真夜中のガードマン

(元)警備会社に勤務する男の回想録/いーーっつも留守にしてスイマセン

事件の回想録

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16:音

 ある日、こんな相談を受けました。

「騒がしい学校から家に帰ってきても、母親の出す生活音がうるさくて
ゆっくり休めない」と言う。

私は彼女に言いました。

「では、こう考えてみて。その音が聞こえなくなってしまった時の事を。
その大切な人がいなくなり、聞きたくても、もう二度と聞けなくなってしまったら・・・」と。

時に私は、当たり前の幸せが見えなくなってしまい、そして振り返ったときに
(あの頃は幸せだった)と感じる事があります。

彼女にこの気持ちが少しでも伝われば良いな・・・と思いました。

15:とある一日

 平日の午後、クライアントの船舶設計事務所から緊急信号が発生。

巡回中に連絡を受けた私は現場へ出動しました。しかし、狭い路地がいくつも重なり合い
カーナビ君も悩んでいる始末。

(うわ〜、ゼンリン、ゼンリン!!)と地図を開いて調べていると前から
赤ちゃんを抱いた女性が歩いて来ました。即座に窓を開けて道を訪ねる事に・・・

女性は少し(と言うか、かなり)焦っている私に、やさしく丁寧に道を教えて下さいました。
やはり赤ちゃんを育てている方は母性愛が強いのでしょうか?
ほんの束の間ですが、忙しない日々を送っている私の心は不思議と癒された感じがしました。

早速、教えて頂いた道をたどってクライアントの事務所へ。

入り口のインターホンを鳴らすと直に中年の男性が顔を出し
「あ、今お宅の会社にも連絡したけど、間違えて警報鳴らしただけだから」と言われました。

「そうですか、何よりです。スミマセンが決まりなので身分を証明して頂けるモノを
拝見させて・・・」

説明も最後まで聞かず、男性はめんどくさそうに運転免許書を出しました。

「あ、はい、それでは拝見させて頂きますね」

私が住所などを確認していると男性は

「あのさぁ、入り口を開けているとほこりが入ってくるんだよねぇ、もうイイだろぉ」

「はい、確認させて頂きましたので・・・」

(バタンッ!!)

また男性は私の言葉を最後まで聞かずに、入り口を締めてしまいました。

(まあまあ、こういう方もよくいます。警備員を目下に見ている方もいますし・・・)

私は、ちょっと傷付いた事を自分で気付かないフリをして車に乗り込みました。

(さあさあ、帰ろう、帰ろう〜っと)

何も無かったかの様に振舞ったのですが、やはり自分の心は騙せません・・・。
既に動揺して本部に報告する事も忘れていました。

私は通りがかった公園の脇に車を止めて、本部に連絡をする事に。ついでにタバコも一服する事に。

すると、知らない間に数人の子供達が、開けっ放しの助手席の窓からこちらを覗いていました。

「なあなあ、変身できるの?」「車に乗せて〜!」「腰に付けてるのは武器なの?」
と大きな声で質問攻撃を受けて仕舞う始末。公園内に居たママさん達も笑って見ていました。
その中に、先ほど道を教えて頂いた女性も・・・(なんか恥ずかしい〜!)

少し日が陰り、もうすぐ夕日が出てくる中で、屈託の無い子供達の笑顔と笑い声、そしてそれを
見守る母親達のやさしいまなざし・・・

私はそれ程、正義感が強い人間ではありません。
しかし、この平和な風景が、このやさしく心を癒してくれる時間が、いつまでも続くならば
私の様な人間でもお役に立ちたい・・・。

そんな事を思う一日でした。

14:お茶飲み仲間

警備員の仕事には、雑居ビルなどに駐在して受付を兼ねる職種もあります。

私の会社にも駐在専門の部署があり、大半は定年退職されたご年配の方が
再就職としてこの警備に就かれています。

私と部署は違いますが、彼らの待機部屋を通りがかると、よくお声を掛けて頂き
お茶を飲みながら世間話をする事があります。それぞれ色々な職種に就かれていた方々なので
人生経験も豊富で、中には一流企業の部長職をしていた方もいらしたりと
話を聞いているだけでも楽しいです。また、この部屋はタバコを自由に吸えたので
愛煙家には、ありがたい場所となっていました。

社員の中には「定年後の暇つぶしに働いている年寄り達」などと言う輩もいますが
私は密かに尊敬しています・・・それはある出来事がきっかけでした。

夜の10時を過ぎた頃、駅近くの雑居ビルに駐在している警備員から、応援要請の連絡が
車内無線に入りました。内容は(ビルに入っている同じ会社の社員同士がもめて
騒ぎを起こしている)という事でした。

現場に着いてみると、受付には警備員の姿が見当たりません。しかし3階の窓だけ明かりが
ついているのをビルの外から確認していたので、早急にエレベーターで3階へ向かいました。

階に着くと、奥の事務所から廊下に怒鳴り声が漏れていました。

私はドアを開き、事務所内を見ると、そこには書類やファイルが床に散乱している中で
すでにうずくまってる男性の前に立ち、4人の加害者であろう若い男達から
1人で守っている駐在警備員の姿がありました。

その表情は、いつも一緒にお茶を飲んでいる時とは違い厳しく、眼光さえ鋭く感じます。

彼は私に気付くと、うずくまっていた男性を立ち起こしました。私もすぐに手伝い
2人で男性の両脇を抱え、事務所を出ようとしたその時、男の1人が
「お前達のような他人には関係ないだろう!!」と怒鳴りました。すると駐在警備員は
「私達は、このビルの所有者から管理を任されている・・・理由はわからないが
暴力沙汰を見過ごす訳にはいかない」と、キッパリ言いました。

やはり長年、人の上に立っていた方の口調は、私のような若造と厚みが違います。
男達もそれ以上は、何も言い返してきませんでした。

私達はとりあえず受付の警備室に戻り、男性に救急病院へ行く事を勧めましたが
彼は大丈夫だと言うので応急処置をした後、タクシーに乗せて見送りました。

3階に残っていた男達は、いつの間にか裏口から出て行ったようでした。きっと私達のいる
受付を通りにくかったのだと思います。せめてそれが罪悪を感じての行動だと考えたいです。

その後、この会社事務所の一角は空き部屋になりました。少し前に問題を起こし
名前を変えて営業している某金融会社です・・・。

それにしても年季の違いを感じました。さすが酸いも甘いも乗り越え、定年まで勤めて来た方々です。

普段は静かでも、いざとなった時こそ頼りになる人間・・・

私はまだまだ経験不足ですが、出来るだけ近づいて行きたいと感じました。

そんな思いを心に秘めながら、今日も彼らとお茶を飲んでいます。

「ストーカー」・・・という言葉を聞いて想像すると、危険で気味が悪い人間。

このような想像をされる方が多いのではないでしょうか。

しかし私個人の経験から答えると「ストーカー事件」の殆んどが人間関係のもつれから
始まっていると感じます。

「ストーカー」という言葉はアメリカからの外来語ですが、日本とは多少意味が違います。
実際には被害者と全く交際が無いのに、妄想の中だけで恋人になっていたり
被害者が自分の事をいつも見ていると思い込み、妄想と現実の区別がつかなくなった時
その被害者に異常に付きまとったり、住まいにまで押し込んだりと行動に出てしまう・・。

もちろん、日本でも「妄想ストーカー」はいますが、恋愛や片思いのもつれから
(付きまとい)を始めてしまう事が圧倒的に多いと感じます。

実際にその現場を見ていないマスコミが、このような事件を全て「ストーカー事件」と伝えていますが
私は時々(これで良いのか?)と疑問に思う事があります。

近年、ストーカー対策は警備会社にとって、最優先課題と言っても過言ではないでしょう。
その方法は、捕まえて説得する、場合によっては脅しを掛ける(極端な例です)住所氏名を
聞き出す、相手が危険人物とみなした時は即、警察に通報する。
そして一番大事な事は、被害者との怨恨を断ち切り、再発を防止する事です。

この話は、私の心に残っている"ストーカー事件"の1つです。(プライバシー保護の為、要約します)

私が”ストーカー”として捕まえた男性は、”被害者”となる彼女と一年近く、お付き合いを
していました。あるとき彼女の部屋で、元カレとベットで抱き合っている写真を見つけてしまいます。

その日から男性は、彼女に対して冷たくなり、別れを悟った彼女は自分から身を引きました。

男性はすぐに後悔し、彼女とよりを戻そうとしますが、携帯もメールもつながらず、仕方なく彼女の車の
ワイパーに手紙を挟んだり、バイト先で待ち伏せしたりしますが、話してもらう事ができずにいました。

その頃、彼女は女友達に相談し(この”女友達”というのが話を大袈裟にし、ややこしくなる事も・・)
男性を”ストーカー”と認識するようになります。

その後、彼女は父親に事情を話し、その父親が警備会社に依頼をし、そして私が男性を捕まえ
一連の事情を聞き出しました。もちろん彼女からも、前もって事情は聞いていましたが・・・。

私が率直に感じた事は、もっと普通に二人が話し合っていれば、こんな大事に
至らなかったのでは、と思うのです。

そして、”ストーカー”という言葉だけが一人歩きし、皆がその言葉の響きや想像に
踊らされているのでは・・・と感じるのです。

もちろん犯罪的な本物のストーカーも実際にいますが、この事件に関しては、お付き合いを
していた当時から事件に至るまで、男性は彼女に対し一度も暴力的な言動も行為も振るった事は
ありません。この事は彼女の方からも確認しています。

一体、誰がこの騒動の原因を作ったのでしょうか?

桶川シンドロームを作りあげたマスコミ・男性・彼女・女友達・父親・警備会社?・・・。

私は、なにか人間関係の希薄さが罪無き”ストーカー事件”を生んでいるような気がするのです。

 「皆様、改めましておはようございます。この度は、○○○○(旅行会社名)を
ご利用頂きまして、誠にありがとうございます・・・」と、添乗員だった私は、バスの中で
マイクを持って、お客様にご挨拶をしていました。

もう、懐かしくなるほど過去の仕事風景です。

私の人生を変えたと言っても過言ではない人物、M部長との出会いは
警備会社の社員旅行を担当した事から始まりました。

旅行も無事に終わり数日経った頃、M部長から突然、お食事の誘いを頂きました。
もちろん、私にとっては大事なお客様だったので、断る理由はありません。

早速、その日の夜に約束をし、お会いました。

当時、私が知っているM部長の知識といえば元警察官、寡黙と言うよりは余計な事を
話さない人・・・といった位でしょうか。

まずはビールで乾杯をし、ゆっくりと話し始めました。

「わかば君は、何かスポーツをやっていたのかね?」

「ええ、陸上と小学生の時には空手を6年やっていました。そう見えないと思いますが・・」

「いや、なんとなく分かるよ・・動きや、筋肉質なところで」

「スーツを着ていても、分かるものですか?そう言われたのは初めてです」

「陸上は大学まで続けたの?」

「あ、いえ、17才の時に左足の靭帯を切って止めました・・それに、将来の夢もあったので」

「どんな?」

「その・・笑われるかもしれませんが、生物学者になりたいな・・なんて思っていました」

「ダメだったの?」

「はい。理系の大学に入ったまでは良かったのですが、事情により中退しました」

その後、酒に酔っていた私は大好きな生物学の話を少々、語ってしまいました。クロマニョン人の話や
恐竜は絶滅したのではなく、鳥類に進化して生きている事など。今考えると、お恥ずかしい・・。

「おもしろいね・・」

「ですよね、生物学って謎がいっぱいあって・・」

「いや、君の生き方がおもしろいね・・・・・・うちの会社に入らないか?」

「ブフォッ!!」

余りにも唐突な言葉に、私は飲みかけていたビールを噴出してしまいました。M部長は
「一週間以内に身の振り方を決めて連絡してくれ」と言い、その日は別れました。

それからの一週間、私は眠れないほど悩みました。そして、約束の一週間を過ぎても決められず
とうとう連絡をする事が出来ませんでした。社会人として最低な選択だったと思います。

次の日、私は怒られる覚悟を決め、携帯を手に持って電話しようとしていたところに
M部長の方から先に、連絡が着てしまいました。

(もう完全に終わった・・最悪だ・・罵倒される・・)そう思いながら携帯を耳にあてがうと
意外な言葉が聞こえてきました。

「どうした?決まったのか?」

「い、いえ、決める事が出来ませんでした・・申し訳ありません」

「それでいいんだよ、何年もお世話になった会社を、すぐに辞められる人間なんて信用出来ないし
それに、うちの会社に入ったとしても、すぐに辞めてもらっては困るからね」

私はM部長の言葉を理解するのに多少、時間が掛かりました。確かに警備会社の社員には
ある程度の守秘義務が課せられます・・・人物名やシステム情報の事など。

義務感と信頼関係・・・。

その意味が理解出来た時、私は一週間悩んだ答えを決めました。その答えはもちろん・・・!!。

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