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910日本文学

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緑子之  
若子蚊見庭 
垂乳為
  
母所懐  
みどり子の 
若子髪(わかごかみ)には 
たらちし 
母に抱(むだ)かえ 
生まれたての
赤ちゃん髪のころには
たらちし(満ち足りた)

母親に抱かれて
褨襁
平生蚊見庭  
結経方衣   
氷津裏丹縫服 
ひむつきの、褨(すき)を襁(か)け
平生(ひらお)の時(かみ)には 
木綿(ゆふ)の肩衣(かたきぬ)  
純裏(ひつら)に縫ひ着 
ひむつきの(おしめをつけた)
稚児髪のころには、
木綿(ゆう)の袖無しに
総裏を縫いつけて着ていた。
頚著之  
童子蚊見庭  
結幡之  
袂著衣  
服我矣 
頚(うな)つきの
童(わらは)の時(かみ)には
結ひはたの、結幡(けつはん)の  
袖つけ衣 
着し我れを 
うなつきの
童子頭のころには
絞り染めの
袖着衣を、袖付き衣を
着ていた私
丹因  
子等何四千庭 
三名之綿
  
蚊黒為髪尾  
信櫛持  
丹(に)よれる 
子らがよち(同年輩)には 
蜷(みな)の腸(わた) 
か黒し髪を 
ま櫛持ち 
赤いニキビの、艶やかな、紅顔の
おまえさん方の年頃には
みなのわた

真っ黒な髪を、
立派な櫛で梳いて、
於是蚊寸垂  
取束  
擧而裳纒見 
解乱  
童兒丹成見  
ここにかき垂れ 
取り束(たか)ね
上げても巻きみ 
解き乱り 
童に為(な)しみ 
髪を垂らしたり、肩まで垂らしたり
取り束ばねて
あげまきにしたり
ざんばらにしたり、梳き乱しては、
年に似合う髪形にしていた
羅丹津蚊経 
色丹名著来  
紫之 
大綾之衣  
さ丹つかふ 
色になつける、色になつか(相応)しき 
紫の 
大綾(おほあや)の衣(きぬ)
さ丹つかふ
赤い色をさした頬に
、(赤い)色をさした
紫の

綾織りの衣や、
墨江之   
遠里小野之  
真榛持   
丹穂之為衣丹 
狛錦  
紐丹縫著  
住吉(すみのえ)の 
遠里小野(とほさとをの)の 
ま榛(はり)持ち   
にほほし衣(きぬ)に  
高麗錦(こまにしき) 
紐に縫ひつけ 
住吉(すみのえ)の
遠里小野(とほさとをの)の
榛(はり)の木で、
染め上げた衣を着、
高麗錦(こまにしき)を
紐にして縫いつけ、
刺部重部  
波累服
刺(さ)さへ重(かさ)なへ  
浪累(し)き、なみ重ね着て 

粋に重ね着をした。
打十八為  
麻續兒等 
蟻衣之 
 
寳之子等蚊 
打麻(うちそ)やし 
麻続(をみ)の子ら 
あり衣の 
財(たから)の子らが 
打麻やし
麻績(をみ)の娘や
あり衣の

財’たから)の娘らが、
打栲者  
経而織布  
日曝之  
朝手作尾 
打ちし栲(たへ)、打つたへ(栲)は
延(は)へて織る布 
日晒(ひさら)しの 
麻手(あさて)作りを   
楮を打ち 、
延ばして織り上げた生地。
白く日晒しした
手織りの麻布を、
信巾裳成
者之寸丹取
信巾(ひれ)もなす 
愛(は)しきに取り 
前垂れ風の
短い袴にあしらっていたのじゃよ。
   
為支屋所経 
稲寸丁女蚊   
妻問迹   
我丹所来為   
彼方之
   
二綾裏沓    
飛鳥
    
飛鳥壮蚊    
霖禁    
縫為黒沓    
刺佩而   
庭立住     
退莫立     
醜屋(しきや)に経(ふ)る  
否(いな)き娘子か、稲置娘子(いなきをとめ)が  
妻問ふに、妻どふと  
我れに来なせと、
我れにおこせし 
彼方(をちかた)の 
挿鞋(ふたあやうらくつ)二綾下沓(ふたあやしたぐつ) 
飛ぶ鳥の
明日香壮士(あすかをとこ)か、が 
長雨(ながめ)禁(い)み、
長雨禁(さ)へ 

縫ひし黒沓(くろぐつ) 
差(さ)し佩(は)きし、さし履きて  
庭たつすみ、庭にたたずみ  
退(さ、そ)けな立ち 
みすぼらしい家で待つ
稲置の乙女が、
妻問いに、
妻問えよと
私に来てくれと送った、
私に贈ってきた、
おちかたの

二色交ぜ織りの足袋と
飛ぶ鳥

明日香の男が、
長雨の中、
長雨の中でも大丈夫な

縫い上げた黒い沓(くつ)を
履いて、
(惚れた女の)庭にたたずむと、
『そこを退きなさい』と(彼女の両親に追い払われた)。
   
禁尾迹女蚊   
髣髴聞而  
我丹所来為   
水縹    
絹帶尾    
引帶成    
韓帶丹取為   
海神之
   
殿盖丹     
飛翔    
為軽如来    
腰細丹   
取餝氷    
真十鏡  
 
取雙懸而    
己蚊果   
還氷見乍  
禁(いさ)め娘子(をとめ)か、が 
髣髴(ほの)聞きて 
我れに来なせと 、
我れにおこせし
水縹(みなはだ)の 
絹の帯を 
引き帯(ひこび)なす 
韓(から)を帶に取らし、韓帯(かろび)に取らし 
海若(わたつみ)の  
殿(あらか)の盖(うへ)に、
殿(との)の甍(いらか)に
  
飛び翔ける 
すがるのごとき 
腰細(こしほそ)に 
取り装ほひ 
真十鏡(まそかがみ)  
取り並(な)め懸けて
己(おの)か欲(ほ)し 、おのがなり  
返へらひ見つつ 
なかなか会えない娘(稲置の乙女)が、
こっそり聞いて、
わしに会いに来た。
わしに賜った
水色の
絹帯を、
付け紐風の、
韓帯みたく、韓帯みたいにして
わたつみの

宮殿の瓦を、神社の甍(いらか)に

飛び翔ける、
ジガバチのように、すがる蜂のような
細い腰に
装着する。
まそ鏡
(鏡を)
二つ並べて、鏡を並べ懸けて
自分の顔や身なりを
何度もほれぼれと見たよ 
   
春避而   
野邊尾廻者   
面白見   
我矣思経蚊   
狭野津鳥
  
来鳴翔経  
春さりて 
野辺を廻(めぐ)れば 
おもしろみ 
我れを思へか 
背の千鳥(つとり) 、さ野つ鳥  
来鳴き翔らふ 
春が来た。
野辺を駆ければ、野辺を廻ると
面白い
趣があるのか、趣でもあるのか
さ野つ鳥
(キジが)、野の鳥まで
飛んできて鳴くよ。鳴いて飛び回り 
秋僻而   
山邊尾徃者   
名津蚊為迹 
我矣思経蚊   
天雲裳   
行田菜引  
秋さりて 
山辺を行けば 
なつかしと 
我れを思へか 
天雲も 
行きたなびく
秋が来た。
山辺を歩けば、山辺を行けば
懐かしいのか
心ひかれたのか、心ひかれてか
天雲も、天雲さえも

たなびくものよ。来て棚引く
還立    
路尾所来者  
打氷刺 
  
宮尾見名  
刺竹之
   
舎人壮裳    
忍経等氷  
還等氷見乍   
誰子其迹哉  
所思而在  
還(か)へり立ち 
道を来れば 
打日(うちひ)刺す  
宮女(みやをみな) 
さす竹の 
舎人壮士(とねりをとこ)も 
忍ぶらひ 
返(かへ)らひ見つつ 
誰が子ぞとや 
思はえてある 
帰途につこうと、
道を戻れば、
都大路に来ると
うちひさす

宮殿に仕える官女や、女官達も 
さす竹の

舎人たちが、も
こっそりと
見返っていた。振り返り
どこの若君かと
思われていたものさ 
   
如是
所為故為 
古部   
狭〃寸為我哉 
端寸八為 
 
今日八方子等 
五十狭邇迹哉 
所思而在 
かくのごと
為(せ)し故(ゆへ)し、とちこち(そしこし)   
古(いにしへ)の  
狭幸(ささき)し我れや 
愛(は)しきやし 
今日(けふ)やも子らに 
不知(いさ)にとや ,いさとや
 
思はえてある 
かくして、かくは

はるか昔は、
もてはやされたわしであったが、
はしきやし
、(ああ いとおしいかな)
きょうび(きみたち)若い娘らに、
嫌な(じーさんと)、変な爺さんだと
思われている。
如是
所為故為 
古部之   
賢人藻     
後之世之  
堅監将為迹   
老人矣   
送為車     
持還来     
持還来
かくのごと 
為(せ)し故(ゆへ)し 、とちこち(そしこし)
古(いにしへ)の  
賢(さか)しき人も 
後の世の 
語らむせむと 、鑑にせむと  
老人(おいひと)を
送りし車 
持ち帰りけり 
持ち帰りけり
かくのごとく、こう
年をとると大事にされなくなる。歳をとると邪険にされる
昔の
賢人たちも、
後世(の若者ら)に
見せるため、鑑になればと
老いた人を
捨てに行った手押しの車を、
老いた人ごと持ち帰ってきた
老いた人ごと持ち帰ってきた
   

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