丑の戯言 栗田英二

体調不良につき、プロク゜投稿も途絶えがち

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 毎月、送られてくる定期刊行物のひとつに『湖畔の声』がある。

 医薬品メンターム(旧メンソレータム)で知られる近江兄弟社グループのPR誌で、
 真っ先に目を惹き付けられるのは、表紙を飾る写真だ。

 季節によって被写体が変わり、今月号は「晩秋の八幡堀」で、
 そこは同社グループの本拠がある近江八幡市の一角にある。

 毎号、この表紙写真を撮影しておられるのは、林満という人で、同氏の説明によると、
 「八幡堀は琵琶湖から水運を利用した交通手段として造成され、
  江戸時代から昭和初期までは盛んに利用されていました。
  その後、輸送手段が陸上主体になると次第に使われなくなりました」とある。

 ところが、近年は改修され、湖岸には桜や花菖蒲が咲き乱れるそうだ。

 そして、今月号の表紙写真は、晩秋の晴れた日、湖面に映える紅葉という。

 このワンショットを眺めただけで、由緒あるお堀を示しているようで、
 遠い昔に思いを馳せることもできる。

 ともあれ、そんな季節の移ろいが毎号、同誌の表紙を飾っているわけで、
 同社グループの人たちや関係者にとって心和む画像を提供してくれる。

 そういう自分もかつて近江八幡に通っていた一時期があり、
 表紙写真のみならず、何かと懐かしく読ませてもらう記事も少なくない。

 言うまでもなく近江兄弟社グループは、来日した米国人ウィリアム・M・ヴォーリズが創立し、
 宗教的活動を柱に各種の事業を興している。

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 新潮社発行の月刊誌『波』を数年前から定期購読しており、毎月、新しい号が送られてくるのを楽しみにしている。

 2年ほど前から連載中の『高峰秀子の言葉』を読みたいからだ。

 著者は、高峰秀子の晩年、養女として迎えられた斎藤明美という元雑誌記者。

 タイトルのとおり、あの名優の発言を柱とする一種の伝記本だが、
 幾度その内容に感動させられたことだろうか。

 伝記本というと、生い立ちから成功に至るまでを体系的に著すのが一般的だが、
 この連載は題名に「…の言葉」が付されているように主人公の発言が柱になっている。

 一例を挙げると、連載22回で「私、その成れの果てです」をタイトルとしているように私的で、
 なおかつ気取りがない。

 その場面は、近所の魚屋に普段着で買い物に行った折、店の主人から
 「あそこに女優の高峰秀子さんが住んでいるんですよ。知ってました?」と言われたという。

 すると、ご本人は「私、その成れの果てです」と軽く応じたという。

 かつての大女優であれば、そんな言葉は出てこないだろう。

 そんな小さな逸話ひとつで、着飾らない、真っ正直の人間性が浮かび上がるではないか。

 「男の人は職場で見るに限ります」という発言も、うなづけるし、当人の結婚観を表している。

 よく知られるようにご本人は、脚本家で映画監督の松山善三と結婚したが、
 その流れでもある教えだし、一言でもあるようだ。

 この夫妻は『カルメン故郷に帰る』という木下恵介監督の名作で、主役と助監督という関係から知り合ったが、
 男を見る目は、鋭く、正しかったのだろう。

 このような一言々々がこれまで25回も続いた連載の、それぞれ見出しになつている。

 読ませてもらう側としては、2年余りも愉しんだし、感動させられたわけだ。

 いずれ連載が終わったところで単行本になるだろうが、それを手に取るときがまた楽しみだ。

 因みに、高峰秀子は2010年末、86歳で逝去している。

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 滅多に時代物の小説を読まないが、『夢喰屋 仕込み剣』は読み出したら止まらなかった。

 そもそも主人公の人物設定が極めて奇抜だからだろう。

 この人物は表題にある夢喰屋の馬九(ばく)という名の剣使い。
 つまり、夢を喰うという想像上の獣をもじっているのだろう。

 とりわけ馬九は人の悪夢を食べてしまうという異能り持ち主だ。

 幟(のぼり)を担いで江戸の町内に出没し、悪夢に苛まれている人を見ると、
 それを取り除くことを生業としている。

 ただし、その幟の竹竿に刀剣が仕込まれており、その剣による正義の一閃で、
 悪者どもを征伐してしまうのだ。

 異色なのは、それだけではない。

 背丈は高く、容貌は彫りが深くて、髪の毛が胡桃色でもある。
 つまり、両親のどちらかが西洋人であり、その混血児なのだ。

 そんな浪人まがいの男がさまざまな事件に巻き込まれていくわけだが、
 それをここで説明するのは難しい。

 要は、正義の味方と言えば良いだろうか。

 用心棒としての働きも見事なら、人間臭い温情も垣間見られる。

 時として北町奉行として名高い遠山金四郎が登場し、興味をそそられる。

 ともあれ、あの当時の世間や世情が身近に感じられる物語展開である。

 さらに、江戸の町々の雰囲気がリアルに伝わってくるところだ。
 現今で言えば、下町に属するような地区が正確に再現されているように感じる。

 一本木凱という作者の、ただならない知識と筆力に感嘆するところだ。

 因みに同氏は宮崎県の出身で、九州地区の大衆文学賞や笹沢佐保賞などを受けているが、
 本書が書き下ろし時代小説のデビュー作となっている。

 版元は廣済堂出版で、廣済堂文庫の一巻。

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 久々に開高健のエッセー集を読み出したら止まらない。

 まず、その本の題名が著者に似ていて興味を惹かれた。

 もちろん、氏の該博な知識と語り口の鋭さに魅せられたからでもある。

 言うまでもなく同氏は故人で、他界したのは平成元年、享年58歳。

 あれから24年を経ているが、上記の文庫本の初版は昭和54年だ。
 以来、重版を続け、ぼくが入手したのは今年4月発行分は47刷。

 その息の長さには、まず驚く。

 初版の年月から遡っても、かなり以前に書かれたわけだが、断然、面白い。

 とりわけこの作家は、世界中を股にかけて旅してきたので、
 いろんな国での体験談に惹きつけられる。

 あえて挙げると、食と酒に関する話題が面白いし、学ばせられる。

 さらに、釣については趣味どころではない。
 冒険的な体験談とともに、巨魚の釣り方も伝授してくれるようだ。

 随所に実名で同業文士たちを描いているのも、興味深い。

 名前を挙げたらきりがないが、いかに大物作家であろうが、
 面白く、しかも的確に特徴を表しているようである。

 それはそうとして最も気を惹いたのは、逝去前の体験談だ。

 始まりは「男も卵を生むことがある」というタイトルから始まる話。

 猛烈に疼痛を起こし、入院する事態になるが、長年の飲酒癖で大きな結石が出来ている。

 当然、外科手術を受けることになり、採り出された石は大きく、
 担当の外国人ドクターが「男ガ卵ヲ生ムノハ珍シイデス」とおっしゃったとか。

 とにかく、この作家はよっぽどの大酒飲みだったので、随所にその異常な体験談が散りばめられている。

 よくぞ体が保つものと感嘆するわけだが、やはり飲酒が原因で短い生涯を終えたのだった。

 その実話を読んでいると、身につまされる思いがあるが、才能豊かな御仁だけに惜しまれる。


 そういえば、同氏の終の棲家は湘南の茅ヶ崎にあり、
 主亡き後、「開高健記念館」として一般に開放されている。

 ぼくは比較的近くに住みながらまだ行っていないが、そのうちお邪魔したい。

 
 ある雑誌で『昭和の特別な一日』という単行本の広告を見て、心がぐらりと傾いた。

 その広告の謳い文句に「オリンピックがやって来た、あの頃のこと」とあり、
 それに強く刺激されたからでもある。

 さっそく書店に行き探し当てたら、中身を吟味するまでもなく買い求めた。

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 著者は読売新聞の記者を経た杉山隆男という作家で、出版は新潮社。

 本文は四章から構成されており、第一章が「上空一万五千フィートの東京五輪」だ。

 ぼくはまず、この文言に魅かれたのだ。

 
 昭和三十九年十月十日、東京オリンピックが開催されたわけで、
 そこに至るまでの話は、メーンスタジアムの上空を旋回し、 開催を祝う航空自衛隊によるアクロバット飛行の裏話。

 その本番に到るまでの隊長や隊員の努力や不安などが手に取るように分かる。

 そして、開催日当日の朝、五機の自衛隊機が五輪のマークを見事に描いたのだ。

 本文を読んだだけで、実際に見たわけではないが、そのアクロバット的なショーが
 いかに劇的だったかを目のあたりにするようだった。

 それを成功させた自衛隊員や関係者の苦労話が綿密に描かれている。

 あの年、オリンピックが東京で開催されたのは、太平洋戦争の終結から二十年近くを経たばかり。

 日本はまだ敗戦の傷を引きずり、東京を主に各地はなおも荒廃していた。
 そんな時代に世界中の関心の的となった東京オリンピックが催されたわけだ。

 ただし、ぼく自身はこの会期中、日本を離れていたので、その模様は想像するしかなかった。
 「欧州経済調査団」なる団体に加わり、欧州各地を巡っていたのだ。

 三週間のこの団体旅行を終え帰国したとき、オリンピックは終わっていたというわけ。
 
 それだけに後日、東京五輪に関する映像や記事などに魅かれるのだった。


 さて、同書の第一章は「東京五輪」に関してだが、第二章は「さらば、銀座の都電」、
 「第三章は「日本橋には空がない」、第四章は「(中野に)ブロードウェーがやって来た」だ。

 いずれも往時の東京にまつわる実話で、いずれも綿密な取材と語り口で引きずり込まれた。

 とりわけ、東京の街々を走っていた都電が消えてから何年も経つが、
 そこに至るまでの都交通局関係者の実話には、身をつまされる。

 東京の中心を成す日本橋という橋の上には、高速道路が敷かれ、
 その辺の様相を一変させてしまったが、そこにもいろんな物語があったのだ。

 高速道路で視界が塞がれただけでなく、魚河岸が日本橋から築地に移されたのにも、
 哀愁漂う諸々の実話があったそうである。

 さらに、庶民的な住宅街であった中野やその近辺が家鳴り震動したのがブロードウェーセンターで、
 その辺りの経緯などが詳しく綴られている。

 そして、一貫しているのは、どんな異変や出来事にもさまざまな人物が絡まり、
 それらが綿密かつ劇的に描き出されていることだ。

 同時に、この東京という大都会が僅か数十年前からみると、
 いかに大きな変化をもたらしてきたかが再認識させられる。


 作者の杉山隆男は神保町の生まれ育ちの生っ粋の江戸っ子だけに、
 東京に関する叙述は詳細を極めるのと同時に、哀愁を漂わせている。

 それも同書に引きずり込ませる要因でもある。

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