映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

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44 内景 セバスチャンのアパート 午後遅く

激しく打ち合う二人の軽量級メキシコ選手に遅れまいと、レフェリーがリングを飛び回っている。もし立体映像の音声が消されていなくて、映像がぼやけていなければ、試合会場のリングサイドにいるような気がしたかもしれない。いい試合だが、プリスは映像を見ていない。

彼女はカウチに足を載せて、足の爪にマニキュアを塗っている。部屋はひどく静かで、爪を磨く音が聞こえてきそうだ。四本目の指にとりかかった所で、頭上から物音がして彼女の動きが止まる。

それは床がきしむような音だが、静かで、突然で、現実だったか疑ってしまうほどすぐに消えてしまう。彼女はしばらく天井をじっと見て、そしてセバスチャンをちらりと見る。

部屋の向こうで、セバスチャンは自分の世界に没頭し、拡大鏡を覗きこんで繊細な配線をレーザーで接続している。

プリスは部屋を横切り、戸口を出て静かにドアを閉める。もしも部屋の棚に並んだ人形たちに感覚があるなら、彼らだけはそれに気がついただろう。


45 内景 セバスチャンのアパート 廊下 午後遅く

プリスはいくつものドアの前をするすると通り過ぎる。いくつかのドアは開き、歪んで、中のありさまや物陰や朽ち果てた様子を見せている。


46 内景 セバスチャンのアパート 非常階段 午後遅く

ここは薄暗く、枯れた井戸に日光が差し込んでいるのを思わせる。うつろな静寂の中に、金属の階段を踏む彼女の足音が反響する。


47 内景 セバスチャンのアパートの上階 午後遅く

今では彼女は走っている。廊下を通って、セバスチャンのアパートの真上の部屋で止まり、ドアを開ける。


48 内景 セバスチャンの真上の部屋 午後遅く

プリスが入ってきて、メアリーがそちらへ顔を向ける。彼女は椅子に座っている。部屋にある家具はそれだけだ。その椅子は壊れて、おかしな角度に傾いている。彼女はうなずき、プリスもうなずき返す。

バッティは仰向けに横たわり、まるで凝りをほぐすみたいに、一方から一方へ首を少し回す。

バッティ
下はどうなっている?

プリス
彼はまだ準備ができていないの。

バッティ
いつになるんだ?

プリス
明日だと彼は言ってるわ。

バッティは待ちきれない、とうなずく。プリスはメアリーをちらりと見て、冷淡に小さく微笑む。プリスは部屋を出てドアを閉める。バッティが鼻から息を吹き出す。まるで動物のように。


49 外景 デッカードの車 高速道路 夜

夕暮れの名残が空に縞を描いている。光がデッカードの車の表面に角柱のように光っている。彼は高速を外れて、カーブした傾斜路を降りていく。


50 外景/内景 街路の車 夜

車は暗い街路を走っていく。デッカードは角を曲がり、アクセルを踏んで急な坂を登っていく。


51 外景 街路 デッカードのアパート 夜

坂の頂上で車は私道に入り、高層アパートの地下駐車場に消える。


52 内景 デッカードのアパート 廊下 夜

デッカードがホイルに包まれたプラスチックの皿を手に廊下をやってきて、自室のドアの前で立ち止まる。ドアにはたくさんの錠が付いている。彼はポケットから小さな装置を取り出してドアに向け、錠を開ける。ボルトがスライドして外れる。彼は中に入り、背後のドアを足で蹴って閉める。


53 内景 デッカードのアパート 夜

彼は灯りを点けて居間を横切る。デッカードは様々なものを貯めこむたちだ…引っ越してきたばかりなのか引っ越そうとしているのか、判断がつかない。

キッチンに入っていこうとして、彼は背後にいる誰かの物音を聞き、さっと振り返る。銃がもう抜かれて身体の前に構えられている。レイチェルはもう少しで撃たれるところだった。だが彼女は、顔は少し青いかもしれないが落ち着いていて、今までと同じく率直だ。長い凍りつくような時間が過ぎ、それから彼女はほとんど笑顔になって、床に落ちている皿に目をやる。

レイチェル
それ、あなたの夕食だったの?

デッカードはひっくり返った皿を見下ろして、うなずく。

レイチェル
ごめんなさい。電話して、あなたが帰る途中だって知ったの。これはもう警察に渡してあるけど、あなたもできるだけ早くコピーを持っておくべきだと思ったのよ。

彼女は煙草の箱ほどの大きさのカセットを取り出す。だがその間にデッカードのアドレナリンは引いていく。

レイチェル
あなたが欲しがっていた、ネクサスの情報よ。

彼はカセットを受け取るが、ドアにあれほどの錠をつけている男としては、どうやってそれが簡単に突破されてしまったのかを不思議がっているに違いない。彼は聞く気にもならない。

デッカード
ありがとう。

彼はまだ自分がレイチェルに銃を向けていることに気づいて、銃をベルトに戻し、二人はじっと互いを見つめ合う。二人の立場が気づまりな沈黙を生む…少なくとも彼にとっては。彼女はまるで、話したいけれども話していないことがあるかのように、彼を見ている。

デッカード
他に何かあるのかい?

レイチェル
あなたは仕事が面倒になると思っているんでしょうけど、私は手伝いに来たのよ。

デッカード
もう必要な以上に手助けをしてもらったよ。

レイチェル
あなたは今までしてもらったよりももっと、手助けが必要だと思うわ。

彼にこれ以上の手助けは必要ない。だが彼女は引き下がらない。

レイチェル
人が助けを断る理由は二つあるわ。自分のやっていることについて優秀で助けを必要としないか、自信がなくて受け入れられないかよ。

デッカード
どっちにしろおまえはバカだって言われているように聞こえるな。でもやはり答えはノーだ。

レイチェル
私たち二人の方が、一人よりも効率的だわ。

デッカード
俺は一人でやるんだ。

彼女は微笑む。

レイチェル
いいえ、だめよ。

彼女はその言葉の意味が沁み入るのを待つ。

レイチェル
あなたも自分の道具を使うでしょう?

デッカード
だから?

レイチェル
だから、私も道具の一つよ。私を使って。

二人の間に強い視線が交わされる…長い視線が。もしデッカードが農地を耕している男なら、彼はその申し出に何かをしただろう。だが…

レイチェルが床に屈み込み、デッカードの眼はそれを追う。彼女は床の敷物から食べ物を拾い上げて皿に戻しはじめる。

デッカード
いいよ、俺がやるから…

彼は手伝おうと屈みこむが、もう彼女がほとんど片付けてしまっている。二人の頭は数インチしか離れていない。彼女の眼の中の何かがその距離をさらに縮める。

レイチェル
私といると落ち着かない?

デッカード
ああ。

レイチェル
ごめんなさい。

彼女も落ち着きをなくしている。そしてデッカードも急に落ち着かなくなる。彼女は皿をデッカードに手渡し、二人は立ち上がる。彼女はなんだか恥ずかしそうに床を見ているが、顔を上げると、デッカードが彼女を見ている。彼女は簡潔に言う。

レイチェル
自分の人生だと思っていたものが、本当は他の誰かの偽物だと急にわかるって不思議なものよ。

デッカードはうなずく。彼は心から理解してはいるが、どうすればいいのかわからない。

デッカード
想像はできるよ。

レイチェル
できるの?私はできなかったわ。

今の言葉はデッカードの失態だ。だが彼女は気にしていないようだ。

レイチェル
私はどこかで嬉しいと感じてもいるの。もっといろいろ感じていると思う。今までの自分は好きじゃないわ。

デッカードはうなずき、節度ある間を置いたあと、ありがたく思いながらキッチンへ皿を持っていく。

ひどく散らかったキッチンで、デッカードは皿を置く場所を探して周囲を見回す。だがここには様々なものが積み重ねられている。彼は冷蔵庫をじっと見る。

デッカード
それで、どうしてあいつらは自分たちの記録を欲しがったんだ?

彼は仕事の話をしている方が気が楽だ。

レイチェル
たぶん、自分たちがいつ製造されたのかを知りたいんだと思うわ。

デッカード
なるほど。

彼は自分の夕食をごみ箱に捨てて戻ってくる。彼女はカードに何かを書いている。

レイチェル
もし長く生きられるようには作られていないと知っていたら、生まれた日はとても重要だと思うわ。

彼がこの話題から逃げる術はない。彼女は顔を上げ、彼にカードを手渡す。

レイチェル
私の電話番号よ。私が必要になった時にね。

彼女は戸口のところに行き、ドアを開けるが、外に出る前にためらう。

レイチェル
もっといい錠に替えた方がいいわよ…私を締め出しておきたいのならね。

彼女はデッカードに振り返って微笑む…その微笑みは、ドアの錠前だけの話をしているのではない、と言っている。デッカードは彼女に帰らないでくれと頼みそうな様子だが…

レイチェル
おやすみなさい。

そして彼女は行ってしまう。

デッカード
おやすみ。

彼は電話番号を見下ろす。それはスナップ写真の裏に書かれている。彼はそれを裏返す。男と女の写真だ。その二人の間にいる小さな女の子は、六歳のころのレイチェルのように見える。


54 内景 デッカードのアパート 夜

デッカードは操作卓の前に座り、製造された時の、無表情で髪もなく、何の特徴もないネクサス6たちの写真をモニターで調べている。

画像合成装置がそれぞれの画像に特徴を付け加えて合成していく。髪の毛、髭、歯、瞳の色、老いた顔、若い顔、眼鏡。おかしなものから似合っているものまで、すべての画像が早送りで表示されていく。

デッカード(声のみ)
可能性は無限にあった。あいつらは外見を変えることはできたが、未来は変えられなかった。レイチェルが言ったとおり、あいつらの寿命は短い。長く生きることがあいつらの目的なのだ。ゴミ拾いの男でさえ過去を求めた。哀れなやつらだ。俺も調べてみたが、彼女は正しかった。需要は売上に影響を与える。いちばん重要なのは、老朽化機能が組み込まれているということだ。それは彼女も同じだ。俺はそのことについてあまり考えたくなかった。

モニターの上には、蓋を開けられてスプーンを突っ込まれた豆の缶詰が載っている。デッカードは煙草を消して、缶詰に手を伸ばす。電話が鳴る。

デッカード
もしもし。

ブライアント
ブライアントだ。おまえが就職希望者について要請した報告書についてだがな、エスパーがタイレル社で不規則な採用をしているのは芸能部門だけだと結論した。急いで行った方がいい。

デッカード
俺は晩飯を食うところなんだよ。

ブライアント
急げば飯が冷める前に帰ってこれる。五分でアパートの屋上にスピナーを回す。幸運を祈るぞ。

デッカードは電話を切り、缶詰の豆を見る。いずれにしろ食べる気はなくなっている。彼は立ち上がって寝室へ歩いて行く。床に積まれた服の中を探して足首に取り付けるレーザー銃を見つけ、足に巻き付ける。

 

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