危機管理講座

[ リスト | 詳細 ]

セキュリティ・コンサルタントによる危機管理ノウハウのノートです。

新連載

記事検索
検索

全1ページ

[1]

プロセス・デザイン

今回は危機評価と目的の設定に引き続き、目的を達成するためのプロセスをデザインするための思考についてである。

プロセスとは何か。プロセス=手段の開発、評価、選択、実行である。

目的を達成するためにどのような手段があるのか、そしてその手段の有効性はどうか、第2、第3の手段との比較評価はどうか、そしてどの手段を選択するのがもっとも目的達成に有効か、ということを考察することがすなわち「Processing」「Process Design」である。

ここでひとつ注釈を入れるならば、時間軸と準備計画との関連性について触れておきたい。
考察する時間があればあるほど手段は数多く開発でき、またじっくり考えることができる。
つまり前もって考えておくことにより、有効な手段をしっかり吟味した上で、オプション・プランも含めて用意できるが、事前準備なく突然危機的状況に遭遇した場合は心理行動そのままに動き、得てして危険を脱することができないことになる。なぜならばそのための時間がないからである。

また、一般にありがちなのは手段そのものを考察しているうちに目的を失していることである。
目的を最初に設定するのは、あくまで目的を失しないためなのだが、手段に固執するうちに目的の本質が変化してしまうことがよく見受けられる。それを防ぐためには1、十分に手段の評価をすること、平行している現状と比較することである。

前回に続いて例題に則って解説を続ける。

ここでは現状(前回の例題をそのまま使用)を仮に「寺の脇の路地以外にはやや遠回りで坂道になっている住宅街の道があり、道幅はやや広い。少しでも家に近く平坦な道を選んで通勤路に使っている。最近痴漢が出たという近所の話を聞いた。TVで紹介されていた防犯スプレーを購入しバッグに忍ばせている。またすぐに電話をかけられるよう携帯電話をかけながら歩くようにしている」と設定する。
この時点でこのケースでは「回避」ではなく「排除」を目的とした行動になっていることがはっきりしたので、第1目標との誤差を修正する必要がある。

誤差修正のポイントは通勤路だ。もし住宅街の遠回りの道であっても明かりがあるのであれば、明るく周囲に目を配りやすく、広く動きを取りやすい道を選びたいところだ。つまり「痴漢の情報がある道を避け、明るい安全度の高い道を選択」することで具体的な危機に遭遇する可能性を排除し、同時に潜在的な危険の可能性も回避することが可能となり、この行動によって第1優先目標にアプローチしたことになる。だがこの選択肢についても危機評価をしなければならない。常に危機評価は選択肢の比較の際にも実施しなければならない。

もう一つのポイントは防犯スプレーと携帯電話だ。もし防犯スプレーをバッグの隅や底などにしまっていたのでは、肝心なときには出せないため、せっかく持っていても出番がない(手段の未熟)。また携帯電話をかけながら歩くのは耳に意識が向き、目は見ているようで見えていない状態になる(手段の喪失)。また目はその向いているほうにしか効かないため背後などは耳が頼りなのだが、耳も会話に注意が向いてしまうため全く機能していないのに等しい。この状態で選択するべき行動は、催涙スプレーをポケットの中などで手に隠し持ち、周囲の人の気配などに意識を向け、物陰などに注意しながら歩くことだ。なるべく離れた距離から柱の影や曲がり角に注意を払い、早めに発見できるように意識する。
どんなにいい道具を持っていてもそのための準備がなければ結局使えずに役に立たないということになる。
また、携帯電話をかけるふりをして歩くという人もいるようだが、芝居をすることに意識がとられたり、または片手がふさがった状態になるなど、さほど効果は見込めないであろう。むしろ隙を作って犯意のある者にとっては格好の標的となっている。

手段を開発、評価、選択する上で以下の基準が指標となる。
・回避(事前の回避)
・監視
・反応
・脱出

このプロセス・デザインを組み込んで危機評価→プロセス→目的がきれいな一直線になるのであれば危機管理プロシージャーの基本部分が出来上がったことになる。
同時に別の手段も用いての第2、第3オプションプランを設定しておくことが望ましい。

危機評価と目的

「危機評価」と「目的」

「危機評価」とは起こりえる「危険」の具体化とその可能性を認識することであり、また
「目的」とはすなわち当該案件の目指す「安全」を具体的に把握しそのための方策が目指すものである。

このように表現すると難しく聞こえてくるが、わかりやすく言えば「何に対する危機管理なのか」と
「何のための危機管理なのか」を明確にするということであり、実際の危機管理というプロセスの
最も重要な第1段階のことである。

第1回目で挙げた例にある「夜道が怖いので防犯スプレーを買った」というのを例題として、今回は実際の手法としての説明とする。
まず「夜道が怖い」という部分が危機評価すべきポイントである。これだけでは普段の会話なら「日が沈めばどこを歩いても夜道だ」と言っておしまいだが、危機評価はこれを分析することから始める。
「どの道が夜になると○○のようになるから怖い」と具体的に「怖い」の根拠を明確にしなければならない。ここでは仮に「駅から家までの間にあるお寺の脇の路地が、夜になると明かりがなくて、痴漢が出るらしいから怖い」としよう。
この時点で危機評価を始めるが、この例の場合、具体的な危機と潜在的な危機があることに注意する。「痴漢が出る」と「暗くなる=不安(痴漢以外の犯罪者の可能性)」である。

危険の度合いを色で分けると、
ホワイト(ニュートラル)
イエロー(潜在的な危険)
オレンジ(まだ起きていないが具体的な危険)
レッド(急迫している危険)
という分類をしている。

このケースでは「痴漢が出る=オレンジ」、「暗い道=イエロー」とする。これを言葉で表現すると
「具体的な危機に遭遇する可能性が明らかにあり、別に潜在的な危険も多分に有する」ということになる。

次に目的であるがこれは優先度で設定する方法が最もポピュラーである。
このケースでは最も優先すべきは「痴漢の回避」であり、その後に「危険からの離脱」「排除・撃退」とする。つまり、「痴漢を回避する=遭遇しないように行動する」或いは「痴漢などに遭遇した際に自身の生命を保護しつつその場を離脱する」「遭遇した犯意者に何らかの反応行動を起こし自身の絶対安全範囲から排除する」ということである。

これで「危機評価」と「目的」、つまりスタートとゴールを設定したことになる。
このように危機管理のプロセスの中でスタートにあたる「危機評価」とゴールにあたる「目的」の設定が確実にできていないと、プロセスそのものが的外れになってしまい、場合によっては全く意味をなさない代物になってしまうことがあるだけに、如何に重要かということを認識していただけたことと思う。
なお、危機評価は危機管理のプロセスの中の選択肢を設定する際、その選択肢それぞれで同様に実施する必要がある。

危機管理の基本概念

危機管理の基本概念

一般に危機管理という言葉が普及して久しくなる。しかし言葉が危機管理をするのではなく、問題はその目的とするものと実際の行動である。
よく耳にするのが、「最近物騒なので監視カメラを取り付けた」「夜道が怖いので防犯スプレーを買った」というものだが、評判に対して安直な手段で解決できたとされている節があることだ。
ここにある心理パターンは、「危険」→「防犯用品をとりあえず装備」→「安心」という実に安易な自己解決である。

危機管理を行う上で最も重要な点は、「危機評価」と「目的」である。
危機管理とは本来は理論に基づいて論理的に展開し、現状評価と予測結果を導き出し、目標とする結果に近づけるための手段を開発、選択し、導入し、結果を測るという一連の作業であり、この作業を行うために「危機評価」と「目的」をしっかり認識していなければならない。

危機管理は一つの理論であり、その作業は然るべき論理に基づいて、理由づけられた行動でなければならない。

危機管理を構成する上で重要な項目は「危機評価」と「目的」以外にもある。
1、対抗手段
2、機能の整合性
3、時間的要素
4、コストパフォーマンス
5、継続性
6、メンテナンスとランニング・コスト
7、ダメージコントロール
8、複合性
9、汎用性
10、マンパワーとマニング
11、トレーニング
12、バックアップとリカバリー

ざっと挙げただけでもこれだけの項目がある。勿論内容などによって付加しなければならない要素、或いは省略できる要素もある。
どんな小さな内容であってもこのプロセスを踏むか、もしくは無視するかによってその効果は大きく差が出ることを明記しておく。特に個人レベルより企業レベルになればそれだけあらゆるダメージスケールが大きなものになる。

私は企業に提案する際には「RAPI」と呼んでいる手法を使用しているが、危機評価の部分に最も労力を費やしている。そのときの説明時にはダメージ・スケールを金額に換算したシミュレーションを必ず提示しているのだが、非常にインパクトがあるようである(現にこのプレゼンで方針が180度転換した企業もある)。

今一度、危機管理とは理論であり、論理的な根拠に基づいた行動であることを改めて主張しておく。

全1ページ

[1]


よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事