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2、ゼミとは何ぞや?
大学の授業を受けたことのない人は、ゼミといってもピンとこないと思います。
ゼミとはゼミナール(ドイツ語の「seminar」。英語では「セミナー」)の略語です。教員が前に出てひたすらしゃべるという通常の授業(講義)ではなく、学生が自分で調べたことを発表する演習形式の授業のことです。
学部生の場合は、授業といえば「講義」が6、「ゼミ」が4くらいの割合でしょうが、大学院生の授業は基本的に「ゼミ」です。
ゼミにも色々な形式がありますが、学生の報告に対して教員やゼミ参加者(「ゼミ生」といいます)があれこれとケチを付けるというパターンはそんなに変わらないと思います。
以下に西がこれまでに体験したゼミの形式を紹介したいと思います。
(パターン1)あらかじめ決められた担当者が史料を読む
歴史学系では最も多いパターンではないかと思います。その分野を研究するうえで基礎となる史料(歴史を研究するうえで必要な資料のこと)を読み進めていくのですが、発表担当者をあらかじめ決めておきます。担当者は、ゼミの時間までに自分が担当すべき箇所を読んで、その内容をまとめたレジュメ(発表する時に配る原稿)を作り、「この史料にはこんなことが書かれていました」ということを発表します。その発表内容について、教員や他のゼミ生達が、「この部分は間違っているよ」とか「〜についてもっと調べたほうがいいんじゃない?」という突っ込みをいれます。
この形式のゼミは、自分が発表担当者じゃなければ気楽です。ゼミの準備はいらないし、ゼミ中何もしなくていいですから(居眠りしてる人もいます)。
(パターン2)担当者を決めずに出席者全員で史料を読む
発表担当者がいないことを除けば、(パターン1)と同じです。この形式のゼミが実は一番キツイかもしれません。発表担当者がいないということは、ゼミ生全員が発表者になりうるからです。
教員に「○○君、次の1頁分を要約して」と言われたら、やらなければいけません。予習をしておかなければそう簡単には答えられません。この形式のゼミは毎回予習が必要なのでつらいのです。レジュメを作る必要がないという点では楽かもしれませんが。
(パターン3)論文・研究書を読む
その分野の研究において古典的名著といわれている研究書や、最近話題になっている論文などを読みます。毎回担当者を決めて発表させることが多いので、発表形式は(パターン1)と同じです。
発表担当者はレジュメを作って、「この著者はこんなことを主張しています」ということを発表し、それについて教員や他のゼミ生達が突っ込みを入れていきます。
(パターン4)ゼミ生が自分の研究テーマに沿った内容を発表する
ゼミ生が自分の研究テーマに関連する内容を発表し、教員や他のゼミ生達が「ああでもない、こうでもない」とその内容について議論します。この形式のゼミはほとんどミニ学会のような雰囲気になります。
ともあれ、大学院生にとっての授業は「ゼミ」です。それは今までのような「教えてもらう授業」ではありません。自分で何かを作り、それを他人の前で発表する場なのです。
人前で話すことが苦手な人には正直言ってつらいかもしれませんね。
インタビューでも述べましたが、ゼミは戦いの場です。
教員や他のゼミ生たちが厳しい突っ込みを入れてきますが、それにめげてはいけません。傷つくことを言われたとしても、ゼミが終わるまでは戦い続けなければいけません。ゼミ中に泣き出したり、逃げ出したりしては駄目なのです(私の知人で、ゼミ中に泣き出してしまった人がいますが・・・)。
「苦しくったって〜、悲しくったって〜、ゼミの時間は平気なの〜♪」という気分でいきたいものです。
<ある日のゼミの風景>
20××年7月13日。○○大学の3号館310教室にて。
外から聞こえてくるのはセミの声。
太陽はギンギンと照りつけ、教室の中の暑さも極限に達している。
本日の発表担当者は、大学院博士課程1年のA君(仮名)だ。
A君の発表テーマは「磯野家の歴史−その家族構成の変化を中心に−」である。
A君の発表が終わって質疑応答の時間に入ると、教員がニヤニヤしながら、「ちょっとA君、」と呼びかけた。
「はい?」A君はあわてて教員の方を見た。まずいな、どこか突っ込まれるぞ、とA君は緊張した。
「A君、君の発表によると、磯野家の現在の家族構成は7人ということになっているけど、具体的には誰のことを言っているのかな?」
「ええっと・・・。ナミヘイ、フネ、サザエ、マスオ、カツオ、ワカメ、タラオの7人です。」
「なるほど。そこで質問なんだけど、サザエさんとマスオさんとタラちゃんは磯野家の人間なのかな?サザエさんはマスオさんと結婚して『磯野』から『フグ田』に改姓していたと思うけど。それでも磯野家の家族といえるのかな?君の言う家族の定義は何かな?」
A君は口ごもった。そんな質問がくるとは予想していなかったからだ。冷や汗がじっとりと肌の上に染み出してくるのを感じた。
どうにか返答をしなければと頭の中をフル回転させ、「同じ住所に住み、生計を同じくしている者を家族と定義しました。」と答えた。
「なるほど。それじゃあ君の定義によれば、たとえ苗字が違っていても、同じ家に住んで生計を同じくしているから、サザエさん夫婦は磯野家の家族だというんだね?」
「そうです。」
「じゃあ、タマは磯野家の家族に入らないのかな?」
「は?ネコのタマですか?・・・だって、あれは人間じゃありませんよ?」全く予想外の質問をぶつけられて、A君は混乱した。
「人間でなければ家族じゃないのかな?先週のサザエさんでタラちゃんが、『タマはうちの大切な家族ですー』と言ってたよ。君はタラちゃんの意見に反対するんだね?タラちゃんの意見が間違っているという根拠はどこにあるのかな?」
「・・・申し訳ありませんが、先週のサザエさんを見ていないので、その質問にはこれ以上お答えできません。」
「駄目だよ〜。君も研究者のはしくれなら、最新の動向もきちんとチェックしておかなきゃ〜」教員の勝ち誇った顔が妙に小憎らしく見えた。
「その件につきましては来週までに調べてきます・・・」A君は悔しさにわなないた。来週こそは教員の鼻をあかしてやると心に誓った。胸の奥でリベンジのための闘志がフツフツと湧き上がってくるのを感じた。
(完)
(あとがき)
A君の話はフィクションです。私の知人には磯野家の歴史を調べている人はいません。
でも大学院のゼミはこんな感じだったりします。
院生は教員の意地悪な質問に苦しめられながら、研究者として成長していきます。
がんばれ、A君!来週こそは意地悪な教員に一矢むくいてやれ!
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