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滅多に時代物の小説を読まないが、『夢喰屋 仕込み剣』は読み出したら止まらなかった。
そもそも主人公の人物設定が極めて奇抜だからだろう。
この人物は表題にある夢喰屋の馬九(ばく)という名の剣使い。
つまり、夢を喰うという想像上の獣をもじっているのだろう。
とりわけ馬九は人の悪夢を食べてしまうという異能り持ち主だ。
幟(のぼり)を担いで江戸の町内に出没し、悪夢に苛まれている人を見ると、
それを取り除くことを生業としている。
ただし、その幟の竹竿に刀剣が仕込まれており、その剣による正義の一閃で、
悪者どもを征伐してしまうのだ。
異色なのは、それだけではない。
背丈は高く、容貌は彫りが深くて、髪の毛が胡桃色でもある。
つまり、両親のどちらかが西洋人であり、その混血児なのだ。
そんな浪人まがいの男がさまざまな事件に巻き込まれていくわけだが、
それをここで説明するのは難しい。
要は、正義の味方と言えば良いだろうか。
用心棒としての働きも見事なら、人間臭い温情も垣間見られる。
時として北町奉行として名高い遠山金四郎が登場し、興味をそそられる。
ともあれ、あの当時の世間や世情が身近に感じられる物語展開である。
さらに、江戸の町々の雰囲気がリアルに伝わってくるところだ。
現今で言えば、下町に属するような地区が正確に再現されているように感じる。
一本木凱という作者の、ただならない知識と筆力に感嘆するところだ。
因みに同氏は宮崎県の出身で、九州地区の大衆文学賞や笹沢佐保賞などを受けているが、
本書が書き下ろし時代小説のデビュー作となっている。
版元は廣済堂出版で、廣済堂文庫の一巻。
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