穴あき日記〜奈良漬のブログ

『熊楠と猫』発売中!/ツイッターID:@NarazakeMiwa

全体表示

[ リスト ]

山中の大きな頭の女

柳田國男は日本の民俗学を築いた人物としてよく知られています。
その柳田は大正期に主宰していた雑誌『郷土研究』でさまざまな名前を使っていました。
川村杳樹・尾芝古樟・中川長昌・久米長目その他、いろいろとあります。

さて、『郷土研究』第4巻11号(大正6年2月)には久米長目の名で「山人外伝史料」という論文を掲載しています。
これは日本民族以前に本土に居住していた民族の存在を論じたもので、後世、山人(やまひと)として目撃される異人を古代の民族の末裔として捉えてるものです。
この論自体、のちに柳田自身、否定するものですし、発表当初から、たとえば南方熊楠(みなかた・くまぐす)などによって批判されておりました。

この内容については今はおいておきます。
久々に今日読み返していたのですが、ふと、面白い記事を引用していることに気付きました。
それは『奥相志』という幕末の地誌に載っているものです。

磐城相馬郡(今の福島県)の山中に猟師が入り、暁ごとに笛を吹いて鹿の来るのを待ちました。
ある日、笛を吹くと、大きな音がしたので大鹿が来たのだろうと思って鉄砲を手に待ち構えていました。
すると、藪の中から女の頭が出てきました。
大笊(おおざる)のような大きな頭で長く乱れた髪を地に曳いていました。
女は猟師を見て微笑みましたが、その様子が恐ろしくてなりません。
大急ぎで家に逃げ帰りました。
猟師は山神が殺生を戒めるために脅かしたのだと村の古老から諭され、狩猟をやめました。

ところで『醍醐随筆』にこんな話が載っています。

土佐の山奥で鹿を獲ろうと、鹿笛(ししぶえ)を吹くと、俄に山鳴り騒ぎました。
何か来ると思い、鉄砲を手に待ち構えました。
すると、普通の頭3つ4つ分くらいの女の頭が見えました。
首から下は見えません。
女はまわりを見まわしてまた引っ込んでしまいました。

猟師が鉄砲を手に、一人で山奥に鹿狩にいくこと、
鹿笛を吹くこと、
頭の大きな女が現れること、

これらの点でこの2話が似ています。
『醍醐随筆』は17世紀後半の本。
『奥相志』は幕末の本。
関係があるとすれば、『奥相志』の記事が『醍醐随筆』の説話に基づくということでしょう。
しかし、このほかにも類話があるのかも知れません。
山の神を女神とする地域は日本に多く、あるいはこれらは山の神の目撃談なのかも知れません。
でもなぜ大きな頭をした女なのでしょう。
不思議なことです。
猟師は山中でこうした神秘的な出来事を少なからず体験しているものなのでしょう。


※異類の会の記事更新
『平家物語』における馬の記述からみえるものー『源平盛衰記』を中心にー
http://irui.zoku-sei.com/Entry/25/

閉じる コメント(11)

以前、吉野裕子氏著の“山の神”を読みましたが、蛇、或いは猪という説でした。色々な言い伝え、考え方があるのですね。実に興味深いです。

2010/7/27(火) 午前 0:02 ibiza_wine

顔アイコン

地方差は大きいですね。
動物の姿とみるところもありますけど、人間の姿とするところもあります。
三輪の神のように、本体は蛇ですが、人間の姿に変る神もいますね。
人間でも男女両方があります。
三輪明神は男ですけど、江戸の言葉で「山の神」といえば女を指すように、女神とみるのが一般的だったようですね。

2010/7/27(火) 午前 0:34 [ 奈良漬 ]

能面で“蛇”と言えば、怒りに満ちた女性を表していますよね。
山の神=蛇神=女神という考え方もありかもしれないですね。←なんて、思いついてしまいました^^

2010/7/27(火) 午前 0:51 ibiza_wine

顔アイコン

私は、この「笛」に興味を覚えました…、
笛を吹くことにより、何かが起こる、昔、遠野の笛吹峠にまつわる幾つかの昔語りを思い出しました…♪

2010/7/27(火) 午前 7:12 ビナヤカ

顔アイコン

保育園の頃に、かぼちゃを頭にのせて頭を大きくした女の幽霊の話を聞いたことがあります。詳しくは忘れてしまいましたが、結局漁師に退治される話でした。

頭が大きいで、思い出すのは、民俗芸能の仮面は、正面性が強く顔がすっぽり隠れるものが多いことです。何か関連あるのでしょうか。

しし笛は、ヒキガエルの皮だったり、鹿の胎児の皮を張ったもの、白樺でラッパのようにしたものなど、いろいろがあるようです。土佐で使われたしし笛はどのような笛だったのでしょうかね。いずれにしても、篠笛のようなすんだ音ではないのでしょう。

2010/7/27(火) 午後 9:53 [ カムイ ]

顔アイコン

>ibizaさん

山の神は恐ろしい女のイメージが古くからありますから、蛇も通じますねw

>ビヤナカさん

『遠野物語』にも笛吹峠の話が載ってますが、怪異の起きやすい場所だったのでしょうね。
笛の上手が鬼に魅入られる話は古くからあります。
在原業平にもそんな話があります。
琵琶の場合もありますが、ともかく、音楽が異界の者との接触の契機になると信じられていたんでしょうね。


>カムイさん

かぼちゃ女の幽霊の話、珍しいですね。
てゆうか、よくもまあ、保育園時代のことを記憶していましたね。
よっぽど怖かったのでしょうか。

仮面に大きなものが多いということ、気付きませんでした。
どういう意味があるんでしょうか?

しし笛は実見したことがないのですが、動物の皮など使ったものもあるんですか!
やはり文献を読むだけではダメなんですね〜。
勉強になります。

2010/7/27(火) 午後 11:01 [ 奈良漬 ]

顔アイコン

仮面の不思議なところは、能楽などの芸術系のものは、演者の顎がはみ出るぐらい小ぶりですが、民俗芸能のものは、大きいものが多いということです。仮面がかぶられる以前の、仮面自体を「魔よけに
する」という意識が残っている証拠なのでしょうか?

しし笛は、縄文時代から使用されていました。掃除機の吸い込み口のような形をしていて、平たいほうに皮を張って、共鳴させるようです。実際に聴いたことがないので、よくわかりませんが、下記のサイトの峰町歴史民俗資料館のところで、写真が見れます。
http://tabinaga.jp/drive/tsushima.php
参考までに、どうぞ。

2010/7/28(水) 午後 8:42 [ カムイ ]

顔アイコン

魔よけですか。
大きなもので威嚇するという働きがあるんでしょうかね。
大きな草履をかけることで魔よけにすることがありますが、それと似たようなものでしょうか。

しし笛の画像、みました。
なんだか不思議な形ですね。
山村の郷土資料館のあたりにいくと、意外と見つけられるかもしれませんね。
注意しておきたいと思います。

2010/7/28(水) 午後 10:39 [ 奈良漬 ]

顔アイコン

大きな面の謎はよくわかりません。ただ、韓国の仮面戯で使う仮面もわりと大振りです。大陸ともつながりがあるのかも。

しし笛などの楽器でなく、宗教的あるいは、狩猟で使う「音具」の類は、研究があまり進んでいないのが現状です。なので、謎が多い部分でもあります。

2010/7/29(木) 午後 9:30 [ カムイ ]

顔アイコン

仮面といえば、変装の道具としか見てなかったので、そういう信仰的な側面も考えていかなくてはならないんですね。
笛その他、鳴り物はそれぞれ象徴的な意味を与えられていますね。
法螺貝とか梵鐘とか…。
中世西洋史ではブリューゲルの絵画の分析からバグパイプの象徴性を論じたものもありました。
音は一回的なものでモノとして残りませんが、歴史を考える上でやはり重要な要素ですよね。

2010/7/29(木) 午後 10:46 [ 奈良漬 ]

顔アイコン

現代人は、道具の「実用性」のみに関心を持ちますが、本来その実用性に伴う「畏怖」や「羨望」という感覚が伴ったはずです。「笛」の甲高い緊張感のある音に神の降臨を感じたりしたのではないでしょうか。
民俗芸能では、同じ舞方でも、採り物を変えるだけで別な舞になるものがたくさんあります。その採り物自体の象徴性によって、舞の意味が変わるのでしょう。「刀」を持ったら魔を払い、「鈴」を持ったら神がかり、といった具合に。

2010/7/30(金) 午後 9:48 [ カムイ ]


.
奈良漬
奈良漬
男性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
友だち(2)
  • 太陽求めポチが行く
  • トーヤ
友だち一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事