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いまから10年前、口蹄疫を一番初めに発見したのも宮崎県の獣医さんでした。
わたしはその獣医さんとは知り合いでもないし、名前もわかりません。 しかしわたしたち獣医師には口伝えで受け継がれているエピソードがあります。 10年前の口蹄疫発生は、今ほど家畜の飼養密集地帯ではありませんでした。 それゆえ90年ぶりの国内発生であったにもかかわらずウイルスの封じ込みに成功することができました。 しかし、全国のスーパーや買い付けブローカーは購買者の立場から宮崎産をリスクとしてとらえました。 それが宮崎産を襲った風評被害です。 第一発見者の獣医さん宅には、夜ごと電話が鳴り響きました。 「よけいな病気をみつけやがって」 「宮崎を地におとしやがって」 「ほっときゃ誰も気付かなかった」 電話番をしていた奥さんは、丁寧に対応しましたが、ついに入院してしまったそうです。 畜産農家にとって、口蹄疫は恐ろしい病気です。 自分の職業を、生きる糧を、先祖代々の生きる術を、根こそぎ持っていく病気です。 たとえそれが、自分の町や村の出来事ではなくても、県内であれば出荷に影響し、 経済的な打撃は深刻なものになります。 わたし達は葬式の帰りでさえ、塩をからだに振りかけて、うがいをして清める風習をもちます。 死や病気というものを忌み嫌い、塩なぞ消毒としてはもはや何の意味もないと知っていてもそれを行います。 それゆえ、その獣医さんにも恐ろしい、なにか禍々しいものが巣くってると思えてもそれを責めることはできません。 我々獣医師は、嘆願書に名前を書きその第一発見の勇気と行動をたたえて表彰してもらえるよう働きかけました。たしか、大臣よりじきじきに表彰を受けたのではなかったかと記憶しています。 しかし、それを祝福するパーティまで開催された記憶まではありません。 今回、第一発見者となった獣医さんも、当然このつらいエピソードを知ってると思います。 しかしあえて第一発見者として名乗りをあげ即座に家畜保健衛生所の立会いを実行しています。 (それを先日のサンデーモーニングは獣医師の初動が悪いなどとサラリとコメントしやがって!) いま、今回の口蹄疫発見において、もう誰もその獣医さんに「知らんぷりすればよかったのに」などと 言う人はいないと思います。 口蹄疫が、これほどまでに恐ろしい病気だと身体の芯から理解したからだと思います。 今も現場では、獣医師が不足しています。 わたしのもとにもボランティア獣医募集の声が届いています。 誰もが、宮崎をたすけたいと心から願っている、そんな声がネットをかけめぐっています。 わたしは、幸か不幸か獣医師です。 それも豚と牛のプロです。 今こそ宮崎にこの身体をささげて助けるべきときだと、この心が鳴り響いています。 ここで行かなければ、一生後悔すると、本能が言ってきます。 毎日、牛の診療で呼ばれ、牛をさすり、豚の鼻柱をなでているありがたい生活を、 この濃厚に地元の家畜と接触している密着型の生活を捨ててでも行くべきなのではと、想いがよぎります。 わたしは師匠や周囲の獣医師や本当に心から付き合いをしている農家さんに この数日説得を試みました。 「せんせい、すみません。オラ、先生が宮崎に行ったら3年は往診依頼ださねぇよ。怖いから」 「先生、先生はいい人だよ。でもどうしても行くなら帰ってこないで。」 「やめろ。お前はあまりにも地元の家畜に密着しすぎている。そういう獣医はそこを守るのが使命だ。」 まるで、10年前の第一発見した獣医さんと同じ受難が待ち受けているようではないか! ちくしょう! ちくしょう! 一体、なにが善でなにが悪なんだ!? |
7. ハンターと感染症
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口蹄疫に罹患した対象動物をハンターが仕留めた場合
その地域は口蹄疫汚染地域であるから、獲物は移動できない。 自宅にトラックで積み込んで運ぶと、ウイルスを撒き散らすことになるから。 道ぞいの畜産農家に被害を及ぼすことが想定されるから。 野生動物に蔓延している段階で、汚染地域の拡散は歯止めが利かなくなっているだろう。 なんといっても野生動物は家畜と違って移動する。 農場から農場へと夜ごと渡り歩く。 そうやって畜産も山も、岩が転げるように衰退していく。 動物がいなくなる。 文化が死ぬ。 シカのケツに矢を射っている絵巻物だけが美術館に残る。 おとうさん、あれなあにと子供がたずねる。 うん。あれはね、鹿という生き物だよ。 むかし日本にもいたんだよと父が教える。 |
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狩猟対象動物で口蹄疫に感染するのは
ニホンジカ エゾシカ イノシシ 非対象動物では天然記念物のカモシカ、ヤクシカがそれにあたる。 対象動物は全部、群れで行動している。 山の養豚場や山岳部の牛小屋なんかにも暗くなれば行動範囲になっている。 口蹄疫というのは、差別するわけではないが蔓延地帯はすべからく発展途上国であり 多くが紛争地帯であることが多い。 先進国で野生動物にまで蔓延を許した例を、私は知らない。 口蹄疫に感染した幼獣が成獣になれる確率は1%であると聞いている。 すなわち、野生動物に蔓延した森は、数年後滅ぶ。 日本の肥沃な猟場は衰退するだろう。 狩猟の文化についても同様だ。 口蹄疫はハンターにも犬にも感染しない。 しかし、ハンターが酪農家や養豚家や臨床獣医さんだった場合、 罹患した獲物に濃厚に接触することにより、疾病を拡散させてしまうことも考えられる。 うっかりおすそ分けもできやしない。 |
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>ナイトハンターさん
ええ。
宮崎の口蹄疫は大変ですね。 僕は牛と豚の獣医師ですので、それがどのように大変かを良く知っています。 20年前の台湾ではたった2週間で島全体に蔓延しました。 餌も制限区域内に運び入れることができず、豚は餓死寸前に追い込まれました。 豚が腹を空かしたときの声をみなさんはご存知でしょうか。 地の底から天を仰ぎ見るように叫ぶのです。 声の限りを尽くして。 台湾では、農家がそれに耐え切れずに豚を山や道端に放しました。 スニーカーとジーンズのテレビクルーがそれを追いかけ、何も着替えず、消毒もせずに農家を訪問して取材しました。 ほどなくパンデミックが台湾を襲いました。 台湾の人たちは、ショッキングな報道でもう誰も豚肉を食べようとしませんでした。 台湾の豚肉価格は暴落しました。
畜産農家は、生きる気力を断ち切られました。
今、僕の仲間の獣医さんがたくさん宮崎に駆けつけてます。 宮崎一国で口蹄疫を食い止めるため、殺処分をしています。 現場の農家さんも「苦しむのは俺たちだけで十分だ。この病気を他の農家に味わせたくない。頼むからこの町の家畜を殺処分してくれ。俺の家畜をやってくれ。」と獣医さんに伝えてきたそうです。 全国からかけつけている獣医さんは、移動もホテル代も食事代もレンタカーもすべて自腹です。 そして地元に帰るには豚と接触を断ち、一週間カンズメになってダウンタイムをとらないと戻れないのです。 もどっても、誰もその獣医さんに診療依頼をだそうとしないと思います。 収入は、途絶えるでしょう。 それでも駆けつけています。 僕にも「現場はもう限界だ。体力も精神もボロボロだ」 「頼む、交代に来てくれ」と依頼がきています。 これは戦争です。
獣医師と農家とウイルスとの戦争です。 |
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カプノサイトファーガ、なんてなんだか戦隊モノにでてくる怪獣みたいな名前ですね。 |




