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夏といえばホラー映画、というのもいかにも昭和的な思考かな、とは思うが、やはりこの時季は怖い映画でも観てすこ〜しでも背筋を冷やして涼をとりたいと思うもの。 しかしながら、気持ち悪いからと局への苦情が多いのかそれとも青少年とりわけ若年層への悪影響を懸念するのか、最近はあまりテレビでも放映しなくなってしまった。
少し前のニュース記事で、一時はハリウッドでリメイクされるほど世界を席巻した和製ホラー映画も、昨今は飽きられてしまったのか見向きもされなくなってしまったという記事を見た。 怖い画像、モンスターや気色の悪いシーンをこれでもかと見せつけるのが海の向うの方法論だったが、我が国のそれはドバッと見せる恐怖よりも、はっきりと見せないで心理的恐怖を煽るのが特徴で、欧米にはないスタイルがウケたのだが、やはり乱発が祟ったのだろう、背筋も冷やしたがブームも急速に冷えてしまったようだ。
僕自身はあまり邦画は観ないのだが、個人的に邦画ホラーの最高峰といえばやはり天地茂が民谷伊右衛門を演じる 「 東海道四谷怪談 」 だと思う。 敬愛する作家故澁澤龍彦氏ももっとも恐ろしいホラー映画のひとつに選んでいた。 りんぐだらせんだなんとかだといっても、昭和世代には(といってもこの作品は僕の生まれる前の作品ではあるが)、東海道四谷怪談のほうが恐ろしいのである。
同様に、洋画でもさまざまなホラー映画があるが、古いとかダサいとかチープとか演技下手とかストーリー破綻してるとか終わってるとかサンザン言われたとしても、ハマー・プロのホラーが最高なのである。 それは、もはやありえないとか考証が違ってるとかマンネリとかラスト15分だけ見れば十分とか入浴シーンだけでいいとかサンザン言われてもなお時代劇の最高峰として崇められている水戸黄門と同じような理由だと思う。
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ドラキュラ 血の味
原題 : Taste The Blood Of Dracula
監督 : ピーター・サスディ
脚本 : ジョン・エルダー(アンソニー・ハインズ)
撮影 : アーサー・グラント
音楽 : ジェームズ・バーナード
製作 : 1970年 イギリス ハマー・フィルム・プロダクションズ
■キャスト
クリストファー・リー (ドラキュラ伯爵)
ジェフリー・キーン (ウィリアム・ハーグッド)
リンダ・ヘイドン (アリス・ハーグッド)
アンソニー・コーラン (ポール・パクストン)
イズラ・ブレア (ルーシー・パクストン)
ジョン・カーソン (ジョナサン・セカー)
ラルフ・ベイツ (コートリー卿)
ロイ・キニア (ウェラー)
ハマー・プロのドラキュラ・シリーズ第五弾。 当初は、当時アメリカでは最も人気のあった怪奇俳優ヴィンセント・プライスを起用する予定であったが、予算の都合でお流れになったという経緯を持つ。
■ストーリー
東欧のとある国、イギリスから骨董品の仕入れをしながら各地を巡っていたウェラーは、ドラキュラ伯爵の断末魔の叫びを聞いてしまった。 伯爵は真っ赤な血の灰と化す。 ウェラーはその場から灰と遺品を持ち去った。
数年後のロンドン。 町の有力者でもあるウィリアム、サミュエル、ジョナサンの仲間三人は、家族に対しては謹厳実直な男たちであったが、その裏で淫靡な刺激を求めるという放蕩的な二重生活を送っていた。 この日は怪しげなクラブで好色な遊びに耽っている最中に、若い没落貴族の子孫コートリー卿に現場を見られてしまった。 コートリー卿はここで取引を申し出る。 ウェラーの骨董屋で高額のついたドラキュラ伯爵の血と遺品を三人に買わせ、ドラキュラ伯爵復活の儀式を行うというものだった。 三人の躊躇も好奇心に負け、取引を承諾する。 四人は町外れの廃教会に集まり、そして怪しげな呪文とともに儀式は始められた。
儀式の最中で、杯に血の灰を入れコートリーの生き血を混ぜると、それは真っ赤な液体になった。 コートリーがそれを飲むと急に苦しみだす。 恐ろしくなった三人は、コートリーを殴り殺し、一目散に逃げ出した。
だが、死んだコートリーの身を借りて、ドラキュラ伯爵は復活したのだった。 恐るべきことに、コートリー卿はこのドラキュラ伯爵の秘めた弟子だったのだ。 伯爵は惨殺された弟子の復讐を誓う。 伯爵の魔の牙は、三人のみならず、三人の息子や娘たちにも伸びていく…。
前作 「 帰ってきたドラキュラ 」 の続編である本作は、善と悪、光と闇といった背反する事象がテーマになっている。 キリスト教の原理もこの善悪二元論が下敷きになっているわけだが、本作や、本作の元になったブラム・ストーカーの小説も、世界中に吸血鬼伝説が存在しても、キリスト教を信仰する国でなければこのようなストーリーは作ることができないであろう。
本作はストーリーもよく練られていて、テンポが非常によく冗漫さは感じられない。 登場人物は割と多いほうだが、相関関係がシンプルなため混乱することはない。
恐怖映画としてみても、ショッキングな殺人シーンや、上記のドラキュラ伯爵の復活の儀式のシーンなど、非常に恐ろしいシーンが散りばめられていて見応えがある。 バックに流れる音楽も、いつものバーナード調というか、焦燥感を募らせるようなアップテンポの曲ではなく、シーンを邪魔しないような効果的なスコアに仕上がっている。 それだけに物足りないと思う人もいるかもしれないが、フレーズの一部は、ハマー・プロ製作の作品紹介ビデオのテーマに使用されるほど、印象に残る曲である。
俳優陣も、多くのベテランが演じるためとても安定感がある。 中でも、没落貴族の子孫を演じるラルフ・ベイツの演技は素晴らしい。 特徴のある口元演じる不敵な笑い、独特の台詞回しなど、他のハマー作品 (ジキル博士とハイド嬢など) でも観ることができるが、本作では登場シーンは決して多くはないものの、この人が出てくるだけでピリピリとした緊張感が漂ってくるようだ。 ファンなので悪くは書かない。 しかしこの人も映画、TVなど多くの作品で活躍し、円熟味も増して俳優としてもこれから、というときに病のため帰らぬ人となってしまった。 わずか 51歳の短い生涯であった。
ドラキュラ伯爵を演じるクリストファー・リーも、本作は台詞も少なめだが余裕の演技で魅せてくれる。 数あるドラキュラ作品の中でも、最も官能的な吸血シーンが観れるのも本作である。 あまり有能とはいえない刑事役に、ハマー作品ではおなじみのマイケル・リッパーも。
女優陣も、アリスを演じるリンダ・ヘイドンをはじめ、怪しげなクラブのダンサーや売春婦たちの豊満な胸元と太腿とお尻につい目を奪われてしまうが、それはそれとしてルーシー役のイズラ・ブレアなど美人度も高く、あらゆる点でもお勧めできる作品だと思う。
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