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第一話 永遠に生きるサンゴ 本土から遠く離れたトアル村には、不思議な言い伝えがあった。 それは、永遠に生きるサンゴの話だ。 そのサンゴは産卵するわけではなく、200年に一度、親サンゴの枝の一部が枝分かれして、海底に着床した小さな枝が大きく育つという。 それを繰り返して、サンゴは巨大になっていた。 戦争が起きて、トアル村のあった島はその存在を地上から消されたが、その最後の生き残りだった老人の話を、誰も貴重なものとは思わなかった。 老人は「あのサンゴは大昔から生きているのじゃ。しかし、村にできた研究所の人たちが、その秘密を調べようとして切り取ってみたが、無駄じゃったらしい。それで、自然に親別れしたサンゴの小枝を齧ってみるかと、村では噂しあったものだ。どうじゃ、今年が200年目じゃ。誰かサンゴの小枝を拾いに行く者はおらんか。」と言っていたのに。 そして今日はサンゴの枝分かれの日。 永遠に生きることのできるエネルギーが詰まったサンゴの小枝が、海底を浮遊している。 第二話 秘密のナナナ研究所 冬も間近なのに、まだ、セミの声が聞こえる。 ここは、とあるところにある秘密のナナナ研究所。 森の真ん中にポツンと建つ白亜の研究所で、年老いて腰の曲がった老人と頭の禿げ上がった老人がコーヒーを飲んでいた。 頭の禿げ上がった老人が言った。 「博士、あのセミはもう50年も生きているのですから、やはり博士の研究は成功したんですよ。永遠に生きるサンゴの小枝から抽出したエキスがセミを長生きさせているんです。」 このセリフを、助手と思しきこの老人はもう45年も言い続けていた。 博士と呼ばれた老人は、いつもなら 「そうだな。しかし、たった数十年ではまだ永遠とは言えない。」 と答えるところだ。 だが、今日の答えは違っていた。 「そうだな。そろそろ人体実験でも始めようか。」 と曲がった腰を伸ばし伸ばし言ったのだ。 年老いた助手の目が星のようにまたたいた。。 「博士、是非、私に永遠に生きるエキスを注射してください。」 熱意のこもった声に博士は驚いた。 「いやいや、ブルータス君、それはできない相談だ。それなら私が被験者に・・・。」 そのときだった。グラグラッと揺れが始まり、二人が逃げ惑っているうち島中が揺れて、ナナナ研究所は倒壊してしまった。 二人の老人はどうなったのか定かでない。 揺れが収まった後、ナナナ研究所の瓦礫の隙間から、大木に向かって飛ぶ小さな黒い影が、青空をよぎった。実りの季節を過ぎた、森の中で。 第三話 噂 トアル国の秘密のナナナ研究所が倒壊してからしばらく後、近くの村で奇妙な噂が立った。それは、冬支度を始める頃だというのに、森から聞こえるセミの声に起因する。 村人は、立入り禁止区域にあったナナナ研究所が作った長生きするセミではないかと、寄るごとに噂しあった。 「あのセミを捕まえれば、お金になるかもしれん。」 虫取り網を手にして森に分け入る村人の耳に、セミの声はいよいよ大きくはっきりと聞こえる。 「あ、いたぞ、そこだ。そこの大木の上に・・・。」 若者が一本の大木を指差した、そのときだった。 「スパイか。」 しゃがれ声ながらも鋭い語調で現れたのは、薄汚れた白衣の腰の曲がった老人二人。「あのセミはわしらの永遠の命だ。お前らには渡さんぞ。」 恐ろしい形相で杖を振り回しながら、村人を森から追い出した。 「博士、あの村人たちは虫取り網を残して逃げていきましたよ。」 「それは不幸中の幸いじゃ。どれ、ワシは腰が利かんので、お前がそれでセミを捕まえなさい。」 「博士、このごろ私も腰が痛くて伸ばせないのですが・・・。」 「ブルータスよ、お前もか。しかしワシは腹が減って死にそうじゃ。」 村を新しい噂が駆け巡る。 「秘密のナナナ研究所では怪人を作っていたらしい。その怪人は、セミが永遠の命だと言っていたそうだ。永遠の命は神が与えてくださるものでセミが与えるものではないのに。」 ・・・ ・・・。
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2008年10月01日
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