穴あき日記〜奈良漬のブログ

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お伽草子

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〈大和言葉〉は一種の言葉遊びです。
中世の語り物『浄瑠璃十二段草子』にその典型が出てきます。
源義経が浄瑠璃姫に語りかけます。

  あさまのたけの  たとへかな
  熊野のみやまの  ふぜいかな
  筒井の水の    たとへかな
  野中の清水の   たとへかな
  (下略)

というふうに7・5調の文を10あまり連ねます。
これを聴いた浄瑠璃姫は次のように返答します。

  あさまのたけの、たとへとは、きみをおもふと、さぶらふか
  熊野のみやまのふぜいとは、申すにかなへと、さぶらふか
  筒井の水の、たとへとは、やるかたなきと、さぶらふか

というように、問いに対する答えを加えて返答しています。
この種の謎かけを含む掛け合いを大和言葉といいます。
正しくはもう少し幅広いのですが、これが基本でしょう。

『物くさ太郎』では姫と太郎との掛け合いの形式を採っています。
また平家の悲恋物語『横笛草紙』のように、ラブレターの艶なる詞を解説する文脈で使われています。

  くずのした葉とは、我が身うらにありながら、ちぢに心のまよふ事なり。
  身はうき雲のやうぞとは、あまのよそなる君ゆゑに、心そらにあこがるることなり
  さくらのたちゑの鶯とは、声ふりたてて、なくばかりの事なり

などとあります。

このように「〜とは…とさぶらふか」「〜とは…のことなり」のように形式的な表現が使われています。

これら物語作品中に見られる一問一答が、室町末期から江戸期にかけて流布した歌語集『大和言葉』『大和歌詞』の「〜とは〜の心也」の型に継承されていきます。
前回の記事に紹介した『増補 大和詞大全』は物語の文脈から離れて完全に字引となってしまいましたが、知識の集大成という意味で、一つの到達点といえるでしょう。

昨日の記事で取り上げたお伽草子『筆結物語』。
そこからも知られるように、室町時代の武家のもつべき教養やマナーがどういったものかを知るに有益な物語だと思われます。
古写本が1本しかなく、しかも虫損がひどくて読みづらかったからか、これまで翻刻されてきませんでした。
それを釈文と注釈をつけて刊行することになりました。
その作業を去年からおこない、本文も現代の表記法にのっとった読みやすいものができました。
で、次に注釈作業なんですが、対象語句の選定を今日ようやく終えました。
これから数か月かけて調べていくことになります。
年内に出せればいいのですけれどね。

さて、この物語の中でお香について述べるくだりがあります。
「今の人は良い香を自分の衣装に焚く。
 臭くて鼻も向けられないような香を仏神や死者に供える。
 そんなものを仏神や死者が請けるはずないじゃないか」

昨冬開催された冷泉家展の売店にお香セットが売っていたので、興味本位で買って使っているのですが、なかなかいいものですね。
恥ずかしながら、これまで全然知らなかったのですが、いろいろな香りがあって、中には仏壇に供える線香そっくりのものもあるんですね。
自分の部屋なのに、なんだかお寺に来ているような妙な感じになってこれはこれで面白いのですが、昔の人はこれを良い香りだと感じていたのでしょう(?)
今日ではコンビニに置いてあるような線香でもそこそこの香りですから、中世を基準にすると、標準以上のものが安く売られているということになるのかなあと想像します。
だから『筆結物語』の本文にいう「臭くて鼻も向けられぬようなる香」とはどんなものなのでしょうか。
蚊取り線香的な臭い?
そういうのはどこで入手できるのか。
かえって、そういう劣悪なお香が気になるところです。

今、狸が主人公の『筆結物語(ひっけつものがたり)』というお伽草子の注釈書づくりをしているのですが、今日は夜までその作業をしに外出していました。
一緒にやっている先生が年末年始ないような御多忙な方なのだし、少しでも進めておけば、早く上梓できるだろうから、ともかく頑張らなくては!と思ってるんですけどね。

で、なるべく読みやすくすべく、振り仮名をつけるのですが、けっこうこれがむつかしい作業なのです。

たとえば…
「玄冬」は「けんとう」「げんとう」どっちもあり。
「家原」は今は「えばら」だが「いえばら」が本来だろう。いつから「えばら」になったのか。
「商人」は「あきうど」「あきんど」どっちもあり。
「大文字」にいたっては「おほもんじ」「おほもじ」「だいもじ」「だいもんじ」どれ!?
と、どれども間違えではないのでしょうけど、処理に困る語句があります。

「石王寺」も仮名遣いは「しやくわうじ」ですが、音読すると「しゃくおうじ」もありだけど転訛して「しゃこうじ」もあります。

「庶流」は原文に「ソリウ」と振り仮名が付いているから、音読すれば「そりゅう」となります。
ホントにそれでいいのでしょうか。
当時の仮名の「そ」はsoもあるけど、xoもありえます。
この振り仮名を漢字音の表記にそのまま使っていいものかどうか???

なんだか細かなところでむつかしい作業だなと痛感する一日でした。

『玉虫の草子』の場合、恋の返歌をするよう、乳母が諭すときに、情には貴賤の違いはないのだからという意味の歌を挙げて、ともかく御返歌をと言いました。
いまいち説得力がありませんが、素直な玉虫姫はそれに従うのでした。

ところで、いぼむし(カマキリ)のへぼ入道は、恋文(というか脅迫状)の中で奇妙なことを書いていました。

  人の思ひをかかり候へば、末の世の障りとなるべし。

返歌をしないと、恋する者の思いがとりついて、後世の障りとなる、つまり死後悪報を得るだろうと、そう脅しているのです。
これは故ないことではないようです。

『はにふの物語』という恋愛物語には、上のだいたい同じシチュで、乳母が姫君に対して次のように説いてます。

  人のおもひのつもる行く末、恐ろしさよとて、
  小野小町がことなどをぞ引き出だして申し侍りける。

つまり恋の返事をしない姫君に、人の思いが積ると、果ては小野小町のようになってしまうといって、小町のエピソードを話すのでした。
深草少将が九十九通いの結果死んでしまい、小町がその妄執にとりつかれて苦しむことになります(能「卒塔婆小町」など)。
また『厳島の本地』では次のように説得します。

  歌の返歌なければ、七代口なき虫にうまるる

これもまた末の世の障りでしょう。
乳母やお付きの侍女など姫君に仕える女性は身の回りの世話ばかりでなく、男女の道の手ほどきもしていたようですが、その際、小野小町の話や「食後にすぐ寝たら牛になる」的な教訓を使っているところがとくに面白いですね。
彼女たちがどんな話を姫君にしていたのかさっぱりわからない段階ですので、物語世界の出来事とはいえ、女性の間の伝承がほのみえるエピソードは貴重だと思います。  

中世の乳母の恋愛指南

王朝物語などを読んでいると、男から来た恋の歌に対して女は返歌をしています。
当然といえば、当然なのかも知れませんが、無視することはなかったのかなあなどと思ったりします。
たとえば毎日のように、しつこく恋文を送ってくる男に対しても一々返歌を遣わしてあげたものでしょうか。
どう考えても女心を解しない恋文の例としては、作り物語というか、虫の世界の恋愛沙汰なんですけど、面白いのがあります。
『玉虫の草紙』というお伽草子にこんなのがあります。

いぼむし(カマキリ)のへぼ入道が年甲斐もなく、誰もが憧れる若くて美しい玉虫姫に恋文を送りました。
「入道になびきなされ。
 1つには御利益、2つには人の思いがかかれば後の世の障りになりますぞ」
手紙の終わりには脅しにはいります。
「なびかなければ、たくさんの虫を頼んで押し寄せて奪い取りますぞ。
 その時に怨みなさるなよ」
いやもう、男として最悪ですね、これは。
で、恋の歌は次の通り。

  いぼむしの言ふこと聞かぬ玉虫は いかなる鳥の餌(え)ともなれかし

つまり、俺の言うことを聞かない玉虫なんか、鳥の餌にでもなってしまえ!
という意味ですね。

さすがの玉虫姫もこんなものに返事を出したくありません。
そこで乳母(めのと)が教訓します。
「なびく、なびかないはともかくも、返歌ばかりはなされませ」
そこで姫はしぶしぶお断りの歌を返すのでした。

このやりとり自体、面白いと思うのですが、別の点で興味深く思うのは、乳母の教訓です。
姫にお付きの乳母が普段どういう話をし、どういう教訓をしていたのか。
もちろん、『乳母のおしへ』などという本もあって、その様子は知れる部分もあるのですが、こと、男女の道についてはよくわからないんですね。

上の事例からはごくささやかながら、彼女たちの働きの一端がうかがえるようで、面白く思うのでした。
今日、この作品を読み返していて、ふと思ったことを書きました。

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