狼の山の魂

■■ A N I M A L T E M P L E ■■ 動物たちの真情を伝えます。全世界の動物たちを祈ります。

ハン、16歳。

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**「攀:HAN」の想い出**
 
「ハン」は、三年前に十六歳で他界した。
ハンの≪攀≫は、登攀の攀である。
困難な崖を「攀じ登る」という意味である。
彼は野良犬だったのだが、
保護した時の直感で、それを感じたのだ。
実際、見事に彼はそういう犬だった。
 
私が彼を迎え入れる準備をしている間は、
友人が一時預かりをしてくれた。
その友人は犬のベテランだった。
そうでなければ、ハンは預かれなかったはずだ。
ハンは、なにしろ「独特に凄い犬!」だったのである。
友人は有色紀州犬の長年の愛好家だった。
紀州犬というと「白」を思い浮かべる人が多いと思うが、
本来はゴマ毛の紀州犬も多かったのである。
人間の「好み」で、近年は白一色になってしまったが。
その友人は有色紀州を愛好するくらいだから、
相当に犬を知っている人間だったのである。
しかしその友人が、ビックリ仰天してしまったのだ。
ハンの、あまりに非凡な身体能力と躍動心に。
どうやらハンは、考えられないほどの動きを見せたらしい。
そして友人は、「急いで!」と連絡してきたのである。
そして私は、急いでハンを迎え入れたのである。
 
彼のエピソードは、星の数ほどある。
あまりに多すぎるので、何を話していいのか。
とにかくハンは、「異能者」だった。
なんでこんな能力が生まれたのか、不思議だった。
闘犬系の血液と、獣猟犬系の血液が、
奇跡的な按配で融合しているような感じだった。
これまでいろんなタイプの猟犬種と付き合ってきたが、
あるいは実戦血統の闘犬種とも付き合ってきたが、
もちろん彼らの動きも凄かったが、
ハンの動きには、強烈な異能力を感じたのである。
狼の動きは、変幻自在の異次元である。
北極犬の動きは、「弾ける鋼球」のような鋭さである。
だがハンは、彼らとも異なる独特の動きだった。
まさに、どこまでも「独特」だったのだ。
2mのフェンスなど、軽軽とワンジャンプで乗り越える。
まあ、ここら辺りは理解の範疇である。
だが彼を語るには、そんな程度では済まされない。
彼は、あるいは30mくらいの直線を、
およそ1.5mごとに、まさしく直角のごとくに、
あたかも両側の見えない壁に弾かれるように、
正に「ジグザグ」に、途方も無い速さで、駆け抜けるのであった。
因みにその進路の幅は、「1m」くらいだった。
要するに、1mの幅の30mの直線を、
1.5mのテンポで直角にジグザグに、
しかも疾風の如くに駆け抜けるのである。
そのジグザグの驚異的なテンポが、今も目に焼き付いている。
それは余程の運動神経と、強靭な全身力が求められる。
そして天性のリズム感が必要とされるのであった。
なんでそんなことをするのか、不思議だった。
だがそれは、ハンの「心の躍動」が、
それがそのまま具現された「表現」であることに気付いた。
彼は心の躍動を、そのまま身体表現できてしまうのだった。
彼は骨格が頑丈なタイプなので、
そんな動きは不得意の部類のはずなのだが、
彼はその常識に反した次元に突入してしまうのであった。
毎日、変幻自在に10km20kmを運動していたから、
身体は充分に絞られていたが、その状態で33kgくらいだった。
普通の散歩の生活なら、それよりずっと重かっただろう。
だから結構、彼は大きな体格の犬だった。
 
因みに彼は、疾走では無く「全力速歩」で、
「登り坂路:時速28km」を超える速さを記録した。
平坦路ならば「時速30km」はマークできただろう。
格闘型の骨格でその速さは、実に大したものである。
その時ハンは、究極の真剣さで真正面を見据え続ける。
その表情は、たとえようも無いくらいに美しかった。
ところで米国から来た雄の大柄なフラットコーテッドも速かった。
その犬は見事な骨格構成で、そして集中力が素晴らしかった。
全力速歩というのは、非常にハードな運動だが、
その雄犬もまた、強い精神力の持ち主だった。
ハンの「全力疾走」は計測しなかったが、それも速かったはずだが、
そちらの領域は、骨格が軽量な「サイトハウンド」が有利である。
さすがに、ボルゾイたちは速かった。まるで風の如くに疾走した。
サイトハウンドたちは、そもそも、そういう骨格なのである。
ところで実戦血統の「ピットブル」は持久力が凄かった。
そして全身が「バネ」に満ちていた。
もちろんアゴの力や闘志も並外れていた。
アゴの力とバネと持久力と闘志が、顕著な特徴だろう。
その持久力とは、「精神の持久力」だと言える。
彼らは肉体の限界を超えて闘い続けるのである。
彼らは人間の残酷な欲望によって、
想像を絶した過酷極まる歴史を背負ってきた。
もし人間ならば、即座に悲鳴を上げてギブアップするだろう。
それは、人間には耐えられない極限の闘いなのである。
ピットブルの特徴の背景には、その無情の歴史が隠されている。
 
ハンは、私が命だった。
私への慕情は、常軌を逸していた。
その純真さは、まことに嬉しい限りであったが、
なにしろ度を超えたような情熱だったので、困ることもあった。
たとえば車の窓ガラスを割って飛び出して、私を追ってきてしまう。
冬だったから、窓はごくごく隙間程度に空けるに留めたが、
他の犬なら、もう少し空けておくのだが、
「もしや」と感じたので最低限度に留めておいたのだが、
彼は一瞬に窓をぶち割って出てきてしまったのである。
2mのフェンスを飛び越えて、あるいは鎖を引きちぎって、
出勤する私の車を追い駆けてきてしまう毎日も続いた。
いったい、彼の御蔭で、何度仕事に遅刻したことか。
あるいは彼は、ついに私の仕事場に辿り着いてしまう。
仕事場の扉のガラス越しに、大きな犬が座っている。
誰かがそれを知らせに来てくれるのだが、
どうやら何時間でも、黙ったまま座っているらしい。
微動だにせずに、じっと中を見つめているらしい。
「うーーん、忠犬ですね!」と人は驚くのであった。
確かに、忠犬なのだが、度を超えた忠犬であった。
彼は、私の言葉が全て分かる。
だが心の激情が、追走行動を起動させてしまうのである。
私への慕情を自制できなくなってしまうのであった。
部屋の中では、彼は正に100%、言うことを聞くのである。
「こんな賢い犬はどこにもいない!」というレベルなのである。
彼には、私の言葉がそのままに通じたのである。
だが私の姿が見えなくなると、事態は一変するのであった。
しかしだんだん、彼も慕情を自制できるようになってきた。
それには何年もかかったが、できるようになったのである。
それはつまり、老境に近づいたからとも言える。
やはり「エネルギー」が減衰したせいもあると思う。
それを感じたから、それが哀しく思えた。
あれほど苦労させられたのに、やはり寂しかった。
彼の肉体の全盛が過ぎたかと思うと、とても寂しかった。
もうあの「ジグザグ疾走」の時代が、終わったのだ。
だがしかし、その後はいよいよ、精神の時代である。
彼の精神は、新たな世界に突入していったのである。
彼はいよいよ、「野性禅」に踏み込んでいったのである。
彼の禅の姿は、まことに美しかった。
私はいつも、時を忘れて彼の姿に見とれていた。
その時いつも胸を過ぎるのは、野良犬だったハンの辛苦である。
発育盛りの子犬にとって、飢えがどんなに辛い苦行だったか。
毎日毎日、ひたすら空腹に耐えていただろう。
肉体が発育の材料を求めて悲鳴を上げていただろう。
よくぞ耐えたと、よくぞ挫けずに頑張ったと、感無量になる。
 
彼の最期もまた、比類なく立派だった。
彼は堂堂と、真正面から己の死と向かい合った。
彼は、誰の助けも求めなかった。
この私の助けさえも、求めなかった。
死とは己自身で厳かに迎えるものだということを、
勇気をもって己自身で向かい合うものだということを、
それを最愛の父である私に見せてくれたのである。
彼は自らの姿で、それを教えてくれたのである。
彼はその名のごとく、まさしく「攀」だった。
彼は最後まで「攀の誇り」に満ち満ちていた。
攀!!ありがとう!!おまえの勇気を忘れない!!
 
 
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家族に迎えて五日目くらい。 多分、一歳の手前くらい。
彼の肉体は急速に栄養を吸収し、今までの遅れを取り戻そうと頑張った。
 
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「呼び」を掛けたところ。「呼び」は絶対条件です。
トレッキングの場合は、私を中心にして螺旋状に移動していきます。
「呼び」の不確かな段階とか、人の入る可能性のある場所では、
とうてい自由疾走はさせられません。とにかく人里では無理ですね。
そして当然ながら、頭数が増えるほど「呼び」は難しくなっていきます。
 
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一歳半くらい。 まだまだ成長途上です。
たとえサイズ的な成長は終りに近づいても、
身体の内側は、まだまだ成長を続けます。
 
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「遊びのドラマ」の、開始の瞬間!!
 
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後ろは生後三ヶ月の「ルウ」。 ルウもまた、保護して家族に迎えた子です。
雪上の疾走は物凄い運動量です。無雪期の何倍も大変です。
 
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ハン:「もっと!もっと!」 ルウ:「もういいよ!!!」
ハンはなにしろ、延延と続けるのです。
まったく、底無しのスタミナでした。
もちろん、頃合を見計らって、終了させます。
 
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ハン:「遊ぼう!遊ぼう!」 オーラン:「もういいよ!!」生後二ヶ月半。
 
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「闘いの練習」です。 ハンは、なにしろ延延と続けます。
オーランはまだ生後六ヶ月くらいです。ハンは一歳半くらい。
オーランはこの瞬間に「紙一重」でよけながら、そのまま攻撃に入ります。
写真だと伝わりませんが、ハンは閃光のようにアタックします。
そしてこれは、あくまで「練習風景」です。
 
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この後、オーランが生後八ヶ月になった頃、「遊びの闘い」は終わりました。
いよいよ本気混じりの闘争になったので、そこで終わりにしました。
北極犬のオーランは子犬と言っても強いので、両者共に大怪我になります。
お互いに一歩も引かなければ、ダメージは非常に大きくなります。
血が出る程度では済まなくなり、身体の内側も大きく損傷します。
 
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五歳くらい。ここは標高1300m。零下20度を超えます。
 
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***** 八歳くらい。 野性禅。*****
ところでハンは、物凄い猟本能を秘めていたのですが、
私を立てて、我慢してくれました。
その代わり、せめて躍動だけは存分に叶えてあげました。
その私の心境を、彼は分かってくれていました。
我我は、お互いに未踏の領域に踏み込んだのです。
それは、「絆の世界」です。
 
■南無華厳 狼山道院■
≪ 2011:12:03 ≫

<2008年4月7日>

4月4日。「ハン」が他界しました。

みなさま。ハンを心配してくださり、本当に有難うございました。

心から感謝いたします***


ハンが、この世を去った。

別の世界に旅立ったのだ。

17歳の手前だった。大変な長寿だった。

彼は最後まで、この世で学び続けた。

私は彼の学びの姿を、この胸の奥底に刻んだ。


ハンは「攀」と書く。登攀の攀だ。

どんなに険しい崖でも渾身の力で攀じ登る彼に、ふさわしい名前だった。

私とハンは、立ちはだかる運命の壁に共に挑んだ。

乗り越えることが至難の壁を、命懸けで共に乗り越えた。

私はいつも彼の勇気に学び、彼の勇気に支えられた。


夜の森を歩く。

ハンと歩いた森を、ひとり歩く。

一万時間を超えて一緒に歩いた森の小道を、ひとり歩く。

蒼い闇の森に、レクイエムが聴こえる。

慟哭が、とまらない。

ハンが別の世界に旅立ったことを、それを知っているのに慟哭がとまらない。

頭上をずっと、小鳥の声がついてくる。

姿の見えない小鳥の声が、何かを私にささやいている。


ハン、お前はこの山のすべてを知っていた。

その知っていることを、この俺に教えてくれた。

俺ひとりではなんにも知らなかったことを、お前がいたから知ったのだ。

ハン、ありがとう!! お前のお陰でここまで来れた。

ハン!!心から、心の底から、ありがとう!!


ハン、お母さんと、逢えるね。

やさしいやさしいお母さんと、逢えるんだね。

お前はきっと子犬の頃に捨てられて、

愛しい愛しいお母さんと別れたんだね。

ハン、ずっと想っていたね、ずっと忘れなかったね、お母さんを。

光のお母さん、お前のこと、いつも見ていてくれたね。

その愛しいお母さんと、逢えるんだね。

オーランとも、ルウとも、みんなとも逢えるんだね。


ハン、別の世界で、また新しい勉強が待っているね。

もしかしてまた新たな試練が待ち受けているかも知れない。

でも、お前なら大丈夫だよ!!

お前は全身全霊で生きた。全身全霊で学んだ。だから、大丈夫だ!!

お父さんは、もう少しのあいだ、この世界で頑張るよ。

いつかまた逢えるその日まで、お父さんも全力で頑張るよ!!

ハン、お前のこと、祈っている。

ハン、お前のこと、この心のすべてで、祈っている。


ハン、お前への供養はただひとつ。

お父さんは、この野性対話道を果てなく突き進む。

そして全世界の動物たちのためにこの身を捧げていく。

それがお前の一番望むことだと、お父さんは知っている。

ハン!! お前との誓いを忘れない!!

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<2008年3月5日>

16歳の「ハン」が、森の冬を乗り越えた。

大型犬の16歳は超高齢だ。

彼の不屈のスピリットに感服する。

もう昨夏から老衰が激しくなったのだが、気力で頑張っている。

昨夏に2度、倒れた。

私が森に帰ると、犬舎の囲いの中でピクリともせずに倒れていた。

私は静かに深呼吸して、気持ちを落ち着けた。

ハン、とうとう死んでしまったのか!!と思った。

私は10mほど手前で立ち尽くしていた。

動かない。 ピクリとも動かずに横たわっている。

覚悟を決めて犬舎に近づくと、ほんの僅かに前足が動いた。

その時の安堵は例えようが無い!!

その時の喜びは例えようが無い!!

私は駆け寄り、すぐに様子を診た。

全身を隈なくマッサージした。

そして抱え上げ、彼の身体をほぐした。

意識がしっかりとしてきた。

彼を抱きながら水を飲ませ、寝小屋に寝かせた。

ハンの犬舎は広い。 自由に歩けるようになっている。

家の中に入れるよりも、彼にはここの方が快適だ。

彼はこの犬舎が気に入っているのだ。

3日間、私はこの犬舎で寝た。 夏だから何の問題も無い。

4日目あたりから、立てるようになった。

だが自力では身体を支えていられないから、排便が困る。

私は彼を高く抱え上げ、お腹と尻をマッサージし、排便を促した。

見事にコロコロと排便した。 日に何度か、この「抱え上げ排便」をやるのだ。

一週間目あたりから、何とか歩けるようになった。

しかし何しろ超高齢だから、もう普通には歩けない。

夏の終りに、もう一度倒れた。 その時も、こうして看護した。

もはや、どこが悪いという問題ではない。

老衰なのだ。 自然の摂理に従うのだ。

ハンは何とか回復し、秋を過ごし、零下20度の冬を乗り切った。

凄い!! 凄いぞ、ハン!! 私は心から敬意を表した。

外から帰り、森に入る時、私は緊迫感に包まれる。

気持ちを整え、意を決して森に入る。

「元気で居てくれ!!」と祈りながら森の小道を進むのだ。

車が犬舎に近づくと、ハンはよろめきながらも、出迎えてくれる。

わざわざ寝小屋から出て来てくれるのだ。

今日も、生き延びた。 今日も、乗り越えた!!

まるでハンの姿は、私の姿、我が家の姿そのものだった。

1%の可能性に賭けて生きている我々の姿そのものだった。

犬舎に入り、ハンを抱える。

老衰で筋肉は殆ど落ちてしまった。

冬に入り、ますます痩せてしまった。

食欲は非常に旺盛だが、大量には与えられない。

胃腸も老化しているから、一度に沢山は与えられないのだ。

だから内容を吟味して、効率の良い食事に変えてある。

それに、もし太らせてしまったら、ますます身体を支えられなくなるのだ。

痩せていても、今は仕方の無いことなのだ。

老衰のとき、私は獣医などには頼らない。

若さが蘇る手段など、どこにも無いのだ。

あるとすれば、それはまがい物だ。

仮の姿を繕う「化粧」のようなものだ。

そんなものに、意味は無い。

そんなものに、意義は見出せない。

(※女性の化粧のことではありません。それとは意味が違います。)

ハンは、それでもまだ30kg近くはある。

彼は骨量があるから重いのだ。

彼の若い頃、筋肉の塊りだった。

異常なほどに非凡な運動能力の持ち主だった。

「目の錯覚か!!」と思うほどの動きを見せてくれた。

遠い日の想い出だ。 すべては移りゆく。

この私自身も年を重ねたのだ。 この私も往年の力を失っているのだ。

だが、そんなことは意識しない。

今は、今を生きるだけだ。

我々は今の力の全てを賭けて、今を乗り越えて生きていく。

ハンを高く抱え上げ、お腹と尻をマッサージする。

ハンは大喜びで尻尾を振っている。

この私の気持ちが、彼にはうれしいのだ。

この私の気持ちに、応えてくれているのだ。

ハンは、ベタベタと私に甘えたりはしない。

若い頃からそうだった。

だが、私への愛は尋常ではない。

いつだって、命懸けで私を守る覚悟を持っている。

私とハンは、沈黙の中でも通じ合っているのだ。


ハンは「攀」と書く。 「登攀」のハンだ。

全身全霊で「攀じ登る」のだ。

15年前に彼を保護した時に、直感の印象で名付けたのだ。

彼は、その名の通りの犬だ。 その名の通りに生きてきた。

あり余るエネルギーの往年のハンには、随分と苦労させられた。

だがこうして、彼は私に教えてくれている。

本物のスピリットを見せてくれている。

不屈の闘志を体現してくれているのだ!!


※「01」もお読みください。

※上の絵は「ハンとオーラン」です。左がハンです。

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<2007年12月17日>

現在午前3時。4時から犬たちの朝の世話を開始する。

7時半には仕事に出掛けるので、この時間でないと間に合わない。

私の仕事は肉体労働(土方)だが、帰宅後も世話があるので17時間寒気に晒される。

この日課は疲労困憊だが、身体はいたって健康だ。これは犬たちのお陰だ。

彼らと共に生きることによって「身体力」が高まるのだ。

我が家の16歳の「ハン(攀)」も、元気だ。

大型犬としては異例に長寿だと言える。

大型犬の寿命は短い。物凄いスピードで「生」を駆け抜けていくのだ。

(※特に「骨量」のある大型犬は老衰が早い。)

極大型のエスキモー犬のライとオーランは、13歳でこの世を去った。

狼犬のロウは12歳でこの世を去った。

彼らも実に長寿だった。

みな、獣医の世話になることもなく、天命を全うした。

彼らは他界の寸前まで命を燃やす。

そして寿命の尽きる何日か前から「禅定」に入る。

その時には、もう「仏」が迎えに来ている。

彼らはそれを知っている。

彼らは、仏と共にいるのだ。

自らの寿命を覚悟する彼らのその崇高な姿に、胸を打たれる。

ただただ、彼らを尊敬する。

彼らはもはや、静かにこの世での生を終わろうとしている。

もはや私の出る幕ではないのだ。

悲しくない訳が無い。

我が子の死に際に、悲しくない訳が無い。

叫びたいほど、悲しいのだ。

しかし、これは定めなのだ。大自然の調和の中の摂理なのだ。

彼らはそれを知っている。

だから毅然と、堂々と、己の全てで死と対峙している。

全霊で生と対峙し、全霊で死と対峙するのだ。

ハンも、自らの天命を知っている。

知っていながら、「今」を生きている。

最後の最後まで、今を生きるのだ。

もう、彼の元には仏が寄り添っている。

ハンを見守っている。

最期まで今を生きるハンを見守っているのだ。

15年前、野良犬だったハンを家族に迎えた。

壮犬の頃、彼は物凄い犬だった。

彼は驚異的な運動感覚、運動能力の持ち主だった。

おそらくマスチフ系とハウンド系の、奇跡的な偶然の配合の結晶だと感じる。

私は幾多の犬種のトレイニングを実践してきたが、その経験から見てもハンの能力は特異だ。

そして彼は、途方も無い純情の持ち主だ。

彼は若い頃、どこまでも私を追いかけてきた。

私が仕事に出発した後、2mのフェンス犬舎を乗り越えて、或いは鎖を引きちぎって、

私の仕事場まで来てしまうのだった。

普段は実に忍耐強い子なのだが、「私」の事となると抑えが効かなくなるのだ。

ハンを乗せて車で買い物に行った時、私が車を降りてしばらくしたら、

彼は車の窓ガラスを割って外に飛び出してきた。

冬だったし、私は万一を考えて、

ほんの5mmか1cm位しか窓は開けていなかったのだが、

彼は木っ端微塵に割って出て来てしまったのだ。

そしてまた、彼は「我が家」を守る意識が凄かった。

彼にとってこの我が家は「聖域」なのだ。

私の留守中、我々が以前にいた森の近くの別荘の改築に来た数人の職人を、

ハンが追い返してしまったこともある。

彼は「聖域を侵される」と判断し、犬舎を脱出して職人たちに猛烈な「警告」を与えたのだ。

帰宅した私は「騒動」を知り、謝罪に出向いた。

(※余談だが、それが縁で、その後数年間、私はその建築会社で働く事になった。)

実にいろんな事があった。ハンには本当に苦労させられた。

だが私はハンが可愛くて可愛くてしかたなかった。

私には彼の純情がひしひしと伝わるのだ。

野良犬だった彼が、やっと「我が家」と出逢った。

やっと家に辿り着いたのだ。

彼は心の底から、この家を、この私を、愛しているのだ。

彼のやり方は荒っぽいところもあるけれど、それが彼の精一杯の愛情表現なのだ。

愛の表現は、それぞれに違うのだ。

5年前、ある日突然、彼は「ピクリ」とも動けなくなった。

鼻先から足から尾先まで、ピクリとも動かないのだ。

獣医に精密検査してもらったが、原因は全く不明だった。

それから2ヶ月間、寝たきりの彼を車に乗せて仕事に行った。

一日5回、彼を抱き上げて排泄させるのだ。

彼は大型だから、とても重かった。

だが、そんなことは何てことなかった。

最愛の我が子なのだ。

果てしなく私を愛してくれているハンなのだ。

2ヶ月後、彼は僅かに動けるようになった。

そして徐々にリハビリし、その後3ヶ月ほどで走れるようになった。

その頃すでに彼は11歳だったから、もう往年の力の面影は無くなったが、

動けるようになってくれた事がとてもとてもうれしかった。

それにしても、実に不思議だった。

本当に或る日突然、あの「躍動の化身」が、完全全身麻痺になってしまったのだ。

しかしあの時期、我々は毎日毎日、24時間一緒だった。

ハンの、「お父さん、ありがとう」という言葉が、確かに聴こえた。

ハンが野良犬の時、どれほど辛かっただろう。

おそらく、まだ成長期だった。

あの頑丈な骨格の体格だから、身体は成長のための栄養を求めて悲鳴を上げていただろう。

いつもいつも空腹と闘っていたのだ。

(※彼が居た付近の住民の話によると「生き倒れ」の状態の時があったそうだ。)

私の家族になってから、彼の身体は急速に栄養を吸収し、本来の肉体へと回復していった。

そして山の中で存分に躍動した。

彼は私と共に生き、私と共に命を燃やし、私と共に試練に耐え、私と共に成長した。

彼の魂は、もちろん、今なお成長を続けている。

ハンに限らず、犬たちには「隠居」などないのだ。

彼らの精神、彼らの魂は、肉体が衰え、老境に入ってからも、さらに進化を遂げるのだ。

野性界には、「のんびりと老後を楽しむ」という概念など無いのである。

肉体が老いた時こそ、精神の深化が始まるとも言えるのだ。

この森の冬は厳しい。零下20度の世界だ。

彼は元来は短毛だが、アンダーコート(下毛)が著しく発達した。

だから、へたに部屋に入れたりすると暑がってしまう。

そして彼の「冬モード」の耐寒体調を崩してしまう事にもなりかねないので、

今の時点ではまだ森の犬舎にいる。

(※寝小屋の中は、木の葉と毛布で防寒してあるので大丈夫だ。)

彼は人間なら100歳くらいかも知れない。

しかし、彼の気力は輝いている。

私はまだ52歳だ。

ハンに較べれば、まだまだ若い。まだまだ、突き進むのだ。

ハンから学んだスピリットで!! SPIRIT OF THE WILD !!!

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