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第二次世界大戦での敗戦以来、日本はアジアにおける平和と繁栄の強力な推進役を担ってきた。とりわけ援助面においては、どの国よりも多額の資金を注ぎ、周辺諸国が貧困から這い上がるのを助けた。
だが現在、日本はアジア諸国からの非難の嵐にさらされおり、現状からは日本がこれまでに果たしてきた貢献などは窺い知ることもできない。事実、日本は1945年に至るまで近隣諸国への侵略を続け、その結果アジアでは何千万もの命が奪われた。
日本を中傷する人間にとって攻撃の理由はほかにもある。「日本の帝国主義はひとときも消えていない。姑息な形で潜伏しているだけで、再び実権を握る好機をうかがっている」というのだ。なんとも馬鹿げた主張である。軍歌を大音量で流しながら東京の街に黒い「街宣車」を走らせる右翼の輩は、数としてはそう多くない。だが国粋主義の政治家が一人いるだけで、近隣諸国とのこじれた関係をほぐす積年の努力が無に帰すこともある。
発端は右翼政治家、石原東京都知事
近年におけるそのような「一人の政治家」は、東京都知事の石原慎太郎氏だ。古参の右翼政治家として知られる。同氏は日本が「尖閣諸島」、中国が「釣魚島」と呼ぶ小さな島々に対し、東京都としての購入に乗り出した。これが発端となって日中間は口論を始めた。
中国は世界第2位、日本は同3位の経済大国だ。その関係が悪化すれば、総額3500億ドルにのぼる両国間の貿易が打撃を受けかねない。そうなると日本が不景気に再突入する危険もある。
野田佳彦首相は先月、尖閣諸島のうちの3島を国有化したが、これは明らかに石原都知事の先手を封じるための苦肉の策だ。だがその意味合いは中国側には届かなかった。尖閣諸島については中国も領有権を主張している。中国では反日デモが炎上し、中国政府の対応は日中関係を冷え込ませた。 今回、野党・自民党の総裁に安倍晋三氏が選ばれたことで、今後の国策の主流に極右派の意向が入り込む可能性がある。同氏は第2次大戦中の閣僚の一人を祖父に持ち、2006〜2007年にかけて首相を務めた人物だ。次の選挙では恐らく現職の野田首相を打ち破ると思われる。
安倍氏の前任者にあたる小泉純一郎首相は、いわゆる「A級戦犯」をも含めた日本の戦没者を祀る靖国神社を参拝し、対中・対韓関係を傷つけた。2006年、当時の安倍首相は両国との険しい関係を改善するための政策を推し進めた。だが、安倍氏はこのところ戦犯の戦争責任を過小に扱う発言をしており、そこにかつての歩み寄りの姿勢はない。靖国参拝についても意欲を見せている。
日本人の84.3%が中国によくないイメージを抱く
「言論NPO」は、日中関係の改善を目指す特定非営利活動法人だ。代表の工藤泰志氏は、「日本の大衆主義者が政治目的で中国問題を利用する危険性が高まっている」と言う。国内における反中感情の高まりは、こうした大衆主義者の目論見に有利に働くことになる。
工藤氏によると、日本人の心配の種は反日デモに留まらない。昨今では中国の経済力と軍事力に対する懸念も膨らんでいる。言論NPOが6月に発表した世論調査によると、中国によくない印象を抱く日本人の割合は84.3%で、過去最高を記録した。しかもこの調査は尖閣諸島を巡る今回の衝突が起きる前に実施されたものだ。
ガチガチの右派にさえ、石原都知事流の大衆主義を懸念する者はいる。公益財団法人の日本財団は、日本の領海権を支援している。同財団の創始者(故人)はムッソリーニの崇拝者で、有罪認定を受けることこそなかったものの、戦犯容疑をかけられた経緯がある。
だが尾形武寿・現理事長は、石原都知事が「尖閣を取り巻く諸問題の原因」だと述べている。棚上げされていた日中間の領海問題をかき回すべきではなかったというのが理由だ。 安倍氏と同様、尾形氏も、日本が「集団的自衛権」を持つようにと平和憲法の改正を支持する立場をとっている。日本国憲法は1947年に米国が定めたものだ。
憲法を改正するには、衆参両院の総議員の3分の2以上の賛成と、国民投票による承認が必要となる。そのため尾形氏も早期の実現を期待しているわけではない。石原都知事が挑発的な態度をとれば、憲法改正への道もそれだけ遠のく。
日本における大衆的ナショナリズムの高まりは、メディアの煽りに乗せられた結果である。中国メディアが体制におもねるのは常としても、日本の報道は自由で、批判精神を発揮すべきもののはずだ。米テンプル大学東京校のジェフ・キングストン氏は、尖閣問題ではメディアがすっかり応援団と化していると指摘する。「道理の声を上げれば、それは反逆の叫びと捉えられる」。
また、次期選挙で政権奪回を狙う自民党は、石原氏を抑えることができずにいる。実際、国粋主義を掲げる同氏の人気にあやかろうとする党員もいる。自民党は1999年から石原氏の都知事就任を後押ししてきた。
だがこうした大衆主義、つまり一面的な報道と政治の腰砕けぶりにもかかわらず、中国で起きたような国民による暴動は日本ではほぼ見られない。影響力を持つ日本人を対象に言論NPOが行った10月3日付の最新調査では、回答者の大半が尖閣諸島の国有化に反対していた。
また、この件が軍事衝突につながるとは考えておらず、尖閣問題の棚上げを願ってもいた。キングストン氏は、日本のナショナリズムの影響力は「片手でする拍手ほどの力」でしかないと言う。だが海外では、ナショナリズムの「拍手の音」は東京を巡行する街宣車の軍歌のごとく大きく響いている。
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