暗闇の中・・・若者の後(うしろ)について 歩み出した・・・・・。
歩み出してすぐに、私は思い出していた・・・彼の装束(しょうぞく)が、アイヌの民族衣裳(みんぞくいしょう)である事に・・・・・。
そして、彼の背負っている 矢の束(たば)を見て驚いた・・・・・。
私を襲(おそ)った男の胸に、突き刺さっていたものと・・・良く似ている。
私は思わず・・・手を伸ばし・・・矢に触ろうとした・・・・・。
その気配に気付いたのか・・・若者は急に振り返り・・・素早く、身構えた・・・・・。
驚いた私は、矢を確かめたかっただけだと・・・必死に弁明していた・・・・・。
「気をつけてください・・・我々の矢じりには・・・トリカブトの毒が塗ってあります・・・。不用意に触るのは、危険なんです・・・・・」
そう窘(たしな)められて、私は 理解した・・・たった1本の矢で、あの男が死亡した訳を・・・・・。
やはり・・・彼等が私を助けてくれたんだ・・・そうも、確信していた・・・・・。
このまま、無言で歩かなければ ならないのだろうか・・・考えると、気が滅入る・・・・・。
そしてこの時・・・やっと私は・・・一体? 何処へ向かっているのだろう?・・・その疑問に辿り着いていた・・・・・。
私の願いは何??・・・この森から脱出する事?・・・それとも、当初の目的の山小屋へ行くこと?・・・・・若者は、私を、何処へ 誘(いざな)っているのだろう・・・彼は 私の望みを知っているのか?・・・私自身、何を望んでいるのかが、分かっていない 今の状況で・・・正しい判断を下す事は、私には無理であった・・・・・。
彼についていく事しか・・・私の頭には・・・無かった・・・・・。
もっと話を聞ければ・・・ある程度の事は、判明するかも知れないと思った・・・。
話しかけると・・・「お答え出来る範囲の事は、お話します・・・」との事だったので・・・
昨夜、私を襲った 刀の連中の事を 尋ねてみた・・・・・すると・・・・・
「あぁ、あいつ等は エゾ共和国の亡霊(ぼうれい)ですよ・・・・・榎本(えのもと)に騙(だま)された、哀れな連中の子孫です・・・・・明治維新(めいじいしん)の頃、幕府軍として戦い・・・捕虜(ほりょ)となり、その後 蝦夷(えぞ)送りとなったのですが・・・釧路沖で反乱を起こし・・・十勝の大地に散らばって逃げた連中の、子孫です・・・・。」
考えると、今から150年近くも前の話だ・・・明治維新なんて・・・・・。
からかうのは、止して欲しかった・・・・・そう、彼に告げると・・・・・
彼は急に真顔になり・・・「日本人は、何も知らない!!・・・何も!見ようとしない!!・・・」そう、吐き捨てた。
「薩摩や長州・・・島津や毛利は、260年も耐え忍んで、徳川に仕返しをしたのではないのですか?・・・明治維新からは、まだ、130年ちょっとです・・・」
じゃぁ・・・あの連中は、旧幕臣?・・・そう改めて聞くと・・・・・
「そういう事になりますね・・・さっき、言ったじゃないですか・・・彼らは逃亡者の子孫・・・榎本 武揚(えのもと たけあき)、そして明治新政府に 弄(もてあそ)ばれた事を知り・・・あえて、今の時代に馴染もうとしない連中・・・100年経っても、逃亡者・・・我々にとっても 迷惑な連中です・・・。しかし・・・彼等との共通点もあるんです・・・日本の政府が 敵・・・と言う1点で、共通しています・・・・・」
おい、おい・・・何を言い出すんだ・・・又、とんでもない話を聞いてしまった・・・・・。
私は 何故か東京が 懐かしくなっていた・・・・・。
あの大嫌いだった東京へ・・・戻りたいとさえ・・・思っていた・・・・・。
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