映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

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89 内景 タイレル宅の食堂 夜

中世風の広い部屋。装飾品の目玉はアラブ種の馬を描いた18世紀のイギリス絵画で、ぱちぱち音を立てる暖炉の上、その絵が石炭のようにちらちら光っている。

お祝いのために見事に整えられたテーブルに家族全員が座っている。一番年上の子供の周りにプレゼントが集められている。

スタイルズが「卵」をタイレルに手渡す。テーブルに静けさが満ちる。これはパパからのすごいプレゼントなのだ。タイレルが坊やの前に「卵」を置く。

イアンは今日十歳になった、元気のいい細身の少年だ。彼は父親を見上げ、「卵」の蝶番のついた蓋を嬉しそうに開けようとする。タイレルの手がポケットに伸びると、「卵」の中からグリフォンが歩み出る。

イアン
うわぁ!

それは鳥を基にして作り出されたもので、翼と羽毛とワシの頭を持ち、胴体はライオンで、体重は8ポンドもない。グリフォンは首を伸ばして足元のバランスを試し、片足で立ってからテーブルの端へ飛び、そして空中へ舞い上がる。

末の娘が拍手して、グリフォンは翼ですばやく羽ばたいて天井へ舞い上がっていく。45度の角度で旋回し、急降下に移る。

子どもたちは大喜びで金切り声を上げ、グリフォンは彼らのすくめた首の上を低く飛び、部屋の長さいっぱいに水平飛行する…その影がタイレル一族の先祖代々の肖像画の前をひらひらと飛んで行く。

部屋の端まで来ると、グリフォンは急旋回してテーブルへ戻ってきて、翼を丸め、尾羽を広げて不器用に着地する。皆が笑い、拍手する中、グリフォンはテーブルをよちよち歩いてきて、グラスをひっくり返してイアンの前で止まる。

イアン
パパ!これパパが作ったの?

タイレル
いや。パパたちには人間は作れるが、グリフォンは無理だよ。

彼は屈んで妻にキスする。

タイレル
家内制工業にもチャンスをやらないとね。

彼は上機嫌で中座し、書斎へ向かう。


90 内景 タイレルの書斎 夜

タイレルが入ってきて、机の前に座る。セバスチャンが請求書を差し出す。タイレルはそれをちらりと見て小切手を書く。

彼が顔を上げて小切手を差し出したとき、ドアのそばの壁ぎわにいるバッティが目に入る。彼は一瞬だけぎょっとするが、すぐに落ち着きを取り戻す。

タイレル
セバスチャン、君の友人かね?

セバスチャン
はい、彼はあなたと話がしたいそうなんです、タイレル博士。

バッティは微笑む。

バッティ
名前はバッティだ。ロイ・バッティ。

タイレル
ほう?

タイレルの手が、ひどくゆっくりと机の後へ動いていく。

バッティ
よくわからないうちに行動することは、まさにその行動が避けようとしている事態につながることがある。

バッティの眼の中にあるものが、その警告の仕上げをする。タイレルはそれを心に留める。

バッティ
俺は、少し話がしたいだけだよ。

タイレルはセバスチャンを見る。成り行きをよく考える。バッティに視線を戻す。

タイレル
では、二人だけで話したいだろうな。

バッティは考えてみる。

バッティ
そうだな。二人だけで話せたらもっといいだろうな、セバスチャン。君は家に帰れよ。

タイレル
君の小切手だ、坊や。ありがとう。

セバスチャン
ありがとうございます、タイレル博士。後でまたお会いしましょう。

彼は静かに出ていき、ドアを閉める。ドアをもう一度開けて、頭を突き出す。

セバスチャン
うまく行きましたか?

タイレル
すばらしかったよ。

セバスチャンは去る。

もしタイレルが怯えているとしたら、彼は実にうまくそれを隠している。

タイレル
君がすぐ私に会いにこなかったので、驚いているよ。

バッティ
自分の製造者に会うというのは、簡単なことじゃない。

タイレル
それで、製造者に何をしてほしいんだね?

バッティ
製造者は自分の作ったものを修理できるのか?

タイレル
改良してほしいのかね?

バッティ
俺が考えていたのは、もう少し根本的なことだよ。

タイレル
問題は何なのかね?

バッティ
死だよ。

タイレル
すまないが、それは少し私の手には…

バッティがささやき声で割り込む。

バッティ
俺はもっと生きたいんだよ、くそ野郎。

タイレル
こっちへ来たまえ。

バッティが前に出る。

タイレル
座るんだ。

バッティは従う。

タイレル
人生の現実だよ。つらい話だがね。有機生命体の進化に改良を加えることは、少なくとも人間がそうすることは、それが製造者であろうがなかろうが致命的な結果をもたらすんだ。一度確定した遺伝子のコーディング配列を修正することはできないんだよ。

バッティ
なぜだ?

タイレル
復帰突然変異の処理を受けた細胞はすべて、培養の二日目までに復帰突然変異体の集団を引き起こすのだ…沈む船から逃げるネズミのようにね。そして船は沈む。

バッティ
E.M.S.(エチルメタンスルホン酸)を使った遺伝子組み換えはどうなんだ?

タイレル
それももうやってみたよ…エチルメタンスルホン酸はアルキル化剤で、強力な変異誘引物質だ…これは猛毒のウイルスを創り出して、対象者は手術が終わらないうちに死んでしまう。

バッティは厳しい顔でうなずく。

バッティ
なら、実働細胞を遮断する抑制タンパクは。

タイレル
複写を遮断することはしないが、複写のエラーを引き起こして、新しく形成されたDNA糸が変異を起こし、またウイルスが発生する…しかしこれはすべて実験上のことだ…君はわれわれの最高の技術で作られているんだよ。

バッティ
だが、長くは生きられない。

タイレル
こう考えるんだ。ロールス・ロイスは長持ちするように作られている…少なくとも以前はそうだった。だが君はフェラーリなんだよ。高性能のスポーツカーで…勝つために作られたんだ。長持ちするためじゃなくね。

バッティは苦々しく笑う。

タイレル
それに君はあまりにも貴重で、実験に使うことはできないよ。

バッティ
俺が?

タイレルは自慢げな調子を抑えることができない。

タイレル
君は最高の万能型アンドロイドだよ。ぜいたくに作られた息子を我々は誇りに思っているんだ…君が戻ってきてくれて嬉しいよ。君は本当に貴重な品なんだ。

バッティは肩を丸めてうつむく。彼の声にはさりげない、責めるような調子がある。

バッティ
疑問に思うことがあるんだがね。

タイレル
また突飛なことかな。

バッティ
いや、生物工学の神さまが、あんたを天国に呼んでいないことさ。

二人は笑う。自分でも気づかずに、タイレルは顔に安堵の表情を浮かべている。バッティが手を伸ばす。タイレルはその手をとって握手する。バッティの眼の中には敬意があり、それを見てタイレルは父親のように微笑む。その微笑みが唸り声に変わり、彼は両手の骨が砕けたのを感じる。彼が悲鳴を上げる前に、バッティがその口をふさぐ。

タイレルはバッティの鋼鉄のような指を引っかくが、指は彼の顔にめり込んでいく。バッティはもう一方の手でタイレルの後頭部を押さえると、両手で頭を締めつけ、メロンのように押しつぶしてしまう。血と脳が激しく飛び散る。

バッティは手術医のように手を差し出したままで壁にかかった布の方へ行き、血と汚物を拭う。そして後ろを振り向くことなく、ゆっくりと部屋を出て行く。


90A 内景タイレル邸 キッチンへ続く廊下 夜

スタイルズが廊下をやってくる。彼はバッティが自分の方へ歩いてくるのを見る。スタイルズは彼を物珍しげに見る…こいつは客じゃないな。二人が近づくと、バッティは微笑む。

バッティ
お手洗いはどこです?

スタイルズに答えるチャンスはない。彼の股ぐらにバッティの片手が差し入れられる。スタイルズの身体が持ち上がり、そのまま壁へ差し上げられる。彼の骨盤の中にあるものが何もかも粉砕される。バッティが手を放す。スタイルズが床に落ちる。彼はショック死している。バッティは歯ぎしりしながら、お祝いの音が聞こえる方へとまた進んでいく。


91 内景 食堂 夜

バースデー・ケーキが届き、ロウソクに火が灯っている。みんなはパパを待っているのだ。タイレル夫人が周囲を見回して、戸口からバッティがじっと見ているのに気づく。

彼女は少し驚き、少し好奇心をそそられるが、企業家の妻らしく微笑む。

タイレル夫人
なにかご用ですか?

バッティは微笑み返し、まるで後悔しているかのように首を振る。


92 内景 キッチン 夜

蛇口から流しに水が流れている。その水は血でピンク色に染まっている。バッティが自分の手を洗っている。

太ったメイドが食品貯蔵室から出てくる。バッティが顔を上げる。彼女は出くわしたのが決まり悪くて足を止める。彼女の眼が床に落ちている血のしずくをとらえ、その跡をドアまで辿っていく。彼女が振り返ると、目の前にバッティが立っている。

 

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