プラグマティックな化学

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次の日本

 K先生は海軍士官として戦艦大和にも乗っていたそうだが、終戦直前に降ろされた。その後のことは、読者の皆さんはご存知であろうが、大和は沖縄への特攻で沈没した。K先生は降ろされることに抵抗したのだが、無理矢理転属させられた。どうしてですかと聞くと、
「若い士官たちは、次の日本を建設するために必要な人材だったからだ。」
という事だった。 海軍は戦争が始まった日から、戦後のことを考えていた。もちろん敗戦後のことだ。

 K先生は戦後大学に入り直し、物理の教師として、次の世代を育成された。授業を覗き見たことがある。素晴らしい講義だった。必要なことを絞り、その展開を考えさせるのが主眼だ。講師控室に戻ると、冷えたお茶を二杯飲み干されるのが常だった。

 時々、一緒に飲みに出掛けた。出先で外国人と一緒に話をすることがよくあった。通訳をするのだが、その話の内容が込み入っていて、なかなか難しい。打ち解けて乾杯するのだが、必ず最後に、「こう言え」とおっしゃる。
「気に入った。お前はケツの穴がでかいやつだ。」

 そのまま訳すわけにはできないので、それに近いことを言うと、向こうは喜んで、乾杯した。K先生は喜んで、杯を重ねた。そのままK先生のお宅に泊めてもらったことが何度かある。奥様は早くに亡くなり、お一人であった。きちんと整頓された部屋で、朝まで飲み明かした。
「君の講義は評判が良いな。どこに秘密があるのか、調べたのだがよくわからぬ。中身は間違いないことはわかっている。」
「違いがあるとすれば、それは授業運営ですよ。人間の集中力は15分程度しか続かないことが分かっているのです。だから15分ごとに面白い話題を入れて気分転換を図るのです。その話題は本筋から外れてはいけません。あくまでもその日の講義に関係のあることに限ります。」
 それを聞くとK先生は、「素晴らしい!それはすべての教師が気を付けなくてはならぬことだな。私も取り入れよう。」とおっしゃった。 

「参考書を書け。君の話をそのまま書けば、それは生徒の待ち望んでいる本になる。いつも生活の中で遭遇する疑問を君に聞くと、君は即答ができる。問題は一挙に解決だ。」
 その後参考書を何度も書き掛けたのだが、すぐ止まってしまった。全分野網羅型の本だったからだ。それはつまらない。しかし、その種の参考書はたくさん出版され売れているのが不思議だった。
 K先生は、折に触れ、「早く書け。君の講義は抜群だと聞いている。」とおっしゃった。〔抜群〕という言葉は海軍用語である。

 K先生がお亡くなりになるころ、無機編が完成した。それを報告すると、「早く続編を出せ。機先を制せねば、勝てない。次の日本を育てるためにも。」とおっしゃった。
 この「次の日本」という言葉は、筆者の胸に深く突き刺さった。決して忘れることはない。

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時の運

 もちろん努力は必要である。好きなことでも、それをさらに磨き上げることによって、より自身を高めることができる。

 40年前、間違って河合塾に引張り込まれた。ちょっとしたアルバイトで始めたのだが、物理のK先生という素晴らしい方と出会った。お話を聞いて、のめり込んでしまった。
 K先生は海軍の出身であった。士官で、戦艦大和にも短期間であるが乗っていたそうだ。

 入塾式に出よと言ってきた。行くとどういう訳か壇上に座らされた。たまたま講師の中から選ばれて、何か喋れと言う。仕方がないから、先回の「実る努力を探せ」という話をした。
 筆者の次は、K先生の番だった。マイクなしで、大きな声を張り上げた。愛知県体育館 全体に響く大音声であった。

   「海戦の要諦は、装備5分、練度4分、残る1分は時の運

 まさにその通りである。受験で言えば、「実力5分、努力4分、残る1分は時の運」。 これほどまでにはっきりした解はない。向いていると思ったことは頑張ろう、でもすべてうまくいくとは限らないのだ。
 その後、K先生とは親しくお付き合いを戴き、様々な点で助けられた。筆者のした実験で、周波数測定の思い付きがあって、その話をしたら「化学なんてやめて、物理に替われ。」と誘われたこともある。

 人との出会いも時の運である。 教師をしていると、様々な出会いがある。「あの野郎」と思われたこともあるだろう。しかし、何十年も経っても忘れない人もいる。嬉しいことである。  

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卓越性の追求

 昔の生徒さんから、コメントを戴いた中に、「卓越性の追求」という言葉の話があった。

 英語で言うと、"pursuing excellence" である。日本の教育にはない概念であった。
 日本の教育はどちらかと言うといわゆる勉強である。文字通り、いやなことでも我慢して耐えなければならない。修行そのものである。
 45年前、アメリカでこの言葉に出会った。非常に新鮮で、これをやれば日本の鬱屈した教育が改善されると感じたものだ。

 人は皆異なる次元の能力を持つ。学科の力など、人生の中で必要とされる力の中では、かなり小さなものである。学者として生きる人にはそれは必要であろうが、生活していく分には、もう少し違った力が必要とされる場合の方がはるかに多い。
 しかしたまたまある方面に力がある人で、しかもそれが好きなことであれば、それをやればきっと大成功するであろう。それが excellence である。いやなことは、努力してもあまり実を結ばないものだ。

 筆者の場合は化学が好きで、それを教えることが得意であった。生徒さんがどこで引っ掛かるかを調べて、それを回避させる方法を探って来た。かなり成功したように思う。好きだったからだ。

 25年ほど前、アメリカの高校で化学教育を現場で調べていた。そこでは、好きなことをどんどんやることを薦めていた。一方、だめなことはすぐ諦める。どうしてこんなに簡単に諦めるのかわからないほど、簡単に諦める。
 特に化学では単位の違いが大きい。普段の生活ではヤード、ポンド、インチ、オンス、ガロン、クォートを使っているのに、化学ではグラム、メートル、リットルを使う。その瞬間に諦めてしまう者が多いのだ。その点、日本は恵まれている。メートル法の国だからだ。
 しかし、単位の換算ができる人は、かなりの率で化学に喰い付いてくる。日本ではその反対であろう。最初は喰い付くが、そのうち放棄する例が多い。

 好きなことを探し、しかもそれで飯が食えれば、一生楽しく暮らすことができる。
 近くに小学校がある。そこの校長は、「人生何でも努力だ。努力すれば何でもできる。」といつも言っていた。
 子供たちは、そういうもんかと聞いていたようだが、それは極めて怪しい。そう言う校長は、どの程度努力したのだろう。そういう風には、とても見えなかった。お題目を唱えているだけのように見えたのは筆者だけだろうか。

 正解は、「実る努力を探せ。」であろう。最近赴任してきた校長にその話をしたら、感動していた。気が付いていなかったのだ。日本の教育制度では、ここが抜けているのだ。
 教師の責任は重い。生徒にインパクトを与え、彼らの進むべき道を示さねばならない。無理強いはいけない。

 
 40年ほど教師業をやって来たが、この春で退くことにした。楽しい思い出が多かった。生徒さんには感謝する。

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 お待たせしたが、ようやく発売になった。既に、書店店頭に並んでいると思う。
 ウェブ書籍としての発行から足掛け8年も経った。当初は無機化学編だけであったが、順次有機化学編、理論化学編の順で発行した。宣伝もしないのによく売れた。購入者は高等学校の教師が多かったそうだ。この本もそうなるのであろうか。

 ウェブ書籍として出ている間に、他の競合参考書にかなりアイデアを抜かれてしまったという情報もあるが、いずれ解決するだろう。
 お読みになっての感想をお知らせ戴くとありがたい。 

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 随分と時間が掛かったが、ようやく昨日校了した。図版以外にも細かい点で修正が必要なことが生じて、大変な遅れを生じてしまった。今年の受験には役立たなかったことをお詫びしたい。
 昔の生徒さん達には、様々な局面で助けて戴いた。感謝する。この本は「教師と生徒の合作」であると言っても過言ではない。3月20日には本屋の店頭に並ぶそうだ。

 表紙をめくったところに、この本の紹介をする欄がある。業界用語でカバー裏と言うらしい。
 その文案はかなりの推敲を経て、このようになった。
 社会人の方へというところの評判が良い。「現場で起きる失敗などはこの本を読んでおけば避けられたのに。」という意見をいくつか戴いている。いわゆる学習参考書で、このような方面に使って戴きたいと表示するのは珍しいと思う。ほとんどの場合、学習参考書は大学入学とともにゴミ箱に投げ入れられる運命にあるのだが、この本は少々異なる。

受験生の方へ
これまでの30年余の予備校講師の経験の中で、 受講生から「応用問題を解くためにはどうした らよいか」「化学を得意にするにはどうしたらよいか」と問われることが多く、その種の質問 への回答として本にしました。
反応の原理を易しく解説し、応用が利く解釈を 示しています。 
遠い惑星の大気の話からミクロの世界まで、幅 広い話題で、化学への興味をかき立てます。 
化学の背景を知り、知識を自分のものとして生 かすことができるようになれば、普段の生活の中の化学を実感できるようになります。

受験が終わった方へ
大学での勉強の基になる知識の再構築に役立ち ます。
化学現象の数学的な解釈の例を示しています。 
化学の言葉の深い意味を知り、その成立の背景 に思いを巡らすことができます。

社会人の方へ
現場で遭遇する諸問題の解決の糸口が見つかるかもしれません。
化学現象の仕組みを論理的に理解するプロセスが、さらなる向上のヒントを与えてくれます。

プラグマティズムが何かということがわからないと買ってもらえないそうもないので、簡単な説明を付け加えた。
プラグマティズムとは
アメリカの哲学者デューイが紹介した哲学で、 知識を役立てて生活を豊かにすることです。 知っているだけではなく、実際に使えるとい うことが大切であると教えています。

 最近は本屋での売り上げより、ネット通販の方が多いようだ。ネット上でのレビューはとても大切なのだそうだ。お読みになったら、感想を入れて戴くと有難い。

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