映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

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67 内景 古いオペラハウス 男性用トイレ 夜

あなたにもおなじみの薄汚い便所だ。ブライアントが顔をこすり、怒りを表に出さないようにしながら、小便器のそばのひび割れたタイル張りの床にじっと座っている。ここは公共の場所で、彼は大声を出したくないのだ。

ブライアント
ネクサス6が相手だからってやり方が変わったりはしないんだ。誰かに知られた事実はみんなが知っている事実になり得るんだよ。そして俺たちの仕事の一つはな、デッカード、そういうことが起きないようにすることなんだぞ。おまえはいまいましい観客どもの目の前で一人を吹っ飛ばした。さあ、どうすればいい。

それは答えを求める類の質問ではない。デッカードは早く終わってくれと願いながら、洗面台で顔を洗っている。

ブライアント
どうなんだ?

デッカードは水滴を垂らしながら顔を上げ、ペーパータオルに手を伸ばす。ブライアントはぱちんと一つ手を叩く。

デッカード
あの女は逃げようとしていたんだ。

ブライアント
なら逃げさせてやればいい。おまえはプロだと思っていたよ…おまえは追いかけるだけにしておくべきだったんだ!

ブライアントは二度ほど深呼吸する。

ブライアント
おまえは調子に乗っていたようだな。

デッカードの声は、やっと聞き取れるかどうかだ。

デッカード
俺はあの女が好きじゃなかったんだ。

ブライアント
あの女が好きじゃなかった、だと!?

彼は小便器のハンドルを叩く。

ブライアント
アンドロイドどもを好いたり嫌ったりし始めたら、引退する頃合いだぞ。

水がどっと流れる轟音が吸い込む音に変わり、消える。うなずく以外にすることはない。デッカードはうなずく。哀れな男はきつい夜を過ごした。ブライアントは上着からフラスコを取り出し、デッカードに手渡す。デッカードはそれを口に当て、ブライアントは彼が飲む回数を数えているみたいに、デッカードの喉仏をじっと見つめている。デッカードは中身を飲み干してフラスコを返す。ブライアントはフラスコに蓋をしてポケットに戻す。

ブライアント
いいか、家に帰れ。少し休め。アスピリンを飲んでな。

デッカード
わかった。

ブライアントは、年取った熊みたいにのそのそ歩いて出て行く。


68 内景 古いオペラハウス バー 夜

安いウイスキーにひどいワイン。ここはそういう場所だ。もう閉店が近い。だがバーにはまだ何人か客が残っている。アルコール中毒の影絵たち。

背景で、デッカードが男子トイレから通路を歩いてきて、電話の前で止まる。彼はポケットから番号の書かれた紙を取り出し、電話をかける。彼は壁に寄りかかりながら電話で話し、その身ぶりはくつろぎと親密さを感じさせる。

バーにはあまり動くものはない。誰かのいびきと、隅で自分自身と話しているアル中だけだ。

デッカードは電話を切ると、バーに歩いて行き、どさりとスツールに座る。バーテンダーは土嚢のような大きな胸と、媚びる調子のない声をした大柄な女だ。

バーテンダー
お客さん、あなたの飲み物を取っておいてあげることはできないんですよ。あなたがトイレに行っている間に、このブツクサ言ってる奴があなたの酒を飲んでしまったんです。

デッカードは隣のスツールの男をちらりと見る。打ち上げられたクジラみたいにカウンターに突っ伏している、大柄な男だ。

デッカード
構わないよ。もう一杯くれ。

「クジラ」は身動きしないが、ガラガラ声のロシア訛りで喋っている。

ロシア人
許してくれ。タダ酒だと思ったんだよ。金は払うから。

デッカード
もういいよ。

だが大男は自分のポケットを探っている。デッカードの注文した酒が出され、ロシア人が顔を上げる。温かさを感じさせる赤く充血した眼をして、心をとろけさせるような笑みを浮かべた、物憂げな顔。だが、この男はレオンだ。

レオン
俺、金を持ってないみたいだ。

デッカード
いいよ。もういい。

レオン
でも、あんたに酒をおごりたいんだ。

デッカード
俺がおごるよ。何を飲むんだ?

レオン
ウォッカだ!

デッカード
ウォッカを一杯頼む。

レオン
本当にありがとうな。

デッカード
どういたしまして。

デッカードは煙草を取り出す。一本すすめる。レオンが煙草を取り、二人は火をつける。飲物が出される。

レオン
プロージット(訳注 ロシア語の「乾杯」です)。

デッカード
プロージット。

二人は乾杯する。レオンはグラスをカウンターに叩きつけると、ポケットに手を入れて小さなマッチ箱を取り出し、同じように叩きつける。それがとても得意気な様子なので、デッカードも見ないわけにはいかない。

レオン
俺の友だちに会いたいかい?

デッカード
悪いな、時間がないんだ。

レオン
大丈夫だよ。

レオンはあけっぴろげに笑うと、儀式めいた気配りをしながらマッチ箱を開き、カウンターに三匹の生きたゴキブリを落とす。

デッカード
このゴキブリかい?

レオン
そうだよ。

デッカードは興味を惹かれたらしい。一匹が這って逃げ出し始めるが、レオンがその前に大きな手で壁を作って止める。

デッカード
この男どもをどのくらい飼ってるんだ?

レオン
二ヶ月だよ。でもこいつは男じゃない。女の子だ。

レオンはゴキブリたちに聞かれたくない、とでもいうように身を乗り出してくる。

レオン
ブラッキーはいつもイゴールが餌を食うまで待つんだよ。そして彼が背中を向けたら、アンナを口説こうとするんだぜ。

デッカードははっきりと興味を惹かれてうなずく。彼はバーテンダーにもう一杯くれと身ぶりで注文する。酒が出される。

レオン
プロージット。

デッカード
プロージット。

二人は乾杯する。乾杯の最後に二人の眼が合う。

レオン
ゴキブリがヤるとこ、見たことないだろ?

デッカードは首を振るが、見てみたいと思う。

レオンはいたずらっぽく笑う。

レオン
やってみよう。

レオンはポケットから角砂糖を一つ取り出し、カウンターの上に置く。二人は身を乗り出し、真剣に見つめている。出された酒が脇に押しやられる。だがゴキブリたちは協力してくれない。

レオン
彼が腹を減らしてないか、彼女が燃えていないかだな。

レオンはゴキブリを一匹ずつ捕まえて、マッチ箱に入れていく。彼は最後の一匹を掲げてキスをする。

レオン
あんたも彼女にさよならのキスをしたいだろ。

デッカード
遠慮するよ。

バーテンダー
帰るときは、あんたのガールフレンドを間違いなく連れて行ってよね。

誰も気がつかないが、レオンの指に挟まれた煙草の吸い差しが彼の肉を焼いている。

デッカードがグラスを手に取るが、中身は空だ。

レオン
あんた、気に入ったぜ。

デッカード
俺もだよ。

レオン
もう一杯、いいだろ?

デッカード
小便してくる。

デッカードは立ち上がり、強い風の中を歩くみたいに前屈みで前に出て、立ち止まる。

デッカード
外で小便してくるよ。

レオンはデッカードがバーから通路を通って裏口の外へ、完全にまっすぐ歩いて行くのをじっと見ている。


69 外景 古いオペラハウス 裏道 夜

デッカードがふらふらしながら出てくる。ドアが閉まると、彼はまったく素面な様子ですばやく行動する。建物にそって置かれた大型のゴミ容器を回って、彼は壁にぴったりと貼りつき、銃を抜いてドアに狙いを定める。彼は途中に邪魔なもののない良い射撃位置にいる。時間が過ぎていき、彼は冷静になるための時間があることをありがたく思う。彼の息づかいと、街のぶんぶんいう音以外、あたりは静かだ。

だしぬけにデッカードは後ろから抱え上げられ、レオンの両腕に抱かれたまま振り回される。

レオンが手を離してデッカードは歩道に落ち、服が破れ肌が灼けるほど激しく滑っていく。彼はくるりと回転し銃を握って立ち上がるが、すばやいレオンはもうそこにいて、デッカードの手から銃を蹴り飛ばす。

レオンが前進し、デッカードは壁ぎわまで後ずさる。

レオン
どうしてそんなに早くゾーラの居場所がわかったんだ?

レオンの手は電光の速さだ。手が突き出され、デッカードの髪をつかむ。

デッカード
写真を見せたんだ。彼女に見覚えがある奴がいた。俺は会いに行った。

デッカードは真っ青だ。汗が流れ始める。

レオン
俺は何歳だ?

デッカード
俺は知らない。

髪をつかんでいる手がきつくなり、ねじられる。

レオン
俺が生まれたのは2015年の4月10日だ。どのくらい生きるんだ?

デッカード
四年だ。

レオンが手を放す。

レオン
おまえよりは長く生きるな。

デッカードの両膝が跳ね上がる。それよりも速く、レオンの拳がハンマーのように打ち下ろされる。

レオン
恐怖の中で生きるのは辛い、そうだろう?

デッカードは身を二つに折って、自分の大腿を押さえている。

レオン
だが、それが奴隷のありようだ。未来から閉めだされ、這いつくばって、待つんだ。

傷めつけられていてもデッカードはすばやい。彼は足首の銃へ手を伸ばすが、構える間もなくレオンが手から銃を奪い、歩道へ投げ捨てる。

デッカードは体当りしてレオンを転ばせると、地面を這って逃げ出す。レオンが彼の足首をつかみ、引きずり戻して地面から持ち上げる。

レオン
セックス、生殖、安全。どれも単純なものだ。だがそれらが満たされることはない。行くところもないのに故郷が恋しくなる。使い道もない潜在能力。ネクサス6には細かな手落ちが多いんだよ。

彼はデッカードを壁に叩きつける。

レオン
教えてやるがな、掻くことのできない痒みぐらい辛いものはないぞ。

デッカードは壁からずり落ち、膝をついてうずくまり、次の一撃に備えて両腕で自分の頭を守る。

レオンは大きな両手を組み合わせて頭上に振り上げると、デッカードの頭蓋を叩き潰す満足感を味わうべく、動きを一瞬止める。

レオンの顔に走るけいれんは、満足感によるものではない。彼の首を貫通した弾丸によるものだ。彼は勢いよく地面に倒れ、大きな歯が狂犬病の犬のように空気を噛んでいる。彼は死ぬ。

レイチェルが裏道に立っている。デッカードは横たわって彼女を見ている。彼女はゆっくり静かに近づいてきて、デッカードの銃を彼のそばに捨てる。

デッカードは手と膝をついて立ち上がろうとするが、どうにもできない。彼はあえぎ、血を吐き出して彼女を見上げる。

デッカード
言っただろう、君の助けはいらない。

長い間があった後、彼女は屈みこんで、デッカードに触れる。

レイチェル
あなた、ひどいざまよ。わかってるの?

 

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