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カーテンも開けられない・・・昼でも薄暗い部屋で・・・私は何かに 憑依(ひょうい)でもされてかのように・・・パソコンで検索を続けていた・・・・・。
私の意識は・・・まるで誰かに 支配されているかの如く・・・私の物では 無くなっていた。
私は・・・無宗教な 祖父母のもとで育った・・・だから 私も元来、無宗教なはずであった・・・にも拘わらず・・・今の私は、一心不乱に・・・【 ヤハウェ 】から・・・【 イエス・キリスト 】・・・【 旧約聖書 】・・・様々なワードを パソコンに打ち続けていた・・・・・。
時折戻る 意識の中・・・「俺は、天使になるのかなぁ・・・森永にでも、雇ってもらうかぁ・・・でも・・・悪魔にも翼はあるし・・・」などと・・・自分を慰めるかの様な、愚かな独り言を呟きながら・・・出る筈もない【 答え 】を求めて・・・パソコンを打ち続けた。
なんで、こんな事になってしまったのか・・・・・
今の私は、辛うじて 自分の名前を 覚えている程度の 人間性しか 持ち合わせていない。
忘れてはいけない・・・自分の名前を・・・・・・・・・・・・・私の名前は【 朽木 翔 (くちき しょう) 】・・・「 翔 」・・・19歳。
閉じこもってから 1週間ほどが経ったであろうか・・・トワイライトの時が過ぎ・・・街灯の明かりが・・・閉じたままのカーテンに 明るく写し出される時間になって・・・・・部屋のドアを、激しくノックする音が・・・私の耳に響いた・・・・・。
その音で・・・私は・・・私に戻った・・・。
「 翔!居るのか?・・・居るんだろ?・・・俺だ!拓哉(たくや)!!・・・開けてくれ。 」
声の主は 紛れもなく、幼馴染の【 熊谷拓哉(くまがい たくや) 】であった・・・・・。
彼も 私と一緒に、同じ大学の 同じ学部に入学した事を・・・私は思い出していた。
「 翔 」・・・そうだ・・・物心がついて以来・・・私は、そのように呼ばれてきた・・・・・。
段々と、記憶が蘇える・・・・・人間としての記憶が・・・・・。
しかし私は・・・拓哉に・・・返事をする事が出来なかった・・・何故なら、私の背中の異物は・・・日に日に大きく、成長していたのだ・・・・・。
こんな姿を 友人に見られたくはない・・・。
私は 居留守を決め込んだ・・・しかし・・・拓哉は・・・
「 居るんだろ・・・開けてくれよ、翔・・・みんなも心配してるんだ・・・【 冴(さえ) 】も来てるんだぜ・・・何が、あったんだよ・・・ 」
と、叫びながら、相変わらず 激しい音を立てながら・・・ドアを叩き続けた・・・・・。
しかし、こんな姿では・・・何を言われても・・・私にはドアを開ける事も、外に出る事も出来はしない・・・そう覚悟するしか無かった。
しかし、拓哉は 易々とは 諦めてはくれないようである・・・・・。
そのうち・・・同じフロアーに住む人達が・・・外の騒ぎに驚いて、部屋を出てきたらしい・・・・・。
私の部屋の ドアの向こうが、騒がしくなって来た・・・そのザワメキの中の・・・
「 警察に連絡したら・・・・・ 」と言う囁きを・・・私は 聞き逃しはしなかった。
私は思った・・・・・警察が来たりしたら・・・今よりも もっと厄介な事になる。
私は 覚悟を決め直し・・・素早くドアを開け・・・拓哉の腕をつかみ、部屋に引きずり込んだ・・・そして、すかさず ドアを閉めた・・・・・。
驚く拓哉を尻目に、私は部屋の中へと戻り・・・彼に背を向け・・・
「 驚いたかい・・・俺・・・こんな姿になっちゃったんだ・・・・・ 」
と・・・告白した・・・しかし・・・返ってきた言葉は・・・・・
「 何 言ってんだよ・・・お前・・・それより、この部屋・・・臭いぞ・・・・・ 」
そう言うなり、靴を脱いで 私の部屋を、ドカドカと横切り・・・カーテンと窓を開けた。
清々しい空気と、満月の明かりが・・・私の部屋へ・・・【サァーッ】と染み込んできた。
私は さっきまでとは違う・・・正気に戻ったような 快感に・・・浸っていた・・・・・。
「 5月病かぁ・・・でも、元気そうじゃないか・・・・・ 」と、彼は語り、続けて・・・
「 そうそう、外の人達にも謝らなきゃなぁ・・・ 」・・・そう1人呟いて 玄関へと戻って行った・・・・・。
確かに、ドアの外では まだ、ざわめいた気配が続いていたが・・・拓哉の説明で、三々五々、ブツブツ言いながらも 自室へと戻ったようであった。
改めて 拓哉は 【 木下 冴(きのした さえ) 】を伴って 私の部屋に戻り・・・
「 お前さぁ・・・さっき、何か変な事言ってたけど・・・何の事・・・ 」
と、私に尋ねながら・・・部屋の蛍光灯のスイッチを入れた・・・・・。
私は 一瞬ひるんだが・・・明るくなって やっと、彼の顔を 正面から見る事が出来・・・彼の言葉が、本心からの物である事を確認した・・・・・。
一緒に入ってきた 冴の顔にも・・・驚きの色は 窺えなかった・・・・・。
彼らには・・・見えないのだろうか・・・この【 立派な翼 】が・・・・・。
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