかトラックか、大型車のものだ。眼が眩んで何も見えない。

デューセンバーグはスピードが出すぎていて停まれない。すれ違う余地はない。クラクションが吠える。デューセンバーグはブレーキをかけ、片側にスリップする。同乗者が手を伸ばしてマホガニー製のダッシュボードをつかむ。ブレーキでホイールがロックし、タイヤは悲鳴を上げて滑る。デューセンバーグはガードレールを突き破って空中に飛び出す。同乗者が最後に見たものは目眩だけだ。そして静寂。


43 ホイーラー医師のオフィス 午後

腕のいい医師は、ピンボール・マシンを思わせるガラス張りの机の上に身を乗り出している。その表面の下には、細かくつながったカチカチ動く電子記号と、テストの結果を表示するモニターがある。

デッカードは額から電極をはがす。額には汗が浮かんでいるが、それ以外には疲れた様子もなく、彼は立ち上がって身体を伸ばし、医師の机へ歩み寄る。

デッカード
それで、俺はどうだったんだ?

ホイーラー医師は痩せて骨ばった体格をした男で、ぶっきらぼうだが、落ちくぼんだ眼には確かな思いやりが感じられる。

ホイーラー
鉄の神経だね。

デッカード
錆びてはいない?

ホイーラー
そうは言っていない。動作速度が前回の検査より少し遅くなっているという結果が出ている。

デッカード
つまり?

ホイーラー
つまり、君は昔のようには速く走れないということだ。

デッカードは服を着始める。

ホイーラー
道路でのテストの間…

デッカード
何だい?

ホイーラー
君の心はずっとさまよっていた。困らされたよ。

デッカード
なるほど。

ホイーラー
君の仕事の性質を考えると、これは危険かもしれない。

デッカード
その通りだね。

ホイーラーはしばらく「机」をよく調べ、彼の指がデッカードの情報を表示している箇所を指す。

ホイーラー
君はもうすぐ誕生日だな。

デッカードは屈みこんで靴を履いている。ホイーラーは心配そうな表情で顔を上げる。

ホイーラー
だが君は移住の申し込みをしていないな。

デッカード
しないよ。

ホイーラー
年齢の制限を超えてしまうぞ。

デッカード
なあいいかい、このくそったれの街に対する不満を長いリストにしてやってもいいが、それでも俺は宇宙よりもここにいたいんだ。

ホイーラー
もし気が変わったらどうするんだ?

デッカード
俺の気が変わる前に、年齢制限の方が変わるよ。

ホイーラー
確かにかね?

デッカード
俺の人生でこれ以上に確かなことはないね。

デッカードは帰り支度を終える。心配してくれていることに少し心を打たれて、ホイーラーを見る。

デッカード
あなたはどうして行かなかったんだ?

ホイーラー
歳を取り過ぎていてね。

デッカード
でも、もし行けたとしたら?

ホイーラーは少し考えてから、微笑んで首を振る。

ホイーラー
私の仕事があるのは、ここなんだ。

デッカード
俺もだよ。

二人は握手して、デッカードは立ち去る。

 

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