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店主の西貢が日々考えたことや体験したことをつづるブログです!

つれづれ旅日記

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(1枚目)東ソウル綜合バスターミナルの券売所
(2枚目)東ソウル綜合バスターミナルの売店など
(3枚目)束草市外バスターミナル
(4枚目)チョヌ荘の玄関


11月19日 金曜日

とりあえず関東に出かけるため、ソウルの下宿で荷造りを行なう。
午前中に出かけられればいいや、なんてのん気なことを考えていたら、いつの間にか午後2時をまわっていた。(Skypeで友達とチャッティングしていたせいか?)

あわてて荷造りを終えて、下宿の部屋を出て、バスターミナルに向かった。
ソウルにはバスターミナルが(私の知る限り)6つある。ソウル高速バスターミナル(地下鉄3号線高速ターミナル駅)、東ソウル綜合バスターミナル(地下鉄2号線江辺駅)、南部ターミナル(地下鉄3号線南部ターミナル駅)、上鳳市外バスターミナル(地下鉄7号線上鳳駅)、西部市外バスターミナル(地下鉄6号線亀山駅)、新村市外バスターミナル(地下鉄2号線新村駅)である。

このうち、私が行ったのは東ソウル綜合バスターミナルだ。
東ソウル綜合ターミナルでは降りたことはあるが、乗るのは今回が初めてだ。
ターミナルには長年にわたってしみついてきたタバコの匂いがした。
今少しずつ消えようとしている、古いソウルの姿がそこにあるような気がした。

バスに乗る前に飲み物でも買おうと思って、ターミナルの売店をのぞいて見た。
「紅茶(ホンチャ)は無いか?」と尋ねてみると、「紅茶(ホンチャ)は無い。紅蔘(ホンサム)ならある」という答えがかえってきた。
紅蔘(ホンサム)とは朝鮮人参を蒸して乾燥させて赤くしたものであり、ここでいう「紅蔘(ホンサム)」とは朝鮮人参エキス入りの栄養ドリンクのことである。
おいおい、それは名前が似ているだけの全く別物じゃないかよ、と思いつつも、紅茶はあきらめてコーヒーを買った。
価格は3000ウォン。
予測してはいたことだが、バスターミナルの売店はやっぱり高い。
コーヒー一本が3000ウォンとは高い。せいぜい2000ウォン程度が相場だろうに・・・と思いつつも買った。
バスに乗り込んでコーヒーを飲んだ。やけに甘い。まるでシロップを飲んでいるかのようだった。

韓国旅行は鉄道よりバスの方が便利である。
韓国は日本ほど鉄道路線が発達していないうえに列車の本数も少ないため(大都市地下鉄は例外)、地方に旅行しようという時はバスの方が便利である。
ソウルからなら、済州島(チェジュド)を除く全国どこへでもバスで行ける。
しかも大抵三列シートなので、ゆったり座れるのだ。

バスは3時半にソウルを出発した。
私がまず行こうとしている関東の都市は束草(ソクチョ)。江原道の代表的な港町である。
束草という町はもともと襄陽(ヤンヤン)という町の一部だったようだが、近代以降港町として発達し、市として独立したらしい。
(追記:束草は北の杆城と南の襄陽の間にあり、時期によって杆城に属したり襄陽に属したりしていたようですが、1963年に市として独立したようです。市になったのは意外に最近だったみたいです)
とりあえずは束草に行って、関東の北部をまわって見るつもりである。

バスは6時半頃に束草市外バスターミナルに着いた。
外はもう真っ暗。
初めて来る町なので、右も左もわからない。とりあえず適当に宿を決めて、そこに荷物を置いて、食事に出かけることにした。
バスターミナルから少し坂を下ったチョヌ荘(천우장)というモーテルに入ることにした。
韓国のモーテルは、日本でいえばラブホテルを兼ねたようないかがわしい雰囲気のところも多いのだが(加えて、変な名前のものも多い。昔見た中で傑作だったのは「イヴの宮殿」と「アダムの城」というのがあった。謎過ぎる)、ここは名前も普通で、外観や内装も普通だった。

(追記:宿を出るときにわかったことなのだが、この宿は男女の相部屋を禁止していた。 チョヌ荘がモーテルだと思っていたのは私の誤解で、ここは普通の旅館だったようである。旅館の中には男女の相部屋を禁止しているところも多く、連れ込み宿の機能を兼ねているモーテルとはずいぶん違っている。モーテルはアダルトビデオの貸し出しをやっていたり、テレビに成人チャンネルがあったり、堂々とコンドームが売っていたり、風俗の広告があったりするのだが、普通の旅館はずいぶん健全なようだ)

宿は1泊3万ウォンで、高くも安くもなく、部屋はまあまあで、宿の人も親切だったのだが、一つだけ難をいえばシャワーのお湯がぬるかった。
夕食は港のそばの食堂で焼き魚を食べた。ソウルで食べたことのないような、シシャモみたいな魚が出た。
ちなみにここで양미리(ヤンミリ。日本語では「赤魚」の意味)という単語を食堂の店主が教えてくれた。

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(上の地図)自作の朝鮮半島地図。若干塗りつぶしてあるところが「関東」の範囲。

はじめに

11月の下旬、紅葉もあらかた落ち、冬枯れの景色があたりを覆う晩秋の頃、私は何故か関東に一人来ていた。
関東といっても日本の関東ではない。韓国の関東である。
「韓国に関東ってあるの?」と不思議に思われる方もいるかもしれないが、実はあるのだ。
場所は韓国東海岸。江原道(カンウォンド)の東半分といえばわかる人もいるだろう。江陵(カンヌン)、束草(ソクチョ)などがある場所だ。

日本の場合、「関東」すなわち「関の東」といえば箱根の関所のことだ。
では、韓国の「関東」は何という関所の東なのか?(これが分かる人は相当な韓国マニアですよ。)

答えは、「鉄嶺関」という関所の東という意味。
鉄嶺関は現在の江原道淮陽(フェヤン)郡と安辺(アンビョン)郡の間にあった関所だ。
さらに豆知識としては、北朝鮮の平安道(ピョンアンド)は鉄嶺関の西ということで別名を「関西」といい、咸鏡道(ハムギョンド)は鉄嶺関の北ということで別名を「関北」という。
鉄嶺関は昔から韓国の東北側の防衛ラインとして重視されてきたところで、14世紀高麗の政治家李穀(イ・ゴク)は、「鐵嶺は國東の要害にして、所謂一夫關に當たれば、萬夫開く者莫きなり。故に嶺以東の江陵の諸州、之を關東と謂う」と述べている(「東遊記」)。
鉄嶺関はそれほど固い関所らしく、日本でいえば不破の関や箱根の関のように歴史的にとても重要な場所らしいのだが、現在は北朝鮮にあるため、見に行くことはできない(ガッカリですね)。

さて、薀蓄はともかくとして、とりあえず11月の末に韓国東海岸にやって来たわけだ。
「何でそんな寒い時期に?」と不思議がる人もいるかもしれないけど、理由は簡単だ。その時期しかまとまった時間を作れなかったからだ。

世の中には私のことを暇人だと思っている人もいるらしいが、実はそうでもない。
休みの日には朝10時過ぎに起きたり、平日の午後2時頃にブログを更新したりしているが、必ずしも暇なわけではない。
何となく忙しく過ごしているうちに韓国生活が9ヶ月も過ぎてしまった人なのだ。
そのせいで、今まで韓国に9ヶ月もいながら、一週間を超えるような長い旅行をしたことが無い。
「韓国で暮らしておきながら、韓国旅行をしないとは何事か?」と自問自答した結果、とりあえず無理やり時間を作って、友人との約束をドタキャンしてまで時間を作って、関東にまでやって来たというわけだ。
そこまでして決行した関東旅行なわけだから、何らかの記録を残さなくてはもったいない。
とりあえず、「どこに行った。面白かった」、「何を食べた。美味しかった」程度の記録でもいいから、記録を残すことにした。
そして記録を残したからには、ブログ上で公開することにもした。
なるべく飾らず率直に、体験したことをそのまま書くことにした。
面倒くさいので、推敲もあまりせず、まとまりの無い文章になっても気にしないことにした。(これは気にしたほうがいいのかもしれないけど・・・)

私が×月×日に何をしたということが事細かく書かれた日記調の文章になると思うけど、とりあえず書いてみます。
私の個人情報はネットを通じて世間に知れ渡ることになりますね。ああ、露悪的。

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(1枚目の写真)一日目の宿、テオンジャン(대온장)ホテル。隣にあるホテルアドリアの一部になっているらしい。
(2枚目の写真)二日目以降に泊まったキャピタルモーテル(캐피탈모텔)。
(3枚目の写真)キャピタルモーテルの部屋の様子。結構きれいで広いでしょ?
(4枚目の写真)モーテル内にやっぱりあったアレの自動販売機。これは何でしょう?


ぶらり温泉一人旅 
(1)儒城(ユソン)の宿

先日、韓国で一番有名な温泉地、儒城(ユソン)温泉に行ってきました。
記憶があいまいにならないうちに記録を残しておくことにします。
ただ普通に書いても面白くないので、会話形式で記すことにしようかと。

<登場人物>
西貢:いうまでもなくこのブログの作者。(以下では「貢」と略)
太郎くん:どこにでもいる日本人の男の子、、、という設定の架空人物。
花子ちゃん:どこにでもいる日本人の女の子、、、という設定の(以下略)。ちなみに名前は「花より男子」の略ではない。

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花子「西さん、韓国の温泉に行って来たんですってね?」
貢「ネー、クロッスムニダ。・・・じゃなくて、うん、そうだよ。」
太郎「なんていう温泉に行ったんすか?」
貢「儒城(ユソン)という温泉だよ。儒城はソウルから150kmくらい南に行ったところにある大田(テジョン)市の一部なんだよ。」
太郎「へー、結構遠いんですね?どうやって行ったんですか?」
貢「バスで行ったよ。」
花子「西さんは車酔いしないんですか?アタシは車酔いするから、バスって嫌いだな」
貢「私は車酔いとか船酔いとか一切しない人間なんで、大丈夫だよ。韓国の旅はバスが便利だよ。本数は多いし、安いし、座席が広いしさ」
太郎「どれくらい安いんすか?」
貢「行きは12900ウォン、帰りは9700ウォンだった。ちなみにウォンの値段は大体日本円の十分の一くらいだと思ってね」
太郎「え?それじゃあ、帰りは1000円しないくらいだったってことっすか?100km以上走ってそれだっていうのは安いですねえ!」
花子「なんで、行きと帰りで値段が違うの?」

貢「なんでだろうね?私もわかんない。」


太郎「え?こころ当たりは無いんですか?」
貢「行きがソウル南部高速バスターミナルから直行で儒城に行ったのにくらべて、帰りは儒城から大田経由で東ソウルのバスターミナルに行ったんだ。そのせいで値段が違うと思うんだけど、それにしてもこの値段の違いは不可解だよね」

花子「ところで、温泉地ではどんなところに泊まったんですか?」
貢「一泊目はテオンジャンホテルっていう旧式のホテルに泊まったんだ。『地球の歩き方』にも紹介されたわりかし有名なホテルみたいだね。料金は一泊33000ウォン。ホテルの中に温泉があるんだけど、宿泊客は2500ウォンで入れる(一般客は5000ウォン)。」
太郎「宿泊客はただ・・・ってわけじゃないんですね」
貢「うん。一階のフロントで入浴券を買わなきゃいけないのが面倒だった」
花子「それで一日泊まっただけで、別の宿に移ったんですか?」
貢「いや、別にそういうわけじゃないけど。風呂は私がまわった中では一番良かったからね(管理人はテオンジャン以外にも、サンアモーテルやスパピアホテルの大浴場に入っています)」

花子「じゃあ、何で別の宿に移ったの?」
貢「風呂よりも部屋に不満があってね。部屋は広くて良かったんだけど、窓からの景観が悪かったり採光が悪くて暗かった。一階がコンビニだったから夜も外の明かりがまぶしかったりとか(窓にカーテンはありませんでした)、大通りに面していたので車の音が夜もうるさかったりとか・・・(これらの条件は、部屋の位置によってクリアできます。テオンジャンホテルに泊まる方は、大通りに面した正面側より裏側の部屋をおすすめします)。あとは、シーツを毎日替えていないのか、ベッドの上にほこりがたまっていた。それから、浄水器が各部屋ごとに無くて、いちいち外に水を汲みに行かなければいけないのが面倒だった。ああそれから、エレベーターが無かったから、重たい荷物を抱えたお客さんは大変だと思う」
太郎「西さん・・・チェック厳しいっすね」
貢「うん。我ながらわがままだと思う(笑)。でもフロントの従業員は親切で良かったよ」

花子「それで・・・、次の宿に行って良かったの?」
貢「うん、もちろん。二つ目の宿はキャピタルモーテル(캐피탈모텔)っていう名前でね、一泊3万ウォン、1ヶ月で40万ウォン。」
花子「1ヶ月単位で泊まる人なんているの?」
貢「いるみたいだね。1ヶ月40万ウォンは安いと思うよ。この宿は本当におすすめ!場所はケリョンスパテル(後述)の向かい側なんだけど、大通りから少し入ったところにあるので、夜中車の騒音に悩まされることはまず無いね。3枚目の写真を見てくれればわかると思うけど、南向きの部屋は採光が良くて昼も明るいんだ(ただし北側の部屋はビルの谷間になるので、おすすめできません)。部屋の清掃は毎日やってくれるから綺麗だし、浄水器は各部屋ごとにあってティーカップも置いてある。お茶っ葉だけ近くのコンビニで買ってきて、毎日お茶を飲んでたよ。それから、エレベーターまでついていたのは驚いた。3万ウォンの宿にしてはとても良かったよ」
太郎「へえ、そうなんすか・・・」

花子「ところで、4枚目の写真は何の自動販売機なの?」
貢「・・・なんだと思う?」
花子「わからないから聞いてるんですけど?」
貢「答えから言うと、『コンドームの自動販売機』。性病予防のためにこういうものを置いてるのだそうな。」
花子「あらま・・・!」
貢「正確なことはよくわからないけど、500ウォン硬貨二枚を上のコイン入れに投入すると、下の口からコンドームが出てくるみたい。」
太郎「それで、下の袋に使用済みのものを入れる・・・ということっすね」
貢「多分ね。韓国のモーテルではよく置いてあるものだよ」
花子「・・・韓国のモーテルって、エッチなことするとこなんですか?」
貢「全部のお客がそういうことに使うわけじゃないけど、ラブホテル代わりに使うお客も多いみたい。だから大抵のモーテルは駐車場が見えにくく作ってあるし(入るところを見られないように)、トイレの照明が真っピンクだったりすることもある。風俗の広告が大量にあったり、AVビデオが貸し出せたり、テレビでAVビデオが流されていたりすることもある」
太郎「キャピタルモーテルもそういうところだったんですか?」
貢「いや。キャピタルモーテルは、コンドームの自動販売機が置いてある以外は、健全な雰囲気だったよ」
太郎「そうですか・・・」

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(上写真)ハノイの歴史博物館でもらったパンフ

第五章、出発の朝
 朝の八時前にホテルを出た。
 ホアンキエム北のバス停からノイバイ国際空港行きのバスに乗るためだ。
 ベトナム航空からリムジンバスに乗れば2ドル(3万ドン以上)だが、ハノイ市の路線バスに乗ればわずか2千5百ドン。破格の安さだ。
 ノイバイ国際空港はハノイ市の端にあり、車で大体五十分ほどかかる。私はバスの座席に座りながら、漫然と外の景色を眺めていた。紅河デルタの青々とした稲作地帯が、小雨にけぶっていた。
 私はふと昨日のことを思い出した。
 昨日私はラン・フウンに連れられハノイの西にあるバクニン省に行っていた。おそらく漢字は「北寧」とでも書くのだろう。
 ラン・フウンはバイクが運転できないため、バスでバクニンまで行き、その後はバイクタクシーに三人乗りして(やればできるものである!)あちこち回った。
 帰りのバスの中で「またベトナムに来てね。あなたがもう一度来たときには私もヴァンも、マイチーも、みんな結婚してるかもしれないけど・・・」と彼女はささやいた。
 ――「結婚」――、この言葉が私を現実に引き戻した。そうだ、彼女達はもうそんな年なのだ。周りがどんどん大人びていく中で、自分だけが取り残されているような気がした。
 バスを降りると、彼女は私の手を引いて歩いた。
 「このあたりは物騒だから。」と、手に力がこもっていた。
 「じゃあ、さようなら。」と言ってフウンは雑踏の中に消えていった。
 あの後彼女は職場へと向かったのだろう。
 ここで出会ったベトナム人達と、次に会うのは何年後になるのだろう。もう一度紅河デルタの地を踏むのは・・・。
 バスは10時前にノイバイに到着した。早く来すぎたような気がする。まだ手続きも開始されていない。
 ぼんやり新聞を眺めながら回想に耽った。
 ハノイの20日間。
 長すぎたようで私には短く感じられた。
 ある日本人観光客はハノイは三日で飽きたというが、私には20日でも足りないぐらいだった。
 入国のときの胸の高鳴りは今でも忘れられない。飛行機が少しずつ高度を落とし、雲間からベトナムの山野が見えてきたとき、「ああ、私は異国に来たのだ」と、叫びだしたいような衝動に駆られたものだ。
 今、そのときと同じ空港からまた飛び立とうとしている。
 手続きは意外に早く終わった。
 来るときは恐く見えた係員達も(いかにも共産党といった制服で、にこりともしない)、帰るときには優しく見えた。
 飛行機に乗り込むと、新聞には「台湾総統に陳水扁が当選、連戦・宋楚諭が選挙無効を主張」という見出しの記事が載っていた。
 陳水扁、といえばこの前撃たれた人・・・、何故かおかしくなった。
 私がぼんやりしてる間にも世の中は動いてるな、と思って外に目をやると、飛行機が少しずつ動き始めたところだった。
 加速をつけて機体がふわりと宙に浮いたかと思うと、そのまま春雨の雲に突入した。ハノイはあっという間に雲の中へと消えていった。
 また、現実に戻るのかな、と思った。
                  (完)


あとがき
 これはベトナム旅行をした2004年に書いた旅行記です。
 とある同人誌に載せたところ、意外に評判が良かった記憶があります。
 「西貢」というHNも、この時のペンネームに由来しています。
 思えば、この時から、私は旅行記を書くようになったのでした。                 

第四章、トゥーとチャン
 フンが私をバイクに乗せて、集合住宅の前で下ろした。外にはしとしと雨が降っていた。
 フンは勝手知ったる我が家のようにズンズン奥へと入っていくが、私はここぞとばかりに遠慮して日本人らしさを発揮していた。
 20代前半の聡明そうな女性が私を中に招き入れた。ベトナム人に多いすっきりした感じの美人である。
 彼女の名前はトゥーという。フンの友達だそうだ。
 「Is she your lover?(彼女はあなたの恋人?)」と後で聞いたら、フンは「No!」と否定した。そういう関係ではないらしい。
 彼女の家が何階建てなのかはわからないが、一階には茶の間と台所があった。二階以上に寝室があるのだろう。
 台所ではトゥーのお母さんが料理をしており、茶の間にはトゥーより背の高い女の子がいた。
 彼女の名前はチャン。トゥーの妹である。日本語を勉強しているという。
 この家には彼女が書いたと思われる「おかあさん、おたんじょうび おめでとう」という文字や「あかさたな」の五十音表が散見された。
 「はじめまして」とチャンが綺麗な日本語で話しかけてきた。
 「はじめまして、」と私が返す。
 聞くところによるとチャンは半年前に大学に入学し、それから日本語の勉強を始めたという。わずか半年しか勉強してないわりには彼女の日本語はうまかった。
 日本語を誰に習ったのか、と彼女に尋ねた。彼女は水島さんだと言い、知ってるかと付け加えた。私は知らないと答えた。
 日本に行ったことがあるかと尋ねたら、ない、でもいつか行ってみたい、と答えた。
 日本に来たら私が歓迎するよ、と言って少し陰鬱な気分になった。
 豊かさの違い―――それは私たち二人の間に厳然と存在していた。
 海外に遊びに行ける日本人と、母国の外に出られないベトナム人。
 わずか一握りの選ばれた者達だけが祖国の壁を越えることができる。
 彼女はその壁を越えることが出来るのだろうか。もし越えて日本に来たとしても、そこで祖国ベトナムの後進性をまざまざと見せ付けられることになるのだろうか。
 トゥーが食事を運んできた。もう夕食の時間である。床の上に食事を盛った皿が並べられ、みんなが車座になってあぐらをかいた。私だけが正座をしていた。
 「その座り方は何なの?」とチャンが目を丸くした。これが日本のフォーマルな座り方なんだよ、と説明したら、「でも私にはできない」と悲しそうに足を組み替えていた。
 日本にあぐらは無いの、とチャンが言う。
 「あるにはあるけど・・・」どう説明したらいいのかわからない。私の下手な英語ではなおさらだ。
 食事が始まった。私は元来食べるのが遅い性質なので、なかなか箸が進まない。それを見かねたのかトゥーが口を出した。
 「このご飯はどれもおいしいんだから、遠慮せずにもっと食べなさいよ。」
 どうやら遠慮してると思われたらしい。
 「I know, I know.(わかってる)」と答えて再び箸を動かす。
 茶碗があくともう一杯食べるかと聞かれ、トゥーのお母さんがあんまりうれしそうにおかわりを出してくれるものだから、四杯も食べてついに音を上げた。
 食事が終わるとトゥーがホットレモンティーを出してくれた。やはりLiptonだった。
 ベトナムではLiptonが紅茶の代名詞のようになっている。喫茶店などでLipton印が無いことはまず無い。
 「ホアンキエム湖はどうして湖なんだろね。」と私が言った。
 「どういう意味?」とトゥーが答える。
 「あんなに小さいのにLake(湖)というのはおかしくない?せいぜいPond(池)じゃない?」
 「昔はもっと大きかったんだけどね。」フンの答え。「だんだん小さくなって今のようになったんだよ。」
 ホアンキエムとはハノイの中心部にある湖(大きさからいえば池)である。漢字で書くと「還剣」。
 ベトナムの英雄レー・ロイ(黎利)がこの湖の亀から剣を賜り、それを使って北からの侵略者を追い払った。
 このことを記念して、彼は湖に亀の塔を建て、それが今のハノイの顔になっている。
 「池と湖では、大きさだけじゃなくて用途が違うんじゃないかな。」という新説をトゥーが発表した。
 「池は飲み水を汲んだり洗濯したりする所だけど、湖は見るものなのよ。」彼女はふっと髪をかきあげた。
 それでも私が納得できない様子を見て、「昔の人が使い始めた呼び方を今の人たちがそのまま使ってるだけでしょ、きっと。」と結論づけた。
 チャンはトゥーほど英語が得意でないためか、湖の定義論争には加わらなかった。
 お母さんに至ってはおそらく英語が出来ないからなのだろう、ただ私たちのやり取りを微笑ましそうに見ているだけだった。
 「ハノイはどうですか?」とチャンから質問が出た。
 ベトナム人から何度この質問を受けたかわからない。その度に私は返答に窮するのであった。
 「日本と比べるとどう?」
 日本に比べると汚いし、うるさいし、排気ガスが多いし、所在無げに座ってるオッチャンが沢山いるし、・・・どれもマイナス評価ばかりだ。ただ、それがハノイの味であり、魅力でもあるのだが。
 「it’s very interesting・・・(とっても面白い)」と私は苦し紛れに答えた。
 何故?とチャンがさらに尋ねてくる。
 いよいよ返答に窮した私はこう言った。
 「ハノイには色々な人がいるから。シクロの人もいるし、パンを道端で焼いて売ってる人もいるし、靴磨きや物売りの人もいるし・・・」
 「日本にはそういう人がいないんですか?」
 「Yes,」と続けて、「日本はほとんどの人がサラリーマンで、とても画一的だから・・・」明らかに苦し紛れの発言である。
 「だからハノイはバラエティに富んでいて面白い。」
 「フーン、」気の無い返事の後、「西さんはベトナム料理で何が好きですか?」という質問が飛び出した。
 「えーと、フォー、ブン、チャオ、・・・それからバイン・ミー、ビッテット・・・」それ以上料理の名前が浮かんでこない。さっきの料理の名前すらわからない。
 軽く説明しておくと、フォーはうどんより細い米麺で、ブンは米で出来たそうめん、チャオはお粥、バイン・ミーはフランスパン、ビッテットは肉と野菜の鉄板焼き。
 「私は日本料理では天ぷらが好きです。」とチャンは言う。
 でも天ぷらは新しい料理なんだよ、と私が説明した。昔は天ぷらで油が悪くて死ぬ人もいたんだよ、と言うと彼女は驚いていた。あ、でも安心してね。今はもう大丈夫だから、と念のため付け加えた。
 「日本語は漢字がとても難しいんです。」
 へえ、そうなの?と聞くと、頷いて、「一番難しい」と言う。
 そうかな、でもね、と私が口を開く。
 「ベトナムにも漢字がたくさんあるじゃない。」
 これは事実である。実際ベトナムの寺院やお守りには漢字がたくさん書いてある。また、普段使っている皿にも、中国風の女性像と共に「麻姑献寿」の四文字がよく書いてある。かつてのベトナムは日本以上の漢字大国だったのだ。
 しかしクォック・グー(国語)の普及と共に漢字が駆逐され、嘆かわしい事に漢字の読めるベトナム人は今ではほとんどいない。
 「日本語を勉強する、しないに関係なく、漢字は勉強しておいたほうがいいよ。漢字を勉強することでベトナムの文化を知ることにもなるからね。」と英語で言ったものの、誤解を与えてしまったようだ。
 「漢字」を英訳するとChinese characterだが、この言葉はまことに都合が悪い。まるで漢字が「中国の文字」という印象を与えてしまうからだ。
 ベトナム人の対中意識はあまり良くないのではないかと思う。
 ベトナムの歴史は中国王朝の支配と侵略を抜きにしては語れない。ベトナム最初の王朝と言われるのは10世紀の呉朝であるが、それまでハノイを含むベトナム北部(これが狭い意味でのベトナム)は中国王朝の長い支配下にあった。つい25年まえには中越戦争が起こっているし、後漢と戦ったハイバー・チュン(徴姉妹)が民族的英雄としてもてはやされている国である。対中感情が悪いとしても何の不思議もない。最近では中国の経済躍進のためベトナムは圧迫感を感じていると言う。
 フンが思い出したように口を開いた。「今中国がどんどん経済成長してるだろ。そのうちアジアは日本陣営と中国陣営に分かれるような気がするよ。」そうなったらベトナムはどうなるんだろう、と言いたげな口ぶりだった。
 「それはない。」と私は何の根拠もなしに言った。そうなってほしくない、と思った。
 軽はずみにChineseという単語を繰り返していたことを悔いた。もう少し慎重に使うべきだったかもしれない。
 「そろそろ時間も遅くなったから・・・」とフンが立ち上がった。トゥーも明日テストがあるから、と二階に上がっていた。
 そろそろ立ち去るべき時が来たと感じた。
 「Cám ơn(ありがとう)」や「Tạm biệt(さようなら)」と下手なベトナム語で連呼すると、「君がベトナム語を覚えるのが早いか、チャンが日本語を覚えるのが早いか競争だな。」とフンがからかった。
 見送りに出てきたトゥーが「西さんはバイクを運転しないの?」と尋ねた。
 「運転できないから・・・」と言うと、「やればできるから、やってみなさいよ。何事もチャレンジよ。」とやりこめられた。
 しかしいくら生命保険をかけているとはいえ、命は惜しい。おとなしくフンに運転してもらった。
 フンは私をバイクの後ろに乗せて夜のハノイを走った。
 ホアンキエムの亀の塔が見えてきたとき、もう少しで日本に帰らなければならないのだなと思った。ちょっぴり淋しい気がした。

                     (続く)

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