河内の樹々

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 夜話し うさぎのうどん屋

男は千日前にある、立ち飲みの居酒屋で話を聞いた。
満月の夜、街角に現れる屋台のうどん屋、
その屋台の品書きはうどんだけ、とても旨いがどこに出没するか分からないという。

師走も近い十二月の初め、男はおでん屋で熱燗を三杯、行きつけのラウンジで、ビールと水割りを飲んで上機嫌で店を出た。
空を見上げると満月である。小腹も空いたのでうどんでも食べようと思い、屋台のうどん屋を探した。畳屋町筋を八幡筋、三津寺筋と来て、宗右衛門町を堺筋方面に探して歩く。しかしどこに屋台が出ているのか判らない。
この頃には小腹の空いたことも忘れて、タクシーに乗って帰ろうかと思っていた。
堺筋にはタクシー乗り場があり大勢の酔客で賑わっていた。
男は一軒の屋台を見つけた。ちょうちんも何も無い屋台である。屋台の前には古い木の長椅子があるだけの、質素な作りである。
屋台の横には、丸い小さな植え込みがあり、うどんの鉢を持った酔客がこちらに背を向けてうどんをすすっている。
屋台の中には四十代半ばの色白の女性が一人、うどんを温めている。品書きもないのでためらっていると、女は
「 月見うどんだけなんです、申し訳ありません」 と言った。
満月の夜の月見うどんも、風情があってよいと思い男は注文をした。
待っている間、手持ち無沙汰なので女を観察することにした。年は四十四、五才、色白で細面、一杯飲んでいるような、ほんのりとした赤い目が潤んでいる様でたいそう色っぽい。
後ろを見ると、植え込みのふちに座った客は小柄で猫背に見える。そして耳がすこし長いようにも感じた。
「 お待たせしました、月見うどん出来上がりました」
正面の女はニッコリ微笑んでいた。男は女に尋ねてみた。
「 月に一度、満月の夜しか店を出さないのは何故なのか?」
女は微笑んでいるだけだった。
しかし、この月見うどんは美味しい。
もう一杯お代わりをしようと注文すると、
女は「 特別にお酒をお出ししましょう」
と言って、冷酒をグラスに注いでくれた。
寒い時期に飲む冷酒は胃袋にしみ渡る
おでんやの熱燗、ラウンジのビールと水割り、そして冷酒、男は酔いが回ってきた。
その時、うどんを食べていた客が鉢を返しに来た。人間は一人もいない。背広やオーバーを着たうさぎだ。まさか、そんなことはない男は深酔いのせいであって欲しいと思った。
それから男は飲みに出るたびに屋台を探すのでした。   おわり

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