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第三章:『さすらいの太陽』と『スーキャット』
『スーキャット』というアニメがあることを先日知った。
歌手を目指すネコの少女の物語なのだが、この作品が『さすらいの太陽』にとてもよく似ている。
今回はアニメ『スーキャット』と『さすらいの太陽』を比較し、そのアニメ史上の意義について考えてみたいと思う。
(1)作品の概要
この作品は1980年4月から12月まで東京12チャンネル(現テレビ東京)で放映されたアニメである。
制作会社はナックであり、企画はクラウン音楽芸能とよみパックである。
一回あたりの放送時間が15分であり、全四十回である。
(2)ストーリー
事故のため記憶を失った少女スー(鶴岡弥生)は、生き別れた家族と再会するために、歌手になることを目指し、オーディションを受ける。
しかし、そんなスーの前に実力と財力を兼ね備えたマリア三毛村(横沢啓子)というライバルが現れる。結局マリアがオーディションに受かり、スーは失格になってしまう。
スーはその後、悪徳芸能事務所と専属契約を結ばされて様々な苦難を味わうが、幸いにもトラブチという作曲家に救い出された。スーはトラブチの下でレッスンを受けながら、彼が作詞・作曲した曲でデビューを果たす。
しかしマリア三毛村による妨害工作や恩師トラブチの死によってスーは芸能界から爪弾きにされてしまう。
母や姉妹と再会することのできたスーは、妹のランやミキと共に「スーキャット」というトリオを組んで、流しの歌手として活動を開始する。
スーの歌う『青い風の日』という曲は、徐々に下町の人々の人気を得て、ついにレコードキャット大賞の新人賞を受賞することになった。
(3)筆者の個人的感想
色々と驚かされた作品である。
キャラクターが全てネコであるという時点で子供向けの作品なのだと思っていた。しかし内容はかなりシビアで、大人の世界の醜さを十分に描ききっている。
たとえば主人公スーが悪徳芸能事務所でこき使われる話や、有名タレントとの関係をゴシップ記者に暴かれる話、レコード大賞の陰で賄賂が飛び交う話などは、とても子供向けのアニメとは思えない。
一体どんな視聴者を対象にしたのかよくわからないアニメである。子供向けアニメとしては内容が重すぎ、大人向けアニメとしては絵柄が子供向けすぎる。この作品がヒットしなかった一つの理由は、絵柄と内容のギャップにあったと思う。
主人公スーの声優は、鶴岡弥生という人である。彼女は、このアニメが始まる2年前に『月夜はきらい』という曲でデビューした歌手である。本職の声優ではないはずだが、それにしては上手い。『さすらいの太陽』の藤山ジュンコや『クリィミーマミ』の太田貴子などのような素人くささがない。驚くべきことである。
この作品の中で最も魅力的なキャラクターはライバルのマリア三毛村である。三毛村財閥のお嬢様でありながら、あくまでも実力で歌謡界の女王の座を勝ち取ろうとする姿勢には頭が下がる。
『さすらいの太陽』の香田美紀が、実力が伴っていないにも関わらず、金に糸目をつけない派手な宣伝で歌手デビューを果たしたのに比べ、マリア三毛村はあくまでも実力でデビューを飾った正統派歌手である。『ガラスの仮面』の姫川亜弓に近いタイプかもしれない。
主人公に意地悪する嫌な奴というだけのライバル(香田美紀?)ではなく、主人公とあくまでも実力で競い合おうとする魅力的なライバルである。
そのために最終回でスーと仲良くなっていても筆者としては納得できた。(『さすらいの太陽』の香田美紀はただの嫌な奴というポジションだったため、最終回でのぞみと和解した事には違和感を覚えた。頭打って性格が変わってしまったのではと筆者は本気で心配したものだ。)
(4)『さすらいの太陽』との比較
この作品は『さすらいの太陽』と共通する点が多い。
共通点を思いつくままに挙げてみると・・・
・主人公に様々な苦難が押し寄せるが、それらを一つずつ克服し、最後は成功をおさめるという根性物サクセスストーリー。
・貧しい主人公とお金持ちのライバルという設定。
・技術や宣伝ではなく、真心をこめた歌が最終的には人々の心をつかむのだという精神論。
・流しの歌手として歌っていた曲がヒットして、成功をおさめる。
・悪徳芸能プロとの契約や流しの歌手としての経験など。
・イヤな人も最後はみんないい人になってハッピーエンド。(まあ、昔のアニメですから)
・EDテーマソングが劇中で重要な役割を果たす。(のぞみのデビュー曲「こころの歌」とスーの新人賞受賞曲「青い風の日」)
・主役の声を当てているのが本職の声優ではなく、歌手であるという点。
・オリジナル曲のみならず、既成の歌謡曲が取り入れられている点。
・ナレーターによる解説がやたら多い。(メロドラマを盛りたてるためにはナレーターの存在が必要不可欠なのだろうか?)
以上のように『スーキャット』は『さすらいの太陽』と共通する点が多い。『スーキャット』の制作者が『さすらいの太陽』を知らなかったとは思えないので、おそらく参考にしているだろう。
いやむしろ、『さすらいの太陽』のオマージュとしてこの作品を作ったのかもしれない。そう考えると、キャラクターをあえてネコ化している理由もうなずける気がする。
ただし、よく似ているとはいえ、この両作品には相違点もある。この相違点が両アニメの本質をよく表しているような気がするので、思いつくままに挙げてみたい。
・『スーキャット』には赤ん坊取替えというエピソードは無い。(『さすらいの太陽』の原作は、赤ん坊の取替えによる運命の逆転が主要テーマになっている。これは吉屋信子の『あの道この道』を原案にしているためであろう。)
・のぞみはソロで活動しているのに対し、スーはグループで活動していること。(スー、ラン、ミキという三姉妹は「キャンディーズ」から命名したものである。この当時は女の子のアイドルグループが人気だったようで、『スーキャット』もそれを意識していたのだろう。)
・「心の歌」が歌を通じて多くの人々がつながることができるという社会的なテーマを持っているのに対し、「青い風の日」はより個人的な感情を歌っている。(「心の歌」が社会的なテーマを持っているのは、作曲家いずみたくがうたごえ運動に関わっていたこととも関係があるだろう。余談だが、アニメ『さすらいの太陽』は、いずみたくの思想がかなり入り込んでいるように思える。いずみたくが著書『見上げてごらん夜の星を』の中で紹介しているエピソードによると、いずみが若い頃作曲した「じゃがいもの歌」という曲が、作曲者不明の曲としていつの間にか広まっていたという。いずみたくは実際に峰のぞみのような経験をしていたのである。)
・香田美紀がまずプロダクションに所属してデビューしたのに対し、マリア三毛村はまずオーディション番組に出演してデビューした。(1971年当時にはオーディション番組からデビューするのは一般的でなかったためだろうか?ちなみに伝説的なオーディション番組『スター誕生!』は『さすらいの太陽』放映直後の1971年10月に始まっている。)
・『さすらいの太陽』とは異なり、OP・EDテーマソングとも主演の鶴岡弥生が歌っている。(主演声優が主題歌を歌うという手法は、その後の歌謡界物アニメでも継承されているようである。)
・鶴岡弥生は藤山ジュンコとは異なり、アニメ放映以前からデビューしていた。(あまり売れてはいなかったようだが・・・)
これらの相違点は、両作品の作られた時代背景と関わっているように思える。今回はきちんと考察してみる余裕はないが、いずれもう少し詳しく言及したいと思う。
(5)アニメ史上の意義
歌謡界を舞台にしたアニメは、『さすらいの太陽』(1971年)が最初であると思う。その後、『ピンクレディー物語』(1978〜79年)、『スーキャット』(1980年)、『クリィミーマミ』(1983〜84年)、『魔法のスターマジカルエミ』(1985〜86年)、『アイドル伝説えり子』(1989〜90年)などへと続いていく(1990年代以降は追いきれていないため省略する)。
この中で『ピンクレディー物語』のみは実在の女性歌手グループ「ピンクレディー」の伝記アニメであり、他の作品と比べて異色である 。(『スーキャット』や『えり子』は実在の歌手の名前を使ってはいるものの、物語自体はフィクションである。)
また、『クリィミーマミ』と『マジカルエミ』はスタジオぴえろ制作の魔法少女アニメであり、魔法の力でたまたま(時には本人の意思に反して)歌手デビューしてしまうという話である。そこには歌手になるための苦難の歴史はありえない。
そのように考えると、上に挙げた六作品のうち、歌手を目指す少女の根性物サクセスストーリー(フィクションに限る)は『さすらいの太陽』、『スーキャット』、『えり子』の三つのみとなる。
どうやら『さすらいの太陽』から始まった歌謡界根性物アニメの系譜は、『スーキャット』、『えり子』という順に受け継がれていったようである。
また、歌謡界物アニメを比べて見るとわかることであるが、『さすらいの太陽』や『スーキャット』が歌手の物語であるのに対し、『クリィミーマミ』や『えり子』はアイドルの物語である。前者では歌唱力や歌の心が何より重視されていたのに対して、後者では歌の力よりファンを魅了する力の方が重視されている。こういうところにアイドル全盛時代の風潮がよく表れている。
『スーキャット』は、あくまで歌手の物語であるとはいえ、キャラクターの名前にアイドルグループ「キャンディーズ」の影響が見られる。そういう意味では、歌手の物語(『さすらいの太陽』)からアイドルの物語(『クリィミーマミ』以降)へとアニメの題材が変化する過渡期的状況をよく表した作品といえるのかもしれない。
(6)『スーキャット』で使われた既成曲
『スーキャット』は既成の歌謡曲が劇中に盛り込まれた歌謡アニメである。
これは『さすらいの太陽』と共通する点である。
劇中で使われた歌謡曲のうち筆者が確認できたのは以下のとおりである。
・「ウナセラディ東京」・・・ザ・ピーナッツが歌ったことで有名。劇中では第一話のオーディション一次審査でマリアが歌っている。
・「四季の歌」・・・「♪春を愛する人は〜」で始まる歌。第三話のオーディション最終選考でマリアが歌っている。
・「迷い道」・・・「♪現在、過去、未来〜」で始まる渡辺真知子のヒット曲。第六話のスーが場末のスナックで歌うシーンで使われている。
・「月夜はきらい」・・・鶴岡弥生のデビュー曲である。アニメ放映前の1978年に発売された。主役を演じた歌手の持ち歌が劇中で披露される例は、藤山ジュンコの『鎖』と同じである。劇中では第七話でスーが歌っている。
劇中で既成の歌謡曲を用いることは、『さすらいの太陽』の場合には著作権問題がまだ比較的厳しくなかったため可能だったのだろう。『スーキャット』の場合は、クラウン音楽芸能の全面的バックアップのおかげで可能だったのだと思う。
では著作権問題がかなり厳しくなっている現代において、『さすらいの太陽』や『スーキャット』のようなアニメを作ることは可能なのだろうか。
その時代の世相を反映した歌謡曲をふんだんに盛り込んだ歌謡アニメがまた再び登場してくれることを筆者は願っている。
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