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テーブルの上に奇妙なものが置かれている.
人体骨格の全身模型が出鱈目に組み立てられたものだった.
ちゃんと組み立てれば人間の形になるはずのものなのだが,
これはとても人間には見えない.
人間が,ちゃんとした人間の形になる以前の姿だ.
この奇妙な人体像を作り上げたのは,
ウィリアム・フォーサイスのダンスを観に来た観客だった.
客席に座ることを許されず,一人残らず舞台の上に上げられた観客たちが,
用意された紙の人体模型(ペーパークラフト)を,
テーブルの上で出鱈目に組み立てたのだった.
ウィリアム・フォーサイスのダンサーたちは,これを踊りに利用した.
彼らにとって,この奇妙な人体像は,舞踏譜になった.
彼らは,その形を元にして踊りを踊った.
その踊りは,必然的に,人体像同様に奇妙なものとなった.
白目をむき,奇声をあげ,体を病的にくねらせて踊るその姿は,
とても人間には見えない.
人間と言うよりももっと動物に近い,人間が人間になる以前の姿だ.
動物と言う言い方が穏やか過ぎるのであれば,
化け物と言い直してもよい.
彼らダンサーをそのような姿にしてしまったのは,
奇妙な人体像を作った観客に他ならない.
もし観客が,ちゃんとした人体像を作っていれば,
ダンサーの踊りも,
もっとちゃんとした人間らしいものになっていただろう.
だからダンサーに言わせればこうだ.
「You made me a monster!」
(お前たち観客が,私をこのような化け物の姿にしてしまったのだ!)
ウィリアム・フォーサイスのダンサーたちは,
観客の手によって化け物に変えられた.
言い換えれば「人間が人間になる以前の姿」に還元された.
フォーサイスのダンスとは,
ダンサーたちをそのような姿に還元するための
一つの儀式だったのである.
観客は,その片棒を担がされたのだ.
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