【打ち上げ重量2倍 物資輸送ロケット「H−IIB」 スピード開発で突破口】
7月21日、種子島宇宙センターから国際宇宙ステーション(ISS)に向け、食料や実験器具などを積んだ補給機「こうのとり」3号機が打ち上げられた。大役を担ったのは、物資輸送用ロケット「H−IIBロケット」の3号機。製造で中心的な役割を果たした三菱重工業開発チームは、日本のものづくりの技術が、宇宙産業にも通用することを証明した。
「こんな短期間で、こんな大型化が可能なのかと、思わず耳を疑った」。
三菱重工業航空宇宙事業本部に所属するH−IIB統括責任者の二村幸基さんは開発当初の苦労を今でも忘れることができない。
日本の基幹ロケットH−IIA以上の能力を持つH−IIBの開発を国や宇宙航空研究開発機構(JAXA)から打診され、開発が本格的に始まったのは平成16年。二村さんらが背負ったミッションは、物資輸送の効率化を図ることだった。それまでH−IIAで打ち上げられる衛星や補給機の重量は計約4トン。これをH−IIBでは8トンに倍増させる必要があった。
しかも、国側は、基本設計から開発、製造、初号機打ち上げまでを16〜21年の5年間と計画した。通常のロケット開発に比べれば異例の短さで、約10年かけて打ち上げにこぎ着けたH−IIAの開発期間のわずか半分だ。
二村さんはメンバーを前にこう告げた。「後ろを区切られた全力の戦いだ」。
JAXAが求めたのは、ロケットの大型化を可能にする「打ち上げ能力向上」だった。JAXAの担当者らと打ち合わせを重ねた結果、2つの大きな改善点が浮かび上がった。ロケット胴体(タンク)の大型化と、エンジンの複数化。理屈では簡単な話だが、作業は困難を極めた。開発チームはまず、胴体の大型化を実現するため、H−IIAの直径4メートルに対し、H−IIBでは5・2メートルを目指した。
そこで問題になったのは、溶接部分の強度だ。ロケットの胴体はほとんどの部分がアルミ合金でできており、5〜6枚のアルミ板を溶接でつないで、円筒形の胴体に仕上げる。ただ溶接部分はいわば“継ぎ目”だから、もとの素材部分に比べどうしても強度が落ちる。溶接部分からひび割れや破損が起き、機器全体のトラブルにつながる懸念もある。
主席プロジェクト統括の新津真行さんは「ロケットは一度打ち上げたら引き返せないから、失敗は許されない。だから『完璧な溶接』を目指した」と話す。開発チームはさまざまな試行錯誤を重ねた結果、「摩擦撹(かく)拌(はん)接合」(FSW)と呼ばれる溶接方式にたどり着いた。
FSWは、金属同士を完全に液状に溶かしてつなげる通常の溶接とは違い、溶接したい部分でコマのような機具を高速回転させながら、コマの上から強い圧力で押さえ付けて接合する。コマの摩擦熱は金属を完全に溶かさず、融点以下のシャーベット状にするといい、金属のシャーベット同士を混ぜ合わせてつなげるイメージだ。これで溶接部の強度が増す。さらに、通常の溶接は完全に手作業の“職人芸”だが、FSWは一定程度は機械化されているため、作業コストが低減するメリットもあったという。
一方、エンジンの複数化にも苦労した。H−IIAと同様のエンジンを使用したため、新開発の必要はなかったが、近接する場所に2つ並べて同時点火するとなると、それぞれのエンジンが出す衝撃波や振動、炎が互いに影響し合う。「全体の推進力にどんな結果を及ぼすか未知数」(宇宙システム技術部次長の田村篤俊さん)だった。
チームは秋田県大館市の田代試験場で、繰り返しエンジンの燃焼実験を実施。豪雪に見舞われる中、熱のこもった作業が続いた。ようやく成算を得たのは試験開始から約半年後。「もう打ち上げ準備に入る、というギリギリの段階」(二村さん)だった。
H−IIBの初号機を打ち上げたのは、21年9月11日。約4・5トン分の食料、実験器具、衣服、手紙などを入れた補給機「こうのとり1号」をロケット先端部に搭載し、ISSに運んだ。23年1月22日には2号機の打ち上げにも成功した。
今後は毎年1基ずつの打ち上げを計画。将来的には、各国の商業衛星を打ち上げることも視野に入れている。開発チームの挑戦に終わりはない。(渡部一実)
■H−IIBロケット 宇宙航空研究開発機構(JAXA)と三菱重工業が共同開発した物資輸送用ロケット。米国や欧州、日本、ロシアなどが合同運用する国際宇宙ステーション(ISS)に向け、食料や実験器具などを積んだ補給機「こうのとり」を打ち上げる。H−IIAに比べ、大型の衛星を打ち上げられるH−IIBは、ISSへの補給のほかにも、各国の気象衛星などを打ち上げる「打ち上げビジネス」への転用も期待できる。