生きられる社会へ:生活保護の今 厚労省の生活保護費削減案 「最低生活ライン」崩壊の恐れ
毎日新聞 2013年03月26日 東京朝刊
3年間で最大10%という生活保護費削減案を厚生労働省が打ち出している。生活保護は低所得者を対象とするさまざまな制度の指標になっているため、今は受給せずに耐えている世帯や子育て世帯を直撃する恐れがある。【中村かさね】
◇他制度に強い影響 「貧困の連鎖」助長も
生活保護を受給していない人には無関係と思われがちな生活保護基準は、憲法25条が定める「健康で文化的な最低限度の生活」の指標となっている。
最低賃金や、住民税が非課税となる所得基準、経済的に苦しい家庭に小中学生の給食費などを助成する就学援助制度は、生活保護基準額を下回らないよう定められている。また国民健康保険料や医療費、認可保育所の保育料の減免措置は、住民税の非課税基準の限度額と連動している。
住民税の非課税世帯は全国で推計3100万人、就学援助利用者は約156万人に上る。生活保護基準の引き下げは私たちの最低生活ラインの引き下げに直結する。専門家は「貧困の連鎖が拡大する恐れがある」と指摘する。
夫と、小学生から21歳の子ども5人と暮らす東京都内のパートの女性(44)は生活保護は受けていないが、基準額引き下げで就学援助を受けられなくなることを心配する。
会社員の夫と共働きで月収約40万円。育ち盛りの子どもたちを抱えた生活は常にぎりぎりだ。就学援助費は申請後に振り込まれるため、中学3年の双子の修学旅行や高校進学準備の出費が重なった昨年は、消費者金融でお金を借りてしのいだ。
食費や光熱費を切り詰め、家族旅行も10年以上行っていない。習い事がない子どもたちにせめて学校の部活動は経験させてやりたかったが、就学援助の対象とならない部費が支払えないためあきらめた。「就学援助がなくなったらどう暮らせばいいのか。これ以上は切り詰められない」
さいたま市で学習支援事業を行うNPO法人「さいたまユースサポートネット」の青砥恭(あおとやすし)代表は「収入が増えたわけではないのに就学援助から外れる世帯が増えれば、進学をあきらめるなど教育の機会が奪われる子どもが増える。貧困の世代間連鎖を助長することになる」と心配する。
青砥さんが10年、埼玉県内の2中学校で行った進路調査では、就職者全員▽通信制高校への進学者全員▽職業高や定時制高への進学者の半数以上−−が就学援助や生活保護を受給している世帯の子どもだった。公立の普通高に進んだ生徒では14・4%に過ぎず、家庭の経済状況が生徒の進路に影響する現実が浮き彫りになった。
田村憲久厚労相は他制度への影響を和らげる意向を示しているが、就学援助の財源は市区町村の予算。利用条件や補助対象は自治体で違い、格差も大きい。文部科学省の担当者は「国から『こうしろ』と指示することはできない」と話す。
生活保護費削減の理由として、受給世帯の保護費が低所得者層の収入を上回って見える逆転現象があるが、そもそも生活保護が必要な人に十分に届いているわけではない。
関東地方の政令指定都市に中学2年の長女と暮らす女性(43)は、年収約130万円ながら生活保護を受給していない。09年にうつ病が悪化して働けなくなったが、在職時の貯金が残っているので受給が認められないためだ。今は就学援助を利用して貯金を取り崩しながら生活する。発達障害を抱える娘の将来を思うと不安だという。
「私の不安が娘に伝わってしまう。『大学に行きたい、美術を勉強したい』と夢を持つ娘のために、選択肢は広く用意してあげたいけれど……」
生活保護減額で集団提訴へ=「憲法違反」主張、支援者ら
国が8月から生活保護費を引き下げるのは憲法違反だとして、受給者を支援する弁護士や支援団体などは1日までに、各地で自治体を相手に引き下げ取り消しを求める行政訴訟を起こす方針を決め、準備会を設立した。
提訴を検討しているのは、支援団体「全国生活保護裁判連絡会」など。訴訟では、生活保護費の減額が最低限度の生活を保障した憲法25条に反すると主張する。
準備会は受給者に参加を呼び掛け、引き下げが始まれば各都道府県知事に対し、不服申し立てに当たる審査請求を行う。退けられた場合は訴訟に移行する。準備会は1万人を目標に審査請求を行い、うち1割程度の受給者で提訴を目指すという。(2013/07/01-13:02)
生活保護費切り下げ、集団訴訟へ 「不当」と全国会議
(朝日新聞2013年7月1日午前11時50分)
8月からの生活保護費の支給額切り下げは不当として、生活困窮者を支援する弁護士らでつくる「生活保護問題対策全国会議」などが引き下げの取り消しを求め集団訴訟を起こす方針を決めたことが1日、分かった。全国の受給者約1万人を目標に募り、受給者らが自治体に不服を申し立てる審査請求をし、一部は集団訴訟に移行する方針。
全国会議代表幹事の尾藤広喜弁護士によると、実現すれば生活保護関連の訴訟では過去最大規模となる。
政府は、生活保護費のうち、食費や光熱費など日常生活に必要な「生活扶助」の基準額を3年かけて平均6・5%、最大10%減額する方針を示している。