映画のボツ脚本・準備稿を訳して読んでみるブログ

海外のSF映画やホラー映画のボツ脚本や準備稿をぼちぼち和訳して読んでみるブログです。

「ブレードランナー」原案

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26 内景 デッカードの車 高速道路 夜

デッカードの車が高速道路を疾走していく。通信用コンソールにある端末が光っている。デッカードの右手がちょうど何かを入力し終えたところだ。消えていたスクリーンが点灯する。

要請をどうぞ

デッカードが入力する。スクリーンに文字が光る。

エスパー

スクリーンがまた輝く。

利用許可をどうぞ

デッカードが入力する。

ブレードランナー・ワン コードML-33

しばらくの間がある。

スクリーンが輝く。

お待ちください

その手順に、デッカードの声が被る。

デッカード(声のみ)
コンピューターは役に立つこともあるが、いらいらさせられる物でもある。鍛冶屋を探してくれと頼んだのに製鉄所に行き着いてしまうかもしれない。たまにガセネタをつかまされても俺は気にしない…それがコンピューターってものだ。人は自分自身をイメージして機械を作るものだと聞いたことがある。もしそれが本当なら、エスパーを作った奴は撃ち殺されているべきだな。

エスパー
こちらはエスパー、準備ができました。質問をどうぞ。

エスパーの深みのある音楽的な声は心から楽しませようとしているかのようだ。そのうえ、自己憐憫めいた雰囲気がその喋りを滑らかにしている。

デッカード
途中で質問しても大丈夫なのか?

エスパー
もちろんです。

デッカード
始めてくれ。

エスパー
お問い合わせの五人は第三世代のネクサス6で、皮膚と筋肉組織の培養および選別された遺伝子の複写転換によって製造され、自己保存思考能力と超肉体能力を有し、移住計画のために開発されました。ここまではよろしいですか?

デッカード
どうやって止める?

エスパー
ネクサス5と異なり、ネクサス6は身体の他の部分に悪影響をおよぼすことなく、重大な外傷に耐えることができます。片脚を切断したとしても、残った脚で人類最速の人間よりも速く行動できるのです。

デッカード
わかった、だが…

エスパー
いまお話しするところです。弱点は頭蓋骨の付け根、後頭部の骨です。弾丸を命中させれば確実に「引退」させられます。

通信がベルの音で中断される。ベルの音はすぐに、厳しい調子の合成音声に変わる。

あなたは高速道路の法定速度制限を時速180キロメートルと定めた交通法M−139に違反しています。

デッカードはバックミラーで、黒い服を着た二人のバイク警官が地獄の猟犬のように追いかけてくるのを目にする。二人は静かに車の横に並ぶ。デッカードは自分のIDを窓に押し付ける。

警官はさっと敬礼し、彼とその相棒はスピードを上げ、夜の闇に消えていく。そしてデッカードの車もそうする。


27 外景 セバスチャンのアパート

静かで荒れ果てた地区。通りにはごみが散らばっている。建物は無人のようだ。ここは十階建ての高級マンションだったが、今では廃墟と化している。破壊者ははるか昔に来て、もう去ってしまっている。

曲がり角にセバスチャンの小さな白い救急車が停まっている。建物の玄関に年老いた守衛のディーチャム氏がいて、背もたれのまっすぐな椅子に座って漫画本を読んでいる。


28 内景 セバスチャンのアパート 夜

サバイバル用品が大量に貯蔵されており、どれもラベルを貼られて積み上げられている。壁にはずらりと棚が並び、天井からはさまざまな人造動物が並んでいる。まるでたくさんの壊れた玩具が、セバスチャンの賢い手によって復活するのを待っているかのようだ。
        
セバスチャンは大きな作業卓に座って、両眼式の拡大鏡に身を屈めている。彼が右手に持っている工具はセンサー探針で、彼はそれを彫刻師のような優美さで使っている。

彼が集中しているのは親指の爪ほどの大きさしかない迷路のような電子チップだが、拡大鏡の下では大都市の航空写真のように見える。針のような探針が等高線のような回路の上を注意深く動いて、接続をテストしている。

突然、接点の一つから青い光があふれる。

セバスチャン
わぁ!

プリスがライトを足元に向ける。彼女は食べかけのサンドイッチを持って、セバスチャンの後ろに立っている。

プリス
何やってるの?

セバスチャン
びっくりしたよ。

だが彼は彼女に会えて嬉しそうだ。

セバスチャン
仕事してるんだ。

彼女は着替えて、化粧も直している。より大人っぽく、セクシーに見える。

セバスチャン
前よりも…よくなったね。

プリス
よくなった、だけなの。

セバスチャン
きれいだ。

プリス
ありがとう。

彼女はサンドイッチを食べつつ、あれやこれやを見ながら部屋を歩き回っている。セバスチャンはじっと彼女を見ている。

プリス
それで、あなたはこの建物に一人きりで住んでいるの?

セバスチャン
ああ、今はここにひとりぼっちで住んでる…

努めて軽い調子で言う。

セバスチャン
ここには住宅難はないんだ…だれでも住める部屋がいくらでもあるよ。

彼女はカウチに寝そべって、じっと彼を見ている。

プリス
あなた、何歳なの?

彼は彼女と視線を合わせられない。

セバスチャン
二十歳だ。

プリス
どこか悪いの?

それは気軽に話せる話題ではないのだ。彼の声はやっと聞き取れるほどの大きさだ。

セバスチャン
メトセラ症候群なんだ。

プリス
それは何なの?

セバスチャン
ぼくの分泌腺さ。歳を取るのが早すぎるんだ。

プリス
だから移住せずに、まだここに残っているの?

セバスチャン
そうだ。ぼくは試験を通過できなかった。

沈黙がある。彼は彼女をちらりと盗み見る。

プリス
私はそのままのあなたが好きよ。

セバスチャンは机の下で、両膝を打ち合わせる。

セバスチャン
ええと、君の友だちに連絡はついたのかい?

プリス
本当言うとね、連絡はついたの。今夜はやることがあるんだけど、明日には来るわ。

セバスチャン
よかった。

その言葉には言外の意味も感じられる。

セバスチャン
僕は、カウチで眠れるから。

彼の頭上にある棚の上に、小さな灰色のネズミが頭を出す。

ネズミ
南京虫に噛まれるなよ!

ネズミの合図に合わせて、もっと芸のある人造動物たちが口笛を吹き、手足をばたつかせてくるくる回る。

 

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22 内景 ハンニバル・チューの店 夜

ハンニバル・チューはひょろりとした緻密そうな男で、彼の濁った両眼は抜け目ない中国人のものだが、それ以外はチャールズ・ディケンズが創造したように見える。

彼は宝石商のような片眼鏡を眼にはめたまま、明かりの方へ身を傾けて、手に持った何かをじっと見ている。しばらくすると彼の唇が引き攣れて、意地の悪い、挑むような笑みに変わる。

チュー
ああ、あんたが正しいな。このちっちゃな可愛い子ちゃんは円錐体に欠陥がある。

彼は明かりを消し、自分の顧客の方へ顔を向ける。

セバスチャンの顔はほぼ若者だが、何かがあまりにも激しく、あまりにも早く失われてしまっている。早過ぎる老年期は彼の骨格をもろくし、筋肉の協調運動を鈍重にしている。彼という「家」は暗いかもしれないが、その中には一つだけ光が灯っている。セバスチャンは隠れた天才なのだ。

チュー
あんたはいつも完璧主義者だなあ、セバスチャン。

セバスチャンは申し訳なさそうだ。意地の悪いミスター・チューの近くにいるときは特に。

セバスチャン
それが私の顧客には役に立つんです。

チュー
君の顧客、だと?

チューは低く笑って手招きする。セバスチャンは彼について、天井が高くて狭い廊下を歩いて頑丈な断熱扉の方へ行く。扉には虫喰いのある長い毛皮のコートがかかっている。チューがコートを引ったくり、二人は扉を通る。大きな扉が重い音を立てて二人の背後で閉まる


23 内景 冷蔵倉庫 夜

きらりと輝く工具が載ったテーブルを除けば、この部屋は死体置場のようにがらんとして殺風景だ。壁に並んだガラス扉の区画は納骨堂のように見える。区画のうちのいくつかは郵便局の仕訳棚ほどに小さい。その一つからチューが真空パックされた箱を取り出す。彼は密封された封印を注意深く切り、紫色のゼリーの中へピンセットを差し入れ、眼球を一つ取り出す。

チューは付けたままで気にもならなくなっている片眼鏡を通して、眼球を明かりにかざし、少しの間よく調べる。彼のもう片方の手はポケットを探っている。

チュー
坊や、小型荷電器を持ってないか?

それにさっと答えて、セバスチャンは胸ポケットに並べて挿した工具の中から鉛筆に似た装置を取り出し、歩み寄る。鉛筆が眼球の後ろに触れると、瞳孔が動く。その眼球が急に二人を見つめ返す。

チュー
君の顧客も、これなら満足かな?

ここから早く出たいと思いながら、セバスチャンはうなずく。チューはゆっくり時間をかけながら、眼球をもう一度封印する。彼は自分のコートを着ているので余裕がある。

チュー
彼は君にいくら払っているんだ?

答えのかわりにセバスチャンは咳払いをして、まるで聞こえないかのように鞄をじっと見ている。

チュー
それじゃ、君はいつ支払ってもらうんだ?

セバスチャン
仕事が終わったらすぐです。

チュー
それはいつになりそうなんだね?

セバスチャン
明後日です。

チュー
ほう!明後日か。

セバスチャンはうなずく。チューはこのかわいそうな間抜けを本人に代わって心配しながら、じっと見つめる。

チュー
セバスチャン、金持ちは金を払いたがらないものだよ。タイレルのような男は君を待たせる。小物には最後まで払わないんだ。君は倍の額を請求するべきだよ。それであいつもいい気分になるだろう。

セバスチャンはその通りにするつもりだ、というようにうなずく。チューは「望みはないな」と思いながら彼に鞄を手渡す。

セバスチャン
ありがとう、チューさん。

チューは彼にドアを開けてやり、セバスチャンは犬のように急いで出て行く。


24 外景 ハンニバル・チューの店 街路 夜

セバスチャンは筋肉の協調運動が欠けているが、ここへ来た目的を達して、希望に満ちた跳びはねるような足取りになっている。彼は自分のトラックの方へ向かう。


25 内景 セバスチャンの救急車

車は救急車のサイレンとライトが付いた、古いパネル・トラックだ。側面には「J・R・セバスチャン 人造動物特急便(原文では ANIMOID EXPRESS となっています。)」というレタリング文字が書かれている。セバスチャンは車に乗り込みエンジンをかけて、誰かが車に乗っていることに急に気づく。彼は驚いて悲鳴を上げる。

プリスは彼の隣のシートで手足を伸ばして眠っているが、彼女も悲鳴を上げて目を覚ます。二人は驚いて互いに見つめ合うが、彼女は車から飛び降りて歩き出す。

だが彼女はくたびれた小さな旅行かばんを置き忘れている。セバスチャンはトラックのギヤを入れ、彼女の隣に並んで走りながら、ドアを開ける。

セバスチャン
なあ!これ忘れてるよ…

彼はかばんを掲げてみせる。彼女はためらいながら手を伸ばす。

セバスチャン
どうして僕のトラックに乗ってたんだ?

プリス
疲れてて、行くところがなかったの。

彼女は迷子のように、かばんを手にしてセバスチャンを見つめている。セバスチャンはこういうことが得意ではないが、挑戦してみる。

セバスチャン
もし乗りたければ、また乗ってもいいけど…

彼女は決心がつきかねている。

セバスチャン
心配しないで、何もしないよ。

彼女は車に乗り込む。二人とも口を利かない。セバスチャンはふだん人付き合いのある方ではない…彼はいつも内気すぎるのだ。だがこの娘はもっと内気で、そのうえ二人はほぼ同年代だ…そのことが彼に勇気を与える。

セバスチャン
君の名前は?

プリス
プリスよ。

セバスチャン
ぼくはJ・F・セバスチャン。

プリス
こんにちは。

ここまではうまく行ったが、次がどうなるのか、彼にはしばらくわからない。

セバスチャン
そうだ!君はどこに行きたいんだい?

彼女は肩をすくめる。これで彼は大きな責任を負うことになった。彼は横目で長いこと彼女を見るが、彼女は助けてくれない。

セバスチャン
家に帰りたいの?

プリス
家はないの。

セバスチャン
そうなのか。

「太陽あふれるアリゾナへようこそ」のポスターから抜けだして来たような十代の美人と一緒にいるとき、君ならどうする?

セバスチャン
家族はどこなの?

プリス
行ってしまったわ。

セバスチャン
友だちは?

プリス
いるけど、どこにいるか探さないと。

彼女は前に乗り出して、ダッシュボードに両肘を乗せる。彼女の身体は、どの角度から見ても賞をもらえるほどすばらしい。

セバスチャン
なら、君をどこに連れて行けばいいかな?

彼女は彼を見る。彼女の青い目には誘惑の陰が差している。

プリス
私たち、お互いをすごく怖がらせたわよね?

セバスチャン
確かにそうだね。

彼女はクスクス笑い、そして笑い出す。

プリス
お腹が空いたわ、J・F。

セバスチャン
食べるものはあるよ。君が僕の家に行きたいならだけど?

プリス
そう言ってくれるのを待ってたの。

セバスチャンはふだん灰色っぽい顔をしているが、それがさっと赤く変わった。彼はイグニッション・キーを回し、車は曲がり角から走りだす。

 

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10 内景 警察本部 夜

建物の地下にある、灰色の広い空間。仕事の顔をしたデッカードがブリーフケースを持ち、上着に警察のバッジを付けて、通路を大股で歩いて行く。

デッカード(声のみ)
IX4-PDはネクサス6と呼ばれていて、タイレル・コーポレーションの自慢の新製品だ。襲われたとき、ホールデンはヴォイト・カンプフ試験を行っていた。

デッカードの前のドアがスライドして開き、彼はそこを通って歩いて行く。

デッカード(声のみ)
ホールデンはアンドロイド並みに素早かったのだから、ネクサス6も素早いにちがいない。報告によるとやつらは六人いた。男が三人、女が三人だ。やつらはロイ・バッティという名の戦闘用モデルに率いられていた。


11 内景 ブライアント警視の事務室 夜

警視は五十代の男だ。顔に深く皺が刻まれ、鼻の毛細血管が破れているのは彼が怒鳴り屋で、喧嘩屋で、酒飲みだということを示しているが、それだけではないことを壁にかけられた何枚もの表彰状が物語っている。ブライアントは自分の金庫の前に膝をついて、扉を開けようとしている。デッカードは机の端に腰を下ろして、プリントアウトされた書類を読んでいる。

デッカード(声のみ)
彼らは二週間前に植民地から脱走した。23人を殺してシャトルを奪った。航空パトロールがその船を砂漠で発見した。中には誰も乗っていなかった。

ブライアントは金庫を開けて、ウイスキーの瓶を取り出す。

デッカード(声のみ)
ブライアントは肝臓がよくなかった。二年前、彼は俺にボトルを渡して、もう自分では飲まないと言った。それ以来、俺が彼のかわりに飲んでいる。

デッカードは報告書を置き、グラスを空ける。ブライアントはただ彼に酒を注いでやる。

デッカード
六人だって?

ブライアント
五人だ。三日前の夜、やつらの一人がタイレル・コーポレーションに押し入った。警備員を二人殺して、電子フィールドを通って焼き殺される前に遺伝子部門まで入り込んだ。

デッカード
そいつは何が狙いだったんだ?

ブライアント
死体がほとんど残らなかったんで、確かなことはわからん。だがネクサス6の生化学データと形態記録がなくなっているとの報告があった。奴らが潜り込もうとしているのかもしれない可能性があったんで、ホールデンをやって、新しい従業員にヴォイト・カンプフ試験をさせたんだ。彼は自分の身を呈して見つけてくれたようだな。

気まずい間。

デッカード
コンピューターは使ったのか?

ブライアント
俺たちは「エスパー」を使ってる…a231だよ。そいつがホールデンの警報を感知したんだ。エスパーの予測では、やつらは五人とも街の中にいるそうだ。

デッカード
どこから始める?

ブライアントは金庫に戻って、ウイスキーの瓶を中にしまう。

ブライアント
タイレル・コーポレーションに試験用モデルがいる。そいつをヴォイト・カンプフで調べてみてくれ。ネクサス6がこちらの探知能力を超えている可能性もある。もしそうだったら、みんながクソまずいことになるわけだ。

デッカード
ホールデンをやった奴は、どういう身分で偽装していたんだ?

ブライアント
工業廃棄物処理だ。

デッカード
ゴミ係か?

ブライアントはうなずく。

デッカード
人事部門はそいつの住所を知っているのか?

ブライアントはポケットを探って一枚の紙を取り出し、番号を書き写して、差し出す。

デッカード
ちょっと行って見てくるよ。

デッカードは立ち上がり、酒を差し上げる。

デッカード
ごちそうさま。

病気の少年が窓の外を眺めるみたいに、ブライアントはデッカードがウイスキーを飲み干すのを見つめている。デッカードはグラスを置くと、振り返って去っていく。

デッカード(声のみ)
移住に対する大きな褒美は今も、無料の労働力がもらえるということだ。もし自分たちに与えられる賞品が自分たちを殺すかもしれないと知れ渡ったら、人々はそれほど熱烈に移住しようとはしなくなるかもしれない。これは俺たちが扱った中でも最悪の事件で、ブライアントは心配していた。彼は関係ないとか何とか俺に言いたがっていた。だが俺にはわかっていた。


12 外景 レオンのホテルの入口 夜

雷雨が来ようとしている。デッカードは傘を持って古いホテルに通じる入口に立ち、人々が急な大雨を避けるために入り口に駆け込んでいく。


13 内景 レオンのホテルのロビー 夜

小部屋と危険な鉄のバルコニーでできた金属の迷路に、地上の世界からはじき出された人々が住んでいる。白人の服を着たマットグロッソ・インディアンや、下層階級の福祉受給者たち。堕落の街は混みあい、窮屈で、陰気に息づいている。

デッカードはエレベーターを出て、人混みの中を通って行く。地面の鉄格子を通って水蒸気が吹き上がっている。タオルを巻いた二人の老人が「浴場」のネオンサインの下にある階段を下っていく。

かび臭い地下からの風がデッカードの服を揺らし、彼は奥にある小さな部屋の方へ向かう。彼は「管理人」と書かれたドアの前で立ち止まり、ブザーを押す。ドアを開けたのは、尻に酸素タンクを縛り付けた肺気腫の患者だ。デッカードはIDをちらつかせ、いくつかの単語を口にするが、通路に流れる低いチューバの音色のためにほとんど聞こえない。その男は壁から鍵を一つ取って手渡し、ドアを閉める。


14 内景 レオンのホテルの廊下 夜

大型船の下層デッキへ通じる昇降階段ですら、この建物を上がったり下がったり、出たり入ったりする込み入った階段に比べれば途方に暮れるようなものではない。だがデッカードは探しているドアを見つける。彼はしばし動きを止め、耳を澄まし、それからノックする。彼は鍵をさし込むと、銃に手をかけてドアを開ける。


15 内景 レオンの部屋 夜

空っぽの部屋。寝台が一台あるほかには大したものはない。彼は部屋に足を踏み入れ、獲物の兆候を感じるハンターのように静かに立っている。汚い掘っ立て小屋に囲まれている場所にしては、ここは驚くほど清潔だ。それどころか質実剛健と言ってもいい。しみ一つない洗面台のそばにあるタオルはきれいに畳まれている。

デッカードは二本の指で棚の表面を撫でてみる。埃もたまっていない。彼はごみバケツを覗きこむ。キャンディの包み紙が詰まっている。窓のそばにあるベッドもきちんと整えられている。デッカードはベッドの下を見て、それからマットレスの両側を手で探っていく。

クローゼット。中にはスーツが一着ある。彼はそれを手で叩いて調べる。何もない。床に靴の箱が一つ。彼は屈み込み、ポケットからペンに似たものを取り出して、箱の上にかざしていく。箱が無害であることを確かめると、彼は蓋を持ち上げる。

箱の中にはゴムバンドで束ねられた数枚の写真が入っている。デッカードはそれを取り出し、バルコニーに面した窓のそばにあるランプの方へ行って、ひっくり返してみる。

感動的な、家族のスナップ写真のコレクション。あちこちの埃っぽいガラクタ屋で売られている、誰のものともわからないようなしろものだ。家族の犬。仔馬に乗って陽射しに眩しそうな顔をする子ども。子どもたちとふざけているベン叔父さん。クリスマスの朝を写した、色あせたポラロイド写真。飾り気のない人々が家族の絆を祝う、飾り気のない写真。レオンのような者が持つには奇妙なコレクションで、デッカードはその写真を興味深く調べていく。


16 外景 眼下の街路 夜

キャンディや造花を売っている戸口に、青い目と白い肌の男が土砂降りの雨も気にせずに立っている。彼はまるで一度も陽の光に触れたことがないように見える。

レオンがその男の背後に立ち、自分の部屋を見上げ、窓のそばにいるデッカードを見つめている。彼はまだツナギの作業服を着たままだが、違う印象を受ける。より真剣で、知的で、腹を立てた表情をしている。


17 外景 眼下の街路 夜

一瞬、怒りに燃えてレオンは何かを叩き潰しそうに見えるが、彼はさっと歩き出して人混みの中に消える。


18 内景 レオンの部屋 夜

デッカードは写真をポケットに入れ、窓から離れる。


19 外景 路地 夜

レオンは消火栓のような太い首をしていて、それとつり合う太い脚をしているが、優雅に走ることもできる。彼は何日でも走っていられそうだし、実際にそうすることができる。彼は何本も路地を駆け抜けてきたが、息も切らせていない。


20 外景 チャイナタウン 夜

彼はスピードを落として戸口に入り、狭い街路に出る。そこはアジア人街だ。


21 内景 チャップスイ(中華風の雑炊)の店 夜

裏通りの、湯気が立ち込めたよくある小さな店。カウンターと何台かの小さなテーブルがある。目のつり上がった老人たちが湯気の立つ椀の上に背中を丸め、早口で喋りながら食事をしている。

はっきりと聞こえるのは、背後の壁にある大型の立体テレビの声だけだ。よく舌の回るアナウンサーがメッセージを読み、身体にぴったりしたメイド風の衣装を着たラテン系の美人がくるりと回り、嘘くさい微笑みをきらめかせて、するすると画面の外に出て行く。

アナウンサーの声
79種類のさまざまなタイプの中から選んでください。どれも忠実で故障知らずのお相手で、あなたは到着してすぐに完全無料で受け取ることができます…

ラテン系の美人に代わって、完全無欠なレイ・ボルガー風の、紳士の中の紳士が画面に現れる。彼は踵を鳴らして気をつけをすると、もったいぶった歩き方で次の者に場所を開ける。

アナウンサーの声
個人用の召使いとしても、疲れを知らぬ農場の働き手としても…あなたのニーズに合わせてデザインされた、カスタム・メイドの人間型ロボットです。

中国人たちはTVの声を気にしていないが、窓のそばのテーブルにいる男女はそうではない。

女性の方は髪に灰色がまじり、優しい青い目をしている。メアリーは「パパは何でも知っている」(アメリカのTVホームドラマ)から抜け出してきたような、アメリカの理想的な母親だ。

男の方も伝統的なタイプに見える…ジムのインストラクターだ。短く刈り込んだ髪と訓練係軍曹のような肉体をしているが、その両眼は灰色で冷たい。ロイ・バッティは物憂げだが、自分の周囲で起きていることを感じ取る感覚を持った「力」そのものの存在なのだ。

彼らの背後にある戸口からレオンが入ってくる。中国人ばかりの店で目立たないよう努めながら、彼は二人がいるテーブルに近づいてひざをつく。バッティは彼を見ようともしないが、彼の静かな声には皮肉な調子が感じられる。

バッティ
おまえの「大事なもの」は取ってきたのか?

レオン
あそこに誰かいたんだ。

バッティ
警察か。

レオン
男が一人だ。

バッティ
警官だな。

レオンは不機嫌そうな様子だ。

バッティ
座ったらどうだ。

バッティの隣が空いている。レオンは椅子を引き寄せ、腰を下ろす。

バッティ
景色を楽しめよ。

メアリーがテーブルの上のポットから茶を注ぎ、彼らは静かに茶をすする。この騒がしい店の中では彼らはほとんど透明人間のようだ。彼らが「楽しんで」いるのは窓の外の風景だ。通りの真向かいの窓のネオンにはこうある。「人体部品 ハンニバル・チュー

 

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ブレードランナー

脚本 ハンプトン・ファンチャー



 1980年7月24日


ブライトン・プロダクション・インク 


****************



1 内景 タイレル・コーポレーション ロッカールーム 昼間


2 眼

拡大されて、その奥底まで見通すことができる。ミルキーブルーの地に緑色と黄色の斑点が散っている。ゆるやかにうねる中心部を冷たげな細い線が取り巻いている。

小さなスクリーンに映るその眼は茶色をしている。スクリーンの下の金属の表面には「ヴォイト−カンプフ」の文字が細かく彫刻されている。スクリーンの側面と上面にはタッチ・ライトのパネルと、虹彩の変化を記録する表示盤がある。

装置そのものはミュージック・ボックス(大型のオルゴール)ほどの大きさしかなく、二人の男の間にあるテーブル上に置かれている。しゃべっている男は大柄で、太りすぎた子どものような外見をしている。その胸ポケットには「レオン」とある。彼は倉庫係の制服を着ていて、そのずんぐりした両手は何かを期待しているみたいに膝の上で組まれている。ひどい暑さにもかかわらず、彼はとても涼しげな様子に見える。

彼と向かい合っている男は痩せて頬がこけていて、灰色の服を着ている。超然としていて事務的で、警官か会計士のように見える。彼の名前はホールデン。彼は仕事に没頭しているが、顔には汗が浮かんでいる。

部屋は広く、湿っぽい。回収されたガラクタの列が壁ぎわに整然と積み上げられている。二人の頭上で、大きな二台の扇風機がぶんぶん言いながら回っている。

レオン
しゃべってもいいかな?

ホールデンは答えない。彼は機械の中央にレオンの眼を捉える。

レオン
テストを受けるってのは、なんだか落ち着かないな。

ホールデン
動かないで。

レオン
すまない。

彼は動くまいとするが、唇が怯えたような笑みになってしまうのを止めることができない。

レオン
今年の知能テストはもう受けたよ…でも俺はまだ…

ホールデン
(さえぎって)
これは反応時間が重要でね、だから集中してくれないか。できるだけ素早く答えてくれ。

レオンは唇を引き締め、大きな頭で熱心にうなづく。ホールデンの声は冷たく、脅して反応を引き出そうとしている。

ホールデン
君は砂漠にいて砂の中を歩いている。ふと下を見ると…

レオン
どれだ?

それはおどおどした質問で、ほとんど聞き取れない。

ホールデン
なんだって?

レオン
どの砂漠だ?

ホールデン
どの砂漠だっていいだろう…これはみんな仮定の話だよ。

レオン
でも、俺はどうしてそこにいるんだ?

ホールデン
君はうんざりしてしまったのかもしれないし、一人になりたいのかもしれない…どうでもいいいんだ。それで、君は下を見て、一匹の亀を見つける。亀は君の方へ這ってくる…

レオン
一匹の亀か。そりゃ何だ?

ホールデン
亀がどういうものか知っているだろう?

レオン
もちろん。

ホールデン
それと同じものだよ。

レオン
亀を見たことはないんだ。

彼はホールデンの忍耐が限界に近づいていると気づく。

レオン
でも、あんたの言いたいことはわかるよ。

ホールデン
レオン、君は下に手を伸ばして、亀をあおむけに裏返す。

ホールデンは被験者の眼を捉えたまま、ヴォイト・カンプフの表示を記録する。針の一つがわずかに震えている。

レオン
ホールデンさん、あんたがこの質問を作ったのか、それとも他の奴があんたのために書いたのか?

その質問を無視して、ホールデンはペースを上げて続ける。

ホールデン
亀はあおむけに横たわって、熱い太陽に腹を灼かれて、元に戻ろうと脚をばたつかせている。だが元に戻れない。君の助けがなくてはね。だが、君は助けてやらない。

レオンの上唇が震えている。

レオン
俺が助けないって、どういう意味だ?

ホールデン
君は助けてやらないと言っているんだ!どうしてなんだ、レオン?

レオンは驚き、ショックを受けた様子だ。だがコンピューターの針はほとんど動かない。ホールデンは上着の中を探る。だがレオンのほうが速い。レオンのレーザー銃がホールデンの腹に5セント硬貨ほどの大きさの穴を開ける。レーザーは弾丸と違って何の衝撃も与えない。レーザーはホールデンの背骨をきれいに貫通して背中へ抜ける。彼はぬいぐるみのように、上半身を先にして椅子から落ちる。彼が床に倒れた時には、大柄でのろまなレオンはすでに歩き出している。だが彼は立ち止まると、振り返り、かすかに満足気な微笑みを浮かべながらテーブルの上の機械を撃つ。

火花と小さな煙が上がる。ヴォイト・カンプフ装置は中枢部分を撃たれて壊れるが、完全に機能を停止してはいない。レオンが歩いて部屋を出ていくと、装置のランプの一つが点滅を始める。かすかに、だが着実に。


3 外景 砂漠 夜

地平線に銅の色をした細い線が描かれている。それは一日の終りかもしれないし、始まりかもしれない。

それに続いて列車が、時速400マイルで夜を切り裂いていく。


4 内景 列車 夜

線路でバウンドするガタンゴトンという音はしない。列車は身体に合うシートを備え、防音処理がされたプルマン式車輌だ。照明はほの薄暗く、内装は落ち着いた色で、乗っているのは車輌の中ほどにいる一人だけだ。

彼は目を閉じ、窓ガラスに頭をもたれさせている。十年前、デッカードは陸上選手かウェルター級のボクサーのような運動選手だったかもしれない。体つきはそう見えるが、その顔つきは時おり…それほど調子良くはなさそうに見える。


5 内景 列車 軽食の販売機 夜

デッカードが通路をやってきて、機械にコインを入れ、ビールを受け取って自分の席へ戻っていく。


6 内景 列車 夜

車内放送の番組に飽きて、彼はヘッドセットを外し、三本のビールの空瓶とサンドイッチの包み紙のそばに置く。そして椅子に座りなおして身体を起こし、窓に映る自分をじっと見つめる。片手で顔を撫でてみると、髭剃りを使ったほうが良さそうだ。彼はさらに顔を寄せて、ガラスの向こうを見る。

列車の外、暗闇の中を標示が通りすぎる。「サン・アンジェルズまで 三分


7 外景 プラットホーム 夜

列車がウナギのようにぬるりと滑りこんできて、音もなく停車する。デッカードは鞄と傘を持って、他の乗客よりも先に、うだるような暑さの夜の中へ降り立つ。


8 内景 通路 夜

デッカードは上着を肩にかけ、そのシャツはもう汗で湿っている。彼は球形をした黄色い照明に照らされた、がらんとした長い通路を歩いていく。


9 外景 ターミナル 夜

デッカードは車のロックを外して乗り込む。イグニッション・キーを回して、センサーを叩く。ダッシュボードの操作盤に光が灯り、デッカードはシートにもたれてエアコンが車内を冷やすのを待つ。

デッカード(声のみ)
街では気温が97度(摂氏35度)あって、好転する見込みはない。あんたがトカゲなら悪くないだろうな。だが二時間前には、俺は北東アラスカでエスキモーの女とアカビット(北欧の強い蒸留酒)を飲んでいたんだ。この変化に慣れるのは大変だ。あそこはとてもいい所で帰りたくなかった。だから俺は一日早く帰ってきた。

少しぼんやりとしたまま、デッカードはパネル上の別のセンサーを指先で叩き、煙草に火を点け、自分宛のメッセージが日時と発信者を表示する画面の上で流れていくのをじっと見つめる。最後のメッセージは五回繰り返されている。デッカードはため息をつき、画面のスイッチを切って無線機を手に取る。

デッカード
つないでくれ。こちらブレードランナー・ワン。コム・ファスト27へ。

チャイムの音がして、女性の合成音声が答える。

ブレードランナー・ワンへ、お待ちください。

しばらくの間。そして男のかすれた声が答える。

デッカードか。

デッカード
そうだ、ガフ。

ガフ(声)
いったいどこにいたんだ?

デッカード
俺がどこにいたか知ってるだろ。俺は休暇だったんだよ。

ガフ
こんど休暇に行くときにはな、頼むから、どこに行くか知らせておいてくれ。

デッカード
どうしたんだ?

ガフ
ホールデンが撃たれた。

少しの間がある。悪い知らせなのだ。

デッカード
ひどいのか?

ガフ
背骨を切断された。こっちに来たほうがいい。ブライアントがおまえを待っている。

デッカード
すぐに行くよ。

エンジンがかかり、ワイパーがフロントガラスから二週間分の埃をかき落として、デッカードは駐車場を出て行く。

 

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イメージ 1

 
今回から「ブレードランナー」(1982年)の原案、初期脚本を訳していきます。

30年以上前に公開されたのに、いまだに語られる映画です。
私が最初に見たのは高校生の頃、地元の二番館でした。その映像だけで呆気にとられたことを覚えています。ダグラス・トランブルらのSFX、シド・ミードのデザインした車輌や小物、そしてあの雑然とした「汚い」未来の風景と何度見返しても飽きることがありません。

よく知られていることですがこの映画は編集の異なる複数のバージョンが存在します。試写に使われたワークプリント版、アメリカ公開版、暴力シーンがカットされていない海外公開版(完全版)、リドリー・スコットが編集したディレクターズカット版にファイナルカット版と、シーンがカットされたり付け加えられたり、解釈が変わったりと大変なことになっています。

じゃあその一番最初の形はどうだったんだろう?ということで、1980年にハンプトン・ファンチャーによって書かれた脚本を訳していくことにします。オリジナルはこちらで読めます。

ファンチャーはこの映画のエグゼクティブ・プロデューサー(製作総指揮)としてもクレジットされていますが、そもそも原作であるディックの小説の映画化権を取得し、映画化を企画したのはこの人なんだそうです。ただこの脚本は出資者やディック本人を含めた関係者にウケなかったそうで、もう一人脚本家が参加してリライトが行われます。
参加したのはデビッド・ウェッブ・ピープルズ。私が偏愛する映画「サルート・オブ・ザ・ジャガー」の脚本家/監督でもあり、他にも「12モンキーズ」やイーストウッドの「許されざる者」の脚本を書いた才人です。ピープルズが参加して、脚本は映画により近いものになっていきます。

この映画の完成までの成り立ちについては、「メイキング・オブ・ブレードランナー」(ポール・M・サモン)という無茶苦茶に面白いメイキング本がありますので、未読の方にはお勧めします。

ところでこの原文ですが、妙に難しい文章のうえ異様に誤字が多いです…例によって読みにくい文章となることをお詫びしておきます。

では、「ブレードランナー」原案です。

 
〈2014年8月4日追記〉

脚本を訳しながらメイキング・オブ・ブレードランナー」を読み返していたところ、いくつか事実誤認がありました。
まず、今回訳している脚本は「最初の」脚本ではなく、正確にはこの前に原作と同じ「アンドロイドは電気羊の夢を見るか?」、そして仮題の「デンジャラス・デイズ」というタイトルの、ファンチャーの手になる脚本が存在するそうです。それらの脚本を元に、監督のR.スコットが参加して修正がされたものが、今回訳している1980年7月24日付の脚本となります。

また、この原作の映画化権はデビッド・ファンチャーが取得したものではなく、ファンチャーの発案で別のプロデューサーがフィリップ・K・ディックから取得したものでした。
なんでもウロオボエで書くものではないと反省。以上、訂正でした。

 

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