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妖怪・怪異

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近年、鳥山石燕の妖怪画の再評価が著しい。すでに90年代から小説、マンガ、ゲーム等のクリエーターたちがこれを用いる機会が増えてきた。これは1992年刊行の国書刊行会本と、2005年以降、版を重ねている角川ソフィア文庫本、さらにウィキペディアの拠るところが大きいだろう。
ところがよくよく本文を検証してみると、単純な翻刻ミスから内容的に看過できない誤読までいくつか散見される。管見では23ヶ所に修正の必要を覚えた。以下に具体的に指摘していくことにしたい。
※田中→田中初夫編『画図百鬼夜行』渡辺書店、1967年 (本文は目次ページにあり。また『画図百器徒然袋』未収録)
 国書→稲田篤信・田中直日編『鳥山石燕 画図百鬼夜行』国書刊行会、1992年
 角川→『鳥山石燕画 図百鬼夜行全画集』角川ソフィア文庫、2005年(使用本=第24版、2014年)
※引用本文中の( )は直前の漢字に付いている振り仮名を示す。
※ウィキペディア所引の本文もおよそかくのごとし。要注意。

1. 人魂(田中105/国書139/角川99)

  魂(こん)気(き)の如きはゆかざることなし。
  魂(こん)気(き)の如きはゆかざるなし

「こと」の部分は欠損があり、判読がむつかしいが、補正してみると「事」の崩し字であることが知られる。
イメージ 2
イメージ 1









2. 大首(田中130/国書168/角川124)

  おそろしなんもおろか也。
  おそろしなんもおろか也。

釈文で「おそろし。」と文を処理している点に問題がある。たとえば下のような事例を見てみよう。
  凡そあたりをはらつてぞ見えたりける。おそろしなんどもをろか也。(『平家物語』「能登殿最期」)
  いとゞ恐しなんども云ばかりなし。(『源平盛衰記』巻六「丹波少将被二召捕一附謀叛人被二召捕一事」)
このように、「おろか」は相手を侮蔑する表現ではない。
そもそも、そうであれば、一体、石燕は誰を誹謗しているのだろうか。
大首だろうか、それとも、不運にも大首に出くわしてしまった人だろうか。
どちらに対してでもない。
闇夜に突如現れた大首を前にして、「恐ろしなんど言ふもおろかなり」ということで、つまり、「恐ろしい」という言葉にもならないということである。
このような釈文の誤りを踏襲し、英訳本では「How ridiculous !」(p.146)としてしまっている。

3. 百々爺(田中131/国書169/角川125)

  もゝんぐはとがごとふたつのものを合せて、
  もゝんぐはとがごとふたつのものを合せて、

濁点を打ち損じ。

4. 天逆毎(田中133/国書171/角川127)

  或書ニ云フ。(下略)
  (省略)

他の項の画中詞を見る限りでは、漢文体の本文は原文のままというのが釈文の基本姿勢のようである。しかし、本項目では書き下し文に改められている。

5. 彭侯(田中154/国書194/角川142)

  千歳(ざい)のには精(せい)あり。
  千歳(ざい)の木(き)には精(せい)あり。

単純に、振り仮名を落としている。

6. 白粉婆(田中160/国書200/角川148)

  おしろいばは此神の侍女(ぢぢよ)なるべし。
  おしろいばは此神の侍女(ぢぢよ)なるべし。

濁点を打ち損じ。

7. 蛇骨婆(田中161/国書201/角川149)

  蛇(じや)骨(こつ)婆(ば)は此の国の人か。(中略)訛(あやまり)りて蛇(じや)骨(こつ)婆(ば)といふと。
  蛇(じや)骨(こつ)婆(ば)は此の国の人か。(中略)訛(あやまり)りて蛇(じや)骨(こつ)婆(ば)といふと。

白粉婆と同じく、濁点を落としている。

8. 倩兮女(角川151)

  一(ひと)たびへば、(角川)
  一(ひと)たび笑(わら)へば、(国書)

田中本(163)・国書本(203)では原本通り「一(ひと)たび笑(わら)へば、」と振り仮名を付けているが、角川本ではこれを落としている。

9. 屏風闚(田中190/国書238/角川178)

  枝(だ)をつらね
  枝(だ)をつらね

原本では「枝」に「ゑだ」と振り仮名を付けている。

10. 目競(角川182)

  大(だい)政(ぜう)(にう)道(だう)清盛(きよもり)
  大(だい)政(ぜう)(にう)道(だう)清盛(きよもり)

田中本(194)・国書本(242)では原本通りに「大(だい)政(ぜう)(にう)道(だう)清盛(きよもり)」であるが、角川本では「入」を「人」に誤っている。

11. 否哉(角川184)

  怪(くはい)(さい)(中略)この否(いや)哉(ゝ)も
  怪(くはい)(さい)(中略)今(いま)この否(いや)哉(ゝ)も

田中本(196)・国書本(244)では原文通り「怪(くはい)哉(さい)(中略)今(いま)この否(いや)哉(ゝ)も」と記している。角川本は「怪哉」を「怪我」とし、また「今」の振り仮名を落としている。

12. 滝霊王(田中198/国書246/角川186)

  滝(たき)つぼより
  つぼより

原本では振り仮名が付いていないのに、翻刻では付けている。

13. 文車妖妃(国書266/角川198)

  文車妖(ふぐうまよう)妃(ひ)
  文車妖(ふぐるまよう)妃(び)
  Fuguruma-yōhi (英訳本)

国書本は釈文の見出しを原本通り「文車妖(ふぐるまよう)妃(び)」とするが、ページの見出しを「文車妖(ふぐうまよう)妃(ひ)」としてしまった。恐らく角川本は後者を継承した結果、「文車妖(ふぐうまよう)妃(ひ)」としてしまったようだ。その結果、これを受けた英訳本でもyōhiと、清音になっている。

14. 長冠(国書268/角川200)

  このがしはの
  このがしはの

原文は「手」という漢字を用いているが、これを平仮名に翻刻している。

15. 沓頬(国書269/角川201)

  瓜(うり)を喰(くろ)ふ霊隠(れいいん)寺(じ)の僧(そう)(中略)瓜田にくに
  瓜(うり)を喰(くろ)ふ霊隠(れいいん)寺(じ)の僧(そう)(中略)瓜田にくに

「鄭瓜州の瓜田に怪がある」「瓜を食べる」「霊隠寺の僧」「これを聞いて符を与える」という4つのセンテンスに分けられる。
問題は「瓜を食べる」という部分だ。
釈文では「霊隠寺の僧」に修飾し、「瓜を食べる霊隠寺の僧」という主語を作っている。
しかし、そうすると、「鄭瓜州の瓜田に怪がある」の「怪」が何か説明されないまま、霊隠寺の僧は瓜を食べながら護符を与えたことになる。これはおかしい。
何者かが瓜田で盗み食らうことが「怪」であり、それを防ぐ相談を受けた霊隠寺の僧が護符を与えたと解すべきだろう。
したがって、
  鄭瓜州の瓜田に怪ありて、瓜を喰ふ。
  霊隠寺の僧、これをきゝて、符を与ふ。
とするのが正しいと思われる。
また、護符を「瓜田にかくに」は「瓜田におくに」の誤りである。
内容的にも護符を瓜田に置いたのであって、瓜田に書いたとするのはおかしい。
また「書くに」を「掛(懸)くに」と解すのであれば、「掛(懸)くるに」としなければ、文法的に誤りである。
文語文が文章作成の基本である石燕がこのような基本的な誤りを犯していると解するのは強引すぎるというものだろう。
英訳本も注意が必要。

16. 払子守(国書277/角川209)

  仏性(ぶつしやう)ありけり
  仏性(ぶつしやう)ありやと

「則」とは公案、いわゆる禅問答で用いる問題である。
したがってその文は問い掛けの形式を採っている。
「狗子にさへ仏性ありけり」としてしまうと、犬に仏性があることを既成事実として語るだけで、質問になっていない。まるで「昔、男ありけり」ではじまる『伊勢物語』のようだ。
これは文末の「やと」を誤って「けり」と翻刻してしまった結果である。
ここは「狗子にさへ仏性ありや」と、問うているのである。

17. 禅釜尚(角川212)

  文福(ぶく)茶釜(ちやがま)のためしも
  文福(ぶく)茶釜(ちやがま)のためしも

16と同様、「と」を誤っている。国書本(285)では正しく翻刻されていたものを改悪してしまった。

18. 鞍野郎(国書286/角川214)

  おし
  おしかへし

国書・角川両本及びウィキペディアでは「『保元の夜軍に(中略)気も魂もきへぎへとなりし』とおしみて唄ふ声」と翻刻している。
鞍野郎は『保元物語』に取材した物語歌を語る妖怪として描かれている。
琵琶法師の平家語り、あるいは浄瑠璃語りを想像すればよいのだろうか。
その歌は巧みで聴くものに興を覚えさせるものであった。
「惜しみて」歌う声とはどういうものであろうか。ちょっと解しかねる。
ここは歌うのを惜しむということではなく、「おしかへして」歌う、つまり鎌田正清のエピソードを繰り返し繰り返し歌う声に興があると説いているのである。
「おしみて」の「み」と解した部分は、「か(可)へ」の連綿と「し」から成っている(下図参照)。
英訳本も注意。
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19. 琵琶牧々(国書295/角川223)

  そのぼく馬のびはのにして
  そのぼく馬のびはのにして

原文に「精」とあるのを、「轉」と読み誤ったものだろう。
これと同じ漢字はたとえば「三味長老」にも見える。
そちらでは「精(せい)」と振り仮名が付してあるから間違いない。

20. 襟立衣(国書297/角川225)

  彦(ひこ)山の豊(ぶ)前(ぜん)坊(う)
  彦(ひこ)山の豊(ぶ)前(ぜん)坊(う)

歴史的仮名遣いの表記として、「坊」は「ばう」とするのが正しい。
しかし、ここでは「ぼう」と記されている。
一見すると「ば」に見えなくもないが、よく見ると「者」ではなく、「本」を母字とする「ぼ」の変体仮名を用いていることに気付く。
すなわち「者」を母字とする仮名の場合、右下に下がるだけだが、「本」の場合は一旦右上に上げてから右下に筆を持っていくのである。
ここでは後者の筆遣いが確認できる。

21. 乳鉢坊(国書299/角川227)

  乳ばち坊のばちのおと
   乳ばち坊のばちのおと

この箇所は原本が極めて不鮮明であるため、判読のむつかしいものであった。
もとより「泉ばち」なる語句は他の文献に見出されず、また文意が不通であったし、そもそも筆遣いが「泉」のくずし字とかけ離れている上、「乳」に酷似しているから素直に「乳」とするほうが良いと考えていた。
この推測は、摺の良いスミソニアン・ミュージアム所蔵本がウェブ上で公開されるに及んで確実なものとなった。
重要なことは、この誤字の訂正によって、内容の解釈に変化が生まれたことである。
すなわち、
  乳ばちばうの乳ばち((夕だち))のおとにゆめさめぬ
と、言葉を掛けているわけである。
そう解すると、乳鉢(夕立)の大きな音に驚いて夢から覚めたということになる。
英訳本も注意。

22. 瀬戸大将(国書317/角川241)

  からつやき
  から津やき

「つ」は仮名ではなく漢字と見るべきである。
「油赤子」に「大津」という地名が出てくるが、この「津」は「瀬戸大将」に見える「津」よりもくずれている。
それでも漢字として記されている。
これよりもより原形をとどめる文字がここでは用いられているのであるから、「津」と記すのが適切だろう。

23. 山颪(国書320/角川244


  山おやじ(中略)はりめぐら

  山おろし(中略)はりのごとし


この項目には2ヶ所問題がある。一つは「山おやじ」であり、もう一つは「そう身の毛はりめぐらし」である。
それらの部分を拡大したのが下の画像である。
イメージ 5











まず、「山おやじ」と翻刻した部分を見てみよう。
「山」は問題ない。
続く「お」も問題ない。
しかし次の「や」と読んだ部分であるが、これは「ろ」に「し」を続けたものに見えないだろうか。
本書における「や」の用例は随所に見られるのでご参照願いたい(たとえば「大首」や「目競」)。
ところが「山颪」の文字は違う。
まず左端から筆を入れて右に動かしている。
そして最後の一画は右下から左へ真っ直ぐに引くか、横棒の上から下に緩やかな曲線を引いている。
これに対して「山おろし」の事例はどちらにも該当しない。
そもそも、一画目が左端から始めるのではなく、「お」の点の延長にして、横棒の上から入っている。
これは「ろ」の筆の入る位置に等しい。
これと類似する事例は「天井下」にあるのでご参照願いたい。
イメージ 4












これは「おそろしきめを」と読むべきものである。
その34文字目「ろし」の「ろ」の一画目と「山おろし」のそれとを見比べていただきたい。
入り方が同じであることが分かるであろう。
さらに、「し」が「ろ」の曲線の内側から下に直線を引くように記している点も同じである。
以上のことから、「山おやし」と翻字し、これを「山おやじ」と解釈するのは誤りであり、正しくは「山おろし」とすべきであることは明らかだろう。
内容的にみても、この山颪という妖怪が豪猪、すなわちヤマアラシに似ているから名づけられたので、冒頭に「豪猪といへる獣あり」の一文を配しているのだろう。
しかし、問題はここだけではない。
「山おろしと言ひて、そう身の毛はりめぐらし、此妖怪も名とかたちの似たるゆへにかく言ふならん」としたところで、まだ文意が通じにくい。
「そう身の毛はりめぐらし、此妖怪も名とかたちの似たるゆへ」というところが不自然である。
実はここにも誤字があると考えられるのだ。
「そう身の毛」に問題はない。続く「はり」もそうとしか読めない。
しかし、「めぐらし」とした部分が明らかにおかしい。
類似する文は「骨傘」に見られる「のごとく」であるから、ご参照願う。
また、スミソニアン本は摺りが良いので、大いに参考になる。
その前に、角川本で「め」とした文字であるが、原本紙面の損傷もしくは版木の欠損により「め」の一画目が読めない状態になっていると判断したらしい。
それで「め」としたのだろうが、しかし、本書に記される「め」は円が大きくない。
先に掲げた「天井下」中の「おろそしきめを」の「め」から分かるように、円の部分を細いのである。
それに対して「の」は右の「骨傘」の「の」のように円が半月状になっている。
ひるがえって「山颪」の「はり」の下の文字はどうかというと、明らかに「の」と同じく半月状の円である。
したがって、これは「め」ではなく「の」と読むべき文字である。
ついでその下は「骨傘」の「の」の下にある「ごと」の合字と同じと見るべきだろう。
濁点の位置も同じだ。
内容面から見るとどうか。
「針のごとし」と解することによって、前後の文意が通じる。
つまり、「総身の毛、針のごとし。」、これに続いて「此の妖怪も名とかたちの似たるゆへ」この名が付いたとなる。
「此の妖怪」という主語の「この」は上の文を受けた語であるから、「ごとし」で文を止めたほうが適切である。
以上を整理すると、次のように釈文を修正する必要がある。

  山(やま)颪(おろし)
  豪(がう)猪(ちよ)といへる獣(けもの)あり。
  山おろしと言ひて、そう身の毛、針のごとし。
  此妖怪(ようくわい)も名とかたちの似たるゆへにかく言ふならんと、夢心におもひぬ。

国書刊行会本(1992年刊)および角川ソフィア文庫本(2005年刊)の普及率は高い。
そのためにわずかの間に「山おやじ」なる誤った別名もまた流布するようになってしまった。
ウィキペディアは今後修正することができるが、書籍として流布したものは中々むつかしい。
たとえば水木しげる『図説 日本妖怪大鑑』では
  別名を「山おやじ」といい、深山に住んで群れをつくって害を為すことがあるといわれているが、
と記している。
他にも類似する説明をした文献が散見される。

※以上は2017年12月9日の異類の会での報告をまとめたものである。
昨日、若い学友とのやりとりの中で、ポーランドのスモクの話からエストニアのピスハンドと呼ばれる小型の龍の話に及んだ際、ピスハンドはピスヘントが正しいのではないかとのご指摘を受けた。

エストニア語の表記はPisuhändである。
ウィキペディア日本語版で「ピスハンド」と立項されており、またPisuhändを取り上げている日本語サイトはいずれも同様に「ピスハンド」と記述している。
さらに英語サイトではしばしばPisuhandと、補助記号を省略した表記がされている。
それで、私も特に疑うことなく「ピスハンド」と呼んでいたのだが、指摘されてみて、確かにこれは不正確じゃないかと思った。
なるほど、たとえば作曲家のG.F.Händelはヘンデルであり、指揮者のW.Fultwänglerはフルトヴェングラー(or フルトベングラー)である。
しかしその一方で、同じ発音をする帽子のhatはハットであり、子羊の肉のlambはラムである。
/æ/のアルファベット表記がaだとア、äだとエという日本語表記の慣用があるのだろうか。
であれば、それに従ってピスヘンドとすべきなのだろう。
また、語尾の[d]であるが、これはエストニア語では無声化する。
語尾の[d][t]は無声音であっても「ト」と表記するのが外来語表記の慣用である。

そういうわけで、ご指摘の通り、ピスヘントとするのが日本語表記の慣例に則った最良のものであろうと思う次第である。

さて、そのピスヘントであるが、表記はともかく、日本語版ウィキでは次のように説明されている(抜粋)。

ピスハンド (Pisuhänd) とは主にエストニア(バルト地方)の民話に登場する小さなドラゴンである。トゥリヘンドともいう[1]。ドイツでは[要出典]プークと呼ばれる[1]

ピスハンドは蛇の体に4本の脚が付いた、非常に小さなドラゴンである[1]。翼もついていてドラゴンに近い描写もある。これへの信仰が元で、蛇が家を守る動物として広く崇められている。これを家蛇信仰という[要出典]
ピスハンドは宝を持ってきて(場合によっては隣家から盗む場合も)くれるのでしばしば「ゴブリン」としての扱いもなされる。この場合、ゴブリンと言っても善良なホブゴブリンという種族である[要出典]

[1]と注記された部分の出典はいずれもキャロル・ローズ著、松村一男監訳『世界の怪物・神獣事典  (シリーズ・ファンタジー百科)』 (原書房、2004年)である。
この書は未見だが、[要出典]として記述の典拠を求められている部分も本書の内容を反映しているのだろうか。
「ドイツではプークと呼ばれる」という記述もローズの事典に拠ることが[1]と注記されているが、なぜ「ドイツでは」の部分を取り立てて[要出典]にしているのかが分からない。
ウィキ閲覧者はこの記述によってローズの事典まで遡及できればよいのであって、ではローズがドイツではプークと呼ばれることを何に拠って記述したのかまで、このウィキの匿名ライターの文責とすることはないと思うのだが。
もっとも、ローズの事典も読まずにウィキの記述をとやかく言っている私が言うことでもないか…。
一応、この事典でドイツのプーク(Puk)がエストニアのPisuhandやPukje, Tulihand, Puukなど同種であるということが記されているらしいことは下記のサイトから窺われる。

ただ、後半の〈家蛇信仰〉という術語は寡聞にして聞かない。
訳語なのだろうか。
日本では蛇の信仰は蛇信仰とか蛇神信仰というのが一般的だろう。
霊的な蛇を蛇神、蛇霊という。
アオダイショウは家の守り神だが、そうした信仰を家蛇信仰というのだろうか。ちょっと不勉強で聞いたことがない。
「これを家蛇信仰という」と明言しているので、これこそ出典を示してもらいたいところだ。
また「ホブゴブリンという種族である」と記しているが、これもローズの事典にあることだろうか。
1913年にヴィルデというエストニア人作家が『Pisuhänd』という小説を発表した。
英語タイトル(いつの段階でついたのか不明)が「The Hobgoblin」という。
なので、ピスヘントをホブゴブリンと捉えるのは間違った認識ではないのだろう。

ともあれ、ピスヘントは蛇の姿であったり、ゴブリン(エルフとも)であったり、恐らく地域によって異なるイメージが
与えられてきたようだ。
ただ、その根本にあるのは古くからの素朴な自然崇拝であるようで、これがキリスト教が浸透する中でこのようなかたちで残っているのだと一般的には言われている。
ちなみにリトアニアにはアイトヴァラス(Aitwaras)というドラゴンがいて、やはり住む家に富をもたらす。
ふだん家にいる時は黒猫か黒い雄鶏の姿でいるが、外に出ると飛龍になるらしい(Encyclopedia of Beasts and Monsters in Myth, Legend and Folklore)。
大きさはよく分からないが、最初から小型の龍よりは、黒猫が龍に変身するほうがいい。

最後に、上にも出てきたが、ピスヘントについて調べているうちに、プークとかプクとかいうモンスターを知った。
これで思い起こすのは、数年前、エストニアの首都タリンを訪れたとき、旧市街の土産屋で奇妙な土鈴を見つけて買って帰ったことだ(下図)。
たしか、Pukといったかと記憶する。
ちょっと正確に思い出せないので、間違ってたらご寛恕願う。
もしそうであれば、これはドラゴンではなく、ゴブリンとしてのプークである。
宝を家にもたらすゴブリンであるから、縁起が良い。
そういうことで土産物として売られているのだろう。
今度行く機会があれば、しっかりモンスターのことを調べておきたい。
イメージ 1




smok=龍

龍はポーランド語でスモク(smok)という。
ウィキペディアにも立項されているが(https://pl.wikipedia.org/wiki/Smok)、日本語版に変更すると、「竜」のページに飛んでしまう(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E7%AB%9C)。
そこには、もちろんスモクのことは全く触れられておらず、中国や日本の龍の総論的な記述の域を出ない。
スラヴ語族では竜を「ズメイ」などと呼び、それについては日本語版でも充実した内容になっている(https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%BA%E3%83%A1%E3%82%A4)。
ちょっとこの辺りの知識が必要になったので、スモクの記述のうち、総説と語源の部分を拙いながらも訳出しておく。

【龍】
――空想上のクリーチャー、巨大で飛行する爬虫類の最も一般的なタイプ。
多くの神話や伝説、さらに文学、映画、ゲームに現れる。
多くの神話に描かれる龍は、火を吐くだけでなく、豊かな知性に恵まれ、魔術を使え、言語を解した。
これに加えて、財宝を持ち、または守った。

様々な龍のような動物が多くの文化の神話の中にいた。
龍は自然の力や四大元素、とりわけ火と空気を表象した存在だ。
龍もまた多くシンボリックな役割を担わされた。
幾つかの物語において、龍は人間に変身することができる。
典型的な龍は4本足を持っているが、しばしば2本足のワイヴァーンと呼ばれる龍のエンブレムに表される。

【語源】
ほとんどの欧州言語において、龍はギリシャ語drakanドラカン(鋭い眼)に由来する。
例えば英語「dragonドラゴン」、ブルガリア語「drakonドラコン」、ドイツ語「Dracheドラヘ」、チェコ語「drakドラク」。

ヴィエスワフ・ボリスは『ポーランド語語源辞典』(2005年)において「smokスモク」というのは汎スラヴ語であるという。すなわち、チェコ語「zmokズモク」、スロヴァキア語「zmok/zmakズモク/ズマク」、古代教会スラヴ語「smokъスモカ」など。
原スラヴ語「スモカ」は飛行する爬虫類の形態、もしくは人間の姿をとる神話的なクリーチャーだ。
もし「龍(スモク)」という語が原スラヴ語「sъmъkъサマカ」に由来するものであれば、スリップする、行く、上にあがる、どこかに着く、敏捷にどこかへ速くこっそり飛び越える、滑るといった動詞と組み合わせることができる。

疲れたので、ここまで…。
誤訳があればご容赦。
ちょっと気分が悪くなったらすみません。
あらかじめお詫び申し上げておきます。
 
アニメ『けいおん!』の海での合宿のエピソードの中で、秋山澪が磯でフジツボを見て恐れおののく場面があります。
またそれに追い打ちをかけるように、律が耳元で「膝の皿にフジツボがビッシリ…」という恐い話をささやきます。
フジツボの生理的な気持ち悪さについては実感できる人が多いのではないかと思います。
僕の場合はフジツボを目にして反射的に気分が悪くなることはありませんが、人によっては澪のような反応をすることもあろうかと思います。
 
似た経験として思い出すことがあります。
昔、根の深い雑草を引き抜いたら、アリの巣まで掘り起こし、大量のアリが湧き出るようにうごめいているのを見たとき、同じ気分になりました。
卑近な例でいうと、一昨日、ナメコ汁を作りました。
ナメコ汁自体は好きで時々作るのですが、鍋の味噌汁に大量のナメコが浮かんでいる様は気持ちのいいものではありません。
(お椀によそって、5、6個浮かんでいる分には何でもないですが)
最も日常的で、顔をそむけるか、目をつぶるかしないと、軽い吐き気を催すものが綿棒です。
円柱形の透明プラスチックケースにびっしり詰まった綿棒を一本ずつ取りやすくするために、中央にツマミがあるものがありますね。
そのツマミを引き上げて一本抜きとるわけですが、そのとき、ツマミを中心に、山のようにたくさんの綿棒が隆起します。
その動きを見ると目がくらんでオエっと来ます。
 
こうした気分になるのは〈俗に〉集合体神経症というらしいですね。
この効果をねらった話は冒頭の「膝の皿のフジツボ」のような怪談の一種として散見されますし、ホラー、サスペンス、パニック映画などに趣向として取り入れたりします(大量のワームとかクモとか、米国B級作品にありますねw)。
 
ところで以前、会津若松の図書館に行った時、近世の怪談を集めた写本があったので読みました。
その中にこんな話がありました(読みやすく表記は改めています)。
 
天寧寺滝の湯へ、不思議の者、湯治しけり。
これは南山より参れる由にて、その背中に七八寸ほど破れて、その内に蛇の頭二十ばかりありけるが、湯にひたし居れば心地よけれども、湯より離るると、すぐ蛇の頭の動き出して甚だ痛み苦しむ様子ゆゑ、側なる人々、
「こは、如何なる次第にて、左様なる痛みを得給ひしや」
と尋ねければ、かの者答ふるやう、
「去る冬、饂飩を食ひ候ふ折、勝手にて胡椒の粉を取り違へ、蝮蛇(まむし)の粉を与へられし為か、それよりこの痛み出で来たるまでにて、ほかに何の覚えも、これなし」
と物語りけるとなん。
最も珍しき病ひにてぞありける。
 
滝の湯とは、今日天寧温泉、東山温泉と称される場所で、古くから知られた会津若松の温泉地です。
そこに療養にきた男の背から約20匹の蛇の頭が出ていました。
その男の話では、常は痛み、湯につかっているうちは治まるのだということです。
この奇病の原因は、昨年の冬、うどんに胡椒をかけるべきところ、間違えてマムシの粉をかけて食べたからだそうです。
 
さて、この話には「奇病」という題が付いています。
背中に蛇が顔を出すという奇病。
人面瘡の一種といえるでしょう。
しかしこの話の気持ち悪さは、やはり20もの蛇の頭が背中で蠢いている点にあるかと思います。
集合体神経症の恐怖をねらった怪談の一種と評せましょうか。
人面瘡のように1つだけ顔を出すのなら、現実味のない怪談だと笑って読み流せますが、20も蠢いていると、現実味はなくても想像するだけで気持ち悪くなります。
どんなに文章が下手でも、読み手・聴き手を恐怖せしむるものですから、ある意味怪談の趣向としては卑怯ですなw
 
 
※なお、一言断っておきますが、マムシの粉自体は滋養強壮の薬として古来広く使われてきました。
食してまったく害のあるものではありません。
今でも病み上がりなど体力回復・体質改善が必要なときに、効果があるものとして使用されます。
誤解なきようにご注意を。
参照「まむし粉末」
明日の異類の会の告知です。
 
第28回異類の会例会
 
日時:5月18日(金)18時30分〜
場所:学習院女子大学4号館1階4104会議室
http://www2.gwc.gakushuin.ac.jp/about/campusmap.html
※最寄駅は副都心線西早稲田駅です。
 
資料展観
「異類妖怪関係資料―浮世絵、番付、その他―」
 
徳田和夫先生(学習院女子大学教授)のご厚意で、御所蔵の資料を特別に見せていただくことになりました。
異類妖怪関係の浮世絵、番付、その他いろいろと展示、解説していただきます。
もとより秘蔵資料ばかりですので、この機会を逃すと、今後容易に観られるものではありません。
ぜひお出でくださいませ。
 

なお、初参加の方は、奈良漬にメッセージ、もしくはツイッター(@NarazakeMiwa)にご一報ください。

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