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ミスターラグビー・元木由紀雄がピッチを去る……
ラグビーファン歴20年以上の私にとっては感慨深く、そして寂しい。
大工大校時代から彼のプレイを見続けてきた者にとってはそのひとつひとつのプレイが今でも鮮烈に脳裏に刻み込まれている。
そして昨日、引退試合とも言えるオールスターで最後の彼の雄姿を瞼に焼き付けた。
出来すぎの話だが、元木選手のオレンジオールスターが勝利し、その決勝トライを挙げた彼がMVPに輝いた。
自らその花道を飾った。
私から言わせてもらえば、代表キャップ歴代最多の79、高校、明大、神戸製鋼での活躍から見れば、最後のMVPはおまけみたいなものなのだが、やはりスターは最後までスターの道を自ら作った。
山あり谷ありのラガーマン人生
彼の選手人生は、すべてのラガーマンが羨むものだろうが、決して順風満帆だったとは言い難い。
コンタクトの激しいラグビーなら当然のことなのだが数々の怪我を乗り越えた。
そしてストレスからくるパニック障害を患ったこともある。
それでも彼はそのすべてを乗り越えてきた。
正しく「鉄人」である。
彼のポジションは生涯センター(CTB)であった。
これも、ポジションが流動的になりつつあるラグビー界では珍しい。
センターと言えば、縦への突進力もさることながら、パスセンスも求められる難しいポジションである。
そして、なにより彼の突き刺さるようなタックルは今でも目を閉じると思い出される。
代表では、対面の選手彼よりひと回りもふた回りの大きな海外選手である。
普通、タックルする相手が自分より大きい場合は膝下に、とラグビー界では相場が決まっている。
しかし、彼のタックルは相手の腰元に矢のように突き刺さる。
そして、自分より大きい選手をひっくり返してしまうことすらあった。
あの炎のようなタックルがもう見れないと思うとやはり寂しい想いがつのる。
センターの概念を覆した男
印象的なのは、彼のプレイスタイルが歳を追うたびに変化していったことにもある。
それが、38歳まで現役を続けることができた原動力なのかもしれない。
高校・大学までの彼は、相手をなぎ倒して突破していくプレイスタイルであったことを思い出す。
一度のタックルを受けて倒された選手は、ラックでボールを保持するために体を味方の方へ倒すのが定石である。
しかし、彼は一度倒された後でも、もう一度立ち上がり走り出すことがあった。
そのプレイを観たときは目が点になったのを覚えている。
「前へ」は明大の歴史あるスローガンだが、それは基本的にFWを指しての意味合いが多い。
だが彼は、バックスでありながらもそのスローガンを身をもって示していた。
理念は変えずとも柔軟性も持ち合わせていた選手
大学までの屈強なイメージは、今でもオールドファンにとっては忘れられない雄姿だろう。
でも、彼がただ「強い」だけの選手で収まらなかったのが、神鋼に進んでからである。
平尾誠治という天才プレーヤーがいた神鋼で彼のプレイスタイルは変わった。
頑強なプレイだけではなく、テクニシャンとしても際立っていた。
数年後に、大畑という天才韋駄天ウィングがいたのも大きいのかもしれない。
自分ひとりで突破するスタイルから味方を活かすプレイスタイルも身に付けた。
「強くて上手い」日本では稀有な選手と変貌していった。
今でも、彼の全盛期を超えるセンターは現れていないといっても過言ではない。
すべてをやり尽くしたからこそでる言葉と笑顔
そんな彼が「ラグビー人生に悔いなし」と笑顔で語った。
彼のプレイを観られないのは寂しいが、その清々しい顔に、ファンである私がウジウジしていてはいけないと思った。
もう十分にその雄姿は見せてもらった。
後はその姿を脳裏に焼き付けておけば良いだけの話だ。
本当にお疲れ様でした。
今後は神鋼のアドバイザーなどとして若手育成に当たるという。
私にとって神戸製鋼スティラーズは今でも大ファンのチームだ。
それでも彼にはひとつのチームに収まらない活躍を期待したい。
2019年、日本でラグビーW杯が開催される。
もしかしたら、監督として、そうじゃなくても何らかの形で日本代表に携わる彼の姿を見たい。
でもやっぱり、せっかくの自国開催。
できたら監督としてその雄姿を見せてもらいたいものだ。
9年後のことは誰にもわからない。
でも、これからの彼の活躍と発展を祈って。
あなたのプレイは一生忘れません!
一見の価値あり!インビクタスにはラグビーを超えた何かがある
偶然なのかもしれないが、彼が引退を発表した日に遅まきながら『インビクタス・負けざる者たち』を観に行った。
これにもなにか因縁めいたものを感じる。
私は映画評論家ではないので、あれこれ語るつもりはないが、ラグビーファンにも、そうじゃない人にも観てほしい作品だった。
作品の善し悪しは、観て頂いてその人の主観で感じてもらえればいい。
ただ、本当にあった実話であることは間違いない。
スポーツ(ラグビー)が国(南アフリカ)をひとつにし、国民をもひとつにする。
アパルトヘイトという悲しい差別を乗り越え、自国で開いたラグビーW杯で国が劇的に変貌していくという話である。
主演はネルソン・マンデラ役のモーガン・フリーマン、助演は南アフリカキャプテンでもあるフランソワ・ピナール役のマット・デイモン。
そして、監督は名優であり名監督でもあるクリント・イーストウッド。
もう間違いありません。
ラグビーファンからすれば、もうちょっとプレイシーンをリアリティー溢れる風に撮ってほしかったのだが、おそらくそれは名匠イーストウッドが単なるスポ魂映画にしたくないという配慮があったのかもしれない、と勝手に解釈している次第である。
イーストウッドファンには「らしくない」と不評らしいが、私はこの雄大な実話はあれこれこねくり回したくないという配慮がイーストウッドにあったのだと、これも勝手に解釈している。
にしても、モーガン・フリーマンは適役だった。
マンデラ元大統領も親交があり、もし映画化されるならフリーマンにお願いしたいとのたっての希望だったようなので、これも良しとしよう。
というか、あのマンデラ氏を演じるのにフリーマン以外に誰がいるんだ、って言うのが本音の人も多いでしょうが。
マット・デイモンもカッコよかった。
というよりも、ピナールの生き様や立ち振る舞いもカッコよかったんでしょうなぁ。
2019年、元木由紀雄はどのような立ち位置にいるのか?
そんなW杯が9年後日本で開かれる。
幸いにも日本には人種差別はない。
だが、このW杯で日本がひとつになり、大きなうねりを伴い大旋風を起こすことを願わずにはいられない。
ちなみに、この時の南アフリカの成績は…… やめとこ。
作品を観てのお楽しみということで。
その2019年ワールドカップで元木由紀雄という元名選手がどのような貢献をしているのか。
今から楽しみでならない。
映画化されるような素晴らしいワールドカップになることを願ってお開きにしたい。
元木選手本当にお疲れ様でした。
でも、本当の戦いはこれからかもしれませんよ。
と、「インビクタス」を観て思いました。
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