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2006年9月6日
「先生、鉄砲持ったんですか?」
きれいな白い歯を見せてそうたずねてきたのは若き酪農家の二代目長男だ。
二代くんは県境に近い奥羽の山あいでたくさんのホルスタインを世話して牛乳を出荷している。
一見して華奢に見えるが、力仕事のおかげで、肩幅が広く筋肉もついている。
「持った持った。どごで聞いたの?」
「この前猟友会で集まったときにさ、猟銃所持者一覧に先生の名前見つけたんだ。」
「おー、そうか。」
「もう何か仕留めました?」
「前回の猟期では、カモ2羽だけ。僕も聞いたよー。二代くん、クマ5頭仕留めたって?」
「うん。」
そうなのだ。
この二代くんは周りの猟師がジダンダを踏んで悔しがるほどのクマ捕り名人なのだ。
一代で酪農をはじめた父上もまた、クマを捕っていたらしい。
一子相伝のマタギといっていい。
そんな二代くんからお誘いがかかったのが、先週のことだ。
「先生、近所の人と温泉射撃場に行くからさ、先生も一緒にどうですか?」
「うん、そうだね。行こうかな。」
「行きましょう。」
そういうことになった。
そして迎えたのがこの日である。
運よく急患もなく、予定通り午前10時に現地集合。
久しぶりの温泉射撃場だ。
車のドアを開けて降り立つと、香る香る!温泉の硫黄の匂いだ。
日本一酸性の沼が、陽の光を受けてエメラルドグリーンに輝いている。
温泉の湯を採取している小屋からは、出発を待つ蒸気機関車のような音が絶えずこぼれている。
風はなく、鳥のさえずりが静かな山の風景をより一層青くさせているようだった。
「おう、久しぶりだな。」と、場長が声をかけてくれた。
嬉しい反面、それだけの長い時間を練習できなかったもどかしさも湧き上がる。
今までせいぜい2ラウンドしかやって来なかったが、今日はひとつ、撃ちまくろうじゃないか。
これから射撃ができる嬉しさ。
そういう感覚は、思えば久しぶりだった。
これまで「撃つ以上は上達させる。真剣に撃つ」という気持ちが大半だった。
それでよい。
実に正解だ。
今後もそれでいこうと思う。
でも今日は地元の猟師と一緒にラウンドできるのだ。
その喜びをもって鉄砲が撃てるという体験が、今までなかったのだ。
だから今日は、楽しむ。
それもまた、良いだろう。
サロンに入ると、二代くんとその知人のおじさん2名が待っていた。
お互いに挨拶し早速やろうということになったが、少々焦ったことがあった。
「先生、先にどっちやります?」
「。。。え。」
「じゃ、スキートは後にして、先にトラップからやりましょうか。」
「う、うん。」
そうきたか。
今日はスキートもやるか。
はじめてのスキート競技か。
うまくやれるかな。。。
そんなことを考えながら、いつも使用する7.5号散弾実包よりもっと小粒な9号実包を100発購入することになった。
生まれてはじめて手にする9号弾だ。
メイドイン英国。
ELEYの文字が入った箱を開けてみる。
おお、黒いな。
黒光りした実包を手にして、少したじろぐ。
かっこいい実包だな。
どきどきだ。
しかし、まずは手始めにトラップ競技だ。
楽しみはとっておこう。
我々はトラップ射台へと移動し、準備をはじめた。
おじさん二人は共に自動銃である。
スキート競技もはじめてなら、自動銃の方と一緒に射台を回るのもはじめてだ。
今日ははじめてが多すぎだ。
うれしくて胸が高鳴った。
つづく
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