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近世の公家の部屋住み

最近読んだ論文の中で、とくに面白いと思ったものに松田敬之「堂上公家の部屋住」というものがあります。
これは高埜利彦氏編『身分的周縁と近世社会』8「朝廷をとりまく人々」(吉川弘文館、2007年)に収録されているものです。
 
時代劇「暴れん坊将軍」では、主人公の新さん(実は徳川吉宗)は旗本の次男坊という設定です。
武家社会での嫡男以外の実態については比較的よく知られているところでしょう。
それに対して近世公家社会での二男、三男などがどのような生涯を送ったのか、正直、よく分かりませんでした。
そもそも、そういうことに関心のある歴史家がいませんでしたし、歴史好きの間でも関心をもたれることがなかったですから。
 
近世の身分制については古くから研究され、その中で芸能民など士農工商から外れた身分の人々の実態が解明されてきました。
その流れでようやく近世公家社会の実態もまた次第に明らかになってきた経緯があります。
そこで、公家社会の表舞台に出てこない部屋住みの面々も明るみになりつつあるようです。
 
部屋住みの御曹司は養子先が見つからないと悲惨な末路(端から見て)をたどったようです。
養子先は公家のみならず、武家(大名・旗本・諸藩の藩士)や社家の場合がありました。
公家であっても、格下に片付くこともありました。
武家に養子に入ることになったところ、養子先の家の相続問題に巻き込まれ、結局、取り消しとなり、謝罪の意味で生涯生活費をもらいながら、部屋住みで過ごした人もいました。
 
部屋住みの人々は必ずしもパラサイト・シングルというわけではなく、所帯をもつこともありました。
が、やはり肩身は狭かったようですね。
 
この論文を読んで、近世における公家社会の、いわば厄介者、部屋住みの生涯がどういうものであったのか、おおよそ概観することが出来ました。
文学に関心のある者からすると、端から見て厄介者だの部屋住みだの言われる人々に対して、肩身の狭さからどこか荒んだ印象を持ってしまうのですが、そういう存在だったのかどうかということです。
つまり、精神的なゆとりとか、自由さとか、そこからくる表現力とか、もっと内面を知りたいですね。
山本実豪(さねたけ)という部屋住みは75歳の長寿を全うした人で、倚松軒という号をもっていました。
とくに仕事はないものの、文人として何か文筆活動をして徒然を紛らわし、また周囲の文化的な人脈を築いていたのではないかなと思ったりするのでした。
 
内容については非常に面白かった本ですが、これを通読して、つくづく歴史家は文章が読めないなと思いました。
例えばこれ。
「丹家の人堂上に列す先例未だ聞かず、(中略)仍て旁た許さるか」
たぶん、原文が漢文で書かれているのを書き下し文で示したのでしょうけど、連体形であるべきところを終止形で読んでしまっています。
こういう例が目につきました。
内容さえ分かればいいというわけではないでしょうに…。

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