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これは笹塚の街を舞台にした、笹塚本の一冊で、芥川賞受賞作です。小説の中に、紀伊国屋の前の、宝くじ売り場のあたりの待ち合わせ場所などが出てきます。
あらすじは、高校卒業後定職につかずアルバイト等をして過ごしていた女性が、その母親の中国赴任をきっかけに、親戚のおばさん(というよりおばあさん)の家に転がり込み、共同生活を始めるというものです。
主人公は笹塚駅の売店でアルバイトをする極めて現代的な、自立していない20歳の女性で、話のトーンは歯がゆいくらいにゆるゆる、ダラダラしています。独立する前であれば、私も五ページ読んだら投げ出していたでしょう。
しかしこの話は、最後に主人公が正社員になり、おばさんの家を出て行くところで終わっています。これがもし、いつまでたっても正社員になれずウジウジして、それでもなんとか暮らせるのでダラダラ過ごすなどという「救いがたい」話だとしたら、小説としての価値は限りなくゼロに近づくと思われます。このような緩い小説が、もしかしたら巷の名もない非正規労働の若者を勇気付けるのかもしれません。
さらに、この小説が巷に氾濫する凡百のフリーター・ニート小説と一線を画しているのは、平易な表現だが、決して陳腐でない、端正な言葉遣いにあるといえましょう(だから芥川賞が取れたといえるでしょう)。
現実の社会は、首尾よく正社員になっても、仕事にプライベートに厳しい生活が待ち受けています。今度はこの作者の、一応の自立を遂げた女性のその後を描いた小説が読みたいと思います。
さて、この小説では、主人公がおばさんと同居する家が、京王線沿線のある駅のすぐそばにあると設定されていますが、そこはズバリ「芦花公園駅」であると思われます。駅の場所のヒントは、
(1)各駅停車しか止まらない
(2)環八のそばにある
(3)隣の駅に「文化会館(実在のものは区民会館)」がある
という点です。芦花公園しか該当の駅はありません。ただ、実際の芦花公園駅は、フォームに半透明の目隠しがしてあり、フォーム脇の家からフォームに立つ乗客の姿は見えないのですが、そのような事実は、この小説の価値を些かも損なわない、どうでもいいことでしょう。
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