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遂に"携帯電話(以下ケータイ)族"に変身しようと心に決め、 近くの某社サービスセンターに飛び込んだ。 この十年ほどケータイを拒み続けていたので、予備知識はほんとんどない。 それで案内されるままに、ひとつの受付デスクに座ったら、 応対してくれた人がギクッとするほどの麗人。 機種の選択から始まり、いろいろと手ほどきをしてくれたが、 その人の胸に付けられた名札を見ると、○添(○は秘す)とあり、 途端にあらぬことが頭を駆けめぐった。 添という字から、野添ひとみを思い出してしまったのだ。 そして、その女優が初出演した『うず潮』と題する映画が蘇ってくるのだった。 昭和20年代の後半、青臭い学生だったころ、この松竹映画を観た。 ストーリーなんて思い出せないが、主演佐田啓二の相手役が野添ひとみ。 結果、この新人女優にすっかり参ってしまったんだなあ。 甘めの黒い瞳、ピチピチした肢体、弾むような声に魅かれたのだ。 ぼくはまだ二十歳前で、年頃がこの女優と近かったのも親近感を覚えた。 そうなると、寝ても覚めても彼女のことが頭から離れず、 悶々とした日々を送るのだった。 やがて何かで彼女の住所を知るに至り、決行したのは「ファンレターを送ろう!」。 どんな美辞麗句を書いたか忘れたが、ともかくもポストに投函。 そして、何日後だったろうか、一枚の葉書が送られてきた。 「野添ひとみ」との達筆な字も読める。 心は躍った。 ファンレターへのお礼状にすぎないが、まさに宝物である。 悶々とする度合いはさらに高まった。 そして、次なる行動に出た。 住所を頼りにこのスターの自宅を訪ねようと。 渋谷区恵比寿の何丁目何番地まで分かっているのだ。 そこは当時、ぼくが住んでいた町からさほど遠くない。 国電の恵比寿駅から遠くない所に、その自宅はあった。 立派な邸宅には〈野添〉の表札も……。そうか、それが本名か。 だけど、辿り着いたからといってブザーなんぞ押す勇気はない。 純情そのものに立ちすくみ、やがて立ち去るのだった。 それが後にも先にも映画スターへ送った唯一のファンレターで、 だからこそ心の奥深くしまいこまれている。 むろん、このスターと顔を合わせたこともなければ、話したこともない。 出演映画すべてを観たわけでもなく、雑誌などでその魅力に接するだけ。 そのうち、男優の川口浩と結婚したのを知り、がっかりしたものだが、 だからといって、どうしようもない。 しばらく後、このタフな男優が癌に冒され、 妻である野添ひとみの介護の苦労が伝えられたりした。 そのころの容貌は、テレビなどで観るかぎり、やつれきっていた。 そして、平成7年にこの人も夫の後を追って他界した。 没年58歳で、そのとき知ったのは、生まれが昭和12年で、 ぼくと同い年だったことだ。 ケータイを始めようと思って行動したら、 あらぬ方角に心をときめかせたわけだが、件の○添さんはそんなことを知る由もなく、 所期の手続きをしてくれるのだった。 |

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へえ〜ッ、そんな片想いの時代があったんですね!
野添ひとみのつぶらな瞳を思い出しました。
亡くなっていたのはしりませんでした。
2010/7/19(月) 午後 6:08 [ ひょうたん島 ]
ushさん
気になったのが・・・私の早とちりなのかもですが、携帯をお持ちじゃなかったのですか?
きっと,ushさんだったら、軽く使いこなしてますます楽しまれるのでは!
私の母は、氷川きよしからのファンメールが欲しくって、携帯をもちました!
ushさんのきっかけは何ですか?
2010/7/19(月) 午後 9:55 [ mari ]
ひょうたん島さん お恥ずかしいです。相手が映画スターなので、片想いになるのは当然でしょうが、スターであれ、普通の人であれ、男は片想いが多いのでしょうか。
2010/7/20(火) 午前 9:44 [ eiji ]
МARIさん ケータイを持ったのは、まったく初めてですよ。
新しもの好がいるとすれば、小生はその逆で、古い物や習慣にこだわってばかりいるんです。
氷川きよしのためのケータイというのは、なんとも微笑ましいです。
小生の動機は、娘たちと一緒に島旅に出ることです。けっこう熱心にケータイ持参を勧められたわけ。
2010/7/20(火) 午前 9:50 [ eiji ]