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シャネル銀座店の4階にある 小さなコンサートホール。 客席から舞台までの距離がほとんどないため 憧れの演奏者を間近で見ることができる。 曲と曲との間に差し挟まれる小さなトークの時間が 演奏者への親密感をより一層に高めてくれるだろう。 その反面、小さな会場の常として、 どうしても空気がこもりがちになるのは 致し方ないこと。 ただしそこは主催者側の配慮の見せ所であって、 絶妙なタイミングで空調が入れられる。 演奏の合間のトークの時間に換気を行い、 演奏が始まる直前にすべての空調機械が止まる。 雑音のない快適な演奏環境がこうして作られる。 このすばらしい会場で舞台に立つのは、 それにふさわしい演奏者に違いない。 開演時間となり、 どこからともなく拍手が沸き起こる。 本日の主役が会場に現れたのだ。 客席の間に設けられた通路を通って観客の前に立つ、 その登場の仕方を見ていて思い浮かんだのは、 歌舞伎の舞台のことだった。 歌舞伎役者が舞台に上がるために歩く通路は 花道と呼ばれ、客席の間を貫くようにして 設けられている。 本日のコンサートが 歌舞伎座からそう遠くない場所で行われていることに ふと思い当たった瞬間だった。 さて、歌舞伎座ならぬシャネル銀座の花道を通って 舞台に上がったのは、ソプラノ歌手の市原愛さん。 ご自身の言葉によれば、これからの時期、 宗教曲を歌う機会が多くなるため それに合わせた声の調整を行っておられるとのこと。 これは大変に興味深い話で、 それが具体的にどういう作業なのか、 聞けるものなら聞いてみたいところ。 少なくとも素人の耳で歌声を聞く限りでは、 声の伸びやかさが若干失われた代わりに 高音部の厚みが増しているように感じられた。 プログラムはヘンデルのメサイアに始まり、 モーツァルトのアレルヤに終わった。 アンコール歌曲は、 宗教歌曲がテーマのリサイタルにふさわしく、 黒人霊歌のアメイジング・グレースだった。 少しテーマからそれた所では レイナルド・アーンの『クローリスへ』が 聴けたことも収穫だった。 そして何より最も印象的だったのは 武満徹の歌曲。 『小さな空』と『死んだ男が残したものは』。 市原愛さんの日本歌曲には 以前から注目していたのだけれど、 今回も期待以上だった。 日本語の歌をこの方ほどつややかに歌える人を 他に知らない。 しかもこの二曲はピアノ伴奏者の丸山滋さんによる オリジナル編曲バージョンだったとのことで、 恐らく二度と同じものは聴けないだろう。 大変に貴重な体験をさせていただいた。 お客さんの入りは8割ほどで、
見ていてびっくりしたのが、 前の方ほど席が埋まっていたこと。 気の弱い日本人は 後ろの方の席に座りたがるものなのに、 これは一体どうしたことか。 市原愛さんの歌を 本当に聴きたいと思っている人しか、 この会場にはいなかったと言うことだろう。 |

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