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日本の民俗学の祖といえば柳田國男というのが一般的ですね。
その柳田とともに黎明期を創り出した人物に折口信夫(おりくち・しのぶ)がいます。
釈迢空(しゃく・ちょうくう)という名の歌人としても知られます。
僕が高校時代、国語の教科書に次の歌が載っていました。
葛の花 踏みしだかれて 色あたらし。
この山道を 行きし人あり
基本的に教科書は落書き帳だったので、他にどんな文章が載っていたか今ではさっぱり失念しましたが、この歌だけは今でも鮮明に記憶にとどめています。
大学に進んで民俗学に興味を持つようになってから、この歌の作者釈迢空=折口信夫ということを知って、面白い因縁だなと思ったものです。
以来、折口の学問は僕にとって非常に大きな存在となり、学生時代は折口のことを考えない日はなかったくらいでした。
そういうわけで、折口関係の本が手もとにけっこうあります。
その中で珍しい資料をちょっとここで紹介します。
折口は鬼の研究をしていました。
単なる妖怪に対する関心ということでなく、日本人の霊魂観の考察に必要なものとして〈鬼〉なるものを捉えていました。
鬼の研究の代表作が「鬼の話」です。
名著と名高い『古代研究』(昭和5年刊)に収録されています。
これに関連する講演記録が残っています。
大正15年6月、国学院大学の郷土研究会は、二度に亙って『ふぉくろあ』という同人誌を発行しました(「ふぉくろあ」はfolklore、つまり民間伝承のこと)。
その第1輯に、折口信夫が慶応義塾大学の三田史学会で講演した「鬼の話」の口述筆記が掲載されています。
『古代研究』の「追ひ書き」によると、「講演のうと」を参照させてもらったという趣旨のことが書いてあるから、きっとこれも使われたに違いありません。
あくまで参照であって、『古代研究』の本文と対照すると、随所に異同がみられます。
こういう異同箇所を比較しながら読むと、折口の推敲する姿がほの見えてくるようで、懐かしい気分になります。
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