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アメリカで最も嫌われるアスリート
皆さんはアメリカで最も嫌われている選手は御存知だろうか。
これを知っているのはかなりのスポーツ通であり、アメリカ通である人に違いない。
これは、今年6月に行われた(かなり前で恐縮だが)有名誌のアンケートで発表されたものである。
あなたは誰を予想しますか?
日本人であればとか、サッカー選手ならとか、スポーツに限らずとか、であれば案外出てくるものかもしれない。
しかし、アメリカのスポーツ選手となれば知っている選手もかぎられてくるだろう。
もったいつけるのもこれくらいにしよう。
その選手の名はマイケル・ビック。
アメフトファンに限らず、1度は耳にしたことがある人も多いのでは?
NFL(世界最高峰のアメリカンフットボールリーグ)のフィラデルフィア・イーグルスでQB(クォーターバック)を務める。
さすが、アメフト発祥の国であり、アメリカ1の人気スポーツである。
1位から3位まではNFLの選手が独占である。
この国におけるアメフトの地位の高さが、こんなネガティブなデータでもうかがえる。
ある意味は“嫌い”は好きの裏返しでもあり、注目度が高いということとも考えられる。
嫌われる訳とは?
なぜ彼が最も嫌われているか?
それは、アスリートとは違う部分で大きな汚点を持っているからに他ならない。
アスリートとしては超がつくほどのスーパースターである。
彼は2007年に闘犬賭博と犬への虐待という罪を犯した。
アメリカでは法で闘犬が禁止されており、もちろん虐待なんてものはもってのほかのである。
事実彼は有罪となり、アスリートとして脂ののった時期に、1年以上も服役することとなった。
しかし、刑に服し出所した彼に対してもアメリカ社会の目は厳しかった。
当然といえば、当然かもしれない。
アメリカは動物愛護精神の強い国でもあり、罪を償ったとはいえ、彼の行った行為は消えるものではない。
ある意味動物への虐待は、人に対する犯罪よりもその印象は強いのかもしれない。
当時は私も彼のファンであり、裏切られた気持ちではらわたが煮えくり返ったものである。
帰ってきた元スター
しかし昨年、彼はNFLのフィールドに帰ってきた。
世の中の厳しい批判にさらされたまま。
もちろん、彼には厳しい目が向けられたままである。
それが今回のアンケートに反映されていたことは言うまでもない。
そしてNFLという過酷な舞台で、2年というブランクは致命的なものである。
ならず者のレッテルを貼られ、このまま人間失格の烙印をおされたまま消えていくことを誰もが予想していた。
しかし、今年の彼は不死鳥とも言えるプレイでファンを虜にしている。
罪を犯す前から彼はスーパスターであったが、現在のプレイ振りはその当時を凌駕している。
彼のプレイを表現するのは容易ではない
何が凄いのか?
これは彼のプレイを観るのがてっとり早いのだが、あえて出来える限りここで紹介しよう。
前にも書いたが彼のポジションはQBである。
チームで唯一も言えるパスを投げる選手でもある。
野球でいうとこのピッチャー兼捕手のような花形ポジションである。
もっと言えばチームメイトに指示を出す監督のような役割も求められる。
だからこのポジション選手はボールを投げる能力はもちろんのこと、知的でもなければならない。
必然とも言えるがQBの選手は、体が大きくそしてのろまである。
なぜのろまかというと、基本的にQBに俊敏性は求められないからである。
フィジカルが強いとかスピードに秀でている選手は他のポジションをするが普通だ。
しかし彼はというと、そのQBという概念を覆した男なのである。
パスはさして上手くない、体もQBにしては小さい、知性派というわけでもない(罪を犯したというのとは別の意味で)。
だが、彼にはとんでもない俊敏性とスピードがある。
だからどうなんだ、と言われればそれまでだが……
ちなみに彼の体型は身長183cm体重98kg。
なんだ結構縦も横もあるじゃないか、考える人もいるかもしれないが、NFLのQBではかなり小柄な部類だ。
確かに一般人でこの数字を聞かされると結構メタボ気味の大柄なオッサンを想像するのだが。
もちろんアスリートであるから、かなりシェイプされた100kg弱である。
でも、野球選手やサッカー選手で100キロ近い選手を想像してほしい。
大概の選手はスピード型ではなく、パワー型である。
イチロー選手やメッシやクリロナは何キロ?
あの長身のウサイン・ボルトでさえ100キロあればあんなに速くないはずだ。
だが、ビックのそのスピードは体重なんて概念はないに等しく感じられるものである。
アメフトにはRBというボールを持って走るのが専門のポジションの選手もいるのだが、その選手よりも彼は速いのだ。
はっきり言って彼が出ている試合を観ると、笑ってしまう。
感動するというより、「そんなんありかいな?」という感じである。
QBが走るプレイは「スクランブル」と言う。
その名の通り緊急発進である。
普段は滅多に走ることのないポジションだけに、走ること自体が緊急事態なのである。
でも、彼の場合はその緊急性がまったく感じられない。
むしろ必然のような錯覚さえ感じる。
更に進化し続けるモンスター
そんなスピードスターQBの彼なのだが、今年はちと違う。
大幅に進化しているのだ。
なんと現時点で彼のQBレーティングがNFLトップなのだ。
このレーティングというのは、野球でいう投手の防御率のようなもの。
当然パスの能力値をあらわした数字なのである。
走るのが異様に速い上に、パス能力も凄いとなれば、鬼に金棒もいいとこである。
バスケだったら、得点王、アシスト王、リバウンド王みたいなもの。
いやそんな数字的なことはむしろどうでもいい。
彼のプレイには魅せられて仕方ないのである。
今週の木曜には、BSで彼の試合の録画中継がある。
1度見てほしい。
スポーツの概念が変わる。
アメフトの概念が変わる。
QBの概念が変わる。
そして何よりアメフトが好きになるのではないだろうか。
なんせ観ていて面白い。
彼はスポーツ観戦の醍醐味を彼は味あわしてくる。
償うことはできない。でも彼にはやるべきことがある
アメリカ社会は、まだ彼を許していない。
動物愛護団体なんかは、彼を鬼畜扱いしている。
動物好きも彼みたいな者は許せないだろう。
私も彼を許したわけではない。
でも、彼は単に服役しただけではなく、過去の過ちを大いに反省している。
そして悔いている。
罪をスポーツで償うことは不可能である。
だが、彼のプレイを観ていると成長したというだけでは片付けられないようなものがある。
彼には犯罪者というものが一生ついて回るだろう。
一生嫌われ者かもしれない。
それでもいいと思う。
応援しているわけじゃない。
でも、頑張っている彼の姿はいい。
そして彼のプレイは観る者の心を必ずといっていいほど掴む。
それだけは変えようのない事実でもある。
戦前の予想が低かったイーグルスは台風の目となっている。
彼の予想外とも言える活躍があってのものかもしれない。
アメリカ1のダーティーヒーローが2月スーパーボウルでのその雄姿を見せる可能性も0ではない。
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