プラグマティックな化学

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顔料

 顔料は溶媒に溶けない色素のことである。油に分散させて塗るとペンキになる。分散させてあっても、乾燥・硬化する途中で凝集しないようにする技術が難しい。
 単純な話であるが、車の塗料となると難しいことがたくさんある。例えば、耐候性(太陽光に当てても褪色しにくいこと)が十分にあることである。
 昔は顔料というものは沈澱そのものであった。硫化カドミウムの黄色、硫化水銀の朱色、水酸化クロムの緑などいくらでもある。それらはあまり細かくできない。粒子の大きさによって異なる色になる。粒子径分布を揃えることが大切である。 
 よい例が硫化水銀である。教科書には黒と書いてあるが、焼いて冷やすと赤くなる。
 硫化カドミウムは作り方と混ぜ物によって赤いものもできる。カドミウムレッドという色がそれである。これらの色は結晶が大きい時にしかきれいに出せない。即ち、塗装面は微妙にざらつく。これを梨地(なしぢ)という。

 車の場合は耐候性以外に、薄く塗れて艶がなければならない。これは大変難しい。最近M社が出した車は赤がウリだ。いい色を出しているが、艶が微妙に足らない。反射光で新聞が読めるかというと、やや疑問だ。

イメージ 1

 T社のCの赤は素晴らしい。顔料粒子を、粒子径がそろった分布で分散させる技術に長けているのだ。しかもその分散性が極めてよい。この写真を見れば、実力が分かる。どこの会社の顔料を使っているかは、だいたい見当が付く。
 お札の文字が反射して読める。このような塗装は今までなかった。凝集体を作らず密に顔料粒子が並んで塗膜化されると、その塗膜は平滑でグロス(艶あり)になる。
 どの程度の耐候性があるのかはまだ未知である。注意深く観察したい。

 話は変わるが、最近道路の黄色の線の色が変わってきたことに気が付かれただろうか。以前より、ややオレンジ色っぽくなっている。この顔料はカドミウムが入っていない。脱カドミウム化で、優秀な褪色しにくい有機黄色顔料ができたのだ。
 21世紀になっても、10年以上硫化カドミウムが使われていた。筆者は黄色の線の剥がれた破片を分析したことがある。ちゃんとカドミウムが入っていた。
 溶けて田んぼに入ればカドミウム汚染が起きると思う人は多いが、問題ない。その程度のカドミウム濃度は好ましい。私たちはカドミウムなしでは生きていけないのだ。希少不可欠元素として、カドミウムはリストアップされている。

 ドイツを中心にカドミウム排斥運動が起きている。一体、何を考えているのだろう。無くては困るものを排除している。日本も道路の黄線からのカドミウムが断たれると、健康被害が出るかもしれない。それに対して、特効薬の「カドミウム強化米」というのも出てくるかもしれない。 悪い冗談だが、全くのウソでもない。

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イナート・ガス

 先日、造船技術者と会って、技術的な話をたくさん聞いた。その中で筆者が一番興味のあった話は、イナート・ガスである。英語であって、綴りは”inert gas”である。

 化学の世界で言うと、それは不活性ガスで、いわゆる希ガスを指すことが大半だ。しかし工業的には「火が付かないようにする気体」であって、その性質を持っていれば、何でもよいわけだ。
 油槽船(タンカー)の内部を洗浄(本当は洗滌・せんでき)するときに、ウォーター・ジェットを使うのだが、その噴出によって静電気が起こり、爆発が起こる。それを防ぐためには、内部をイナート・ガスで満たす。そのガスをどうやって準備するかである。
 普通は窒素を使いたいところだが、そんな大量の窒素を作るのは大変だ。要するに爆発限界以下、あるいは以上であればよいわけで、酸素分圧を下げるか上げるかである。上げてもろくなことはないので、酸素の少ない環境を作りだせば良い。一番安いのはディーゼルエンジンの排気だそうだ。作業に使う機器を動かす発電機の排ガスを多量の海水で洗う。
 完全燃焼しているなら酸素はゼロの筈だが、多少は酸素過剰にしておかないとうまく動かない。酸素は少しぐらいなら残っていても、爆発限界以下なら構わない。
 二酸化炭素、二酸化硫黄等は殆どなくなり、窒素が大半だ。それを油槽に注入する。

 石炭運搬船も、空間をイナート・ガスで満たさねばならない。穀物輸送船も荷役時の粉塵爆発を避けるために、イナート・ガスを大量に必要とする。このような目的のガスを”flue gas”という。日本語で言うと煙道ガスだ。要するに燃焼後の排ガスである。

 酸素を抜くという作業は、船舶以外のいろいろな場面でも必要になる。最も目立つのは、ポテト・チップスの袋だ。油がすぐに酸化されて臭くなってしまうので、昔は袋詰めの商品はなかった。作ってすぐに消費せねばならなかったのだ。ところがある人が、酸素分圧を下げると、酸化が極端に遅くなることを見つけた。100%の窒素を詰めるとなると、技術的にも困難だし、高価である。それと今回の話は共通点がある。

 工学というものは、「うまく行かせる技術」である。「理論的には、こうすればできる」のであろうが、あまりにも経済的でないときには、「これでもできる」という例を示せばよい。
 要するに、「唯一絶対のやり方を探すことではない」と言っているのだ。これこそが、プラグマティズムである
 理論的にはこうならなければならないということが分かった上で、問題点はどこで、どの部分なら妥協ができ、どの部分は妥協できないかが分かることが必要なのだ。
「これでもうまく行く」、「あれは外せない」という思考をすべきなのだ。
 優れた技術者は、その選択肢をたくさん用意でき、対処する方法を絞れる。

 勉強の仕方を変えなければいけない人はたくさんいる筈だ。もちろん教師もだ

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ステンレスのボルト

 町内会長とその上の組織の連合会長を3年ほどやっている。道路工事、電気工事、水道工事などがあると、事前に連絡があって了承を取られる。筆者が地主でもなんでもないのだが、形式的にそういうことをするのだろう。
 先日は県の水道局から、連絡があって、高速道路をまたぐ水管橋を更新するという。面白そうなので、初日の測量に立ち会うことにした。

 茂っている雑草を刈ると水管橋が現れた。隣のガス管にはステンレスのバンドが巻いてあって、おそらくその下はがたがたに錆びているだろうと思った。

 県の技師にステンレスと鉄をくっつけて放置するとどうなるか聞いてみた。
「鉄が錆びるんでしょうか。」と自信のない答え。
「御名答。大変良くないね。このガス管は低圧だそうだから、まあ問題ないだろう。20年で更新するのなら、持つかもしれないが、正しいやり方ではない。」
「お詳しそうですね。もう少し教えてください。」と言う。なかなか優秀そうな技師だ。

「ステンレスのワイヤで何かを縛ったりするとどうなるだろうね。」
「鉄と触れてなければ大丈夫でしょう。」
「いや、ダメなんだ。きつく縛っておいたのに緩んでいるという経験はないか?」
「アッ、あります。おかしいなと思っていました。」
「ステンレスのボルトで締めるということはしてないか?」

「アッ、あれもそうだ!実は先日太い送水管の水漏れがありました。継手部分から漏れていたのです。ちゃんと締めたのを確認した記録もあるのにです。」
「それはボルトが伸びたんだ。ステンレスのボルトで締めるということが、根本的に間違っている。学校で習わなかったのかい?」
「習いませんでした。言われてみると思い当たることがいっぱいあります。」
「この言葉を覚えて置くと良い。オーステナイト。発音してご覧。ステンレスはオーステナイト状態だから、塑性変形が簡単だ。」
「オーステナイト、オーステナイト・・・。難しい言葉ですね。」

「ステンレスはいくらでも伸びるんだよ。例えば建物の梁に使うとどうなると思う?」
「垂れてくるのですか。」
「御名答!さすがにそれをやる人はいないが、ボルトに使って締める人はいっぱいいる。そうして、あちこちで緩んで事故が起きる。」
「どうしてそれを教えないのでしょう。」
「絶対に壊れてはいけない分野、例えば橋とか船の学校では教えているだろうね。建築分野では知らない人が多いよ。雨漏りの原因なんだけどね。日本は住宅の寿命が短いこともあって、そのくらいの期間ならもつのかもしれない。だから気が付かないんだ。」
「私は、水道の分野を何年もやってきましたが、こんなことを教えてもらったのは初めてです。日本の理科教育はおかしいですね。」

「確かにおかしいね。アメリカの水道屋はステンレスと鉄管をつないではいけないことは知っているよ。」
「アッ、それは僕たちも知っていますが、ステンレスが伸びるということは知りませんでした。今日は良いことを教えて戴いて、ありがとうございます。」
なかなか素直な技師だった。

別れ際に、「このことを部署を越えて啓蒙活動するのだよ。そうすれば、きっと出世できるよ。」というと、彼は照れ笑いをした。

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ヒサカキ

 自宅近くに比較的大きな公園がある。400 m角ほどもあって、奥には水道の施設があり、その手前の丘と平地との標高差は20 mほどもあり、さらにそれから10 mほど登る展望台からの見晴らしがよい。

 春先にその公園を散歩していると妙な臭いがする。まさかとは思ったが、ガス臭だ。風向きによって臭う時と、そうでない時があるから、どこかのガス工事に関連するものかとも思った。
 自治会長をしているので、会員から苦情が来る。ガス臭いから調べてほしいと。実際に公園に行っても、よく分からない。公園に面した窓を開けると臭くて仕方がないと訴えるので、月一回の町内パトロールの時に、みんなで手分けして何処が臭いの元なのかを探しましょう、ということになった。

 当日その話をすると、もうすでに場所を特定してあるようで、皆で行ってみた。猛烈なガス臭だ。あちこち調べて、時計台の裏が一番臭いということになった。市役所に行って訴えたが、そこにはガス管はないという。
 古いのがあってそれを伝って漏れているのでは、と言うとガス漏れ検知器で調べてくれたが分からなかった。その件を町内会の会報で知らせると、植物に詳しい方がいらして、思わぬことを教えてくれた。

 それはヒサカキの臭いです、とおっしゃるのだ。春先になると、ラーメンの汁が腐ったような臭いとか、猫の尿の臭いとか、公衆便所の臭いを順に発し、最終的にガス臭になるのだそうだ。その隣に公衆便所もあるので、余計話がややこしい。
 そんな悪臭を発するものを公園に植えるのはけしからん話である。早速市役所に行ってその話をしたら、係の人は仰天し、早速刈り取ってくれた。

 ヒサカキは姫榊と書いたり、非榊と書いたりするそうだ。要するに榊(サカキ)より小さいので、その名が付いたらしい。榊でないという意味もあるそうだ。
 ガスの臭いはメチルメルカプタンである。メチル基にSH基が付いた分子で、大変な悪臭がある。分子量がそれほど大きくない物質のうち、最も臭いが強いらしい。要するに薄められても感知できる臭いである。分子量が大きくないから、拡散しやすく、気が付きやすい。口臭にも含まれているという。

 これは硫黄を含むので、都市ガスの天然ガスを燃料電池の燃料として使うときには、電極材料と反応するといけないので、脱硫装置を介して供給する必要がある。”メルカプト”という言葉は、mercury(水銀)と関係がある。水銀はメルカプタンと良く反応して黒い HgS を生じることから名付けられた。

 犬の散歩でそこを通ると、刈り取られた跡が徐々に目立たなくなっている。先日の雨で、さらにわかりにくくなった。

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酸化数の誤植

 20年前の生徒さんから、誤植のお知らせを戴いた。現在は高校の先生をしていらっしゃるようだ。
 p.133  二酸化炭素の電子式中、酸素の電子が8個になっていない。消し忘れだ。
      上か下の2個を消して戴きたい。2箇所ある。

 p.135  これは重大なミスだ。四チオン酸イオンの4個の硫黄原子のうち、中の二つの酸化数は、0(ゼロ)である。下の計算式は合っているので矛盾が生じるから、気が付かれた方も多いかもしれない。

 11月中旬に河合出版の正誤表に掲出される予定だ。その後、このページは削除させて戴く。

 出版後、何度も読み返しているのだが、自分の本は全部頭に入っているから、誤植の発見はほとんどできなかった。読者の方で、気が付いたことがあったら、お知らせ願えると有難い。

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