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店主の西貢が日々考えたことや体験したことをつづるブログです!

青丘史茶話

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ある国の文化や社会について知ろうとした時には、その国の昔の支配階級のことを知ることが重要である。
どうしてかというと、昔の支配階級はその時代において社会的指導者、文化の担い手であっただけでなく、その支配階級の文化が現代にまで影響を及ぼしていることが多いからである。
たとえば日本の場合だって武士は明治の時代にいなくなったにもかかわらず、「武士道」的なものの考え方は今でも日本人には残っていると言われる。
 
昔の支配階級の文化はそう簡単にはなくならないのである。
いや、むしろ近代になって武士という支配階級がなくなることで、日本人誰もが武士の真似をすることができるようになった。
身分制の廃止というのは、全国民に支配階層の真似をする機会を与えるものであり、旧支配階層の文化が全国民的に広がるきっかけになるものなのかもしれない。
 
こういう傾向は韓国において、余計に顕著である。
今韓国では全国民ヤンバン化の動きが進んでいる。
 
ヤンバンというのは李朝時代(1392〜1910年)まで韓国の支配階層だった人々で、漢字では「両班」と書く。
科挙に合格して官僚になった人とその子孫がヤンバンと言われ、李朝時代までは支配階層として尊敬の対象となった。
そのため彼らは自分たちの血筋に誇りを持ち、「族譜」と呼ばれる家系図を持ち、一族で連帯してご先祖様の供養をおこなった。
 
ヤンバンであるかそうでないかの基準は実は結構あいまいで、ヤンバン社会の中でその人が「ヤンバンである」と認められればヤンバンとなる。
そのためにはヤンバンたちの族譜の中に自分の名前が載っていることが必須である。
 
だからヤンバンでない人がヤンバンになるためには二つの方法があった。
一つ目は科挙に合格するなどの方法で官僚になること。一代目は「成り上がり者め」と馬鹿にされるかもしれないけど、何代か官歴を積めば立派なヤンバンとして認めてもらえるだろう。
でもこれはかなり難しい方法だ。
科挙なんていうのは「漢文」という外国語で書かれた問題に対して「漢文」という外国語で解答を作成しなければいけない試験だ。
読み書きに関してはバイリンガルでなければ合格できない。
しかも科挙のうち最も難しい文官資格試験(文科)の合格者はわずか33名という狭き門。
胎教までやってるようなヤンバン家庭の出身者ですらなかなか合格しない難しい試験だというのに、本すらろくに手に入れることができないそれ以下の身分の人たちが合格するのはほとんど無理。
もし奇跡的に合格できたとしても、ヤンバンの科挙合格者ですらなかなか官職にありつけない万年就職氷河期では、成り上がり者に官職がまわってくることはめったにない。
もし奇跡的に官職がまわってきたとしても、ヤンバン達の嫉妬を受けていじめられてしまうかもしれない。
そういう世界なので、正攻法で官僚になるのは空の星をつかむような話である。(韓国語では「하늘의 별 따기(空の星採り)」といえば、実現可能性がほとんどないことを言う)
 
だからヤンバンでない者が官僚になろうとする場合には、もう一つの方法、、官職を「買う」という方法を用いた。
財政難という持病を抱えていた李朝政府は、よく資金集めのために官職のバーゲンセールをおこなっていた。
といってもどこの馬の骨かわからない輩に行政の仕事を任せられるわけはない。
だから売る官職は、名目だけの実態のない官職である。
授与者の名前を空白にした官職の任命辞令書(空名帖)をたくさん作って、お金を出してくれた人の名前をそこに書き入れて与えるのである。
だから官職を売るというよりは、任命辞令書を売っているという方が正確かもしれない。
 
その任命辞令書を買い取った人は、「どうだ!これで俺も官僚になれたぞ!」と威張るのだろうが、本当のヤンバンからはなかなか認めてもらえない。
本当のヤンバンになるためには、ただ官職をもらったというだけでは足りない。
ヤンバン社会の中で正真正銘のヤンバン家系とみなされているような家門の一員でなければ、なかなかヤンバンとして認めてもらえないのである。
だからヤンバンになりたい人たちは、自分と同じ姓を持つヤンバン家門とお近づきになりたがる。
そこのヤンバン家門に一生懸命貢いで、一族として認めてもらい、族譜を作るときに、その中に自分の一族を書きこんでもらうのである。
 
日本で一族になるというと、婚姻関係を持つというのが普通の発想かもしれない。
でも韓国の場合これはありえない。
韓国では同じ一族の中での婚姻は「近親相姦」と見なされ、固く禁じられている。
(ただし1997年にこの制度に違憲判決が出たため、現在では同じ一族内でも結婚できる)
だから同じ一族になるための方法はただ一つ。
自分のご先祖さまと他の一族のご先祖さまが同じだったことにするのである。
たとえば韓国で一番多い金海金氏一族の始祖は、金官伽耶国(現在のプサン近辺にあった三国時代の小国)の初代王である金首露(キム・スロ)であるが、金海金氏の一族になりたい場合は、自分のご先祖さまが金首露王の何代目の子孫だったということにして、族譜の中にそのように書き込むのである。
 
まあこれはある意味歴史の改竄ではあるのだけど、日本でも江戸時代にはこんなのあったよね。
韓国の場合は日本より大規模に、そして現在でもこういうことがおこなわれている。
 
ヤンバンであるかどうかが支配層への仲間入りを意味した李朝時代では、ヤンバンの族譜に加わるのはとても難しいことだった。
でも、現代みたいにご先祖さまがヤンバンだろうがなんだろうがあまり関係ない時代になってしまうと、「うちの先祖はヤンバンだったんだ!」と言った者勝ちみたいなことになっている(笑)。
 
だから今は有名な一族がせっせと族譜を発行して、今までヤンバン一族に加えてもらえなかった人々が大量に族譜に書き込まれるようになって、韓国人総ヤンバン化が進行している。
日本でもかつては「源・平・藤・橘」なんて言って、日本人はご先祖さまを遡れば源氏・平氏・藤原氏・橘氏の四つに行きつくなんて言われたが(実際はそんなことあり得ないのだが)、韓国でもほとんどの韓国人は先祖を遡ればどこかのヤンバンに行きつくことになっている。
実際にはあり得ないようなそんな壮大なフィクションが、族譜という系図の中で展開されているのである。
 
当の韓国人自身、そんなものがフィクションだということをわかっているからこそ、
 
私「あなたはどの一族ですか?」
韓国人「私は南陽洪氏(ナミャン・ホン)です」
私「え〜!名門じゃないですか!ご先祖さまに有名な人がいますよね?」
韓国人「いや、そんなの嘘ですよ」
 
なんて日本人である私より冷めたことを言ってきたりする。
 
でも韓国人の家に遊びに行くと、本棚に大事そうに族譜が置かれていたりする。
それで話の種として私に族譜を見せて、「ホラ、ここに私の名前があるでしょ」なんて嬉しそうに話してくれたりする。
信じているかいないかにかかわらず、一種の文化的な産物として族譜というものが存在している。
最近ではインターネットを通じたヤンバン家門の活動が活発で、一族のホームページを開設してネット上で族譜が閲覧できるサイトも増えている。
 
韓国社会におけるヤンバン志向の強さが、こういうところからかいま見える。
 
(つづく)
 
義城金氏(ウイソン・キム)の族譜。義城金氏といえば、秀吉の朝鮮攻めの時に晋州(チンジュ)で抗戦した金誠一(キム・ソンギル)が有名である。
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