妖精ものがたり

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かなしい風の竜

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アビは目をまん丸くして、風の守護竜だという少年の顔を見上げました。

うっすら開いている目は、春の新しい葉の色をして宝石のようです。
しかし、なぜでしょう、悲しみに沈んでいます。

「にいちゃん、風の守護竜さん、なんだかかわいそうだね」

「そうだね。タロのことを助けてくれたのだから、お礼ができればいいのに」

その時、木の精霊が二人の小さな兄弟に言いました。

『その風のお方はキャリドール様だよ。守護する者がいなくなってしまったのだ』

アビとタロは顔を見合わせ、アビが精霊のおじいさんに尋ねました。

「大事なお友達がいなくなってさみしいってこと?」

木の精霊はうなずきます。

「それじゃあ、お礼にお友だちを探してあげたいけど……時間が少ないね。
ぼくたち小さな妖精は季節がひと回りしたら消えてなくなってしまうから」

「にいちゃん、ぼく、こんなにきれいでやさしい風のひとがかなしいのはいやだよ」

「そうだね。どうしたらいいかな」

アビとタロが小さな胸を痛めた時でした。二人が乗った少年の肩が震えだしたのです。

「あわわ」

ひっくり返りそうになった妖精の兄弟は、黒つぐみのオウジンの背中に乗り替えました。

そうして、風の少年を正面から見ると、なんと、彼は透明な涙をぽろぽろと流していたのです。

「ど、どうしたの。どこか痛いの?」

焦ったアビが心配そうに訊きました。

すると、少女のようなきれいな顔立ちの少年は、ようやく口を開いたのです。

「……皆、僕を独りにするんだね」


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少年との出会い

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アビは、オウジンの背中に乗ってリィフの森を奥へ奥へと進みます。

オウジンのために途中で休憩を五回とりました。少ないくらいでしたが、
オウジンは一生懸命飛んでくれたのです。

そうして、聞き覚えのある泣き声がやっと聞こえてきました。

「オウジン、あの泣き声はタロだね!」

オウジンは森の風にうまく乗って滑空し、ミツバチくんが教えてくれた
古木にたどりつきました。

「タロ!」

アビは大きな声でタロの名を呼びました。
すると、木の葉を散らす勢いで泣いていたタロは、ぴたりと泣きやみました。

タロは、ミツバチくんの仲間の言うとおり、古木の根元にいましたが、
正確にはちがっていました。

古木の根元によりかかった人の肩の上にいたのです。

「にいちゃん、にいちゃん。ぼくね、つむじ風にね、ここまで飛ばされちゃったの。
こわくて泣いていたらね、この人が肩をかしてくれたの」

「この人、生きているの? ちっとも動かないね」

「あのね、すごく弱っているみたいなの。なんだか悲しそうだし」

アビたちには、自分たちよりもうんと大きい人の耳の穴しか見えないので、
詳しいことはわかりません。

そこへ、古木の周りを旋回していたオウジンが帰ってきました。

オウジンによると、アビとタロが肩に乗せてもらっているのは、人間の
少年の姿をしているようです。

乳白色の髪の色。
まぶたを閉じているので、瞳の色はわかりませんが、少女のようにきれいな
顔をしているようです。

「でも、具合が悪そうなの?」

アビは、泣いているタロを助けてくれた少年が気の毒になりました。

「そういえば、古木の根元には風の守護竜がいると聞いたけれど、
どこにいるのかな」

ふと、思い出したアビが言うと、タロが答えました。

「にいちゃん、あのね、この人が風の守護竜だよ。木の精霊のおじいさんが
おしえてくれたよ」

アビは驚いて目を丸くしました。


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タロ、いなくなる?

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その日は大事件がおきました。
タロがいなくなってしまったのです。

ミツバチくんに、レンゲの蜜のおすそわけをもらうのだと言って、
家の外に出たきり帰ってこないのです。

「オウジン、タロを見かけなかったかい」

アビがたずねましたが、オウジンは知らないようです。
アゲハ蝶のおねえさんや、通りがかった旅の妖精さんも同じでした。

「どうしよう。きっとたくさん泣いているかもしれない。タロはあまえんぼう
だからね」

アビはそうひとり言をつぶやきましたが、本当は自分もさみしいのです。

いつも一緒のふたりですから。

その時でした。

ミツバチくんが、あわてて飛んできて知らせてくれたのです。

なんと、ふたりの家からうんと離れている、森の奥にある、ひときわ大きな
古木の根元で泣いているとのことでした。

あまりの大音声なので、ミツバチ仲間の間であっという間にうわさになったのです。

「え? その古木の根元にはあまり近づかないほうがいいって?」

アビはミツバチくんになぜなのかと訊きました。

「そんな……。古木の根元にいるのは風の守護竜だなんて。タロがどこ
かに飛ばされてしまうよ!」

今にも泣きそうになったアビは、オウジンに頼みました。

「お願い、オウジン。古木の近くまで僕を連れて行って」

こうして、アビは泣いているタロを迎えに出発することになったのでした。


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アビとタロの夜

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リィフの森に引っ越してきた、小さな妖精の兄弟・アビとタロ。

樫の木の幹にあいた穴のおうちもなかなか住み心地がいいかんじ。

キノコのテーブル、ふかふかの苔のお布団。
ひかりゴケの明かりが、ほんのりお部屋を明るくします。

「にいちゃん。なにかお話ししてよ。ねむれないよ」

弟のタロは甘えん坊。お兄さんのアビにおねだりです。

「そうだなぁ。じゃあ、今日ミツバチくんから聞いた森の話をしようかな」

「森ってここのこと?」

「そうだよ。このリィフの森のことさ」

アビは話し始めます。ゆっくり、タロが眠くなるように……。




リィフの森にはね、ぼくたちよりうんと大きな『人間』が住んでいるんだよ。
でもね、ただの『人間』じゃないよ。
――精霊使い――なんだ。

風や炎や水と仲良くできる人間、それが精霊使いなんだって。

妖精をひどい目にあわせる人間は怖いけれど、精霊使いは怖くないかもね。



「でね、精霊使いには守護竜がついているんだって」

くぬぎの殻に苔の布団に寝転んだアビは、おや、と隣りを見ました。

「寝ちゃったね」

タロはおなかを出して、ぐっすり眠ってしまいました。

「しょうがないなぁ」

思わず笑顔になったアビは、タロに布団をかけてあげます。おなかが冷えたらたいへん。

「おやすみなさい」

アビも布団をかぶって目をつむりました。

虫がコロコロ鳴いていて、夜空にきらきら星がまたたいている夜のことでした。


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黒つぐみのオウジン

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アビとタロの家は、樫の木の幹にあいた小さな穴。
すこし高いところにあるので、登るのが大変です。

でも、大丈夫。

降りるときは葉っぱの傘でひらひらくるくる。
登りは黒つぐみのオウジンの背中でらくらく。

オウジンがいないときは……

蔓をつたってひたすら駆け上がります。

「オウジン、桑の実をたくさん拾ったよ。いっしょにお昼にしようよ。だから背中に乗せてくれるかい」

アビが声をかけると、オウジンは快く背中をかしてくれます。

オウジンの背中は気持ちがいいのです。
羽はふかふか、はるか上の我が家にひとっ飛び。

「オウジンの黒い羽根はめずらしいね。でもやさしい夜の色だ。あったかくて、つい眠くなるんだ」

アビが笑うと、オウジンも嬉しそう。

「にいちゃん、オウジンおかえりなさい」

おうちで待っていたのは弟のタロ。きちんとお部屋の掃除をして待っていました。

引っ越してきたばかりだから、まだテーブルはないけれど、葉っぱのじゅうたんの上で、みんなでお昼ごはん。アビとタロは桑の実一粒でおなかいっぱい。だって、小さいものね。

「オウジン、たくさんたべてね」

初めてのともだちに、タロはとても楽しそう。

これからも仲良くしていこうね。


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