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化学量論

 友人から唐突に二つ質問を受けた。彼は英語にはまったく不自由しない人である。

「"stoichiometric mixture" って何?」
「要するに並べてみてどっちが多いかということさ。たとえばさ、水素と酸素が反応して水が生成する時、反応する分子を並べてみて、酸素が足らないとか、余るっていうだろう?あれさ。日本語では化学量論っていうのだけど、簡単に言えば過不足問題さ。その言葉は要するに過不足なしでどんぴしゃりの量が組み合わさっている状態だ。」
「そうなのか。燃料の分子と酸素分子とがぴたりと組み合わさるのだね。」
「いったいどこで、そんな言葉を探してきたの?」
「コンコルドという超音速ジェット旅客機があったよね。その事故の分析の中で漏れた燃料の蒸気と空気とがその比率で混じり合って・・・というくだりがあったのだよ。」
「そうか、まさにその通りの表現だったね。」
 入試においては、様々な形で出題される。水が生成する時は、水滴ができるかとかいうことも問われる。蒸気圧の問題だ。


もう一つは
「"emulsifier"って何?」
「要するに乳化剤だね。油を水に溶かすのだ。いや分散させるという方が正確だな。てんぷら油を水に入れて、洗剤を入れて振れば、溶けてしまうように見えるだろ?あれだよ。」
「それぐらいは分かるさ。」
「何に出て来たの?」
「これもコンコルドの事故分析の本に在った。火事の時、漏れた燃料に水を掛ける時、泡を掛けるから、その泡を作るものかな。」
「泡に包まれると、空気は遮断されるから火は消えるだろう。」
「そうだよね。」

 この時は燃料油の乳化はあまり起きないだろう。水と油を洗剤とともに振ると乳化して白くなる。一般的には油滴が水の連続相の中にある。
「それを反転させることもできる。」
と言うと彼は興味を示した。
「どうなるの?」
「生クリームは水の中に油の粒がある。それはコーヒーに入れれば溶けるだろ?水の中に油が分散したのだ。でも生クリームをよく振っていると、バターの塊ができて水が中に小さな粒で残る。反転したのだ。バターは水には溶けない。」
 彼は妙に納得した。


 最近、昔の生徒さんから、仕事でこの相を反転させている(相転移という)話を聞いた。反転は条件を変えると、いとも簡単に起こるのだそうだ。面白そうである。

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mono-polar, bi-polar

 今年に入って、人生で最大の病気になり、その後体調が良くない。インフルエンザは単なる風邪ではないのだということがよく分かった。歩けるようになるまで2週間かかり、体重が戻るまで2月かかった。
 その後、例の翼状片が突然増殖を始め、左目が動かなくなってきた。要するに内側に引っぱられてしまい、目尻の方には行かなくなってしまったのだ。すぐに切り取らないと車の運転も困難だ。眼科に行って、手術の予約をした。
 眼科の先生は新しく入れたバイ・ポーラを使いたくて、仕方ないらしい。確かに早くできる。いつもは30分かかるところが10分で終わった。出血も最少だ。

 この機械は、要するに高周波(High Frequency)による焼灼機である。電流を通じて、焼いてしまう。感電するという現象はよくあることだが、ビリビリする。これは周波数がその程度だからだ。直流だと、一瞬だけである。そのまま死んでしまうこともある。
 感電死というのはジュール熱による熱傷が主である。このビリビリする交流の周波数を上げるとどうなるだろう。少しずつ上げて行くと、ある周波数以上は神経が付いてこない。生理的な感電ではないのである。酸化還元も、交流だから打ち消されて起こらない、と言ってよい状態になる。要するにジュール熱だけになる。それで患部を触ると熱で変性し、切り取ったり、止血することができる。
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 2極を分離し、片方を体重の掛かる部分にセットし、生理的食塩水などで湿らせると電流が分散する。他方は尖っていて、患部に触るとその部分の電流密度が高いから、ジュール熱が発生する。体幹の部分は電流密度が小さいから問題ない。

 2極をピンセットのようにまとめると、つまんでから電流を流すことができる。今回の手術には最適の方法である。

 先生は手術がうまく行ったので、嬉しくてしょうがない。「またおいでよね。」とは言ってくれるけど、出来れば行きたくないものだ。

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bathroom

 先回の記事で、フル・バスルームとあったのは何かという質問を戴いた。日本ではあまり聞かない言葉であることは確かだ。これはアメリカ英語で、洗面所の設計に関する言葉である。

 bathroom という言葉は風呂場ではない。顔を洗ったり、排便するところでもある。そういうものをすべて含んで bathroom という。

 full bathroom は、シャワー、バスタブ、トイレット、ヴァニティ(vanity 洗面台)をすべて持つものである。
 3/4(three quarter) bathroom はそのうちの一つを欠いたものである。当然バスタブがない。シャワーが無くてバスタブがあるものは見たことが無い。
 half bathroom はもう一つを欠いたものである。たいていはシャワーをなくしたものである。
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 それなら1/4はあるかということになるが、これもアメリカでは見たことがない。日本にはよくある。それは便器に手洗いが付いているからである。このような手洗い付き便器はアメリカでは見たことがない、日本独特のものである。

 3/4とかハーフという言葉は、面積も表している。面積はだいたい3/4、1/2になる。筆者の寝室についているバスルームはこのフルであって、面積を少し大きくしてある。簡単な調理もできるようにして、ホテルの設備のようにしてあった。設備はしたけれど死ぬまで使わないだろうと思ったが、今回十分に役に立った。

 インフルエンザは治ったが、眼の調子が悪く、また手術を受けた。例の翼状片だ。外側の手術なので、何ら心配はないが、痛くてかなわない。また寝室で安静にしている。  

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等張溶液

 非常に珍しいことにインフルエンザになった。実は、筆者は風邪をひいたことが無い。父も叔父も、父方の祖母も全くひかなかった。その話を遺伝子工学の友人に話すと、「サンプルが欲しかったな。家系に縦に4人もいれば、風邪をひきにくい遺伝子がすぐ見つかったのにな。」と言った。しかも父は1919年にスペイン風邪に罹ったが生き残ったのだ。歯に跡が残っていた。学校では同級生の大半が、永久歯に横筋を持っていたという。恐ろしい病気でタンパク質の合成が阻害された痕である。しかし、 それで免疫を得たのも長生きに貢献したはずだ。当時の子供の患者の5人に一人は死んだそうである。
 筆者は小学校で学級閉鎖になっても、一人だけ学校でブランコに乗っていた。校長が帰れというのだけど、帰っても何もすることが無いので、図書室に入れてもらって本を読んでいた。学級閉鎖は何度もあったので、結局図書室の本は読み尽くした。

 化学の教師になったけど、発熱に対する解熱剤の説明がどういうことなのか、今一つ実感がない。
 風邪というのは仮病の一種かもしれないとさえ、考えたことすらもある。同僚と反応機構について議論していて、相手がやり込められて都合が悪くなったころに、必ず風邪をひいてうやむやになるということが、何回もあったからだ。罹ったことが無いと、こういう感想を持つことになる。

 さて今回はインフルエンザとの判定が下り、発熱しますよというので、期待して待った。3日目に39℃を越えた。歯の根が合わないという震えを初めて経験して、興奮した。これなのかと納得した。筆者の寝室のトイレはフル・バスルームで、風呂、シャワーもトイレも洗面台もある。将来必要になると思って、フル装備だったが、今回それを使った。洗面台の下には「生命維持装置」と勝手に称する、NASAが使っていたLife Support Unit風の箱がある。中にはリンゴジュース10L 等張溶液10Lが入っている。非常用だ。

 下痢をした時はリンゴジュースを飲む。飲みながら出す。ジャカルタに行ったときは、帰りの飛行機で下痢が起こり始め、その後1週間は便器にしがみついて過ごした。1週間で20Lのリンゴジュースを飲んだ。下痢でカリウムイオンが不足するので補わないと、大人は死にやすい。その時はともかく助かった。

 今回は喉が痛く、水すら飲めない。喉は真っ赤であった。こういうこともあるかと思い、作っておいた等張溶液を、37℃に温めて少しずつ飲む。全く問題ない。いわゆるアイソトニック飲料であるが、香料とか酸味料は不要だ。冷蔵庫に入れたのを飲む人が多いが、全くの間違いで、体温で飲まなければならない。完全な等張で、なおかつ余分な香料等がはいっていなければ、鼻から飲んでも一緒だ。但しその時は一部気管に入るが、苦しくない。逆立ちして出しておく。

 等張であれば、傷口に付けても痛くない。けがをしてガラスの破片が入っている時など、洗って探さねばならないから、そういうときも役立つ。

 そろそろ5日目に入ったので、間もなく歩けるようになるだろう。使った液は補充する。水道水を使って作るので腐らないところが良い。僅かの塩素が、完璧な防腐剤として働く。もちろん瓶は塩素消毒し、空気を全部抜いて密栓する。

 いわゆる目薬は、すべて等張になっている。昨夏アメリカに行ったとき、ドライアイに悩んだ。どうしても目の表面が乾いて、引っ掛かる。涙に似た成分の目薬を注すと楽になる。胸ポケットに入れておいて保温し、それを注すと、注したことにも気づかないほどだ。

 安く準備できるものだから、皆さんもこの程度の用意はされておいたほうが良い。

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防爆工具

 筆者はバッタ屋に行くのが好きである。雑多な商品を、ごく適当な価格を付けて売っている。値付けをする人には知識がないので、価値ある商品にもでたらめな安い価格が付いている時がある。玉石混淆であるから、その中から宝物を探すのは楽しい。

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 先日は宝物に遭遇した。このモンキーレンチである。上はごく普通の商品で、鋼でできている。価格は新品で2000円しないだろう。
 下はベリリウム銅(Beryllium Copper)製である。裏に”BERYLCO”と、刻印がある。ずしりと重い。銅合金だから、鋼より密度が1割以上大きい。新品なら、2万円出しても買うのは難しいだろう。それを数十分の一で買った。防爆工具ということを知らないから、変な銅めっきのしてあるモンキーレンチだと思ったのだろう。こういうことがあるからバッタ屋巡りは楽しい。

 防爆という概念は普段の生活の中には無い。先日の造船技師の話にはよく出て来た。タンカ―などの内部を洗浄したり補修するとき、可燃性ガスが充満している中で作業せねばならない。原油の井戸付近の作業でネジを締めたり、ハンマーで叩く必要がある時は、引火の可能性がある。
 普通の鋼製ハンマーで叩くと、火花が散るだろう。鉄合金は熱伝導度が小さいので、摩擦などで局所的に温度が上がるからだ。ベリリウム銅は鋼と異なり、グラインダ―で削っても全く火花が出ない。
 銅合金なのにどうして硬いのかは、かなり難しい話だ。ベリリウムを2%強含むものを300℃付近で2時間ほど保つと、ベリリウムと銅との金属間化合物の結晶が析出するらしい。それが塑性変形の時の結晶全体のずれを防ぐと考えられている。
 ベリリウム銅製のタガネまである。鋼のボルトはこれで叩き切れる。驚くべき硬さだ。ハサミもあって、磁気テープをそれで切っていた時代がある。

 磁気を帯びないので、磁界の変化で爆発する機雷(海の中に沈めて、鋼製の艦船が通過すると爆発するようにした兵器)を取り除く船に使う。掃海艇(mine sweeperという)の船体は、木製でエンジン、スクリュウなどはこのベリリウム銅で作られている。最近の船体はFRP(ガラス繊維強化プラスティック)で作られている。通信機器を持たず、すべて手旗信号で通信するそうだ。

 以前ハサミを持っていたが、引っ越したときに行くえ不明となり、久しぶりにベリリウム銅の工具を手にした。
 ベリリウム銅製品は問題ないのだが、製造時に出るベリリウムの酸化物、炭酸塩などに対して、激しいアレルギィ症状を示す人がある確率で居る。また発がん性があるということになっている。筆者は酸化物に対して全く無感であることが分かっているから、平気である。

 筆者の友人の父君は、この合金に関して我が国随一の研究者で、いくつか面白い話を聞かせて戴いた。お亡くなりになって久しい。

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