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外国語を勉強していると時たま「おや?」と思う事がある。
そのような「おや?」の一つが、「ソロンゴス」だ。
「ソロンゴス」というのは、モンゴル人が韓国・北朝鮮を指して呼ぶ言葉だ。
まるでどこぞの怪獣の名前みたいだ。
現代のキリル式モンゴル語では、Солонгос(ソロンゴス)と書き、韓国と北朝鮮を分ける時にはそれぞれ、Өмнөд(ウムヌドゥ。「南」)と Хойд(ホイドゥ。「北」)を付けて、それぞれ、Өмнөд Солонгос(ウムヌドゥ・ソロンゴス。韓国)、Хойд Солонгос(ホイドゥ・ソロンゴス。北朝鮮)と呼ぶ。
また、「私は韓国人です」と自己紹介したい時には、「Би Солонгос хүн(ビー・ソロンゴス・フン)」という。
(「ビー(Би)」は「私」、「хүн(フン)」は「人」。ちなみに「私は日本人です」は「Би Япон хүн(ビー・ヤポン・フン)」という。日本は「Япон(ヤポン)」だ。)
はたして「ソロンゴス」とは何だろうか?
(ちなみに、最後の「ス(с)」が落ちて「ソロンゴ(Солонго)」と言う場合もある。これは「虹」を意味するモンゴル語と同音異義語になる)
私は以前から、「ソロンゴス」は満洲語の「ソルホ(アルファベット転写では「solho」と書く。朝鮮のこと)」と関係があり、語源は「新羅(しらぎ)」ではないかと思っていた。
そしたらそのあたりの語源について詳しく扱った論文が最近刊行されていたことを知った。
ツングース語研究の第一人者であるアイシンギョロ・ウルヒチュン(愛新覚羅・烏拉熙春)先生の「契丹語史料中に現れる「高麗」」(『韓半島から眺めた契丹・女真』京都大学学術出版会、2011年9月)である。
私は言語学者ではないので、どこまでこの論文の内容を理解できているか自信は無いが、とりあえず自分の理解できた範囲内で、本記事と関係のある内容をまとめてみる。
最新の契丹文字・女真文字研究の成果によれば、契丹語では高麗を「シュルウル(?ulwur)」と呼び、金代女真語では「ソルゴル(solgor)」と呼んでいたことがわかり、この両者は同じ語源に由来するものと考えられる。
さらに、モンゴル語の「ソロンゴ(ス)」は契丹語の「シュルウル」、金代女真語の「ソルゴル」と同一系統に属し、それより降る派生形式である。
「新羅」という漢字名とその別称である「斯盧」や「徐羅伐」は全て同じ新羅語の音訳である。
「斯盧」は「サラ(sara)」もしくは「サロ(saro)」と発音した可能性が高く、「徐羅伐」は「ショラ・ポル(sy?ra-p?l)」と発音した可能性が高い。また「ポル(伐)」は「城」や「国」味する新羅語で、高句麗語の「ゴロ(goroもしくはgolo)」と同じ意味であると考えられる。
そうなると、「サラ(斯盧)」も「ショラ(徐羅)」も(「シルラ(新羅)」も)全て同じ新羅語を起源としており、その音訳の違いは時代や方言の差異によるものではないか。
「サラ(斯盧)」は高句麗語の「城」を意味する「ゴロ」を結合させれば、「サラ・ゴロ」となり、これは金代女真語の「ソルゴル」と音が共通する。
また、「ショラ・ポル(徐羅伐)」はpの音が弱化してw音に変化したとすれば、契丹語の「シュルウル」と音が共通する。
したがって、契丹語の「シュルウル」は新羅語の「ショラ・ポル」から変化した可能性があり、また金代女真語の「ソルゴル」は新羅語と高句麗語が結合した「サラ・ゴロ」から変化した可能性を想定できる。
この論文を読めば、満洲語の「ソルホ」や現代モンゴル語の「ソロンゴ(ス)」は契丹語の「シュルウル」や金代女真語の「ソルゴル」と同系統の言葉であり、結局は「新羅」と音訳された新羅語に起源を持つ事がわかるのである。
だから「ソロンゴス」というのは結局「新羅」のことなのだ。
韓国の英語名「Korea」は、「高麗」・「高句麗」を起源とする名称だが、モンゴル語の「ソロンゴス」は「新羅」を起源とする名称だ。
また、日本語で朝鮮半島のことを「から」と呼ぶのは、朝鮮半島南部の加羅(伽耶ともいう。記紀では「任那(みまな)」と呼ぶ)が語源になっている。
では「百済(くだら)」を語源とする朝鮮半島を呼ぶ呼称はあるのだろうか・・・?寡聞にしてそういう話は聞かないが・・・(笑)
(そもそも「くだら」という音は何に由来するものなのかわからない。「百済」という漢字はどこをどう頑張っても「くだら」とは読めない。何か別の語源があるのだろうが、よくわからない)
ちなみに、高句麗語の「ゴロ」が「城」を意味するという話が興味深かった。
これは満洲語の「グルン(gurun。「国」や「城」を意味する)」や韓国語の「コウル(고을。「郡」を意味する)」、さらには日本語の「城」の「き」もしくは「ぎ」という訓読みとも何らかの共通性があるのではないかと思えてきた。
もちろんこれは言語学者でもないずぶの素人の当てずっぽうにすぎない。
けれども、こういう空想に胸をふくらませられることが、語学学習の楽しみなのだ。
(追記1)
モンゴル語に「Солго(ソルゴ)」という単語があるのを知った。これは「ソロンゴ」や「ソロンゴス」と同じで、「韓国人・朝鮮人」を意味する言葉だ。
モンゴル語の「ソルゴ」は、金代女真語の「ソルゴル」から末尾のR音が脱落した発音であり、G音が弱化してH音に転化すれば満洲語の「ソルホ」と同形になる単語である。
したがって、「ソルゴ」というモンゴル語は、金代女真語の「ソルゴル」や満洲語の「ソルホ」などと、モンゴル語の「ソロンゴ」や「ソロンゴス」との間を結ぶミッシングリンクになりうる単語であり、満洲語の「ソルホ」とモンゴル語の「ソロンゴス」が間違いなく同源であることを証明する手がかりになりうるものだろう。
「Солго(ソルゴ)」という単語は小沢重男先生の『現代モンゴル語辞典』にも収録されている単語であり、単に私自身が不勉強で知らなかっただけである。まだまだ勉強が足りないと思う。
(追記2)
インターネット上で「ソロンゴス」という単語で検索をかけてみると、「ソロンゴス(朝鮮)」は「ソロン(エベンキ族)」を語源とする単語であり、朝鮮人の起源はエベンキ族であるという、怪しげな説が大量にヒットする。
しかも「朝鮮人の祖先=エベンキ族」という事実は韓国の国家機密扱いになっているという、馬鹿げた陰謀論までネット上では拡散している。
ネット上のデマについていちいち反論するのも馬鹿らしいのだが、こんな情報に惑わされる人がいるといけないので、それについて少し私見を述べてみよう。
まず、朝鮮人の祖先がエベンキ族(ツングース族)であるという説だが、これは韓国外国語大学校のカン・ドクス(강덕수)教授が主張している説であり、今の韓国ではかなり広まっている説である。決して国家機密なんかではない。
カン・ドクス教授が言うように朝鮮語とエベンキ語が共通するのかどうか私にはわからない。私はエベンキ語を知らないからだ。
ただ、シベリアの少数民族の中には習俗の点で朝鮮と似ているものがしばしば見られることから、朝鮮民族の起源をシベリアに求める説は昔からあったし、妥当な見解だと思う。
次に、「ソロン」と「ソロンゴス」についてだが、私はこれはただ単に発音が似ているだけで、少なくとも現段階では「ソロン」が「ソロンゴス」に変化したとは証明できないと思う。
そもそも「ソロン(solon)」という単語は満洲語であり、モンゴル語ではない。「ソロン=ソロンゴス」説を主張する人々は満洲語の「ソロン」がそのままモンゴル語でも使われていたと考えているようだが、その根拠はどこにあるのか?用例を示してほしい。
さらに、モンゴル人が満洲語の「ソロン」をそのまま受け入れていたとすれば、満洲人がエベンキ(ソロン)と朝鮮(ソルホ)を呼び分けていたことをどう考えているのか?
満洲人はこの両者を明確に区別していたというのに、モンゴル人はそれらを区別していなかったということだろうか?
また、「ソロン」という言葉がいつ成立したのか知らないが、「ソロンゴ(ス)」という単語は相当古くからモンゴル語の中に見られる。
たとえば14世紀の元朝最後の皇后奇氏は高麗人だが、彼女は皇后になるとき元から「肅良合」という姓を賜った(『元史』の順帝トゴンテムル本紀を参照)。ウルヒチュン先生によればこれはおそらく「スランカ」と発音し、「ソロンゴ」のことだという。現代語の「ソロンゴ」とは若干発音が異なるものの、その原形はすでに元代に見られるのである。
もし「ソロン」という単語が「ソロンゴス」の原形になったとするなら、元代より以前に「ソロン」という単語(もしくはそのプロトタイプ)が成立していたことを証明してみせなければならない。
それが出来ないうちは、「ソロン」が「ソロンゴス」の原形だ、などとは言えないし、インターネット上で拡散すべき情報とも思えない。
今の段階では、ただのインターネット上の怪しげな情報の一つとしか見なせないだろう。 |
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韓国の大学生ですが、ソロンゴスで検索して来ました。スクラップさせてもらいました。
2014/10/30(木) 午後 5:12 [ seo*gh* ]
그럼 감사합니다.
2014/12/27(土) 午後 11:27 [ 西貢 ]