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「ブレードランナー」原案

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というわけで、1980年に書かれた「ブレードランナー」の初期脚本を訳し終わりました。

映画とは違った明確で、しかも悲劇的なラストは好き嫌いが分かれるかもしれません。僕自身はこちらも良いと思います。
個人的な印象ですが、完成した映画と比べると…全体的にシンプルというかわかりやすい、という印象を受けました。それはデッカードの心情がモノローグで語られているかもしれませんし、キャラクターの違いのせいかもしれません。

特にロイ・バッティのキャラクターの違いには驚かされました。映画では最後に敵であるデッカードの命を救い、あの感動的な台詞を残して逝くバッティはこの作品の裏の主人公と言えると思います。それがこの初期脚本では死が不可避だと知るやタイレルもその家族も皆殺しにし、デッカードを余裕でもてあそぶ凶暴で残忍な、はっきりした悪役として描かれています。映画では老朽化して意のままにならない自分の身体を抑えるために使った「釘」も出てきましたが、それをデッカードに差し出し、殺される前に自分で耳か眼に突き刺して自殺しろ、と迫るくだりでは唖然としました。

違うといえばヒロインのレイチェルも、映画よりも可愛らしい、共感を呼ぶキャラクターとして描かれているように思います。こういうキャラクターだからこそ、映画と違って自らデッカードの手にかかることを選ぶラストが胸に来ますし、また同じ死が近いレプリカントとして、戦うことを選ぶバッティやプリスと、死を受け入れるレイチェルという対比も際立ったのではないでしょうか。

わかりやすいと感じたと書いておいてなんですが、訳し終わってよくわからない点も残りました。
前半に、デッカードがホイーラー医師のオフィスで何らかのテストを受けているシーンがあります。ここでデッカードが感知しているらしい映像に出てきたデューセンバーグやスピナーが、なぜタイレルの邸宅にあったのでしょうか。後半で出てくる、レイチェルがデッカードの部屋で掃除機をかける(フリをする)場面や、最後にレイチェルと山道を歩くシーンを、どうしてデッカードがこのテストの場面で見ているのでしょうか。そもそもこのテストは何を目的としたものだったのでしょうか。

もしかしたらこれらのシーンは、映画が完成した後も現在まで囁かれ続ける「実はデッカードもレプリカントだった」「彼の記憶は人工的に植え付けられたものだった」という「真相」を匂わせていた…のかもしれません。

もしこの脚本が映像化されていれば視覚的にわかりやすい表現がされていたかも、と思いますが、この脚本では明確な説明がなく…というか少なくとも私の英語力では読み取れず、謎のままです。


次は、巨大ロボットと大怪獣がドツキ合いの市街戦をやったあの映画の初期脚本を訳していこうと思います。
 

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118 内景 十階の廊下 夜

デッカードはバッティを引きずったまま廊下を進んでいく。彼は倒れ、片足で立ち上がり、また倒れて、階段への最後の2フィートほどを這って進む。


119 内景 十階の階段 夜

唸り声を上げながら、彼はバッティの死体を必死に引っぱって踊り場の縁へ運んでくる。彼は息をつき、それから仰向けに寝て、バッティの肩に足を当てて押す。死体は少しずつ踊り場の縁を越えていく。そして一度に落ちる。だが手は外れず、死体の重さでデッカードは引っぱられる。デッカードは滑って踊り場の縁を越え、彼は手すりにつかまる。

デッカードは地上から300フィートにぶら下がり、自分とバッティの死体の重さを支えている…約400ポンドが彼の指にかかっているのだ。        

彼は自由な方の足で、バッティの手を蹴ってほどこうとする。だが効果はない。デッカードの指が滑り始める。

苦痛に満ちた表情で、彼はバッティの親指にかかとを押し入れる。重力と、右脚のすべての力を使って、彼は押す。バッティの親指が外れる。バッティは落ちていく。

バッティの死体が地面にぶつかる音はすばらしいが、デッカードは気づかない。彼はまだ困った状態にある。彼は身体を持ち上げて、踊り場の上に戻らねばならないのだ。彼は右手を放して左手の上へ回し、それから左手を回して、順手で手すりを握る。

今までできなかった、懸垂の最後の一回をやっている男のようにデッカードは身体を引き上げ、踊り場の縁に足をかけ、もがき、身をくねらせて、階段の踊り場の冷たい金属の上へよじ登る。

そしてそこに横たわり、身体をけいれんさせ、硬直した手をゆっくりと曲げ伸ばしする。だが彼が一番強く感じているのは、冷たい金属に触れている頬の熱さだ。

目を回し、興奮し、肺が燃えるようだと感じながら彼は立ち上がる…そして足をもう片方の足の前に置きながら、デッカードは階段を降りていく。


120 外景 セバスチャンのアパート 夜明け

ゆっくりとドアを押し開けて、デッカードが朝の空気の中へ出てくる。まだ陽は昇っていないが、空は青く変わり始めている。雲の垂れこめた灰色の夜明けはあまり綺麗なものではないが、それでもデッカードは見上げずにはいられない。デッカードはこの空を見れることを嬉しく感じる。

しばらくの間、彼は頭をのけぞらせて息を吸い、中庭を街路の方へ横切っていく。彼の足はもう限界で、彼には倒れるだけの気力も残っていない。

デッカードは自分の車の中に倒れこむ。そしてフロントシートに崩れ落ちる。


121 内景 デッカードの部屋 夜明け

隅の暗がりで、デッカードは窓から差し込む灰色の光の方を向いて、ぐったりと椅子に座っている。部屋の中は、柔らかく規則的な寝息がベッドから聞こえるだけだ。

彼は静かに立ち上がって、彼女に近づく。レイチェルは繊細な腕をシーツから出して眠っている。

デッカードは回復し、厳しい表情でそこに立って、彼女を見下ろしている。

少し時間が経ち、彼はとうとうベッドの端にそっと腰かける。

レイチェルの眼が開き、彼を見上げて、彼女が微笑む。


122 外景 山野(モンタージュで) 昼間

デッカードの車が細いハイウェイを縫って走っていく。フロント・シートには彼とレイチェルが座っている。冷たい夢のような陽射しの中、ときおり視線を交わす他は、二人の表情は硬く静かだ。

頭上の雲は柔らかく、疾く流れていく。

デッカード(声のみ)
彼女は俺が知っている場所へ行きたがった。街を離れて。彼女が見た写真のような所へ。ビルではなく、木々のある所だ。

レイチェルは窓の方を向いて、通り過ぎていく木々を見つめている。

デッカード(声のみ)
俺たちは楽しく過ごした。彼女は俺に面白い話をし、俺は彼女に歌を教えた。サルとゾウの歌だ。その歌で笑いすぎて、俺たちは歌っていられなくなるほどだった。


123 外景 森(モンタージュ)昼間

デッカードとレイチェルが歩いている。目の前の大地は真っ白で、静かだ。

カエデとブナの林の中にある道を歩いて行く。すっかり葉の落ちた木々の枝が、冷たい陽射しを遮っている。

足元ではパリパリ音を立てる青白い雪がところどころで溶けて、湿った豊かな茶色の大地がのぞいている。

レイチェルが立ち止まり、彼の方を向く。彼女の唇は少し開き、温かな吐息が冷たい空気を白く水蒸気に変えている。不毛な根を張った木々のそばに立って、彼女は繊細ではかなげに見える。彼女は固く白い雪の上に立ってデッカードを見ている。彼女は逃げない。今でもなお、彼女の眼は「わかっている」と主張している。


124 外景 森 昼間

デッカードが雪の上を歩いている。一人だ。彼は冷たい空気の中をゆっくりと機械的に歩いている。寒さも気にしていない。青白い頬を涙が流れているだけで、彼のやつれた顔には何の表情もない。

彼の濡れた靴が凍った雪を踏むきゅっ、きゅっという音を除けば、あたりは静かだ。そしてデッカードは白く凍った風景の静寂の中へ消えていく。


125 外景 ハイウェイ 夜

デッカードの車が鉄の獣のように、猛スピードで走っていく。ヘッドライトが長く平滑な道路の闇を貫いている。空気が立てる甲高い音と、タイヤのゴツゴツ言う音。それ以外には何も聞こえない。そしてその沈黙が、銃声で破られる。


126 内景 車 夜

デッカードが運転席にいる。顔は陰になり、両眼がまっすぐ前を見つめている。

デッカード(声のみ)
俺は何度も何度も自分に言い聞かせた。もし俺がやらなかったら、奴らがやっただろうと。

俺は街へは戻らなかった。あの街へは。仕事など欲しくはなかった。

生きていることのすばらしさは、選択をすることだと彼女は言った。そして彼女は選択をしたんだ。俺はどこかで、ほとんど喜んでもいた。彼女が死んでしまったからではない。こうすれば奴らは彼女に触れられなかったからだ。

タイレルに関して言えば…彼は殺されたが、死んではいない。俺はずっと彼を殺したかった。だが何を変えられただろう?あまりにもたくさんのタイレルがいた。だがレイチェルは一人しかいなかった。現実と非現実は分けることのできないものかもしれない。その秘密は見つからなかった。だがそれが何か思い当たるほど、俺は彼女の近くにいた。彼女はずっと俺と一緒にいた。たぶん俺たちは、お互いを現実にしたんだ。

そして、デッカードの車の赤い光が暗闇の中へ消えていく。        
      


 

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103 内景 階段の吹き抜け 九階と十階の間 夜

デッカードが踊り場に出てくる。彼はゆっくり時間をかけて次の階、最後の階へと階段を登っていく。彼は踊り場に面した大きなドアの蝶番を撃ち、足で押す。ドアが大きなバーンという音を立てて倒れる。その反響が静寂に変わる。廊下には誰もいない。


104 内景 廊下 十階 夜

セバスチャンの部屋の真上だと見当をつけた部屋まで、彼は並んだドアの前を素早く、だが慎重に通り過ぎていく。彼はゆっくりとドアノブを回し、ドアを押し開ける。


105 内景 十階の部屋 夜

床の真ん中に空いた穴のほか、部屋には見るべきものがない。デッカードは背中を壁につけたまま寝室へ向かうが、物音を聞いて立ち止まる。それはフクロウがホウ、ホウと鳴く声のようで、廊下から聞こえてくる。


106 内景 十階の廊下 夜

デッカードはドアの角から廊下を見回す。突き当りにバッティがいる。局部用のサポーターと運動靴のほかは何も身につけていない。

バッティ
遊びたいか?

デッカードが撃つ。バッティは疾い。彼は身をかがめて戸口に駆け込む。そしてまたさっと現れる。

バッティ
丸腰の相手を撃つなんてあまりフェアじゃないな。おまえはいい奴だと思っていたんだがな。おまえは男じゃないのか!?

バッティは顔に、コマンチ族の戦士と服装倒錯者を合わせたような化粧をしている。彼の恐るべき傲慢さ…その身体の筋肉は膨れ上がって、興奮に震えている。

バッティ
それがここでのやり方だぞ、兄ちゃん!かかってこい!

電光のような疾さでバッティが廊下を走り、壁と壁の間をジグザグに折れながらデッカードの方へ向かってくる。バッティはあまりにも疾く、バッティの影が笑いながらデッカードの左側の壁を突き抜けるまでに、デッカードは三発しか撃つことができない。

デッカードはしばらくそこに立っている…ショックを飲み込み、そしてぎざぎざの穴が開いた壁に入っていく。バッティが彼の後ろにいる。

彼はデッカードの背中を膝で打ち、頭を叩く。デッカードは膝をつき、そして仰向けになる。バッティが彼のそばにひざまずいている。

バッティ
痛くないだろ、ええ?立ったほうがいいぞ。でないとおまえを殺さなきゃならん。おまえは生きていないと戦えない。そして戦わなければ、おまえは生きていられない。

デッカードの目は閉じられ、唇からは血が流れている。彼は息を吐いて努力する。彼は両手を胸の高さに持って行き、身体を起こし始める。

バッティ
それが根性ってもんだ。

バッティはまるで闘牛士のように歩いていく。その時までにはデッカードは立ち上がっていて、バッティはドアの一つを通って姿を消す。

デッカードは口の血を拭い、屈みこんでレーザー銃を拾い上げ、弾丸を装填する。そしてバッティの嘲るような声の出所を探して廊下を見下ろす。

バッティの声
かかってこいデッカード、おまえの力を見せてみろ!俺はこのドアの反対側にいる。だがまっすぐ撃たなきゃだめだぞ、俺は素早いからな!

デッカードはそのドアへ行き、撃ち、蹴り開けてバッティを撃つ。だがそれは鏡に写っていたバッティにすぎない。


107 内景 十階の部屋 夜

部屋の突き当りの、壁の長さいっぱいの鏡が砕ける。バッティは彼のそばにいて、デッカードの手をつかんで、歩み寄る。

バッティ
まっすぐに撃つのが上手くないらしいな。

二人は向き合う。

バッティ
お前に勝ち目はない、そうだろう?

うんざりした失望を大げさに表して、バッティは首を一方へ傾ける。

バッティ
おまえのために程度を下げてやらなきゃならんようだな。おまえにハンデをやる。俺はもう壁を突き破って走らない。それでいいか?ドアを使うと約束してやる。どうだ?

デッカードはにらみ返すが、返事をしない。バッティの中に急に怒りが巻き起こる。彼はデッカードをドアから放り出し、彼を床に転がすと、襟首をつかんで彼の頭を壁に叩きつける。

バッティ
どうした、頭を使おうぜ!


108 内景 十階の廊下 夜

バッティは廊下でデッカードを引きずっていき、ひざまずいてまた彼の頭を壁に叩きつける。

バッティ
考えろ!ここじゃちょっとばかり頭の柔らかさが必要だぞ!
(原文ではresilience=弾力が必要だ、と言っています。)

彼はさらにデッカードを引っぱっていき、また頭を叩きつける。

バッティ
おまえの肝っ玉はどこにあるんだ?ちっとは勇気を見せてみろ!

バッティの激情がおさまる。

デッカードは洗濯物の袋のように、バッティの手からぶら下がっている。

バッティ
ちょっと冷静さをなくしていたな…スポーツマン精神を捨てたわけじゃないんだ。もうしないよ。

彼はデッカードを放す。

バッティ
おまえの準備ができたら、廊下に来るからな。

バッティは歩いて行き、ドアの一つに入って姿を消す。

デッカードは膝をつき、しばらく壁にもたれて、それから拳で壁を殴りつける。

立ち上がった彼は少しふらついている。自分の呼吸で聞こえない音がないように、彼は息を止めて、耳を澄ませる。何の音もしない。バッティの気配はない。そばにレーザー銃が転がっている。彼は気にもとめない。

デッカードはできるだけ静かに、廊下を後ずさっていく。彼にはやるべき仕事があって、それを終わらせたかったが、正気を失っているわけではない。彼は踊り場まで来て、前を向く。

階段を一歩降りて、彼は立ち止まる。バッティが眼下の階段にいて、彼を見上げている。

バッティ
どこに行くんだ?

彼はしばらく、デッカードの返事を待つ。

バッティ
いかさまはなしだぞ。約束は約束だ。ハンデをつけてやった相手でも俺は尊敬してやるが、俺たちは最上階で戦うんだ。行ってレーザー銃を取って来い。俺が行くまで、おまえに何秒かくれてやろう。

デッカードは廊下へ振り返る。バッティは微笑む。

デッカードは廊下を走っていく。

バッティの声
いーち!

廊下の中ほどで、デッカードはレーザー銃を見つける。

バッティの声
にい!

デッカードは一番近いドアへ駆け込む。セバスチャンの部屋の真上の、床に穴が開いた部屋だ。デッカードはよく考える。

バッティの声
穴から飛び降りるのはやめろよ。そんなことをしたら怪我をするかもしれんぞ!
さん!

デッカードは廊下へ駆け戻り、別のドアを選んで中に入る。


109 十階の部屋 夜

なにか有利になるものはないかと、彼の眼があらゆるものの上を通って行く。彼はドアを開ける。そこはバスルームだ。配管は取り外され、壁が剥がされてレンガがむき出しになり、釘がつきだしている。ここは狭すぎる。


110 内景 十階の階段 夜

バッティが階段を登ってくる。

バッティ
ごお!


111 内景 十階の部屋 夜

デッカードは部屋の角を探している…射界が狭くてすむ位置を。彼はドアまで遮蔽物のない、部屋の突き当りを選ぶ。


112 内景 十階の廊下 夜

バッティがドアからの物音を聞きながら、廊下の真ん中を歩いてくる。

バッティ
ろーく!


113 内景 十階の部屋 夜

デッカードは部屋の隅に屈みこんで、狙いを付ける。彼は自分の手を見る。震えている。

バッティの声
なな!


114 十階の廊下 夜

あるドアの前にバッティが立ち、耳を澄ませている。

バッティ
ああ、彼はどこなんだろう。この中じゃないよなあ、俺はそうは思わないぞ。はーち!

彼は隣のドアへ行く。

バッティ
ここかもしれないな。でもそんな音はしないなあ。きゅう!

バッティは隣へ移る。デッカードがいる部屋のドアだ。


115 内景 十階の部屋 夜

デッカードは腰を落として息を潜めている…敏感な引き金の感覚があるだけ…静寂。バッティの足音がぎしぎし言いながら遠ざかっていくのが聞こえる。デッカードは周囲を見回す。背後の壁を手で探る。バッティの足音が戻ってくる。少しの間。

バッティ
じゅう!

ドアが吹き飛ぶ!

影がひとつ飛び込んでくる。デッカードは身体を回し、その影を追って速射を撃ち込んでいく。それはただのテレビだ。デッカードは振り返る。だがバッティはもう彼のそばにいる。彼の手をバッティがつかむ前に、デッカードは一発だけ発砲できる。バッティの右眼に穴が開く。血が彼の顔を流れて、デッカードに滴る。バッティの顔の右側はうまく機能していない。口の端が完全には閉まらなくなっていて、彼の声は聞き取りにくく、少しうつろだ。

バッティ
おまえが一点獲得だ。

傷を負わせたことも彼の高い能力を損ないはせず、ただ悪意を増しただけだ。彼はデッカードを部屋の奥の壁へ放り出す。デッカードが撃つ。バッティの肩に命中する。

バッティ
どうしたどうした!もう一回やってみろ!

彼は身体を前後に揺らし、コブラのような素早い動きでフェイントをかけ、ジグザグにステップし、興奮に歓声を上げながらデッカードに近づいてくる。デッカードは発砲するが、レーザー銃が空になるまで撃っても弾丸は当たらない。血まみれで狂乱したバッティが彼を突き飛ばす。

バッティ
どうしたんだ?俺のことが好きじゃないのか?俺は人間が作ったんだぞ!


116 内景 十階の廊下 夜

彼はデッカードをドアから突き出す。デッカードは足を滑らせて倒れる。彼の顔には恐怖がある。彼の強さは失われてしまった。何かが壊れ始めている。

バッティ
どうした?おまえらはより速くて、でかくて、優秀な奴が好きなんじゃないのか?

デッカードは床を足で蹴りながら、後ずさっていく。

バッティ
死ぬ時だ。

デッカードはレーザー銃を彼に投げつける。当たらない。バッティは頭をのけぞらせて笑う。一つ目の巨人が世界を喰おうとしている。急に彼が立ち止まる。彼の眼が壁をたどっていく。

バッティ
そうだ!

彼は手を伸ばして、何かをつまむ。唇をつぼめて、彼はそれを壁から引き抜く。それは長さ三インチの釘だ。

彼は釘をデッカードに差し出し、落とす。デッカードはそれを受け取る。

バッティ
おまえにやるよ。

バッティの顔の片側が残忍に微笑む。

バッティ
おまえの耳にそいつを入れて、押し込むんだ。もし駄目なら、眼でやってみろ。

デッカードは手の中の釘を見つめる。そして自分の死刑執行人を見上げる。

バッティ
信じろよ、俺がやろうとしていることよりも、そっちの方がましだぞ。

バッティはこの激励で、自分の獲物がもっと行動をかき立てられるかもしれないと期待しながら彼を見つめている。だがそうではないらしい。

バッティ
どうする?

デッカードはぱっと立ち上がって走りだす。だが階段へ向かうのではなく一番手近なドアへ曲がる。


117 内景 十階の部屋#2 夜

挑発はうまく行った。バッティは微笑み、楽しそうにドアへ歩いて行く。デッカードの怯えた悲鳴とガラスの割れる音がして、彼は立ち止まる。バッティは歩調を速めてその部屋へ向かう。

窓のガラスが粉々に割れている。カーテンが外に吸いだされて風にはためいている。

バッティ
クズめ。

バッティが窓に歩み寄る。デッカードが壁際から離れる。レーザー銃を両手で構え、バッティの頭蓋骨の付根に狙いをつけて、彼の背後にゆっくり近づいていく。バッティは身を乗り出しかけるが、眼下の歩道を見る前に、彼は気づく。彼は振り返る。

デッカードがもう一度撃つ。今度は狙い通りに命中する。バッティは失神したかのように崩れ落ち、どさりと床に倒れる。

デッカードは震えはじめる。彼の腕がだらりと伸び、彼は頭をのけぞらせて、眼を閉じる。彼はまた息ができるようになる。
        
床の上で、バッティの片手がゆっくりとデッカードの足首へ伸びていく。

バナナの皮で滑った男のような予期せぬ唐突さで、デッカードが倒れる。恐怖に満ちた顔で、彼はレーザー銃が空になるまでバッティの身体に銃弾を撃ち込む…だが手は外れない。もどかしさに金切り声を上げながら、彼はレーザー銃を捨てて、動物のようにバッティの死んだ指に爪を立てる…だがその指は溶接されたように閉じられたままだ。

デッカードは後ろにバッティを引きずったままで這い始める。彼はなんとかドアを通り抜け、よろめきながら立ち上がる。

 

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95 外景 セバスチャンのアパート 夜

薄暗い夜間照明の中、デッカードが建物の正面にある中庭に入ってきて立ち止まる。彼は周囲を見回す。誰もいない。ただ、静寂だけだ。

彼は建物に近づいて、入口の片側の陰の中に立つ。

ガラスの砕ける音がして、彼の頭がさっと上を向く。

セバスチャンがまっすぐ落ちてきて、30フィート下の歩道にぶつかって破裂する。
(訳注 この後の記述を見る限り、「30フィート」ではなく「300フィート」の誤りだと思います。)

デッカードは、セバスチャンが落ちてきた軌道を上にたどっていく。割れた窓は最上階の一つ下にある。


96 内景 セバスチャンのアパート ロビー 夜

あまり見るべき物はないが、デッカードは一つも見逃さずに進み、できるだけ姿を見られない位置を取っている。彼は周囲を見回す。エレベーターと、吹き抜けになっている階段がある。

彼は壁際から離れず、吹き抜け階段のドアから目を離さずに、エレベーターの方へ進んでいく。

片側に身体を寄せながら彼はボタンを押す。エレベーターのドアがスライドして開く。彼は中に手を伸ばしてボタンを押す。ドアはスライドして閉まるが、デッカードがドアの間にペンをさし込んでエレベーターを使えなくする。

デッカードは音を立てずにすばやくロビーを横断する。階段の吹き抜けに通じるドアの前で彼はしばらく動きを止め、それからドアを押し開ける。


97 内景 セバスチャンのアパートの階段の吹き抜け 夜

階段は突き当りで暗闇に続いている。突然、デッカードがくるりと回って床に伏せ、左に浮かぶ人影に三回発砲する。

その男は両腕を手すりに縛られ、首を折られてぶら下がっている…胸に穴を三つ開けられて…だが、彼はもうすでに死んでいたのだ。

デッカードはじっと死体を見る。それは年老いた警備員のディーチャムさんだ。彼をかじっていたネズミたちが隠れ場所を探して走り回る、かすかな音がする。デッカードは立ち上がる。

階段の吹き抜けは長方形をして十階まで続いている。デッカードの足が最初の段に触れたとき、生々しい恐怖の悲鳴が空気を切り裂く。その悲鳴は階下から聞こえる。それは若い女の悲鳴で…鋭い金切り声に変わっていき、出しぬけに消える。デッカードはレーザー銃から使いかけのカートリッジを捨て、新しいものを装填し、地下室への階段を静かに降りていく。


98 内景 地下室 夜

階段の一番下は廊下に続いている。突き当たりにある両開きの扉の向こうから、機械が立てるブーンというかすかな音が聞こえている。彼が扉まで近づいて来たときには、そのブーンという音はガタゴトいう騒音に変わっている。ドアにはそれぞれ小さな窓がついており、デッカードは片側に寄って、窓をのぞきこむ。


99 内景 ジム 夜

ドアの向こうはジムだ。鏡張りの壁は壊れ、変色してしまっている。ジムの機材は長く使われていないために老朽化している。重たいバーベルは床に沈み込んでいる。減量マシンが二台、馬鹿みたいにバタバタと動いている。デッカードの視線が女に止まる。

その女は天井からぶら下がった吊り輪に両肩を通してぶら下げられ、床の二、三フィート上で揺れている。彼女の頭は前へうなだれ、身体はぐったりしてわずかに揺れている。

デッカードはドアの片方を壁に触れるまで押し開ける。彼はぶら下がった人影の方へゆっくりと進んでいく。背後のドアからの奇襲に備えて、壁の鏡から目を離さない。彼の息は乱れてはいない。心臓も激しく打ってはいない。デッカードはただ冷静だ。

彼女の顔を見上げることのできる距離まで近づき、彼は立ち止まる。彼の眼の中に反応があったのは、むごたらしい死のためではない。彼女の天使のような顔の純真さのためだ。

彼にはそれについて考える時間はない。背後にある鏡で、彼はドアが開き始めるのを見る。彼は振り返る。そうするべきではなかった。プリスの両脚が跳ね上がって彼のレーザー銃を弾き飛ばし、首をはさみつける。

ゆっくりとドアが閉まる。だがデッカードは気づかない。彼の頸動脈はもう脳へ血液を送っていないのだ。彼は片脚を上げて手を伸ばす。彼の指が足首のレーザー銃を握るが、プリスの指が彼の手首を締めつける。デッカードの手は花のように開いてしまう。レーザー銃が床に落ち、彼は白目をむく。

プリス
いけない子、いけない子。

彼女はデッカードを放す。だが彼が床に倒れる前に、その背中を強く蹴る。彼は部屋の反対側へ15フィートも飛ばされ機械にぶつかって床に倒れる。プリスは吊り輪から飛び降り、彼に近づいてくる。

デッカードは手を伸ばして身体を起こそうとするが、彼女はもうそこにいる。彼女は強すぎないように、かつ正確にデッカードの腹を蹴る。彼はまた床に倒れ、呼吸ができずに喉をつまらせる。彼女は長い人差し指を正確に伸ばして、機械のスイッチを入れる。

それは振動するベルトのついた、贅肉を落とすための機械だ。普通なら無害なものだが、この機械はモーターのカバーが外されている。たくさんの金属部品がギリギリと回転している。肉と骨のためにはよくない場所だ。

だがデッカードの手はそこへ引っ張られて行く。八歳児と完全にダウンした男の戦い。あと二秒もすれば彼の手は粉々にひき潰されてしまうだろう。彼は手を引っ込めようとする。彼女は離さない。彼は強く引っ張るが、彼の手はまるで彼女の手に溶接されているかのように動かない。

彼の顔は力み、歪んでいる。彼は足を上げて彼女の胸に押し当て、全力で押す。手首を握った手が離れる。二人とも後ろへよろける。デッカードは床に倒れ、ぜえぜえ言いながら息を吸い込む。プリスが立ち上がってまた迫ってくる。彼女はデッカードに向かってジャンプする。デッカードは脇へ転がって避け、彼女はパイル・ドライバーのように脳天から落ちる。

デッカードは身を守ろうと反射的に片腕を上げる。プリスはただ微笑み、彼の片足をつかんで床の上を引きずっていく。彼女は仕事を終わらせずに残しておくのが嫌いなのだ。二人はあの機械のところへ戻っていく。

デッカードはダンベルのウェイトを置くスタンドのそばを通り、それをしっかり握る。それでも彼の身体は止まらない。彼は床の上を、まるで氷の上のように滑っていく。後にスタンドを従えて。

プリスは機械のところまで来ると、彼の足を引っ張り上げ、カバーを外した所へ入れようとする。デッカードが5ポンドのウェイトを持って身体を起こし、彼女の背中を殴りつける。彼女はよろめくがデッカードの足を放さない。彼女は拳を固めてフックを放つが、外れる。デッカードは大振りのパンチで彼女の顔を殴りつける。

彼女は床に倒れ、デッカードは立ち上がる。頭上にダンベルを構え、振り下ろそうとする。プリスは必死で彼の胸を蹴る。彼の身体が床から浮く。彼はジムの反対側まで吹っ飛ばされ、どさりと地面に落ちる。

もうお遊びはなしだ。プリスは激怒してすばやく行動する。彼女は壁から鉄の棒をむしりとって頭上に構え、サムライのように彼に迫ってくる。必殺の鉄棒を振り下ろそうとして、彼女は凍りつく。

デッカードが落ちたのはレーザー銃の近くだったのだ。彼は銃の方へ這って行く。それには悪夢の中のように永遠とも思える時間がかかる。だが、彼はそこへたどり着く。

彼は手を伸ばしてレーザー銃をつかみ、あおむけに転がって慎重に照準する。プリスは怒りに絶叫しながら彼の方へ走ってくる。彼女が迫り、彼は撃つ。

その一撃は彼女の左腕を肩から切断するが、彼女の手は鉄棒を放さない。腕が彼女の前で狂ったようにぶらぶら揺れ、彼女は突進してくる。

彼は次の弾で彼女の首を撃ち抜く。プリスはしゃっくりするように血の奔流を噴き出し、宙を飛んでデッカードの隣に落ちる。死んでいる。

デッカードは胸を波打たせながらプリスの隣に横たわっている。ゆっくりと彼は身体を反転させ、四つん這いになる。彼はあえぎながらよろよろと立ち上がり、わずかに体を揺らして彼女の前に立つ。彼の喉から漏れてくるのはきしむ、乾いた音だ。それは勝利の雄叫びには聞こえないかもしれない。だが、そうなのだ。


100 内景 廊下 夜

レーザー銃を手に、デッカードがドアを蹴り開けて廊下に歩いてくる。一人の危険な男。


101 内景 階段の吹き抜け 夜

デッカードは一階の階段踊り場に来る。銃の残弾を確かめ、そのまま階段を上がっていく。彼は次に動くものはまず撃って、正しいか間違っていたかは後で確かめるつもりでいる。


101A 内景 階段吹き抜け 二階 夜

階段の次の踊り場で、彼はドアを勢いよく開ける。埃の中に残った痕跡はないかと彼の視線が廊下を探っていく。何もない。彼はまた階段を上がっていく。


102 内景 九階 夜

九階で彼は探しているものを見つける。廊下の中ほどにあるドアから足跡が出入りしている。彼はドアの横に立ち止まり、耳を澄ます。何も聞こえない。彼はドアに素早く三発撃ちこむ。もし誰かがドアの向こうにいるとしたら、そいつを仕留めたはずだ。

彼はドアを蹴り開けて頭から飛び込み、床に転がって部屋の突き当りの角へ撃ちまくる。だが部屋は空っぽだ。カウンター式のキッチンとクローゼットのドア、バスルームへ通じるドアがある。ドアはどちらも閉まっている。デッカードの息づかいの他は何も聞こえない。どちらのドアからも反応はない。

それは物音だったかもしれないし、ただの勘だったかもしれない。だがデッカードは急に身体を回してクローゼットへ何発か撃ち込む。煙の立つドアが軋みながらゆっくりと開く。

クローゼットの奥にメアリーがうずくまっている。彼女の片手は、ボールを捕ろうとしているがそれが怖い、とでもいうように突き出されている。彼女のもう片方の手は、ボタンの眼がついた猿のぬいぐるみをつかんでいる。彼女は当惑したような、恐怖に凍りついた表情をして、身体は穴だらけだ。疑いもなく死んでいる。デッカードは念のために彼女の首を撃ち抜く。メアリーは糸の切れた操り人形のように床に倒れる。

デッカードはクローゼットの中の哀れな死体から離れてソファに座るが、メアリーから視線を外すことができない。

デッカードはレーザー銃をそばに置き、手を出してじっと見る。震えたりはしていない。彼は手をどさりと膝に置き、目を閉じてソファに寄りかかる。

天井からこつん、と音がする。デッカードは顔を上げる。

強く叩く音が一つ。終わりによく知られたド、ドンと叩く音がつく。少しの間。天井が落ちてきてデッカードは飛びのく。彼が座っていたところへコンクリートと漆喰の大きな破片が落ちてくる。穴は直径2フィートほどあり…桁材も折れて、上階の部屋が見えている。静寂。デッカードは漆喰の粉を眼や口からぬぐい、そしてささやく。

デッカード
やあ、ロイ。

 

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93 内景 デッカードの寝室 夜

ベッドの上に本が散らばっている。レイチェルがその一冊を手に胡座をかいて座り、美しい自然の写真を次々に見ている。デッカードは彼女の隣りに座り、恋人のように、父親のように彼女を見守っている。

デッカード(声のみ)
彼女は自然の風景を見たことがなかった。それに関する本を読んだことさえなかった。彼女は俺が持っているものを全て読み、そして俺たちは話し合った。俺たちが話し合わなかった話題があり、俺たちが口にしなかった、口にできなかった言葉があった。死、未来、現実といった言葉だ。だがそうすることは難しかった。彼女は好奇心が強く、聞きたいことで一杯だったからだ。彼女は俺が知っていた誰よりも生気にあふれていた。

彼女は写真の美しさに打たれて顔を上げる。だが言葉にすることはない。それは彼女の眼の中にある。彼女が新たに知ったことが形を成していき、彼女はデッカードをじっと見つめている。

レイチェル
あなたと私はいい友だちよね?

彼はそのことをよく考え、彼女はそのことの不思議さに微笑みながら、彼を見つめている。

レイチェル
それ、すごく気楽だわ。

確信があるかどうかわからぬまま、彼はうなずく。彼女はその真面目くさった様子に笑う。レイチェルは魅力的だ。デッカード自身もなかなか魅力的だ。

レイチェル
今まで誰かと長く付き合ったことあるの?

デッカード
女と、ってことかい?

レイチェル
そうよ。

デッカード
長い間ってどのくらいだ?

レイチェル
十年ね。

デッカード
ないね。俺のことをそんなに我慢できた女はいなかったよ。

ベッドの隣にある電話のベルが鳴り出す。彼は手を伸ばし、受話器を耳に当てる。

デッカード
もしもし。

ブライアント
ブライアントだ。おまえ一人か?

デッカード
ああ。

ブライアント
彼女は一緒じゃないのか?

デッカード
誰のことだよ。

少しの間。

ブライアント
番地を書き留めろ。オリンピア・サウス、ビラ・ビータ地区、カナプト1700の十階だ。

デッカード
書いたよ。

ブライアント
よし、状況はこうだ。エルドン・タイレルと彼の家族、それに使用人の半分が惨殺された。この件は外部に漏れようとしている。すごい圧力がかかってる。ネクサス計画は抹消される。そこが終わったら、レイチェルという名前のネクサスを探して「引退」させるんだ。

デッカードは何も言わない。

ブライアント
おまえがやらないなら、俺たちがやる。これは絶対なんだ、デッカード。上層部からの命令なんだ。わかったな?

デッカード
ああ。わかった。

ブライアント
行け。

彼は受話器を置いて立ち上がる。彼女はベッドからじっと彼を見ている。彼は銃をベルトに差す。アンクル・ホルスターにも銃を差し、足首に巻き付ける。彼女はその行動をすべて見ている。

レイチェル
どうして「引退」と呼ぶの?どうして「殺人」と呼ばないの?

デッカード
殺人じゃないからさ。

レイチェル
苦しむかもしれない側のことも考えられるべきだと思わない?

デッカード
アンドロイドは苦しむふりをするだけだ…もしそうプログラムされていればだがね。

レイチェル
私たちの間に起きたことも、私がそのふりをしていると思うの?

デッカード
いや、そうは思わない。

彼女を見ることなく、彼は上着を着る。
彼は彼女に背中を向けて、部屋の真ん中に立っている。彼が振り返り、二人は向き合う。二人とも身動きしない。

デッカード
ここから出るなよ。ドアを開けるな。電話にも出るな。

レイチェル
それで何か違いがあるの?

デッカード
いいからここで待つんだ。

彼はドアの方へ行く。

レイチェル
私が考えていることがわかる?

デッカード
何だい?

レイチェル
この辺りにはね、私よりもっとプログラムで動いている人たちがいるってことよ。

彼は笑わざるをえない。

レイチェル
私がもう一つ考えていることがわかる?

デッカード
何だい?

レイチェル
今日は、私の人生で最高の日だった。

彼は背を向けて、ドアを出て行く。


94 内景 セバスチャンのアパート 夜

セバスチャンは作業卓を整理している。だが彼は心ここにあらずで、両手は震えている。

バッティとプリス、メアリーは部屋の反対側で話をしている。彼らの声は低い。

メアリー
まだ時間があるうちに逃げましょう。

バッティ
どこへ?

メアリー
どこでもいいわ。

バッティは微笑む。

バッティ
何が言いたいんだ?

メアリー
罠にはまらないようにしないと。

バッティ
メアリー、君は罠というものを甘く見ているよ。

セバスチャンが、ドアまでもう少しの所まで来ている。

バッティ
どこへ行くんだ、セバスチャン?

セバスチャン
僕はちょっと…

バッティ
だめだ、君は俺たちとここにいるんだ。俺たちの最後の夜を一緒にな。

彼らはじっと見つめている。

セバスチャンはドアから離れる。

バッティ
自分自身を明かりだと考えるんだよ、メアリー。消される前に、輝くんだ。

メアリーはそう考えるにはあまりに気弱すぎる。だがこの考え方はプリスには訴えるものがある。彼女とバッティは燃えるような視線を交わす。

セバスチャンは窓のそばにいる。

セバスチャン
誰かここに来るよ。

バッティは窓のそばへ行き、見下ろす。

バッティ
一人だ。
(彼は微笑む)
腕ききに違いない。

メアリー
なら、行って彼を殺して。

バッティ
それはあまりフェアじゃないな。

セバスチャンは今にも逃げ出しそうだ。バッティは彼を腕に抱く。

プリス
私がやりたいわ。

バッティ
いいだろう、だが彼を殺すなよ。みんなのために少し残してやるんだ。「代表作」としてな。

少しの間。

バッティ
明かりを消すんだ、プリス。

 

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