穴あき日記〜奈良漬のブログ

『熊楠と猫』発売中!/ツイッターID:@NarazakeMiwa

全体表示

[ リスト | 詳細 ]

記事検索
検索
昨日、若い学友とのやりとりの中で、ポーランドのスモクの話からエストニアのピスハンドと呼ばれる小型の龍の話に及んだ際、ピスハンドはピスヘントが正しいのではないかとのご指摘を受けた。

エストニア語の表記はPisuhändである。
ウィキペディア日本語版で「ピスハンド」と立項されており、またPisuhändを取り上げている日本語サイトはいずれも同様に「ピスハンド」と記述している。
さらに英語サイトではしばしばPisuhandと、補助記号を省略した表記がされている。
それで、私も特に疑うことなく「ピスハンド」と呼んでいたのだが、指摘されてみて、確かにこれは不正確じゃないかと思った。
なるほど、たとえば作曲家のG.F.Händelはヘンデルであり、指揮者のW.Fultwänglerはフルトヴェングラー(or フルトベングラー)である。
しかしその一方で、同じ発音をする帽子のhatはハットであり、子羊の肉のlambはラムである。
/æ/のアルファベット表記がaだとア、äだとエという日本語表記の慣用があるのだろうか。
であれば、それに従ってピスヘンドとすべきなのだろう。
また、語尾の[d]であるが、これはエストニア語では無声化する。
語尾の[d][t]は無声音であっても「ト」と表記するのが外来語表記の慣用である。

そういうわけで、ご指摘の通り、ピスヘントとするのが日本語表記の慣例に則った最良のものであろうと思う次第である。

さて、そのピスヘントであるが、表記はともかく、日本語版ウィキでは次のように説明されている(抜粋)。

ピスハンド (Pisuhänd) とは主にエストニア(バルト地方)の民話に登場する小さなドラゴンである。トゥリヘンドともいう[1]。ドイツでは[要出典]プークと呼ばれる[1]

ピスハンドは蛇の体に4本の脚が付いた、非常に小さなドラゴンである[1]。翼もついていてドラゴンに近い描写もある。これへの信仰が元で、蛇が家を守る動物として広く崇められている。これを家蛇信仰という[要出典]
ピスハンドは宝を持ってきて(場合によっては隣家から盗む場合も)くれるのでしばしば「ゴブリン」としての扱いもなされる。この場合、ゴブリンと言っても善良なホブゴブリンという種族である[要出典]

[1]と注記された部分の出典はいずれもキャロル・ローズ著、松村一男監訳『世界の怪物・神獣事典  (シリーズ・ファンタジー百科)』 (原書房、2004年)である。
この書は未見だが、[要出典]として記述の典拠を求められている部分も本書の内容を反映しているのだろうか。
「ドイツではプークと呼ばれる」という記述もローズの事典に拠ることが[1]と注記されているが、なぜ「ドイツでは」の部分を取り立てて[要出典]にしているのかが分からない。
ウィキ閲覧者はこの記述によってローズの事典まで遡及できればよいのであって、ではローズがドイツではプークと呼ばれることを何に拠って記述したのかまで、このウィキの匿名ライターの文責とすることはないと思うのだが。
もっとも、ローズの事典も読まずにウィキの記述をとやかく言っている私が言うことでもないか…。
一応、この事典でドイツのプーク(Puk)がエストニアのPisuhandやPukje, Tulihand, Puukなど同種であるということが記されているらしいことは下記のサイトから窺われる。

ただ、後半の〈家蛇信仰〉という術語は寡聞にして聞かない。
訳語なのだろうか。
日本では蛇の信仰は蛇信仰とか蛇神信仰というのが一般的だろう。
霊的な蛇を蛇神、蛇霊という。
アオダイショウは家の守り神だが、そうした信仰を家蛇信仰というのだろうか。ちょっと不勉強で聞いたことがない。
「これを家蛇信仰という」と明言しているので、これこそ出典を示してもらいたいところだ。
また「ホブゴブリンという種族である」と記しているが、これもローズの事典にあることだろうか。
1913年にヴィルデというエストニア人作家が『Pisuhänd』という小説を発表した。
英語タイトル(いつの段階でついたのか不明)が「The Hobgoblin」という。
なので、ピスヘントをホブゴブリンと捉えるのは間違った認識ではないのだろう。

ともあれ、ピスヘントは蛇の姿であったり、ゴブリン(エルフとも)であったり、恐らく地域によって異なるイメージが
与えられてきたようだ。
ただ、その根本にあるのは古くからの素朴な自然崇拝であるようで、これがキリスト教が浸透する中でこのようなかたちで残っているのだと一般的には言われている。
ちなみにリトアニアにはアイトヴァラス(Aitwaras)というドラゴンがいて、やはり住む家に富をもたらす。
ふだん家にいる時は黒猫か黒い雄鶏の姿でいるが、外に出ると飛龍になるらしい(Encyclopedia of Beasts and Monsters in Myth, Legend and Folklore)。
大きさはよく分からないが、最初から小型の龍よりは、黒猫が龍に変身するほうがいい。

最後に、上にも出てきたが、ピスヘントについて調べているうちに、プークとかプクとかいうモンスターを知った。
これで思い起こすのは、数年前、エストニアの首都タリンを訪れたとき、旧市街の土産屋で奇妙な土鈴を見つけて買って帰ったことだ(下図)。
たしか、Pukといったかと記憶する。
ちょっと正確に思い出せないので、間違ってたらご寛恕願う。
もしそうであれば、これはドラゴンではなく、ゴブリンとしてのプークである。
宝を家にもたらすゴブリンであるから、縁起が良い。
そういうことで土産物として売られているのだろう。
今度行く機会があれば、しっかりモンスターのことを調べておきたい。
イメージ 1




smok=龍

龍はポーランド語でスモク(smok)という。
ウィキペディアにも立項されているが(https://pl.wikipedia.org/wiki/Smok)、日本語版に変更すると、「竜」のページに飛んでしまう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%9C)。
そこには、もちろんスモクのことは全く触れられておらず、中国や日本の龍の総論的な記述の域を出ない。
スラヴ語族では竜を「ズメイ」などと呼び、それについては日本語版でも充実した内容になっている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%83%A1%E3%82%A4)。
ちょっとこの辺りの知識が必要になったので、スモクの記述のうち、総説と語源の部分を拙いながらも訳出しておく。

【龍】
――空想上のクリーチャー、巨大で飛行する爬虫類の最も一般的なタイプ。
多くの神話や伝説、さらに文学、映画、ゲームに現れる。
多くの神話に描かれる龍は、火を吐くだけでなく、豊かな知性に恵まれ、魔術を使え、言語を解した。
これに加えて、財宝を持ち、または守った。

様々な龍のような動物が多くの文化の神話の中にいた。
龍は自然の力や四大元素、とりわけ火と空気を表象した存在だ。
龍もまた多くシンボリックな役割を担わされた。
幾つかの物語において、龍は人間に変身することができる。
典型的な龍は4本足を持っているが、しばしば2本足のワイヴァーンと呼ばれる龍のエンブレムに表される。

【語源】
ほとんどの欧州言語において、龍はギリシャ語drakanドラカン(鋭い眼)に由来する。
例えば英語「dragonドラゴン」、ブルガリア語「drakonドラコン」、ドイツ語「Dracheドラヘ」、チェコ語「drakドラク」。

ヴィエスワフ・ボリスは『ポーランド語語源辞典』(2005年)において「smokスモク」というのは汎スラヴ語であるという。すなわち、チェコ語「zmokズモク」、スロヴァキア語「zmok/zmakズモク/ズマク」、古代教会スラヴ語「smokъスモカ」など。
原スラヴ語「スモカ」は飛行する爬虫類の形態、もしくは人間の姿をとる神話的なクリーチャーだ。
もし「龍(スモク)」という語が原スラヴ語「sъmъkъサマカ」に由来するものであれば、スリップする、行く、上にあがる、どこかに着く、敏捷にどこかへ速くこっそり飛び越える、滑るといった動詞と組み合わせることができる。

疲れたので、ここまで…。
誤訳があればご容赦。
『擬人化と異類合戦の文芸史』の巻末に「異類合戦物一覧」として異類合戦を主題とした123作品を掲げている。
その本の校了後に新出の異類合戦物を知った。
個人蔵の写本で『魚類精進合戦』という。

今年の7月2日、名古屋大学で「『精進魚類物語』を読む」というワークショップが開催された。
題目だけ掲げておくと、次の通り。

「擬人名辞典編纂の試み―『精進魚類物語』を手がかりに―」(伊藤慎吾)
「資料紹介:架蔵『魚類精進合戦』」(塩川和広)
「『精進魚類物語』を読む」(畑有紀)

ここで『魚類精進合戦』に関する報告を聴いた。
書名をみて、精進魚類物の新出本かとだけ思っていたのだが、驚いたことに、赤本『うおがせん并しやうじんもの(魚合戦并びに精進物)』を利用して作った物語であったのだ。
これは近世前期の子ども向けの絵本で、今日、伝本が1本しか残っていない。
その意味でかなりレアな作品なのだが、その影響がみられるのだ。

そうすると、『魚合戦并びに精進物』は比較的よく読まれたものなのかも知れない。
しかし子ども向けの他愛もないものだから棄てられるものが多く、今に伝わらなかったのだという可能性も出てくるだろう。

『魚類精進合戦』は寛政7年(1795)に書写された作品である。
内容からみて、成立もそれをさほど遡らないものと想像される。
はやく翻刻公開されることを望むものである。

※「異類合戦物一覧」に以下を追加

対立勢力:魚・野菜
ジャンル:滑稽本
書名:魚類精進合戦
成立・刊行:寛政七奥(一七九五)
作者:(空欄)
備考:(空欄)



『擬人化と異類合戦の文芸史』(2017年8月)
伊藤慎吾著
三弥井書店刊行
A5判・並製・300ページ

前近代における擬人化表現の文芸史としてまとめたもの。
前半は総論。
後半は異類合戦物を取り上げている。前近代の日本の文芸において、擬人化キャラクターが登場する物語文芸(物語性の強い絵画も含め)として異なる種類同士(魚介類vs植物、淡水魚vs海水魚など)の合戦物語が主流をなしてきたからだ。

イメージ 1

序 擬人化の文芸史

擬人化の図像の型
近世擬人化キャラクターの甲冑表現について―複合体と着装型をめぐって―
異類・変化・擬人化キャラクターの造形―お伽草子の時代から―
『勧学院物語』の社会とキャラクター造形―高貴な雀の物語―
延年の開口の世界観

異類合戦物の表現
異類合戦物の展開
『万物滑稽合戦記』の価値
退治できない異類との戦い―対人型―
早物語と異類合戦物
付 歌謡・民間芸能・講釈

『精進魚類問答』―浄瑠璃風の精進魚類物―
『伝忘太平記机之寝言』―文具たちの談義― 
「猫狐合戦記」―漢文体の戯文― 

あとがき 
主要参考文献
主要語彙索引
幕末明治の頃の流行り唄に「ひとつとせ節」というのがある。
数え歌形式のもので、唄本(一枚摺から数丁の冊子本がある)として数多く作られた。
唄本を得意とする版元には江戸東京の吉田屋小吉や吉田栄吉などがいるが、地方にも小さな店がいろいろあったらしい。

たとえば小生の住む埼玉県下では、
・騎西の小林国吉
・騎西の稲橋アキ
・和土村(現・さいたま市岩槻区)の川島奥次郎
・大里郡妻留村(熊谷市、深谷市付近?)の高田亀吉
・浦和村(現・さいたま市)の小見野弥次郎
・田面沢村(現・川越市)の深野清七郎
など全く知らない版元が出している。
たぶん、卸売りなどをするかたわらで、唄本のような小冊子類を時々作っては頒布していたのではないかと想像する。
明治の本は版元の住所がしっかり記されてあるから、時間を作って現地に行き、あわよくば墓を探し出したい。

ちなみに、新潟に岡田信松という版元がいて、明治20年頃に集中的に10冊ほど唄本を出している。
新潟県中蒲原郡白根町というから、今の新潟市南区である。
僕の手元には「なすとかぼちやしんじよくどき(茄子と南瓜 心中口説) 上」という6丁から成る唄本がある。
これは他に伝本を聞かない珍本である。
内容はその名の通り、擬人化された茄子と南瓜の心中を歌ったもの。
巻末に「ほうねんまんさく(豊年満作)」と題した歌も収録されている。
新潟には、この他にも盛んに唄本を出していた版元が2、3ある。
瞽女唄といい、流行り唄といい、幕末明治期の越後の文化は面白い。

それはそうと、倉田隆延編『一ツトセぶし』(古典文庫)に「しんぱん女とうぞく三ヶ月お六」(明治27年)という面白い摺り物が収録されている。
刊記に福島県の上遠野(現・いわき市)の鈴木みの「著作兼発行」とあるから、この人が出版だけでなく、作詞もしたようだ。
原文は読みづらいので、適宜漢字を宛て、句読点を付けて載せておく(自分用)。

一ツトセ
広い御国(みくに)に名も高き、三ヶ月お六の物語、お話聞いても恐ろしいや。
二ツトセ
生れ故郷は仙台の北鍛冶町(まち)のま、おきつさん、五歳連れ子のお六さん、
三ツトセ
見れば優しき玉椿、小野小町か照手姫、年は十七、つぼみ花、
四ツトセ
世にも稀なるお六さん、母ときんじと三人で、父親、おきつを絞め殺し、
五ツトセ
いつまでこうしていられない。生まれし故郷をあとに見て、二本松さして急ぎ行く。
六ツトセ
無残や、母親おとしこそ、馴染みのきんじと娘にて、二人で母親刺し殺し、
七ツトセ
長くもいられぬ二本松、金の工面を一番と、質屋かんべい、忍び込み、
八ツトセ
やたらに家内を縛り付け、三千余りの金を取り、大阪さして急ぎ行く。
九ツトセ
ここは大阪北新地、今はおさととと名を変えて、林楼(はやしろう)にて芸者する。
十トセ
東京(とうきょ)麻布の華族さん、お六はお客の目を忍び、金革(きんかわ)時計を盗み取り、
十一トセ
今は大阪、立ち退いて、群馬、茨城、栃木県、三重、埼玉、滋賀県と、
十二トセ
二百九十と、九度(ここのたび)、二万と六千九百円(いん)、一年余りに盗み取り、
十三トセ
三界二界はごかいろで、吉原に名高き大文字屋(だいもんじや)白菊女郎(じょろ)と偽りて、
十四トセ
暫く勤めをしる(=する)うちに、馴染みのきんじを刺し殺し、殺した証拠は桜木と、
十五トセ
ここに川口大探偵(だいたんて)、合点の行かぬは白菊と、厳しく探偵致される。
十六トセ
ろくに知れないそのうちに、すぐにこの屋を逃げ出だし、横浜おもてに参られて、
十七トセ
しかし悪事は恐ろしや。外国生まれの大泥棒(おおどろぼ)、お六はその屋い(=へ)忍び込み、
十八トセ
早く鉄砲盗み取り、その屋、頭(かしら)を撃ち殺し、この場でお六は頭する。
十九トセ
国の難儀を思わずに、ここでも八十と四ヶ所で、金高(きんだか)一万二百円(いん)、
二十トセ
日本に稀ない(=なる)大泥棒(おおどろぼ)、人をかどをて外国い(=へ)売りてやるのが漏れ聞こえ、
二十一トセ
今は探偵六人で、上(かみ)の御用と声(こい)を掛け、お六はこの屋を逃げ出だし、
二十二トセ
日々(にちにち)悪事は篤くなる。二十と六年一月(いちげつ)の二十七日、その晩に、
二十三トセ
三更四更の夜中過ぎ、ここは大井の浜辺にて、またも三人斬り殺し、
二十四トセ
暫く東京(ときよ)で身を隠し、ここは東京(とうきょう)小網町(ちょ)で、かきがわ方にて匿いて、
二十五トセ
ここに名高き大探偵(だいたんて)川口さんの計らいで、かきがわ方にて召し取られ、
二十六トセ
牢屋へ入れられ、お六こそ、今は裁判まわされて、厳しくお調べ致されて、
二十七トセ
子細は一々白状(はくじょ)する。名高き大井の弁護でも、とても敵わぬこの度は、
二十八トセ
早く裁判きわまれば、処分は死刑の言い渡し。年は二十一、盛り花、
二十九トセ
苦労するのも心から、死刑は機械の梯子にて、昇りし間もなく首挟む。
三十トセ
三十二人を手にかけた、末代悪事の名を残す。皆さん、これ見て気を付けな。


戦前の殺人鬼としては、八つ墓村のモデルになった津山事件の都井睦雄が著名だが、このお六は残念ながらほとんど知られていない。
歌の終わりに「末代悪事の名を残す」とあるが、ウィキペディアに立項されるほど名は残らなかったのである。
しかし、大正7年(1918)に「三日月お六」という映画が製作されているから、当時はそれなりに話題になったようだ。
フィルムが残っていたら観てみたいものだ。

※実に久しぶりにブログを更新しました。今後も気が向いた時に書き綴ることがあると思います。どうぞよろしく。

.
奈良漬
奈良漬
男性 / O型
人気度
Yahoo!ブログヘルプ - ブログ人気度について
検索 検索
1 2 3 4 5 6 7
8 9 10 11 12 13 14
15 16 17 18 19 20 21
22 23 24 25 26 27 28
29 30 31
友だち(2)
  • トーヤ
  • 太陽求めポチが行く
友だち一覧

スマートフォンで見る

モバイル版Yahoo!ブログにアクセス!

スマートフォン版Yahoo!ブログにアクセス!

よしもとブログランキング

もっと見る

[PR]お得情報

数量限定!イオンおまとめ企画
「無料お試しクーポン」か
「値引きクーポン」が必ず当たる!
CMで話題のふるさと納税サイトさとふる
毎日お礼品ランキング更新中!
2019年のふるさと納税は≪12/31まで≫

その他のキャンペーン


プライバシー -  利用規約 -  メディアステートメント -  ガイドライン -  順守事項 -  ご意見・ご要望 -  ヘルプ・お問い合わせ

Copyright (C) 2019 Yahoo Japan Corporation. All Rights Reserved.

みんなの更新記事